人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第71回 株式会社ジンズホールディングス
村上 康子(むらかみ やすこ)氏
人事戦略部 採用課 ディレクター
教育系事業会社の営業職、複数社での人事・HR系業務を経て、2022年、株式会社ジンズホールディングス入社。2023年からマネージャー職。人事戦略部採用課にてアルバイト・パート採用、新卒採用、本社中途採用を統括。並行して2024年からベトナム法人設立プロジェクト・人事関連担当者を務める。
「あたらしい、あたりまえ」を創造するために。
「Progressive」「Inspiring」「Honest」の3つを大切にしています。
JINSで知られている株式会社ジンズホールディングスは、2001年に3万円前後する高価なものとされていたメガネを5,000円という低価格で手に入れることができるしくみを作った。そして、日常的にメガネを必要としない人に対しても、眼を守る手段としてアイウエアの新たな市場を創造してきた。そんな株式会社ジンズホールディングスでは、どのような人材が活躍しているのだろうか。人事戦略部 採用課 マネージャーの村上康子さんに、JINSの人材観、採用方針、人材教育、資格の捉え方についてうかがった。
第二創業期は「グローバルの加速と地域共生」
──「JINSといえばメガネ」。そのようなイメージで見られることが多いと思いますが、株式会社ジンズホールディングス(以下、JINS)とはどのような会社ですか。
村上 アイウエアとしてのJINSは世の中で広く認知されていますが、「メガネ」はあくまでアイデアを届けるための手段のひとつと考えています。私たちがめざしているのは、「Magnify Life」(マグニファイ・ライフ)というブランドビジョンです。Magnifyは「拡大する、広がりのある」、Lifeは「生活や人生」。世の中の人々により豊かな広がりのある人生や生活をお届けするために、これまでにない体験をお届けする。そのために「あたらしい、あたりまえ」を創造し、近視のない生活をめざす。これをブランドビジョンの方向性に据えています。
──ブランドビジョンの実現をめざして、何か新しい分野への挑戦、あるいは改革を始めていますか。
村上 今、第二創業期という大きなテーマを掲げています。そのひとつのミッションが、グローバル化の加速です。すでに中国では約170の直営店を展開し、他にも海外4つの地域に進出しています。今あるものを届けるのではなく、「あたらしい、あたりまえ」を作りながら、海外にさらにJINSの新しい体験を届けていきたいと考えています。
一方、国内では「地域共生」をキーワードに、店舗の出店計画やお客様とのコミュニケーション設計を推進しています。「地域共生」を最もわかりやすく体現しているのが、群馬県前橋市にある「JINS PARK」です。「JINS PARK」はJINS前橋店であるだけでなく、JINSが運営するベーカリーカフェ「エブリパン」を出店しています。アイウエアだけでなくパンやコーヒーという手段によって、JINSがその地域の人が集まる場となって情報交換できる。何かを感じ取れる。そんな存在になっていきたい。これを日本の地域ごとに作ることをめざしています。
本社では中長期の方針に基づいた中途採用を実施
──JINSではどのような人財を求めていますか。
村上 JINSでは、ブランドビジョンの「Magnify Life」を実現させるために従業員の姿勢として「Progressive」「Inspiring」「Honest」の3つを大切にしています。「Progressive」は先進的なチャレンジ精神、「Inspiring」は人を巻き込んだり巻き込まれたりする他者に寄り添いつながること、「Honest」は誠実さ。この3つの姿勢で挑戦、成長し続ける方を求めています。
──JINSの採用方針について教えてください。
村上 JINSは、現在店舗に約4,000名、本社に約300名の従業員が在籍しています。採用については、大きく店舗と本社で役割が異なるため採用活動も分けて進めています。
特に本社では中途入社が中心であるため、今回は本社の中途採用についてお話ししたいと思います。
──本社の中途採用計画はどのようなものですか。
村上 組織の状況や事業状況に合わせて採用計画を立てますが、「こういうビジョンを実現するためにはこのポジションに人が必要」「業務見直しの中で新しく生まれるポジションに人が必要」といった中長期戦略も考慮しながら、必要な人材を採用しています。
グローバル展開に合わせ中途採用を強化
──本社の中途採用にはどのような職種がありますか。
村上 JINSはメーカー機能と小売機能の両方を兼ね備えたSPA(製造小売)事業を行っているので、それに準じた職種が本社に備わっています。経理、財務、総務、労務、法務などのコーポーレート職種、店舗の売上管理や運営管理を担う営業、商品、マーケティング、サプライチェーンマネジメント、品質管理、デジタル、人事戦略、など、SPA事業を推進するための全職種の機能が本社内にそろっています。
──すべての機能を持つ本社の職種で、現在採用が最も多いのはどのポジションですか。
村上 現在、第二創業期のグローバル展開の中で、2つの部分で人材を必要としています。1つ目が、今強化している東京本社内のグローバルヘッドクォーターとしての役割。2つ目が、海外への出店増加にともない、日本から駐在員として現地駐在も視野に入れたケースです。求める人材も国内だけでなく海外現地法人への駐在にも意欲的な方、一緒に海外事業を創り上げていきたいという方で、外部からの採用も含め、国内のメンバーを強化しつつ、グローバル展開に合わせた中途採用を進めています。
──中途採用において課題があればお聞かせください。
村上 採用市場で、時間を設けてブランドビジョンについてお話をすると「そういう考え方があるんですね」と納得していただけます。ただ、パッとJINSという社名だけお話しすると、どうしても「メガネ店」と捉えられてしまいます。「どうすればJINSの本当にめざしたい姿を知ってもらえるのか」。伝え方の補助手段を含めて、いろいろなチャレンジをしているところです。
組織横断的に多様な社員とコミュニケーション
──本社中途採用の選考プロセスを教えてください。
村上 どの部署も書類選考のあと、数回の面接を通じて内定に至ります。面接ではまず、当該部署と人事部が面接官を務めます。いろいろな会社で人事を経験してきて「これはすごいな」と思うのは、JINSの面接プロセスです。執行役員面接に担当部門役員だけでなく、業務連携があるなど親和性の高い他の部署の役員が面接官として加わります。
例えば、経理の採用面接では、応募者は経理担当役員だけでなく、マーケティング部や商品部といったまったく違うバックグラウンドの役員に対しても、自分のことを知ってもらわなければなりません。
とはいえ、約300名しかいない本社には、さまざまな部署があるので、日常的に自分の専門以外の方とコミュニケーションを取る機会が非常に多い環境です。面接のタイミングで、同じ共通言語、同じ専門性のメンバーとだけでなく、組織横断的に多様な社員とコミュニケーションを取る機会を経験していただくことは大切だと考えています。
──社内の多様な部署の人材とコミュニケーションを取れるかを見極めるための面接でもあるのですね。
村上 私たちが見極めるだけでなく、応募者の方がJINSを判断する機会でもありますからね。JINSにはどのような人材が活躍しているのか、どのような考え方を持っている人がいるのか、そこを知っていただくことも重要だと捉えています。
ジョブ型でも自分のキャリア領域を広げられる風土
──中途採用では、入社後どのような流れで配属に至りますか。
村上 基本的には入社手続きや会社概要の説明を受けたあと、配属になります。人事部採用チームは、入社1ヵ月後と3ヵ月後のタイミングで個別面談を実施し、そのあとは形式的な声かけをしません。「何かあればいつでも相談してください」というスタンスです。
定期的にキャリア調査を実施していますので、「今、自分の経験や強みが活かせているのか」「今、チャレンジしたいことはどのようなことなのか」「そのために何か自己啓発していることがあるか」「自身のキャリアについて人事と面談を希望するか」といった項目にチェックをつけた方については、所属部署とは違うラインで人事が面談を実施します。
──本社では、中途採用の場合でも人事異動がありますか。
村上 あり得ます。組織風土としてセクショナリズムが強くないのがJINSの特徴です。部署に関係なく私たちはお客様のために事業をしているので、メンバーみんなが向かっているのは「お客様に対して私たちができることは何か」ということです。したがって部署を超えて連携したり、コミュニケーションをとったりしていくことはとても重要になってきます。それが進んでいくと、職種が何であっても入社して関心を持つキャリアが少しずつ変化していき、違う部署に異動することもあります。例えば、人事から総務へ、財務から経営企画へといった、親和性の高い範囲での配置転換やキャリアの広がり方は社内でよく起こっています。
──自身の興味や希望でキャリアの幅を広げるチャンスがあるわけですね。
村上 そうですね。私も2022年に採用担当としてオファーをいただいて入社したのですが、2023年には採用課のマネージャー職の辞令をもらい現在の役割に就いています。
ただ、私自身の仕事を採用に限り、自身の活躍の場を閉じたいわけではありません。チャンスがあれば人事戦略に関連する他部門でも挑戦したいと、ずっと上長に伝えていました。そして先日、ベトナム法人設立プロジェクトの中で人事関連担当者としてアサインされ、今は海外法人の設立プロジェクトに参加しています。こうしたケースは私だけでなく、いろいろなメンバーが主務を持った上で、自分のキャリア領域を広げています。
本社の「選べる研修制度」
──人事制度や福利厚生でJINSらしいものをご紹介いただけますか。
村上 私が入社しておもしろいなと思ったのは研修制度です。多くの会社で「○年目になったらこれをやってください」という階層別研修的な研修の流れがあると思います。JINSの本社にはそうした研修制度がありません。店舗ではメガネの専門知識や加工技術が必要なので、ある程度社内資格制にしています。けれども本社は営業や流通といったように、社員それぞれのスペシャリティが違います。
そこで固定したものでななくて「選べる研修」を導入しました。年次も業務特性も違うメンバーが、そのときに「ちょっとこんなインプットがしたい」と思ったら受けられる研修で、推奨年次何年目、マネジメント系、課題解決系、ヒューマンスキル系といった指向のものが一覧になっています。
──本社には形式的に準備された研修がないということですね。
村上 自分自身で実務やキャリアと向き合いながら、能力開発や自己啓発のために選んで受ける研修になっていますね。あるいは上長から、「ひとつのスキル開発としてやってみたら」と推奨されるケースもあります。
会社に指示されて動くのもひとつの仕事の進め方ですが、今私たちがめざしているビジョンや目標に対して、「自分の役割としてどう動くか」を能動的に考えてもらうことが重要で、研修の考え方もその一環です。
また、福利厚生についてJINSならではといえば、本社ビルの9階に従業員用サウナがあります。
資格取得はめざしたいキャリアに対するKPI
──社内で業務につながる資格をめざしたい場合、支援制度はありますか。
村上 職種が多いため、なかなか統一ルールが作れないので、残念ながら資格取得のための金銭的支援を設けてはいません。ただJINSではコアタイムのないスーパーフレックス制度ですので、通常の制度の中で十分時間の確保はできると思います。
例えば、税理士や公認会計士のように多くの学習時間が必要な資格や平日にしか受験できない資格であっても、午前中に受験勉強をしたり、試験を受けに行ったりして、午後から仕事をスタートするというタイムスケジュールを組めば、特に申請する必要はありません。
──税理士や公認会計士のような資格を要件に募集することはありますか。
村上 これまで資格を必須にしたことはありません。「あれば尚可」です。ただし法務関係の弁護士、知財関係の弁理士、経理・財務関係の公認会計士・税理士資格は、1つの基準とする場合もあるかもしれません。その他IT系のPMO資格、基本情報技術者、応用情報技術者、データサイエンティストなども参考にさせていただくことはあります。
──最後に、資格取得やキャリアアップをめざす方に向けてメッセージをお願いします。
村上 意志を持って資格に向かって努力するアクションは、ご自身の強い意思や、忍耐力、柔軟性を育む時間につながるように思います。また、学びの多い資格取得のプロセスを、がんばってやり遂げることは、ご自身のキャリアが広がるチャンスになるのではないでしょうか。
[『TACNEWS』人事担当者に聞く「今、欲しい人財」|2024年12月 ]
JINSの東京本社 ©photo Takumi Ota
会社概要
社名 株式会社ジンズホールディングス
設立 1988年7月
代表者 代表取締役CEO 田中 仁
本社所在地 東京本社:東京都千代田区神田錦町三丁目1番地 安田シーケンスタワー
前橋本社:群馬県前橋市川原町二丁目26番地4
事業内容
下記事業を営む子会社等の事業活動の支配及び管理
アイウエアの企画、製造、販売及び輸出入。ウェアラブル端末及びそれらの関連商品の企画、開発、製造、加工、販売、賃貸、保守および輸出入。医薬品、およびそれらの関連商品の販売および輸出入
従業員数
連結 3,486名(準社員等1,628名含む)(2023年8月末現在)
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