日本のプロフェッショナル 日本の会計人
濱田 順平(はまだ じゅんぺい)氏(写真右)
税理士法人ウィレイズ 代表社員 公認会計士・税理士
朝戸 悠太(あさど ゆうた)氏(写真左)
税理士法人ウィレイズ 代表社員 公認会計士・税理士
24歳と25歳、2人で独立開業。若き会計士・税理士が作ったのは、
「顧客満足度」「従業員満足度」最優先の税理士法人。
税理士法人ウィレイズの代表社員、濱田順平氏と朝戸悠太氏が出会ったのは、明治大学商学部のゼミ。同じタイミングで公認会計士(以下、会計士)をめざし、大学3年生で公認会計士論文式試験に合格し、有限責任監査法人トーマツに入所。そして3年後、2人は税理士法人ウィレイズを立ち上げた。性格は真逆。でも、同じ速度で走ってきた。そのような2人に、独立開業の経緯と現在までをうかがった。
別々の監査領域で知見を広げる
2024年10月で開業3年目を迎えた税理士法人ウィレイズ(以下、ウィレイズ)は、代表社員の濱田順平氏と朝戸悠太氏のほか、税理士2名、スタッフ7名、総勢11名の陣容である。2人以外の税理士は税務署長2ヵ所を歴任した国税OBと、大学の同級生の公認会計士・税理士が監査法人から合流している。
「開業当初想定していたのは2年で5~6名の組織。1年前は2人だけでしたので、11名になるとは想定していませんでした。よいメンバーと右肩上がりに増えるお客様、成長できる環境になったと実感します」(朝戸氏)
設立して丸2年で法人・個人の顧問先100~150社、スポット案件は個人約150件、法人30~50社。1年前50~70社だった顧問数は倍に増えた。とはいえ開業から綿密な年次計画と顧客拡大を狙ってきたわけではない。濱田氏は「3年目は売上1億円超、人員15名前後はいくかな」とざっくりしている。
2人は大学3年の終わりから有限責任監査法人トーマツ(以下、トーマツ)に勤務。朝戸氏は金融事業部のリースクレジット事業部に在籍。リース会社、クレジット会社を中心に政府系金融機関、地方銀行と幅広い業種の法人監査に従事。一方の濱田氏はメガバンクの与信業務メインと、まったく違う業務を担当した。
「当時は1つの業種、1つのチームに縛られるのではなく、多方面の業種を会計監査領域から俯瞰的に見たいという思いがありました」(朝戸氏)
濱田氏は、四大監査法人の中で雰囲気が自分に一番マッチしたのがトーマツだったと話す。
「高校時代に興味があった銀行や証券会社を、会計士の立場で俯瞰できるという気持ちに切り替わりました。メガバンクのあと、地方銀行も担当できたので、それぞれの長所・短所を学ぶよい機会になりました」(濱田氏)
濱田 順平(はまだ じゅんぺい)氏
茨城県阿見町生まれ。2018年8月、公認会計士論文式試験合格。2019年3月、有限責任監査法人トーマツ入所。2020年3月、明治大学商学部卒業。2022年7月、公認会計士登録。2022年9月税理士登録。会計事務所勤務を経て、2022年10月、税理士法人ウィレイズ設立。
大学3年で公認会計士試験論文式試験合格
濱田氏が会計士をめざすきっかけとなったのは、幼稚園から16年間続けてきた「そろばん」。小学校から高校まで複数の珠算全国大会で上位に入賞し、最高位2位までを獲得。暗算10段、珠算9段の腕前だ。珠算推薦で商業高校に進学し、そこで簿記を学び始めたことが公認会計士を知るきっかけになった。
常に明確な目標設定をする濱田氏は、大学1年の4月に「大学3年で公認会計士試験論文試験合格」という大きな目標を立てていた。
「奨学金返済もあるし、学費の半分は自分で払っていたので、4年生まで受験を続けられる状況ではありません。大学3年8月に受からなかったらあきらめようと決めていたので、それまでしっかりやり切るのが目標でした」(濱田氏)
一方、朝戸氏は東京都調布市出身。明治大学付属明治高等学校を卒業後、明治大学商学部へ。
「商学部に入ったから、簿記のボの字から始めてみるか、という温度感で日商簿記検定の3級から勉強を始めました」(朝戸氏)
3級は一発合格できたものの、そこからがイバラの道だった。
「2級に落ちて、1級も2回落ちて、全経上級も落ちて、公認会計士試験短答式試験も1回目は落ちて。その間に親にダブルスクールの学費50数万円を払ってもらい、友人は結構合格している。ヤバいなと、やっとスイッチが入ったのが大学3年でした。5月に受けた2回目の短答式試験で合格、8月の論文式試験も合格できました」(朝戸氏)
そうは言っても大学3年で現役合格は快挙。2人は同じゼミの勉強仲間で、よく自習室で顔を合わせ、大学3年からは一緒に遊んだり、旅行したりする仲になった。示し合わせたわけではないが、その後、同じトーマツに入所した。
24歳と25歳。最短ルートで独立開業
「もともと自分の力で何かやってみたいという気持ちが強かったので、トーマツに入る前は20代後半から30代での独立を考えていました。茨城県生まれで現在も茨城県在住なので、中小企業が多い環境下、自分の力で地元のお客様に貢献したいという思いも独立の決め手でした」(濱田氏)
一方、朝戸氏は監査法人に2~3年勤務する中で、業務のルーティン化に悩んでいたという。このまま監査法人でキャリアアップしていくのかを、転職を含め考えていた。
「悩んでいたときに、濱田から独立開業という選択肢をもらいました。濱田に声をかけてもらわなかったら、いまだにトーマツか、コンサル会社などに転職していたか。あるいはまったく別領域で起業していたかもしれません」(朝戸氏)
独立するなら修了考査から最短ルート、とにかく一番早いタイミングでの独立がいい。そう決めた2人は2021年12月にトーマツを退所。9ヵ月間、別々の会計事務所で異なった実務経験を積み、2022年7月に公認会計士登録、9月に税理士登録を済ませ、10月、24歳と25歳という若さで税理士法人ウィレイズを開業した。
朝戸 悠太(あさど ゆうた)氏
東京都生まれ。2018年8月、公認会計士論文式試験合格。2019年3月、有限責任監査法人トーマツ入所。2020年3月、明治大学商学部卒業。2022年7月、公認会計士登録。2022年9月税理士登録。会計事務所勤務を経て、2022年10月、税理士法人ウィレイズ設立。
成功している税理士をまねよう!
税理士登録して最短で独立開業した2人にとって、最初のハードルは顧客拡大だった。
「開業後3ヵ月は営業のやり方がわからず、売上も両手で数えるほど。独立3、4ヵ月目に確定申告期を迎え、紹介で確定申告のお客様ができました。少し余裕もでき、いろいろな交流会にどんどん顔を出すようになったことで紹介が増え始めたんです」(朝戸氏)
「動き出しが命だと思っていたので、会計事務所で修業を始めたタイミングから動き出しました。まず始めたことは『成功している人に会う』こと。独立1~10年目で成功している税理士や会計士の事務所に足を運びました。門前払いかと思いきや、皆さん快く受け入れてくださって、大いに学びがありました」(濱田氏)
その学びの中で誰もが言っていることが2つあった。1つは「成功している人をまねる」。もう1つは「紹介で仕事が広がるようにする」だ。
「この2点を徹底してやっていこうと、開業時に意識できたことは大きいです。まず、人に会って人脈を作る。紹介がもらえる環境作りをする。さらに成功した人の行動を心がける。こうしていくうちに開業から半年で紹介が増えてきたんです」(濱田氏)
今では新規顧問先の6、7割が紹介、媒体サイトが約2割、約1割がWebサイトから入ってくる。インターネットでの集客が主流になりつつある中、ウィレイズの2人は地道に人に会う方法で顧客を広げることにこだわった。
「人間である以上、人とのコミュニケーションを意識していきたい。インターネットを使うよりもまずは人からの紹介。そんな思いで地道に足を運んでいます」(濱田氏)
差別化ポイントは「20代中心の若い組織」
ウィレイズの業務は、毎月の顧問業務。月次から決算・申告と相談対応、個人の確定申告とオーソドックスだ。
「事務所のカラーは『平均年齢26歳。20代中心で運営している税理士法人』。良くも悪くも、そこが差別化ポイントです。昨今、私たちより若い起業家が増えています。そんな20代、30代の起業家をサポートしていける組織でありたいんです」(濱田氏)
「年代の近いお客様はサポートしやすいし、お客様も私たちにならプライベートも含めて話しやすいので、ご相談いただける。そこが強みになっています」(朝戸氏)
税務署OBを除いて全員20代。そんな若い税理士法人は業界でもなかなかない。20代中心の若い税理士法人だからこそ、他の事務所と差別化できる強みがいくつかある。
「お客様とのコミュニケーションにメールは使わず、チャットを使用します。営業時間内であれば、問い合わせへのレスポンスは基本的に5~10分。待ち時間が非常に短いのが強みです。税理士法人の解約理由上位にレスポンスが遅いことが挙げられています。その理由での解約は一切ありません。
2つ目が営業方針。私たちは『自分たちの営業をしない』ことを徹底しています。相談の1時間はひたすらお客様の相談を聞きます。何が今不安なのか、必要とするサービスは何なのか。自分たちよりもまずお客様のことを思う。その気持ちはどこにも負けないつもりです」(濱田氏)
2年間で顧問数が倍に増えた要因。それはこの強みに凝縮されている。
求めるのは「素直な人」
法人内での2人の役割分担は、ここ1年で自然と決まってきた。
「朝戸は営業などの外向きの仕事が7~8割、内部の仕事が2~3割。私は逆で外向きの仕事が2~3割、内部の仕事が7~8割です。私自身は社内のメンバーとの関係構築や研修、ヒアリングを含めた面談、フォローと、内部体制の構築と経営に多くの時間を割いています。営業は朝戸が中心にやっているので安心して任せています」(濱田氏)
知り合った学生時代から真逆のタイプだったという2人。濱田氏は几帳面で細かいしくみ作りが得意なタイプで、実務や経営の整備に実力を発揮する。朝戸氏はその逆で、決断力が強く渉外力に秀でている。うまく補完し合いながらの運営も、ウィレイズの強みと言っていい。
採用を始めてまだ1年。最初に採用したメンバーも大いに活躍し、やめたメンバーはこれまでいない。
「求める人物像は素直な人。プラスアルファ、実務経験がともなっていたらなお可。日商簿記簿記検定2級や1級があればうれしいし、税理士科目合格者ならベストですね」(朝戸氏)
「人間性と土台力。1つはまず、コミュニケーションが取れること。誰とでも仲よくできる素直さが大事です。2つ目が、過去にがんばった経験や努力した経験があること。そこは重視しているポイントです。
税理士業界は常に勉強する業界。がんばれない人は置いていかれるので、居心地が悪くなりがちです。継続力や努力した過去は判断材料として見るポイントで、資格はそこに付随してくるもの。あればもちろんうれしいですが、あまり意識していません」(濱田氏)
社員教育に関しては、2024年4月から人材教育に詳しいメンバーが1名加入。週2日の研修と内部の実務チェック、教育研修フローの構築を任せている。
「社内教育、教育体制は、他法人と比べて遜色ないのが当社の強みです。現に2023年11月に未経験で入ってきた2名は、すでに1人でお客様と面談までできます。知見、経験値ともにかなり成長スピードが早い。入社半年のメンバーも、上席の同席とはいえ顧問先で1人で1時間話すことができます。未経験でも安心して入ってもらえる環境は整っています」(朝戸氏)
依頼案件が増加しているウィレイズでは、常に人手不足。常に絶賛募集中だ。
「経験値の浅いメンバーが多いので、30~40代の経験者を採用していかなければなりません。社内のオフラインの部隊とは別に、正社員の在宅部隊も計画中です。若い方も経験値が高い方も、とにかく全員ウェルカムです」(朝戸氏)
ビジョンは「顧客第一主義」「従業員満足度重視」
「開業時から一番の命題はお客様に対して最大のサポートをする。そして、従業員が働きやすい環境と金銭を提供する。この2点に尽きます。その上で、必要であれば売上を求めていかなければならないし、従業員を増やしていかなければならない。そのためにどれだけ売上や従業員数が必要なのか、になります」(朝戸氏)
何事も「顧客第一主義」「従業員満足度重視」からの逆算。数字にこだわらない2人は、5年後、10年後の組織の姿をどのようにイメージしているのだろう。
「私は濱田と真逆で行き当たりばったりで生きてきた人間。先のイメージはないんです。重要なのはいかに顧客満足度、従業員満足度を上げていくか。それに準じて売上もついていけばいい。1年後には従業員が15~20名になるだろうから、5年後なら30名。それぐらいいけたらいいかな」(朝戸氏)
地元への貢献を念頭に置く濱田氏は、地元での支店展開は考えているのだろうか。
「ウィレイズの名前の由来は『一緒に成長していきたい』。お客様、従業員とともに成長していきたいので、まずはウィレイズを盤石にしてから地元ですね。都内の情報を地方に還元する橋渡し的役割を、私が担いたいと思います」(濱田氏)
真逆の性格だという2人には、それぞれやりたいことがあるという。
「会計領域とは異なる事業。それをすることで社内の人間を巻き込んでいければ、従業員の知見や経験もプラスになり、税理士法人職員としてお客様に還元できます。
もう1つはシンプルに公認会計士・税理士としていろいろな会社を見てきた中で、上場企業の社長が『かっこいいなあ』という憧れがあります」(朝戸氏)
「私も朝戸と同じで、会計以外で社内に選択肢が持てるようなプラットフォームを作れれば、居場所が広がると考えています。私個人としては、新しいことをやるのがすごく好きなタイプなので、どんどん新しいことにチャレンジしていきたいですね」(濱田氏)
定時17時、見込み残業10時間
「3年間休んでいない」「土日も仕事」…そんな話を独立数年の若手士業に聞くことが多い。ウィレイズの2人はどうだろうか。
「土日、年末年始、お盆、連休、私たちはしっかり休みます。みんなもしっかり連休取ってねと話しています。オンオフの切り替えはしっかりやっています」(濱田氏)
「スタッフは基本的に土日祝に働くことはありません。定時17時、見込み残業10時間。ワークライフバランスはかなりいいはずです。繁忙期は多少忙しいですが、私たち2人は今年も海外旅行は3回ずつ行きましたし、国内旅行にも行きました」(朝戸氏)
最後に、資格取得をめざしている読者に、メッセージをいただいた。
「勉強できるのは幸せなこと、ありがたいことです。それは後々気がつくもの。今勉強したい方は、自分が納得するまで勉強してください。振り返ったとき、当時の自分に感謝の気持ちが湧いてくるはずです」(濱田氏)
「0か100か、合格か不合格かしかない世界。ゴールを明確にした上で、そこに到達するのに必要なもの不要なものは何か取捨選択する能力、逆算できる能力を持って挑んでください。きっと、よい結果が得られるはずです」(朝戸氏)
[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2024年12月 ]