特集
企業内で資格を活かす
~SaaSベンチャーで活躍する会計人~
深堀 宗敏(ふかほり むねとし)氏
アルプ株式会社
プロダクトマネージャー
公認会計士 税理士
1985年生まれ、長崎県出身。慶應義塾大学経済学部卒業。2008年、公認会計士試験合格。同年、PwC税理士法人に入社(~2016年3月)。2012年、公認会計士登録。2015年、税理士登録。2016年3月、株式会社マネーフォワード入社(~2021年7月)、2021年7月、アルプ株式会社入社。プロダクトマネージャーとして『Scalebase(スケールベース)』の開発に携わっている。
公認会計士や税理士が企業に勤務する場合、多くは経理や財務など会計関係の部署で活躍するケースが一般的だ。しかし現在、アルプ株式会社に勤務する公認会計士・税理士の深堀宗敏氏が担っている職種は「プロダクトマネージャー」。プロダクトの企画・開発・提供など全般に携わりながらプロダクトの成長をめざす職種であり、会計とは関係性の薄い仕事内容に思える。ベンチャー企業でプロダクトマネージャーを務める深堀氏に、資格取得の経緯、合格後の歩み、公認会計士・税理士が企業内でどのように資格を活かせるのか、そして士業の専門分野以外への挑戦のおもしろさについてうかがった。
「サブスクビジネス」の課題を解決する『Scalebase(スケールベース)』
──深堀さんは公認会計士・税理士でありながら、企業内でプロダクトマネージャーとして活躍しています。まずは勤務先のアルプ株式会社について、教えてください。
深堀 アルプ株式会社はサブスクリプションビジネスの効率化・収益最大化プラットフォーム『Scalebase(スケールベース)』を開発・提供・運用している、2018年8月創業のベンチャー企業です。創業メンバーは外資系コンサルティング会社出身の代表取締役・伊藤浩樹と、事業戦略に強いメンバー、そしてエンジニアの3名です。最小限の人数でありながら、各々が強みを発揮し事業を動かせるメンバーが揃っての創業でした。
ただ、最初から『Scalebase』の開発を行っていたわけではありません。何か社会の課題解決になることはないかと、伊藤が知り合いのベンチャー企業100社くらいにヒアリングした結果、サブスクリプションビジネスの継続課金に課題を持っている企業が多いことがわかり、そこから『Scalebase』の開発に進みました。
──具体的にどのような課題があったのでしょうか。
深堀 「サブスクリプション(以下、サブスク)」は、パッケージソフトを購入して買い切りで利用してもらうのではなく、毎月や毎年、継続的に料金を支払ってソフトウェアやアプリケーションなどを利用してもらうビジネスモデルです。毎月継続的に売上が立つのでビジネスとしては安定しますが、一方で、自動的な契約更新により取引が継続的に行われると管理面が非常に複雑になるという課題がありました。契約更新申込が完了した日時や契約プランの変更といった顧客情報が見えにくいので、請求書を発行するタイミングや請求書に記載する契約内容などを確認するための手間がかかっていたのです。
──『Scalebase』はそうした課題を解決すべく開発されたのですね。
深堀 はい。契約情報を正しく管理し、サブスクビジネスをサポートする販売・請求管理システムとして開発されました。顧客ごとに異なる契約条件を柔軟に設定できると同時に、複雑化しがちな請求業務を誤りなくスムーズに行えます。
請求のオペレーションコストを削減し、ビジネスの自由度向上による収益最大化を実現できるサービスで、現在100社を超えるサブスクビジネス事業者にご利用いただいています。
お客様の困りごとを、機能開発でどのように解決するか
──深堀さんはプロダクトマネージャーとして、どのような業務を担当されているのですか。
深堀 サブスクビジネスを提供しているお客様の困りごとを解決するために、今はまず請求業務をいかに効率化するかに注力しています。お客様の課題も「何となく困っている」では漠然とし過ぎていて、何を解決すればいいのか、どのようなサービスを提供すればいいのかが見えてきません。いつもどの部分でお困りなのかをお客様の業務内容に合わせてヒアリングしてより細かく噛み砕き、その課題を機能化するための企画書を作成します。
また、実際に開発する中ででき上がってくるプロダクトが、こちらの意図が完全に反映されたものになっているのかどうか、繰り返しチェックを行います。「受け入れ検証」という工程になりますが、開発チームと一緒に行っています。
──お客様が抱える課題というのはそれぞれ個別のもので、共通した課題を見つけて機能に落とし込むのはなかなか大変かと思うのですがいかがでしょうか。
深堀 そこが難しいところですね。お客様に課題をお聞きするとどうしても個別具体的な話になります。ただ、お客様ごとの業務を比べたとき、その背景にはやはり「法律」や「会計基準」といった共通のルールがあり、その上でお客様ごとのビジネス事情に沿って、個別の課題が出てきます。そこで、大元になる悩みが何かを集めた上で抽象化し、課題に対する「明確な答え」というよりは「こういった方向性で解決できませんか」と探りにいくことで落としどころを見つけていきます。
──やりごたえのありそうな仕事ですね。当初からプロダクトマネージャーとして入社されたのですか。
深堀 はい。プロダクトマネージャーとして、今お話ししたような業務をしてほしいと言われました。
また、私が入社したもうひとつの理由として、社内にある程度会計に詳しいメンバーが必要だったという背景もあります。創業メンバーの中にはバックオフィス業務の経験者や会計知識を持ったメンバーがいませんでした。『Scalebase』には取引の記録・管理・請求書の発行などの経理業務に役立つ機能が付随されていますが、さらに財務諸表の作成など広く会計業務のサポートをしてほしいというお客様からの声もあったため、顧客ニーズに応えるためにも会社として会計知識を持った人材を求めていたのです。
現状『Scalebase』の機能自体は経理業務の範囲にとどまっていますが、私はその範囲を越えて、コンサルティングに近い形で広く会計業務のサポートを行っています。お客様から「こんな会計データがほしい」と言われれば、『Scalebase』に蓄積されているデータをもとに資料を作成してご提供しています。
当社はできたばかりのベンチャー企業ですので、お客様が困っていることに対して細切れでもいいので対応していき、徐々に一番大きな課題解決につなげていくことが大切だと考えています。
エンジニアから「邪魔になるから何もしないで」と言われた過去
──1つ前の勤務先である株式会社マネーフォワードにいた頃から、プロダクトマネージャーをされているのですか。
深堀 そうですね。ただ、マネーフォワードに入社した当時はまだプロダクトマネージャーという職種や考え方がない時代でした。募集職種も開発職と営業職しかなかったですね。私はもともと税理士法人に勤務していて、会計事務所側の気持ちがわかるので、会計事務所向けの営業の仕事で役に立てるのではと思い、営業職で応募しました。ただ同時に、プロダクトを開発する上で、お客様のニーズと自分の意見をシステムに反映できたらおもしろそうだとも考えていました。そこで面接の際に「営業職で応募してはいるが、作り手である開発職と売り手である営業職の間に入るようなポジションをやってみたい」という話をしました。営業職の人たちがお客様とのやりとりを通じて得られるいろいろなご意見や情報を開発部門に伝えるときに、うまく伝わらなくて困ることもあるのではないかと思ったので、提案したみたわけです。
──その提案はどうなりましたか。
深堀 無事採用され、応募した営業職ではなく、初めから開発部門のプロダクトマネージャーとして入社しました。そしてもう少し経営者寄りの立場でプロダクトに携わるプロダクトオーナーとしての仕事も含め、いろいろな業務に携わっているうちに、世の中にこれらの職種が浸透してきましたね。
──おひとりでプロダクトマネージャーをしていたのですか。
深堀 プロダクトマネジメントチームの4名で役割分担していました。プロダクトがよくなることであれば何でもすべてやるのがプロダクトマネージャーですが、開発もできて、お客様の声を聞けて、マーケットのニーズもつかめて、と全部を完璧にできる人はいません。そこは分担していました。
──具体的にはどのような業務を担当されたのですか。
深堀 入社当初は開発の流れをまったく理解していなかったので、いろいろと学びながら仕事をしていましたね。最初は、クラウド会計ソフト利用者からの問い合わせ対応のサポートをしました。サポートセンターには問い合わせに対応するマニュアルはあるのですが、中にはマニュアルだけでは答えられない質問を受けることもあります。例えば「この表示は会社法上おかしくないか」と聞かれても、サポートセンターでは答えられません。そうした質問については、それがそのお客様固有の事情によるものなのか、それともシステムとして足りていない部分なのかを私が判断して、回答のテンプレートを作成しました。また、例えば仕訳について「こういうケースではどう仕訳を作ればいいのか」という経理実務的な問い合わせをいただくこともあります。従来のテンプレートでは一律で「お答えできません」といった回答をすることになっていたのですが、もしその問い合わせの内容がよくある内容だとしたら、そのような対応ではクレームにつながりかねません。そこで、こういった回答に会計知識や現場経験が必要な問い合わせに対しては、「当社ではこのやり方をお伝えしています」と大枠をご案内するテンプレートを作成することで、サポートの質を上げていきました。
──当初は開発の流れをまったく理解していなかったということですが、開発部門に対してはどのようにアプローチされたのですか。
深堀 実は開発のメンバーとは最初はまったくコミュニケーションが取れませんでした。「いろいろ手を出されると邪魔になるから、何もしなくていいですよ」と言われたり、スケジュールを聞いても「深堀さんに伝えても何も解決しないので言わないです」と返されたりもしました。本当に忙しかったので、邪魔しないでほしかったのでしょうね。
──確かに開発については門外漢ですが、かなりストレートに言われましたね。
深堀 そうですね(笑)。でもいじけても仕方ないので、自分自身の足りない部分を埋めるために何か武器を探そうと思い、SQL(リレーショナルデータベースに蓄積したデータを操作したり定義したりするためのプログラム言語)を学びました。自社サービスの中に保存されているデータベースから必要なデータを抜き出して、お客様のサービス使用状況を分析するためです。例えば勘定科目を新規に作成している数や、仕訳でよく使われる勘定科目などについて、自分で分析してみました。そしてお客様の定性的な声と定量的な情報を集めて、「お客様はこういう機能を求めているはずだ」という案を論理的に提示するようにしました。するとエンジニアも徐々に歩み寄ってくれて、質問されることも増え、だんだんとお互いにやりやすくなりました。
独立開業が頭をよぎるもベンチャー企業へ
──マネーフォワードの前はPwC税理士法人に勤務されていましたが、公認会計士試験に合格したあと、なぜ監査法人ではなく税理士法人に入られたのですか。
深堀 公認会計士(以下、会計士)の資格を取得しましたが、実は初めからやりたい仕事のイメージとしては会計士というよりも税理士寄りだったのです。実家が小売業なので顧問税理士がいて、親からも「税理士はいい仕事だ」と聞いていましたから、もともと税理士にはなじみがあったということも影響していると思います。当時、大手の中で会計士試験合格者を採用していたのはPwC税理士法人だけでしたので、そこに就職しました。
──PwC税理士法人ではどのような業務を担当されたのですか。
深堀 事業承継と相続対策の部署にいました。クライアントは未上場の大企業の社長が多く、社長の資産対策会社を作って相続対策をしたり、相続対策をするためには社長の会社の事業内容を把握する必要があるので、会社の顧問になったりもしていました。
もちろん若手時代は申告業務を行ったり、他部署のヘルプで海外の案件に関わったり、デューデリジェンスを行ったりもしましたが、メインは事業承継と相続対策でした。退職前にはマネージャーになっていました。
──税理士法人時代、独立開業は考えなかったのですか。
深堀 自分としては税理士法人のパートナー(役員)までめざしたいと考えていました。独立開業もいいかもしれないと思った時期もありますが、開業したらまた違う悩みが生まれるかもしれないし、見えないことが多いと感じたのでそこまでは踏み出せませんでしたね。
──その後、マネーフォワードに転職しますが、一般企業、それもベンチャー企業に転職した理由を教えてください。
深堀 税理士法人では、お客様の立場になっていろいろなアドバイスをしてきましたが、メインはどうしても節税の話になります。何百億円もの相続税をゼロにするケースも見てきました。経営者の節税は大切なことですし、法律と会計を組み合わせて、そこからある種のバグを見つけて評価を下げて納税額を下げるおもしろみもあります。
ただ、次第にお客様の「ビジネスそのもの」をもっと理解したいと思うようになったのです。節税の話が出るということは、その会社は収益が上がっているわけです。「このお客様は一体どうやって収益を上げているのか」ということをきちんと知りたくなりました。
よく、資格取得のメリットとして「仕事の選択肢が広がる」と言われますが、「資格を取得した人は進む道が決まっていて、逆にキャリアの選択肢を狭めてしまうんじゃないか」と、ふと思うときがありました。税理士資格を持っているからと言って税務だけを仕事にしなくてもいいはずだ。ビジネスがわからないままでなく、ビジネスをどうやって作っているのか知りたい。そう思ったのです。
転職当時のマネーフォワードはまだ未上場のベンチャー企業でしたし、会計の専門知識を持っている人もほとんどいないだろうから、会計士試験と税理士法人での経験から培われた自分の知識は役立つはずだと思って応募しました。
──マネーフォワードに5年半勤務した後、現在勤務しているアルプ株式会社に転職されましたが、その理由を教えてください。
深堀 マネーフォワードは会計ソフトを提供しています。会計ソフトは領収書や請求書などを仕訳し、売上や現金などある程度カテゴライズされた名前に変えて金額に落とし込みます。そこから派生するサービスとして、仕訳からそのお客様の信用力を調査できるような経営分析システムを考える方も多いのですが、会計ソフトの処理によって情報が加工されてしまうため、経営分析にはあまり向かないのです。加工される前のリッチな情報を取得して分析し、信頼度の高い分析や与信情報を出すことができないものかと思っていた頃に、アルプ代表の伊藤に声をかけられたのです。話を聞くと、サブスクの販売管理サービスを作っているということで、自分が欲しかった「売上の根拠」になる情報を一手に管理するSaaSを手がけていることがわかりました。
──やりたかったことが実現できるという考えから転職を決断したのでしょうか。
深堀 そうですね。ただ、即決したわけではありませんでした。マネーフォワードで働く中で知ったのは、システム化が非常に遅れてしまっている会計事務所の現状でした。ですから当時は、独立して会計事務所のシステム化支援のアドバイスやコンサルティングをするのもいいかなとも考えていたのです。でも、大きなことにひとりきりで取り組むのは難しいし、ましてサービス開発までやろうと考えると、とても自分だけでできることではない。事業会社に入ったほうがいろいろなチャレンジができるだろうと思い、転職を決断しました。
「お前は会社勤めには向いていない」資格取得は両親の勧め
── 改めてお聞きしますが、深堀さんはどのような理由で会計士・税理士をめざしたのですか。
深堀 実は最初は消極的な理由なのです。私は3兄弟の末っ子で、子どもの頃はけっこう自由気ままに過ごしていました。そんな私を見ていた親からは、「お前は会社勤めには向いていないから、資格を取得して手に職をつけたほうがいい」と常々言われていました。
そして高校生のときに資格を取得するなら何がいいだろうかと検討していた際、医師か弁護士か官僚はどうかという話になりました。でも、血を見るのが怖いから医師は無理、弁護士も、手掛ける事件によっては襲われることがあるからやめよう、官僚も大変そうだから……となったときに会計士を知り、会計周りで困っている人を助けられる仕事はおもしろそうだと感じたのです。そして会計系資格には様々な種類がある中で、当時の試験制度等を踏まえて、比較的時間に余裕のある学生の間に短期間で集中して勉強できそうな会計士の受験をめざすことにしました。会計士資格を取得すれば税理士資格も取得できるということも決め手になりましたね。
──資格を取得したのはご両親からの勧めがきっかけだったのですね。
深堀 直接のきっかけは親の勧めですね。ただ振り返ってみれば、この資格を選んだ納得できる理由もありました。それは先にお話ししたように、親が小売業をやっていて、顧問税理士がいて、税理士になじみがあったことが大きいと思います。
──会計士受験はどのように進めましたか。
深堀 受験勉強を始めたのは大学2年からです。ただ中学・高校の6年間は愛媛県の一貫校で寮生活をしていたため、大学に入ったときは「なんて自由なんだろう!」と感じました。思い切り羽を伸ばしてしまったのです(笑)。大学2年でいざ受験勉強を始めるときに「さあ切り換えるぞ」と思ったのですがなかなかうまくいかず、実際にエンジンがかかったのは周囲が就職活動に力を入れている大学3年の終わり頃でした。結果的には大学を卒業した2008年の会計士試験に合格しました。
──会計士登録はPwC時代だと思いますが、税理士登録はいつ行いましたか。
深堀 当初PwCでは、一定の職種以上にならないと税理士登録できないという法人内での決まりがありました。ただ、あるときから登録できる人は全員登録してよいことになったので、2015年に勤務税理士として登録しました。
──現在も税理士登録はされているのですね。
深堀 マネーフォワードに転職するときに、もう登録更新はしなくてもいいかなと思ったのですが、将来的に再登録する際の手続きが大変そうなので、自宅開業の独立税理士になりました。
──現在も税理士業務は行っているのでしょうか。
深堀 マイペースに続けています。知人から頼られることもあるので、個別で税務相談に対応したり、申告を行ったりしています。実家の小売業の顧問も行っていますね。今はクラウド会計で仕事ができますので、お客様との物理的距離は問題になりません。事務の方とLINEで打ち合わせをして進めるなどしています。
税制の改正も、情報の見方が大きく変化
──企業勤務となってから6年半以上経ちますが、税理士としての知識や勘は衰えたりしないものですか。
深堀 知識と現場感が少しずつ落ちてきているなと感じることはあります。周りに税理士仲間がいない場所で働くということは、誰かにレビューを受ける機会がなくなるということです。申告書作成で気にするべき勘所を意識するなど試行錯誤をしつつ、去年と照らし合わせて正しいかどうか確認しながらやりますが、不安になるときもありますね。
──税理士法人勤務と一般企業勤務との違いはどのような点でしょうか。
深堀 例えば税制改正を見た場合、税理士法人時代は「このお客様に対してこういう節税対策にまとめて提案しよう」と考えていましたが、開発側の立場に変わったことで、「これだけの改正になるとシステムに大きく影響が出そうだな」と、見方がまったく変わりました。自分のアンテナが向く情報の種類も大きく変わりましたね。
2023年10月からスタートするインボイス制度を例にとってお話しすると、税理士として企業の顧問をしているなら「一緒にサポートするので大丈夫です。イレギュラーなこと含めて御社に合った方法を考えましょう」という視点になります。
これがシステム開発の場合はインボイス制度ありきで考えますから、「今までの業務がどう変わるのか、個別の会社ごとにでなく、会社の規模ごとに起きることやそれぞれの会社のどういう業務に影響するか、そのためどういう大きな課題が新たに起きるか」といったことを広く考えなければなりません。例えば課税事業者が免税事業者と取引した場合の情報のやりとりをどうするかなど、綿密に考えてシステムに反映していく必要があります。ですから考え方そのものがかなり違ってきていますね。
──目線が大きく変わってくるわけですね。
深堀 そうですね。税理士法人と一般企業の違いは他にもあります。PwC時代は申告書はひとりでゼロから情報を集めて作成していましたし、提案資料もある程度まではひとりで作って、上司にレビューしてもらうという感じでしたから、個人プレーの比率が高かったと思います。
一方で開発の仕事は、特徴が異なるメンバーが集まって進めます。エンジニアや、私のようなプロダクトマネージャー、セールスのメンバーなど、役割の違う関係者が複数関わるチームプレーになりますから、この点が大きく違います。
期間で見ると、税理士には申告書の提出など法的期限がありますが、開発の場合は自分たちが決めた期限になります。開発はスタートから終わりまで長期間にわたりますから、そこをいかにコントロールするかが重要になってきます。
──勤務時の服装もずいぶん変わりましたよね。
深堀 本当に変わりました。税理士法人では100%スーツ姿でしたが、今は服装は自由で、短パンでも出社できます。成果を出せば何でもいいよ、という感じです。お客様もベンチャー企業が多いので、先方の経理の方もTシャツ姿だったりします。今ではこれが当たり前になりましたが、最初はすごく違和感がありましたね。「こんな格好で会社に行っていいんだろうか、休日でもないのに……」と(笑)。
会計周り以外にチャレンジしたほうが絶対におもしろい
──今後についてはどうお考えですか。
深堀 開発面では、売上周りの情報を分析して、そこから見つけ出した課題を世の中に価値ある形で出したいと考えています。個人としては10年後に自分が何をしているかはちょっとわかりません。このままかもしれないし、別の道に進んでいるかもしれない。ただ、まったく関係ないように見えることでも必ず何かに活きてくると思うので、そのときに取り組めることを全力でやることにしています。
──会計士や税理士が一般企業に勤務する場合、財務や経理関係の仕事に就く方が多いと思います。深堀さんのように会計周り以外の仕事にチャレンジすることはおすすめできますか。
深堀 チャレンジしてみたほうが絶対におもしろいと思います。事業会社にいる会計士の方と話すと、会計をベースにいろいろな事業展開を考えている方が多いので、会計士や税理士実務で得た知識の幅は武器になると思います。
ただ、私が経験したように「何もしなくていい」と言われるようなこともあるかもしれません。そこでへこたれずに乗り越える覚悟が必要な場合もあるでしょう。それを差し引いてもぜひ飛び込んでください。もしその道がダメでも、資格が味方になります。元の業界に戻ることも、独立開業もできますから。
──最後に、資格取得にチャレンジしている方々にメッセージをお願いします。
深堀 資格取得のための勉強は、ものすごく大事だと思っています。俯瞰して考えるなら、本当に大事なのは実務なのですが、その実務をやるための土台には資格が必要です。国から提供されている、みんなが必要とする情報や知識が集約されているのが資格です。受験しようと決めたのならとことん勉強をやり切って合格して、実務に進んでほしい。そうして実務経験を積んだ上で、さらに新しいチャレンジを考えると、一気に世界が広がると思います。
資格を取得してからは、「視野を広げる」「世界は広げられる」という観点を持って、がんばっていただきたいと思います。応援しています。
[『TACNEWS』 2022年12月号|特集 ]