LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来への扉」 #58

  
Profile

泰道 征憲(たいどう まさのり)氏

T.Y.Links株式会社
一般社団法人 桃太郎オフィス経営
不動産鑑定士・土地家屋調査士

千葉県出身。日本大学理工学部海洋建築工学科卒業後に不動産仲介業者、デューデリジェンス会社を経験。2016年に不動産鑑定士試験に合格し、日本不動産研究所に入所。2022年に退社し、T.Y.Links株式会社を設立。主に不動産活用の相談業務や鑑定評価業務などを行っている。YouTube「士業の成功レシピ」「桃太郎オフィス 不動産事業部」チャンネルを共同で発信中。
2024年6月には新刊『悪魔の不動産鑑定』(クロスメディア・パブリッシング/中瀬桃太郎氏との共著)を刊行。

【泰道氏の経歴】

2006年 18歳
日本大学理工学部に入学。専攻は海洋建築工学科。就職活動では不動産業界を志望し、宅地建物取引士の資格を取得。新卒で入社した会社で営業職を担当。


2013年 24歳
不動産鑑定士試験合格を目標に置き、TAC渋谷校へ通学し始める。同時に不動産鑑定・デューデリジェンス会社への転職を決意。仕事と並行して挑戦した受験で不合格とういう結果から、退社し受験に専念する。2度目の受験で短答式試験、論文式試験ともに合格。


2016年 27歳
業界最大手である一般財団法人 日本不動産研究所に入所。知識を活かし、年間100件程度の鑑定に携わる。入所5年目に独立を意識し始める。


2021年 32歳
日本不動産研究所を退職後、T.Y.Links株式会社を設立。経営者としてキャリアを積む。2023年より中瀬桃太郎氏とともにYouTubeチャンネル「桃太郎オフィス 不動産事業部」「士業の成功レシピ」をスタート。2024年6月には同氏との共著『悪魔の不動産鑑定』を刊行。積極的に活動の幅を広げる。

社会人になってからめざした
難関資格取得への道
不断の努力が実を結び
着実なキャリアアップを重ねる

 不動産仲介会社で営業職に就くが、もっと知識を深めたいという思いが募り、難関資格である不動産鑑定士への挑戦を決めた泰道氏。仕事と両立して目標達成に励むも、1度は不合格に。退職して昼夜勉学に励んだ1年でついに資格を手に入れ、業界トップ企業に就職。数多くの業務に携わるうちに、入社5年目で独立へと向けて動き出した。現在は業務の傍ら、YouTubeでの発信も積極的に行っている。不動産鑑定士の資格がどのように彼の人生を変えたのか、お話をうかがった。

新卒時の就職先で不動産業界を選択。知識を深めるため資格取得を決意

 「小学生の頃は好奇心旺盛な性格で、何でもやってみたいタイプでした。両親は、やりたいならやってみたらと野球や図工の教室に通わせてくれましたが、私は熱しやすい反面、飽きるのも早くて(笑)。勉強も嫌いで、趣味のゲームをずっとやっていたかったのですが、両親に勧められた中学受験で大学付属校に入学。エスカレーター式のため、成績は真ん中をキープして学校生活をのんびりと楽しんでいました」

 実家が複数の不動産を所有していることから、土地や建物に漠然と興味を持っていたという泰道氏。大学の学部を選ぶ際には、理数系の科目が得意なこともあって海洋建築工学科へ進学。建築の基本と海洋による影響について学んだ。

 卒業後は、不動産の仲介会社で営業職に就いた。

 「不動産について学べるし、コミュニケーションも苦手ではないので、自分に向いているのではと考えての選択でした。しかし、社会に出ると、思うように成績が伸びず、 営業は向いていないのかと思い悩みました。また、お客様への売り買いが業務の中心なのに対し、自分はもっと不動産の知識を深めたいという思いが強くなっていました」

 その後、鑑定事務所を兼ねたデューデリジェンス会社に転職。不動産の価値を明らかにするための調査を行い、売買で必要な重要事項説明を固めていく業務で学びを深めていった。

 また、同時期にさらなるステップアップをめざし不動産鑑定士試験へのチャレンジを決め、TAC渋谷校に通い出した。自習室が広くてゆとりがあり、階下にコンビニエンスストアがあるなど長時間でも過ごしやすい環境が決め手だったという。

ルーティンを確立して勉強に集中。2度目の試験で合格し業界最大手へ

 試験勉強と仕事を両立するために、朝6時に会社に行き、2~3時間ほど会議室を借りて勉強。夕方5時になると業務を切り上げてTACへ向かい、夜11時ごろまで再び勉強した。

 「大学受験の経験がなかったので、まず勉強のコツを掴むところから手探りです。仕事と勉強の両立を1年ほど続けて受験しましたが、残念ながら合格には届きませんでした。やりがいも学びもある仕事はとても楽しかったのですが、目標達成の厳しさを実感したことで思い切って退職。受験に専念することにしました」

 次の試験までの約10ヵ月間、勉強漬けの毎日が始まった。朝10時から夜遅くまでTACに滞在し、食事と10分程度の仮眠休憩以外は、1日中勉強に費やす日々。友人にも勉強に集中すると宣言し、つき合いを断ったという。

 「やはりモチベーションのキープには苦労しましたね。もうやめたい、でもやめたところで今後どうする?という気持ちの間で揺らぐこともありました。それでも意欲を失わずがんばれたのは、TACで志を同じくする仲間を見つけたからです。当時、同じ教室で受講していた男性に『一緒に勉強しませんか』と声を掛け、毎日夜9時から合流して暗記会をすることにしていました。その日覚えたことを問題にして出し合い、言葉でアウトプットすることで記憶を定着させる作戦です。1人では疲れて逃げたくなるときでも、彼の存在があったので、もうひと踏ん張りできました。これは通学の大きなメリットだったと感じています」

 泰道氏は、試験でも普段通りの結果を出すタイプだと自己分析する。

 「合格という目標に向けて、毎日の暗記などのルーティンを重視していました。これで受からなければ誰が受かるんだ!と思えるほど勉強をやり抜いたので、2度目の試験では、いつも通りできることは全部やりきったという感覚がありました」

 そして、合否の確認は、合格発表が掲示してある現地に赴いた。

 「番号を見つけた時は『ああ、よかった』と安堵感が広がりました。1人でじっくり感慨に浸るつもりだったのですが、その場に前職の上司が駆けつけてくれて『おめでとう』と声を掛けられたのもいい思い出です(笑)」

手にした資格でキャリアアップ。独立の道で広がっていく人との絆社

 資格取得後は日本不動産研究所へ就職。業界最大手の不動産鑑定・コンサルティング会社であり、知識を活かし実務を経験するのに、これ以上最適なところはないだろうと思える職場だった。

 「担当するクライアントは上場企業や公的機関などが中心で、前職よりも扱う案件の規模が大きくなりました。不動産鑑定士の試験科目の中で得意としていた『鑑定理論』の知識は、特に実務に活きたと感じています。また、職場の雰囲気もよく、上司と部下という関係であったとしても、フラットに意見を言い合えたことが印象的でした。やはり、専門家同士だからこそお互いを尊重し、信頼できる土壌があったのだと思います」

 仕事は楽しかったが、大阪にある近畿支社での勤務も併せて勤続5年目で退職した。きっかけは、両親の会社の引継ぎ等、様々な要因が重なったが、大学までともに過ごした旧友2人との久しぶりの再会が一番影響を受けた。独立し活躍する友人たちに刺激を受け、自分の知識をもっと活かせる、もっと可能性が広がる場所があるのではと考え、独立を志すようになったという。

 独立後、鑑定評価や不動産売買の依頼を受けるためには、士業の先生とのコネクションをつくり、そこから紹介してもらうのが近道だと考えた泰道氏。少人数の交流会で人脈を広げ、地道な営業活動に勤しんだ。

 「独立の一番のメリットは、やはり収入が上がる点ですね。また、お仕事をいただく士業の先生とは、お客様でありつつも、専門家同士お互いの分野で助け合おうという絆のようなものを感じています」

 独立3年目、営業の一環としてWeb広告の配信を検討した際、前職の後輩でもあるYouTuberの中瀬桃太郎氏と意気投合。中瀬氏の情報発信力と泰道氏の不動産知識をミックスし、YouTubeチャンネル「桃太郎オフィス 不動産事業部」および「士業の成功レシピ」をスタートした。

 「YouTubeの配信は想定外だったのですが、成長するチャンスと思い覚悟を決めて顔を出しました(笑)。動画を視聴してくださった方に仕事をいただくこともありますし、不動産鑑定士のことをもっと世間に知ってもらう入り口になっているように感じています」

 1人で始めた会社も、2024年現在は複数のスタッフを抱えるまでに成長した。鑑定士としての業務はもちろん、クライアントを増やすための営業回りにも力を入れている。

 「信頼に足る不動産鑑定士であり続けるためには、日々のインプットが欠かせません。調べるだけではなく、実務に関わる方に直接ヒアリングしたあと、どこかでアウトプットすることで知識が身につきます。日々の地道な学びを積み重ねる方法は、受験勉強で得た大切なノウハウの1つです」

 多忙な泰道氏に、休日の過ごし方をうかがった。

「独立した人の『あるある』かもしれませんが、休日も頭の中ですぐに会社のことを考えてしまいがちです。昔からやっているボクシングに行ったり、サウナに行ったり、意識してまじめに休むことを心掛けています(笑)」

 今後の目標についてうかがった。

 「会社としては、社員30人の規模をめざしたいですね。そして、自分の持つ知識を1人で抱え込むのではなく、社員や後輩となる不動産鑑定士に伝え、トップダウン方式ではなく『共有』で社会に貢献していきたいです。また、YouTubeの配信では、不動産鑑定士の認知を広げ、全国の人にこの資格の存在と活用方法を知ってもらいたいです」

 最後に、不動産鑑定士をめざす方へのメッセージをいただいた。

 「資格を取って何よりもよかったと感じるのは、潰しが利く点です。不動産事業部がある会社ではどこでも重宝されますので、日本中どこに行っても仕事には困りません。日々継続して勉強に取り組める力がある、まじめな人に不動産鑑定士は向いています。しっかりと知識を身につけ、目標に向かってぜひがんばってください!」

[『TACNEWS』 資格で開いた「未来への扉」|2024年7月 ] 

おススメ記事

「TACNEWS」に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。