LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #53
山本 晃佑(やまもと こうすけ)氏
Admotto会計事務所 代表
公認会計士 税理士
1994年大阪府柏原市生まれ。大学卒業後、EY新日本有限責任監査法人で東証一部上場企業の会計監査・内部統制監査、IPO監査等に従事。その後、大手M&A仲介会社を経て、2022年に東京都渋谷区で税理士登録後、Admotto会計事務所を開業。税務顧問のほか、IPO支援、M&Aサポート、バックオフィス支援サービスなどを提供している。
【山本氏の経歴】
2014年 19歳 関西学院大学法学部に入学。
日商簿記検定2級に合格したことをきっかけに、公認会計士を志す。
2015年 20歳 大学生活の傍らTACに通い、公認会計士試験合格をめざす。
2017年 22歳 5月の短答式試験に合格するも、その年の論文式試験での合格は叶わず。
2018年 23歳 大学卒業後には、EY新日本有限責任監査法人に監査トレーニー職として就職。業務を覚える傍ら、受験勉強に追い込みをかけ、論文式試験に合格。
2022年 28歳 修了考査を終え公認会計士登録を果たしたあと、M&A仲介会社に転職。半年後に税理士登録し独立開業。「フッ軽」を信条に活躍の場を広げる。
常に先を見据えて努力を重ねる。
公認会計士・税理士資格を手に自由な生き方をめざす挑戦者。
大学卒業後、大手監査法人のEY新日本有限責任監査法人に就職。その後M&A仲介会社を経て税理士登録し、若くして独立を果たした山本氏。順風満帆に見える人生だが、大学進学で一年浪人、公認会計士試験では短答式試験と論文式試験に一度ずつ失敗するなど、決してまっすぐな一本道を歩んできたわけではなかったという。つまずくことがあっても強い意志と確かな足取りで一歩ずつ前へ進み、自分らしい生き方を叶えてきた山本氏に、資格取得をめざした経緯や現在の仕事についてうかがった。
大学進学をきっかけに資格を持って働くことをめざす
大阪府柏原市に生まれ、小学校から高校まで野球に打ち込んだ山本氏。監査法人就職後に社内で社会人チームを結成したほどの野球好きだ。そんな山本氏が資格に興味を持ったのは高校生のとき、大学進学を前にこれからの生き方を考え始めたタイミングだった。
「まず一番に、自由な生き方がしたいと思ったんです。自分の力で道を切り拓いていくには、専門性を身につけることが欠かせません。自分の市場価値を明確にし、どこでも活躍できる人材になるために、資格取得が必要だと考えました」
具体的な進路は決めていなかったが、一年浪人し関西学院大学法学部に入学。資格取得の手始めにと1年生で宅地建物取引士(宅建士)試験を受けたが、結果は不合格。次は法律以外の分野に挑戦しようと日商簿記検定2級を受験し、見事合格した。
「このときの勉強が楽しかったことから、会計は自分に向いていると気づいたんです。また、往々にして優れた経営者には会計に秀でたNO.2が伴走し、トップの理想を現実的な戦略に落とし込んでいます。野球部でも副キャプテンを務めていた経験があったので、経営者の片腕として経営をサポートする役割である公認会計士(以下、会計士)こそ、自分がめざす姿なのではと考えました」
不安の中で受験を決意。1日10時間の勉強を続ける
「会計士になる」という選択肢を見つけた山本氏だが、本当にめざすかどうかは非常に悩んだという。すでに大学受験で一度失敗していることや、難易度の高さ、勉強にかかる費用など、不安要素は満載だった。
「何ヵ月か悩んだのですが、不安から逃げて後悔したくないという思いで会計士試験にチャレンジすることを決意しました。2年生の夏からTACのコースを受講。大学の授業のない日や週末は朝の9時から夜の7時までTACで勉強しました。
試験勉強を続ける上で気をつけていたことのひとつは、常に次のスケジュールを立てておくことです。就寝前には1日を振り返り、できなかったことを次の日の予定に組み込みます。TACへの通学時間を使ってスケジュールを立て、その日勉強する内容を決めていました。
もうひとつはモチベーションを高めることです。監査法人が主催するイベントに参加して先輩会計士の話を聞いたり、将来活躍している自分の姿を想像したりして、未来の明るいイメージを思い浮かべました。でもどうしても勉強に疲れてしまったときは、銭湯で息抜き。休むときはこれまでのふり返りや向こう1週間の予定を立てる時間だと決めて休み、ダラダラ過ごさないよう気をつけていました」
大学3年生の12月に受験した短答式試験には残念ながら不合格だったものの、努力を続け翌年5月には第一関門を突破することができた。
独立を視野に入れ「自分にしかできない」仕事を模索
大学4年生の8月に受験した論文式試験は不合格だったが、資格取得をめざしながら働く「監査トレーニー職」としてEY新日本有限責任監査法人(以下、EY)の内定を獲得。入社後は働きながら背水の陣で論文式試験に臨み、見事合格した。
「EYでは、主に上場企業や上場準備企業の準金商法監査などを経験しました。優秀なスタッフが多く、将来の目標にしたいと思える先輩に何人も巡り合うことができたのは、私にとって大きな財産になりましたね。特に採用面接をしてくださったパートナーの方は、独立したあとも私のことを気にかけ、励ましてくださいました。地位も経験もある先輩が『お互いがんばろう』とひとりの会計士として対等に扱ってくださったことは、本当にうれしかったですね」
順調にEYでのキャリアを重ねた山本氏だったが、修了考査を終え無事に会計士登録を果たした3年目に、M&A仲介会社への転職を決断。「自分にしかできないことでお客様に感謝される仕事がしたい」。そんな自身の目標と、事業継承に問題を抱える企業をサポートし、会社とその従業員を守るM&A仲介の仕事がマッチしていると感じたのだという。
「M&A仲介会社では、地道な営業活動も経験しました。元証券会社や銀行のトップセールスマンだった人たちに囲まれながら働くことは、とても刺激的な経験でしたね。しかし働くうちに、もっと中長期的にお客様に関わっていく仕事がしたいという思いが強くなり、約半年で退職。税理士登録を経て独立開業しました」
「フッ軽」が信条!独立後も躍進を続ける
2022年にAdmotto(アドモット)会計事務所を開業した山本氏。現在は飲食系やスタートアップ企業を中心に、ITや人材サービスなど幅広い業界のサポートをしている。特に同年代の若い経営者から「感覚が近く、相談しやすい。会社の成長に伴走してくれる存在」と絶大な信頼を集める。「上場をめざす」「信頼を高める」など、会社を成長させていく過程では会計管理のノウハウが必要となる。会計士と税理士の2つの顔を使って、そういったニーズに細やかな提案で応えていくのだという。
「開業当初はお客様を紹介してもらうため、経営者層にも顔の広い保険の営業マン100人と会うことを目標にするなど、とにかく営業活動に注力していました。他にも不動産の営業マンから紹介を受けたり、オーダースーツメーカーでインターンをしている知り合いの大学生にお客様を紹介してもらったりと、あらゆる手を使いましたね。あとは社会保険労務士の先生など、ご縁のある他士業の方にお声がけするなど、ひたすら足を使っていました。お客様に対してもですが、私はとにかくフットワークの軽さが信条。自分ひとりでは対応できないご相談であっても、信頼できる他の専門家を当たってご紹介するなど、簡単に『できません』とは言わないようにしています。また、ただご相談を待つのではなく、お客様が必要としていることを先回りして考え、こちらからご提案することも大切にしていますね。問題が顕在化する前に先手を打つことで、よりお客様にとって必要とされる存在になりたいんです」
一日一日、全力投球 昨日の努力を無駄にしない
事務所名の「Admotto(アドモット)」は「Advance(前進する)」と「もっと」を掛け合わせた造語で、「常に上をめざしていこう」という思いを込めた名前なのだという。
「自己成長しながら、事務所としても前進し続けたいですね。今後は事務所の規模を拡大し、会計士がやりがいを持って働ける場所を作りたいと考えています。1年後の結果は、今の自分が精一杯やったのか、それともほどほどにやったのかで大きく変わるもの。資格の勉強をしていたときも、『今日さぼってしまうことで昨日までの自分の努力を台無しにしたくない』と思いながら日々机に向かっていました。今を一生懸命生きることは、結果的に自分を大切にすることにつながる。努力はひとつも無駄にはならないと思っています」
最後に、資格取得を考えている人や独立をめざす人へのアドバイスをうかがった。
「資格を取ることがゴールにならないよう、資格を活かして何をしたいのか、どこで働きたいのかという初心を大切にしてください。努力が実り会計士の世界に入ることができれば、同じ壁を乗り越えた多くの仲間がサポートしてくれるでしょう。
監査法人に入れば、監査だけでなく、アドバイザリー職など企業の経営戦略支援に携わることもできます。選べる選択肢は多いですから、今はやりたい仕事がはっきり決まっていなくてもいいと思いますよ。また、その場その場での繋がりを大切にしていれば、お客様や仕事を紹介してもらえることも多く、独立した場合も自分を支えてくれます。いただいたご縁を大切に、自分らしく生きるための道を選んでください」
[『TACNEWS』 2023年9月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]