日本のプロフェッショナル 日本の司法書士|2018年8月号

Profile

杉谷 範子氏

司法書士法人ソレイユ 代表社員

杉谷 範子(すぎたに のりこ)
1989年、京都女子大学家政学部卒業後、東京銀行(現:三菱UFJ銀行)入行。一般職として8年間勤務。2002年、司法書士試験合格、2003年、司法書士登録し、司法書士事務所を開業。2013年、司法書士河合保弘氏と司法書士法人ソレイユを設立。

民事信託・家族信託・実家信託を駆使して事業承継や相続の悩みに応えるとともに、 主婦業、母業、司法書士業を、楽しくしなやかにこなしています。

会社をまず弟に、その次は息子に継がせたい。実家の土地は子ども、そして孫に受け継いでほしい。こんな希望を持つ人も少なくない。しかし、遺言ではこの願いのすべてをかなえることはできなかった。それを可能にしたのが、約10年前に法改正された信託である。家族や信頼できる人との間でのみ組むことができる民事信託・家族信託は、信託銀行などが扱う投資信託とはまったくの別物。民事信託・家族信託のフロントランナーとして走り続けるのが、司法書士法人ソレイユの代表社員・杉谷範子さん。司法書士であり、主婦であり、妻であり、2人の子どものママでもある杉谷さんは、自らを「主婦司法書士」と呼び、自由にしなやかに仕事も家庭も楽しむ。相続や事業承継で悩む人を救う杉谷さんに民事信託について、そしてワーク・ライフ・バランスついて伺った。

「そうだ、士業になろう!」

 京都女子大学家政学部食物栄養学科を卒業した杉谷さんは、海外への憧れから海外支店の多い東京銀行(現:三菱UFJ銀行)に入行した。当時一般職といえば転勤のない事務職だったが、東京銀行は女性の活用が盛んで、当時としては珍しく海外転勤もある一般職を採用していた。
「東京銀行は先進的で、30年前にもうマタニティ制服がありました。私もその制服を着ながら仕事をして、1人目を出産しました。できれば2人目もほしいなと思いましたが、そうなると銀行で働き続けるのは難しい。また、定年退職のない職業がいいな、と考えていたとき、夫が『司法書士っていう資格があるよ』と勧めてくれたんです」
 実は杉谷さんの父親は税理士、弟は公認会計士で、夫の父親は弁理士。2人にとって「士業」はとても身近な職業だったのである。彼らは皆それぞれマイペースに仕事をし、遊びたいときに遊ぶという悠々自適の生活を送っているように見えた。
「あんな働き方っていいなあ。土日や平日も関係なく休めて定年退職もなくて、気兼ねなく子育てもできるなら、私も士業になろう!」  そこが士業をめざした入口だ。まずは実家が会計事務所だからと、簿記の勉強をしてみたが、いきなりくじけた。「これは私には向いていない」。次に法律をかじってみると、民法や刑法にはドラマがあっておもしろい。そこから司法書士をめざそうと決めた。
 銀行を退職して子育てをする専業主婦。その隙間時間を利用して、通信講座でもくもくと勉強した。
「やってみると泥沼にはまって、もう受からない、受からない(笑)。大学受験なら『第2志望でもいいや』と言えるけれど、司法書士試験は1年に1回きり。1年間努力しても合格か、不合格かしかありません。半分っていうのもないので、精神的にかなり厳しかったですね」
 それでも子どもを保育園に預けながら、5年間チャレンジして合格を手にした。 「2人目は合格してからと決めていたので、10年も空いちゃいました。実は合格後は勉強会に参加したり楽しくしていて、お姑さんに『そろそろ2人目いいんじゃない?』と言われてしまったりして(笑)。今は4人家族です。2人目を産めて本当によかった。楽しいです」と、杉谷さんはくったくがない。
 杉谷さんの合格は思わぬ波状効果を生んだ。合格してはつらつと働く杉谷さんをうらやましく思ったのか、サラリーマンの夫も弁理士をめざし始めたのである。真面目な夫は朝5時に起きて2時間勉強してから出勤し、帰宅後も勉強時間を確保して、わずか2年で弁理士試験に合格した。現在は、父親の後を継いで銀座で特許事務所を切り盛りしている。

「主婦司法書士」です

 司法書士試験に合格した杉谷さんは、翌年司法書士登録を果たし、週3日、司法書士事務所に勤務しながら、並行して自宅で司法書士事務所の看板を出した。
「小さい子どもがいたので、税理士の父から少しだけ商業登記の仕事をもらいながら『主婦司法書士』を始めました。何かを犠牲にしてではなくて、自分の時間の采配の中で、家族中心の空いた時間で、司法書士の実務を積み上げていったんです」
 そう話す杉谷さんには、ひとつゆるぎない思いがあった。1人目を産んだときには産後休暇も取らず、出産からわずか1ヵ月で仕事復帰。朝と夜の授乳はするものの、その他の時間はすべて保育ママにお任せだった。
「あまりにも子育てをした実感がなかったので、もっとじっくり子育てをしたいという思いが強くて、2人目はまるまる2歳まで自分で育てようと決めたんです」
 ご主人の収入があるので、一生懸命になってお金を稼ぐ必要はない。週3回の事務所勤めは辞めて、赤ちゃんをバスケットに入れ、自分のオフィスで仕事をした。当時さかんだった債務整理の無料相談会にもそのバスケット持参で出向き、「すみません、赤ちゃんがいるんですよ」と言って、バスケットをポンと机において相談を受けた。
「お客様の破産申請をするため裁判所に行くときも、ベビーカーを押して行ったんです。そうしたら、私自身が破産申立をしようとしているんだと誤解されてしまって。『すみません、私、司法書士なんです』って(笑)。どこへでもバスケットやベビーカーで出かけて、自分のできる範囲で働いて。そんな仕事の仕方でした」
 こうした活動をする中で、杉谷さんは当時全国で研修を開催していた河合保弘氏と出会う。後に司法書士法人ソレイユを共に立ち上げることになった恩師だ。
「15年前、河合はもう既に事業承継の大切さを強調していました。それがとても心に響いて『そうだ、これからは事業承継だ!』と思ったんです。その後、河合から会社法や事業承継関連の本の共著に誘われると必ず『はい!書きます!』と二つ返事で受けました。声をかけられるたびに絶対断らないで執筆に参加していますね。子育てをしながら、本を書いたり、仕事もちょっとしたり。いろいろ広くやってました。これって、女性ならではの働き方というか、自分に合わせた働き方だと思います」
 ベビーカーを押しながら、司法書士業務と本の執筆。専門知識は蓄えられ、杉谷さんのノウハウは深みを増していった。それが後の民事信託につながっていったのは言うまでもない。

2次相続、3次相続対策なら民事信託

 2007年、信託法が大改正され、日本でも個人間(親子も含めて)の信託が自由に活用できるようになった。杉谷さんが河合氏の勉強会で共感し、早くから研究に取り組み、事業承継で本を書いたり案件を受けてきた「相続・事業承継対策の切り札」だ。「民事信託といえばソレイユ」。そう言われるほど、民事信託の普及に先鞭をつけてきた杉谷さんに、民事信託とはどのようなものか説明してもらった。
「父の財産を『箱に入ったケーキ』に例えてみましょう。所有権は箱(名義)とケーキ(財産権)が一緒になった状態のもの。これを父から息子に渡すと箱とケーキの両方が渡ってしまいます。名義と財産権の両方が移転することになるため贈与となり、贈与税がかかります。
 信託とは、箱からケーキを出してあげること、つまり名義(箱)と財産権(ケーキ)を分けることです。ケーキを入れるための箱だけを息子に渡して、中身のケーキは父がそのまま持つ。税務署はケーキの持ち主は誰かという目線で見ているので、名義を変えても、父がケーキを持っていれば息子さんに贈与税はかからないし、ケーキを売ったらその売却代金は父のものになるんです。まずは『名義を元気な人に変えましょう』というのが民事信託の基本です」
 例えばアパートマンションの賃貸経営で、賃料未払いの人に「出ていってください」と弁護士経由で通達する場合。名義人である父親が認知症になってしまったために息子が代わりに管理をしていたとしても、父親が認知症だと責任能力を果たせないため「出ていってください」とは言えないし、訴訟も起こせない。だからこそ、名義人が元気なうちに信託で息子の名義にしておくことが肝心となる。
「法人に関しても、日本の中小企業は個人と会社がミックスされていて、個人の資産が会社に入っていたり、株価に反映されていることもある。そのため、社長と親族の仲が悪いまま社長が認知症になってしまうと、会社ごと潰れてしまったり、会社が巻き添えになってしまったりすることがとても多いんです。社長は遺言すら書いていないケースもあります。遺言を書くなんて縁起が悪いというイメージがあるのでしょうね。そんな事態を防ぐにはどうしたらいいんだろうと悩んでいたとき、信託に出会いました」
 ちなみに、遺言を書かずに親が亡くなると相続人全員の協議が必要で、「争」続になってしまう可能性が高くなる。
 これまで、相続や事業承継で本人の意思を表明するのに使われてきたのは遺言だった。では、遺言と信託とはどう違うのだろう。
「遺言は元気なうちに作っても、効果は自分が亡くなった時の1回だけです。でも信託は、元気なうちに組むと、その効果が100年位続きます。認知症になっても亡くなっても、その効果が途切れることはありません。2次相続、3次相続になっても対応できるのが信託です。不動産や自社株を直系の子どもから孫へ代々承継したいとき、遺言では一代限りの指定しかできませんが、信託ならさらに次の代へとご自分で決めることができるので、後を継ぐ方にとってとても安心できることになります。
 例えば、現金は嫁いだ娘にあげていいけれど、先祖代々続く土地だけは直系の息子、孫にずっと受け継いでほしい。あるいは会社の株は息子へ、息子が亡くなったらその弟に譲渡したいといったように、次から次へとつなげたい場合も、信託なら可能となるのです。
 そこが信託と遺言が大きく違うところです。自宅の不動産は息子が継いでも、息子に子どもがいなければ、不動産は配偶者である息子の奥さんに行きます。そこまではいいのですが、その後が問題で、次は奥さんの実家、奥さんの兄弟関係に行ってしまう。そうならないように、『また、うちの家系に戻して』というケースはとても多いのですが、現実には難しい。それも信託が可能にしてくれます。
 このように、信託の使い勝手があまりにもいいので、法人対象の事業承継にもぴったりだと思っています。これを使いながら、信託だけでは足りないときには会社法を駆使してハイブリッド事業承継対策をご提案しています」
 司法書士法人ソレイユでは、まず「家族信託チェックシート」で財産所有者や親族に関して細かい項目でチェックを行い、内容によって税理士、不動産会社、保健専門家といった専門家に聞き取りをしてもらう。1件1件完全にオーダーメイドではあるが、家族仲は良好か、子どもはいるのか、結婚はしているのか等、大枠でパターン化して、どこに落とし込むかを調査していく。
「例えば体調が悪くて病院に行ったとき、お医者様に『どうしましたか』とざっくり聞かれるよりも、『鼻水は出ますか?のどは痛いですか?』など具体例を出しながら聞かれたほうが『そういえばちょっと咳が出ます』など自分の状況を答えやすいと思います。それをイメージしてチェックシートを作りました」
 信託は契約でできるので、信託した財産を「相続」や「後見」から切り離すことができる。その効果を利用して、「家督相続」の問題や「争」続対策、事業承継などに対して、実に様々なアプローチができるようになる。
「まさに究極のサービス、誰もやれなかったサービスを極める」
 それが司法書士に課せられた使命ではないかと、杉谷さんは考えている。

信託をやるから法人成り

 杉谷さんが信託について「これだ!」と感じたとき、次に考えたのは「お客様とのお付き合いも長いスパンになるだろうな」ということだった。信託を始めても、もしも自分に何かあったら最後までフォローできない。そこで杉谷さんが考えたのが司法書士事務所の法人化だった。
「うちの事務所はスタッフが20〜50代まで揃っているので、私に何かあっても周囲の人たちが後を継いで背負ってくれます。そうすればお客様には迷惑はかかりません。ある意味、信託をやるために法人化しました。信託をやるなら法人でないとダメだと思ったんです」と、司法書士法人ソレイユ創設の背景を語る。
 現在は業務のうち9割以上が信託で、資産承継・事業承継対策メインの司法書士法人ソレイユだが、考えてみると実際信託をやっている専門家を他でほとんど見かけない。まして全面に信託を謳っている司法書士が見あたらないのはなぜだろう。
「司法書士のメインである登記業務はある種定型的で、登記ができればそこがゴールです。でも信託はご家族によって事情が全然違いますし、一つひとつオーダーメイドの難しさがある。登記の場合は書式に沿って100点満点の仕事をすればよいのですが、信託は満点というものがない仕事。あまりにもメインの手続業務と質が違いすぎるので『司法書士的にそんなことやっていいの?』と考える方が多い。定型化されていないって、難しいんです」
 現在、杉谷さんは信託を単体ではなく、任意後見、信託、遺言の3点セットで提案を行い、その後もずっとフォローする体制で相続対策、事業承継対策を練る。
「信託を組み出すと、本当に自分の思うようなプランが立てられるので、お客様も少しでも自分の理想に近づけたいと思うようになります。1回組んでみても『やっぱり、こんなこともできませんか』とご要望いただくこともあるので、なるべくいろいろな面で対応できるように知恵を絞っています」
 ただし、信託法自体が改正されてまだ10年ほど。脆弱な側面があることも否めない。 「今までの日本の法律は大陸法といって、決められたことしかやりませんというもの。でも信託法は英米法なので、かなり自由に決めておいて、揉めたら裁判で決めましょうという法律なんですね。ですから、今までの日本の法律とは少し性格が異なります」
 将来何が起きるかわからない。だからこそ、しっかりとフォローしなければいけない。杉谷さんはそう考えている。

オープンソースの「実家信託」

 12年前、杉谷さんが個人事務所を開業したのは父親のマンションでだった。その1室を借りてスタートして4年目、ちょうどバスケットに2人目の子どもを入れて出勤する頃、大学時代の友人が東京に転勤してきた。「どこに住んだらいいかな?」と相談を受けた杉谷さんは、「うちの隣町がいいよ。それで時々事務所を手伝って」という流れで事務方を引き受けてもらうことに。
「抱えている仕事の量によって『今日は大丈夫』、『今日は手伝いに来てくれる?』って気楽に頼んでいました。子どもがいると、熱を出したり学校行事があったり。毎日がっつり働くのはちょっと難しいという人もいるので、そういう働き方ができるのはいいですよね。こちらとしてもフルタイムで雇うとなると給与の支払いが大変だし、すごくゆるやかでした。それが今の社風にもつながっています」
 その友人は今、司法書士法人ソレイユの事務方トップとして、バックオフィスをしっかりと固めてくれている。法人化してからは現在チーフを務める女性司法書士に入ってもらい、そこから本格的に組織的採用をスタートする。1年後には本店を東京に移し、顧客対応窓口をさらに広げた。現在は、司法書士4名、試験合格者1名、行政書士試験合格者1名、事務職1名の総勢7名の陣容となっている。
 杉谷さん個人は、司法書士法人の代表を務めながら、銀行勤務時代に取った宅建(現:宅地建物取引士)の資格で不動産会社を営み、さらに一般社団法人全国信託支援協議会でも理事として活動する。 「全国信託支援協議会は、親が認知症になってしまい実家を売るに売れない、貸すに貸せないような凍結状態になるのを防ぐために、元公証人、弁護士、税理士、司法書士といったプロフェッショナルが集まり、そこを窓口として民事信託を受けたり、複雑な承継対策や事業承継対策を組んだりする組織です。実家の問題を防ぐための民事信託を提供しています」
 窓口を広げていきたいけれど、杉谷さんと少数の仲間だけではパンクしてしまう。 「実家がかかわる信託となると何百万もの世帯が対象です。あまりに膨大すぎて、とてもうちだけでは対応しきれません。何とか日本全国の実家を空き家にさせないために、他にも民事信託をやってくれる専門家が増えてほしいと思い本を書き、私が知っている限りをすべて詰め込みました。登記の仕方、契約書の書き方など、民事信託のノウハウをすべてオープンにした『空き家にさせない!「実家信託」』(日本法令)を読めば誰でも実家信託ができるようにしたんです」
 これは、わざわざ自分の専門知識を同業者に教えて「真似してください」と頼むようなものだ。今後も事業承継・実家承継対策を軸に据えていく杉谷さんがそこまでしたのは、ひとつ危惧していることがあるからだ。それは、本格的に信託需要が増える、現在65〜75歳の団塊の世代の5年後、10年後が近いからだ。そこから一気に認知症による財産凍結が増えたら大変な事態になってしまうのではと考えている。
「認知症は、自宅の中での転倒や骨折、あるいは風邪や病気をきっかけにわずか1週間で発症してしまうこともあるんです。85歳以上の4人に1人が自宅で転倒しているというデータもあります。また厚生労働省が発表している健康寿命は、男性が70歳、女性は73歳である一方、女性の平均寿命は86歳。健康寿命を超えて、日常生活に制限のある期間が10年以上もある。既に団塊の世代がその時代に突入し始めているということは、この間に実家信託を広げて、1軒でも多く実家の凍結を防がなければ日本は空家だらけになってしまうということです。実家を売って親の介護費用にあてようにも、親が認知症だとそのままでは売ることができません。だからこそ、事前に積極的な対策を講じる方法を、1人でも多くの専門家に伝えたいと考えました」
 司法書士法人ソレイユを拡大して爆発的に増えるであろう需要にすべて応える。そんなレベルの話ではない。とにかく今は、いかに信託の受け皿を広げるか。それが使命だと、杉谷さんは考えている。

めざすは「日本一働きたい司法書士法人」

 杉谷さんはプロフェッショナルとして大きな使命を担いつつ、プライベートでは士業をめざしたとき憧れだった平日休みも実現している。
「メリハリをつければ平日も休めます。特に子どもが小さい時期、親についてくる時期は限られているので、そこは大切にしなきゃ」と、笑顔を見せる。
「資格を取って本当によかったと思っています。2人目の子どもを産めたし、自営業なので仕事を調整すれば時間を作れるから、しっかりと子どもと向き合って育てられました。しかも夫がきちんと稼いでくれているので生活には困らない。
 私が司法書士の資格を取ったことで、夫も刺激を受けて弁理士になって。自由を満喫できているので『もう戻れないね』って2人で言ってます(笑)」
 バスケットに入れて事務所や裁判所に連れて行っていた赤ちゃんも、今は中学2年生になった。
「家族の仲もいいし、子どもはすくすくと良い子に育ってくれています。子どもはだいぶ手が離れたけれど、まだまだ思春期。やっぱり私は家族中心なんです。休日、家で仕事していても気持ちは家族中心(笑)」
 自らの人生を振り返って、杉谷さんは資格の大切さを思う。
「資格を取ったからといってすぐに食べていけるわけでないので、あとはいかに独自性を出していけるかですね。今の若い人は安定志向で、就職に有利とか、売り手市場だから資格なんていいやって思うかもしれない。
 でも、やはり女性は会社に入っても、子どもが熱を出したら保育園に迎えに行かなきゃならないじゃないですか。私、今でも夢を見るんですよ、保育園から呼び出しの電話がかかってくる夢を。体制がすごく整っている職場だったのに、それでも気持ち的に大きなプレッシャーだったんですね。
 司法書士法人ソレイユで働くのは女性ばかり。皆それぞれ子育てや介護と両立しながら仕事をしています。勤務時間は朝9時〜夕方5時で残業はナシ。一般的には1日8時間勤務が普通ですが、うちは7時間勤務にしました。これは徹底しています。その分毎月のお給料は少なくなりますが、利益が出たら、ボーナスとしてみんなで分ければいい。朝9時からアクセル全開で仕事をしていると、夕方5時にはヘトヘトなんですよ。だから残業するよりも、その分早く帰ってご飯を作ったり、子どもの面倒をみたり、ゆっくり休んだり。そういう働き方のほうが、女性には合うと思っています。
 法人内ではもうお互い様だし、それぞれの事情もわかっているので『お互いが助け合う形の組織なんだよ』と言っています。そんな、日本一働きたい司法書士事務所にしたい。それが目標です」
 仕事と家庭の両立をめざして頑張っている働く女性に、肩の力を抜いて働く、働きやすさを提案する杉谷さん。秘訣は家庭内での家事分担にもあるようだ。
「やはりワークシェアリングですね。私は夫に家事分担を提案しました。夫の担当は朝晩の食事の片づけ、洗濯物干し。準備は私で、片づけるのは夫。部屋の掃除も夫です。朝、掃除機をかけてから夫は出かけます。娘に勉強を教えるのも夫。結局、私は洗濯機を回すのとご飯作るぐらいかな(笑)。
 結婚したての頃って、張り切って女性が何でも家事をやっちゃうじゃないですか。でも今は結婚しても仕事を続ける女性が多いでしょう。それなら結婚する前から分担を決めておいたほうがいい。最初から決めておけば、その後子どもができてもずっとその分担でいけるんです。いざ忙しくなってから夫に頼んでも『今までは全部やってくれてたのに、何で?』ってなっちゃうから、初めが肝心ですよ(笑)。
 うちのスタッフにも、ご主人がとても協力的で夕食の支度をしてくれる家庭があります。女性ばかりに家事や子育ての負担が来ちゃうと、仕事ができる人ほど頑張ってしまって、ぎりぎりまで我慢して、ある日突然『もうできない!』ってなっちゃう。だから初めからワークシェアリング。文句は言っちゃダメですよ、ありがとうって言いながらね(笑)」
「夫が稼いで妻は専業主婦」が「普通」だった団塊の世代。でも、今は夫婦で稼いでクオリティ・オブ・ライフを上げる時代だ。
「女性だってずっと家にいてもつまらないし、もったいないでしょ。能力の高い女性を使わないなんて社会的損失ですよ」と、杉谷さんは加える。「主婦司法書士」は、自由に、しなやかに、仕事も家庭も楽しんでいる。


[TACNEWS|日本の司法書士|2018年8月号]

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