簿記1級と公認会計士の関係と違いを詳しく解説します!
簿記1級と公認会計士とは、どちらも経理や会計のスペシャリストとして広く周知されている資格です。就職や転職のために、いつかは取得したいと考えている方もいることでしょう。
しかし、いずれも難関資格であることはわかっていても、どのような違いがあるかについて明確に把握している方は少ないかもしれません。
そこで、この記事では簿記1級と公認会計士との関係や違いを詳しく説明します。資格の取得方法や税理士資格との関係などについてもご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
簿記1級と公認会計士のそれぞれの特徴
簿記1級と公認会計士の具体的な試験制度や学習範囲などを知る前に、それぞれどのような特徴があるのか、また資格を活用できる場はどこなのかを知っておくことが大切です。
まず、簿記1級と公認会計士の特徴や活躍の場、そして経理や会計と関係の深い税務のスペシャリストである税理士資格との関係について詳しく見てみましょう。
簿記1級は経理のスペシャリスト
簿記は、企業活動における日々の「お金」の動きを記録して、財政状態や経営状況などを明らかにする作業です。簿記の資格には知識やスキルに応じて3級から1級まであります。1級は、簿記資格の中で最高の級位です。
簿記1級は、あらゆる企業や組織の経理に対応できるスキルだけでなく、企業の会計に関する法規まで理解したうえで、経営管理や経営分析ができるレベルの能力が求められます。
ビジネスモデルが複数ある大企業や海外に支店があるなどの場合は、複雑な会計処理に対応できるスキルだけでなく、言わば経営者のような視点が必要です。簿記1級には、そのような会計能力も求められます。
公認会計士は上場企業の監査がメイン業務
公認会計士(単に、会計士と呼ばれることもある)のおもな仕事は、監査証明をすることです。企業の業務の執行や会計・経営などについて、法律や社内規定などを守っているかどうかを第三者の立場からチェックし、場合によっては指導や忠告をします。
この監査業務は、公認会計士の独占業務です。会計士の資格を持っていなければ、監査業務を行うことはできません。
会計士の業務範囲は、企業などの会計をチェックする監査業務以外にも、税務やコンサルティングなどさまざまです。どのような業務を行うかは、勤務する企業や所属する会計事務所などによって異なります。
税理士資格との関係は?
税理士とは、「税務」に関する代理や相談を独占業務として行うことができる資格です。税理士の資格がなければ、報酬を受け取る税務に関する業務はできません。
簿記1級と税理士との関係としてあげられるのは、試験問題の重複が多い点です。約9割の試験範囲が重なっていると言われているため、税理士試験の準備として簿記1級の勉強をする人も少なくありません。
会計士と税理士の関係としてあげられるのは、公認会計士の資格を取得すれば、税理士の資格を取るための税理士試験に合格しなくても税理士として登録することが可能な点です。
税理士の登録をすると、会計士と税理士、両方の独占業務を行えるようになります。しかし、どちらも少なくない額の登録料が毎年必要になるため、あえて片方の業務だけに従事している方も多いです。
簿記1級と公認会計士の試験制度の違い
簿記1級と公認会計士、そして税理士の業務内容の関連性がわかったところで、次に簿記1級と公認会計士の試験制度の違いについて詳しく見てみましょう。
簿記1級と公認会計士との試験制度は、1年間に実施される試験の回数だけでなく、試験の仕組みや方法も大きく異なります。それぞれを比較すると、公認会計士は試験のチャンスが少なく、試験方法も複雑です。
簿記1級は年2回のチャンスで一発試験
簿記検定には、「日商簿記」「全経簿記」「全商簿記」の3種類がありますが、一般的に簿記検定と言えば日商簿記を指すことが多いです。ここでは、日商簿記の試験について説明します。
簿記1級の試験制度および概要は、次の通りです。
受験資格 | なし |
---|---|
受験料 | 7,850円(税込み) |
試験申し込み方法 | 受験地の商工会議所によって異なる |
試験の実施回数 | 年2回(6月、11月) |
試験時間 | 商業簿記・会計学(90分)、工業簿記・原価計算(90分) |
試験方法 | 記述式 |
合格基準 | 合計点70%以上 (1科目ごとの得点が40%未満の場合は不合格) |
税理士の試験資格は学歴や職歴が必要ですが、簿記1級の資格を取得すれば、税理士の受験資格を得ることができます。
公認会計士は年1回のチャンスで2段階選抜試験
公認会計士の試験内容やスケジュールについては、金融庁の公認会計士・監査審査会のホームページで公表されます。
公認会計士の試験制度および概要は、次の通りです。
受験資格 | なし | |
---|---|---|
受験料 | 19,500円 | |
試験申し込み方法 | 書面郵送またはインターネット出願申請 | |
試験の実施回数 | 短答式 | 年2回(5月頃、12月頃) |
論文式 | 年1回(8月頃)※短答式試験合格者のみ | |
試験時間 | 短答式 | 企業法、管理会計論、監査論:各60分財務会計論:120分 |
論文式 | 監査論、租税法、企業法:各120分、会計学:300分、選択科目:120分 (それぞれ異なる日程で実施される) |
|
試験方法 | 短答式 | マークシート |
論文式 | 記述式 | |
合格基準 | 短答式 | 合計点70%以上 (1科目ごとの得点が40%未満の場合は不合格) |
論文式 | 総点数の60%が基準 |
定められた資格を取得していたり司法試験や税理士試験に合格していたりする場合は、試験の一部あるいは全部が免除されます。免除を希望する際は、免除申請書を必要書類と共に提出して審査を受け、「公認会計士試験免除通知書」の交付が必要です。
簿記1級と公認会計士の学習範囲と難易度
簿記1級と公認会計士、どちらの試験も難易度が高く学習範囲も広いです。それぞれの学習範囲の特徴をあえて比較すると、簿記1級が狭く非常に深く、公認会計士が広く深くだと言えるでしょう。
資格取得を目指して効率良く勉強をするためには、それぞれの学習範囲の把握が不可欠です。ここでは、簿記1級と公認会計士の試験内容について見てみましょう。
簿記1級は商業簿記と工業簿記が主な範囲
簿記1級の試験で必要となる学習範囲は、次の4つです。
・商業簿記
・会計学
・工業簿記
・原価計算
メインとなる試験内容は、「商業簿記」と「工業簿記」です。
「商業簿記」とは、仕入れから販売までといった、取引先とのお金の流れを記録するものです。3級の試験から含まれている内容ですが、1級になると極めて高度な知識とスキルが求められます。
「工業簿記」は2級の試験から含まれる内容で、材料の仕入れから製造過程を経て製品を作り上げるまでのお金の動きを記録するものです。材料費だけでなく、燃料費や人件費といったものまで記録、計算できるスキルが求められます。
簿記以外にも企業法や租税法など幅広い知識が求められる公認会計士
公認会計士試験の短答式試験の学習科目は、次の通りです。
・財務会計論(簿記・財務諸表論)
・管理会計論
・監査論
・企業法
論文式試験の学習範囲は、次の通りです。
・会計学(簿記・財務諸表論・管理会計)
・監査論
・企業法
・租税法
・選択科目(経営学、経済学、民法、統計学から1科目)
短答式と論文式とに共通する学習科目は、簿記、財務諸表論、管理会計論、監査論、企業法の5科目になります。
簿記や会計の知識だけでなく、企業法や租税法といった法令や経営学や民法などの選択科目も必要になるため、幅広い分野の勉強が必要だと言えるでしょう。
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必要な勉強時間は圧倒的に公認会計士
実際に、簿記1級や公認会計士の試験勉強を始めるにあたり、どれくらい勉強をすれば良いのかが気になる方も多いでしょう。
簿記1級と公認会計士、それぞれの資格取得に必要となる勉強時間の目安を比較した場合、圧倒的に公認会計士のほうが多いと言われています。
あらかじめ必要となる勉強時間の目安を知っておけば、試験勉強のスタート時期も決めやすくなります。ここでは、簿記1級と公認会計士に必要となる勉強時間を詳しく見てみましょう。
簿記1級合格までに必要な勉強時間
簿記1級の試験合格までに必要となる勉強時間の目安は、簿記3級や2級の資格を持っているかどうかで違ってきます。
簿記の資格を持っていない初学者の場合だと、800~950時間程度の勉強が必要です。ただし、独学か資格学校などに通うかによって勉強の効率が大きく異なるため、勉強時間にも差が生じます。
簿記2級や3級、特に2級を持っている場合だと、勉強時間の短縮が可能です。また、簿記についての基本的な知識も身につけられるため、1級に挑戦する前に、3級と2級についての学習が必要だと言えます。
公認会計士試験合格までに必要な勉強時間
公認会計士の試験に合格するための勉強時間は、3,500時間が一つの目安になると言われています。資格学校に通うなどして最短で試験クリアを目指す場合であっても、最低2,500時間程度の勉強時間が必要です。
必要時間数を比べるだけでも、簿記1級よりもかなりの勉強時間が必要であることがわかります。簿記に比べると公認会計士の試験内容は幅が広く、論文式の試験対策もしなければならないため、どうしても勉強時間が多くなってしまうのです。
簿記1級・公認会計士それぞれに関連する資格は?
簿記1級と公認会計士に関連する資格は、税理士だけではありません。どのような資格が関連するかを知っておけば、資格の勉強する際の幅が広がったり1度の勉強で2つの資格取得を目指したりすることが可能です。
ここでは、簿記1級と公認会計士に関連する資格として、仕事につなげやすくダブルライセンスを目指しやすいものをご紹介します。
簿記1級に関連する資格
1級に限りませんが、簿記の試験に関連する税理士以外の資格としてあげられるのは、次の2つです。
・ビジネス会計検定
・社会保険労務士
ビジネス会計検定とは、企業の財務諸表の分析能力があることを証明できる検定です。簿記の試験と同様に、賃借対照表、損益計算書などが試験の出題範囲になります。
社会保険労務士は、企業内における公的保険業務や労務管理の相談業務に携わることができる国家資格です。
会計や財務、経理といった知識も求められるため、簿記検定を取得した方が企業内での経理と人事の要となるべく、社会保険労務士の取得を目指す場合もあります。
公認会計士に関連する資格
税理士以外で、公認会計士に関連する主な資格としてあげられるのは、次の2つです。
・米国公認会計士(USCPA)
・公認内部監査人(CIA)
米国公認会計士は、文字通り米国版の公認会計士です。この資格を持っていればアメリカで公認会計士の仕事ができるだけでなく、外資系企業や 日本企業の海外子会社などの財務諸表などが読みとれるため、グローバル化が進むにつれてニーズが高まっています。
公認内部監査人の資格は、内部監査人としての能力を証明する、約190もの国や地域で実施されている国際的な資格です。世界中で内部監査の重要性が認識され始めてきたため、内部監査人の資格やスキルにも注目が集まっています。
公認会計士になるには簿記1級が必要なのか?
公認会計士の試験内容には、簿記1級に必要な勉強の延長とも言える科目がいくつかあります。 そのため、簿記1級の資格取得に向けた勉強をすれば、公認会計士の試験勉強に役立てたり勉強時間を短縮したりすることが可能です。
しかし、簿記1級の学習内容だけでは、公認会計士の試験を到底突破することはできません。また、公認会計士を取得すれば税理士の資格が得られるため、税理士の受験資格を得るために簿記1級を取得する必要もありません。
簿記1級と公認会計士のダブルライセンスを目指すのであれば、簿記1級の資格を得てから公認会計士の試験勉強をするほうが効率的です。公認会計士試験の短答式試験の対策をすることで日商簿記1級の範囲を網羅できることから、公認会計士試験対策を優先させる手もありますが、公認会計士そのものを目指しているのであれば、簿記1級を取っておく必要はないと言えるでしょう。
まとめ
簿記1級と公認会計士は、どちらも取得しにくい難関資格です。しかし、あえて比較するのであれば、簿記1級よりも公認会計士のほうが試験範囲が広く、また試験合格までの勉強時間も長くかかるため。より取得が難しいと言えるかもしれません。
簿記1級と公認会計士のダブルライセンス取得したいのであれば、簿記1級取得後に公認会計士を目指すほうが効率的です。公認会計士試験の短答式試験の対策で簿記1級の範囲を網羅できることから、公認会計士試験対策を優先させてダブル合格を狙うという方法もあります。しかし、公認会計士だけを目指しているのであれば、簿記1級という回り道をせず、公認会計士の勉強を始めるほうが良いでしょう。
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