LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #48

  
Profile

森成 翔(もりなり しょう)氏

司法書士森成事務所 代表
司法書士 行政書士

1987年2月18日生まれ。幼少期から英語劇を習っていたことで英語が得意科目に。高校卒業後は、英語力を活かして神田外語大学 英米語学科へ進学。就職活動では一般企業への内定をもらうも、辞退し劇団の養成所へ入所。卒業後は劇団養成所の同期とコンビを組んでコメディスクールに申し込む。コントで一定の評価を得られたがスランプに陥り解散。その後、資格取得をめざし、行政書士、司法書士の資格を取得。司法書士事務所で3年間の実務経験を経て独立を果たした。

【森成氏の経歴】

2005年 18歳 千葉県立船橋西高校(現:船橋啓明高校)を卒業。英語劇で鍛えた語学力を活かし、神田外語大学へ進学。
2010年 23歳 大学卒業の1年後、演劇集団円・演劇研究所に入所。本格的に演劇活動を始める。
2012年 25歳 劇団の養成所を卒業し、同期とお笑いコンビを結成。ワタナベコメディスクールに通う。
2015年 28歳 コンビ解散後、手に職をつけるため行政書士試験に挑戦し、合格。
2017年 30歳 司法書士試験合格。都内の司法書士事務所(2ヵ所)で3年間の実務経験を積む。
2020年 33歳 幼少期から過ごしてきた浦安の地で司法書士 森成事務所を開業。他士業とも連携しながら商業登記や相続業務に取り組んでいる。

芸能の道から法律家へ転身。
資格取得で手に職をつけ、新しい道を切り開いていく。

元役者・元お笑い芸人という異色の経歴を持つ、司法書士森成事務所の代表・森成翔氏。才能が求められる厳しい芸能の世界から一転、30歳を目前にして資格を取得し、法律家へのキャリアチェンジを考えたのは「手に職をつけたい」という一心だった。劇団の養成所やコメディスクール時代に鍛えたトーク力を活かし、独立開業後は士業とのコミュニティを広げながら躍進する森成氏に、これまでのキャリアパスや、今後の展望についてうかがった。

幼少時から取り組んだ英語劇で「演じること」のおもしろさを知る

 司法書士森成事務所代表の森成翔氏は元役者・元お笑い芸人という異色のキャリアの持ち主だ。森成氏が「演じること」に興味を持ったのは、幼稚園の頃に英語劇の習いごとを始めたことがきっかけだった。勉強は苦手だったが、英語劇を続けたことで英語が唯一の得意科目になり、大学受験の際も英語力を活かせる進学先を選んだ。ただ、この時点では明確な自分の将来像はなかったという。「何となく、社会に出るまでの猶予期間が欲しくて大学へ進みました。そんな中でも、高い授業料を負担してもらっている両親のことは頭にあって、卒業後はきちんとした会社に就職しなければならないと思っていました」と森成氏は言う。しかし大学4年になっても具体的な将来像がないまま就職活動シーズンに入った森成氏。友人が受けていた企業に応募し、何とか一社、内定を取り付けた。

内定を辞退して演劇の道へ

 無事に就職先が決まり卒業を間近に控え、英語劇の活動もいよいよあと数回の発表会で引退というときだった。
「舞台を見に来た父が、楽しそうに演技をしている私を見て、『あいつ、本当は演劇を続けたいんじゃないのか?』と母に話したそうです。母からそのことを聞いて『演劇の道を選んでもいいのか!』と目が覚める思いでした。就職の道を選ぼうとしていましたが、胸の奥には演劇をやりたいという思いがあったのでしょうね」
 森成氏は、企業からの内定を辞退して演劇の道に進むことを決意した。
 最初の1年はワークショップなどを受けながら演技を学び、翌年から劇団の養成所生に。「でも正式な劇団員になるための選考を突破できるのは養成所生のうちのひと握りでした。しかも、正式に劇団員になれたとしても、演技で食べていけるかどうかが保証されているわけではなく、大変厳しい世界でした」と森成氏は当時を振り返る。
 在籍3年目、選考を突破できず、森成氏は劇団員への道を閉ざされた。そんな中、次に選んだのは「コント」というお笑いのフィールドだった。養成所時代の仲間に声を掛けてコンビを結成し、コメディスクールに申し込んだ。劇団で鍛えた演技力のある2人のコントはスクール内や観客にも評判がよく、同期約100組の中からオーディションを勝ち抜いた芸人だけが出演できる月間のお笑いライブでは、精鋭の約30組が出演する中で1位や2位を取るほどだった。
「この経験を通して、きちんと努力すれば結果につながるのだと自信がつきましたね。資格試験に挑戦する際にもこの成功体験が私の背中を押してくれました」
 だがそのあとはスランプに陥り、コンビ間の空気が険悪になってしまったことで、コンビは解散。森成氏は、再び演技の道を模索してみようとするも、以前ほど演技に興味がなくなっている自分に気づいた。
「かなり演技力がある役者でも全然食えていないという現実を見て、芸能の世界の厳しさを再認識しました。もうすぐ28歳という年齢でしたので、ここでキャリアを変えて、真剣に将来のことを考えなければならないと思うようになりました」
 大学卒業後に森成氏の生活を支えていたのは、夜のコールセンターの仕事だった。手が空く時間が多かったため、劇団養成所やコメディスクール時代は、その時間で台詞を覚えたり、コントのネタを書いたりしていた。
 「次のキャリアのためにアクションを起こそう」と考えた矢先、養成所の同期がTACで公務員の資格を取るために勉強をしていると聞いた森成氏。試しに市販の公務員試験の対策テキストを購入し、ひと月ほど自己流で勉強してみた。その結果、民法の勉強が案外おもしろいと思えたことに気づいた。そうして法律関連の資格取得に興味を持ち始めた森成氏が最初に目をつけた資格が宅建士(宅地建物取引士)だった。しかし職場で宅建士をめざそうと思っていることを話すと、不動産業界出身の同僚から「お前には不動産の仕事は向いていない」という指摘を受けてしまった。「どうしようか」と悩む森成氏へ、別のメンバーが行政書士を勧めてくれた。調べてみると、法律関係の国家資格で、場合によっては得意の英語を使う場面などもあるという。森成氏は、「これだ」と思い、行政書士の資格取得をめざすことにした。
「正直、『コールセンターでアルバイトをしながら演劇をやっていました』という経歴では、就職先を探すのはなかなか難しいので、とにかく資格を取得して手に職をつけようという思いでした」
 その後すぐにTACの講座に申し込み、勉強を始めた。勉強に本気で取り組むのは人生で初めてだったが、不思議と不安はなかった。
「芸人時代に得ることができた『努力をすれば結果につながる』という成功体験が背中を押してくれました。それに、失うものは何もないと思っていましたので、とにかくがんばるしかないという気持ちでした」

コールセンターで働きながらダブルライセンス取得へ

 行政書士試験は、1日3時間の勉強を半年続けるという、受験決意当初の予定通り勉強をこなし、一発合格。
 行政書士試験に合格すると、さらに安定した仕事を得るために、司法書士の資格取得もめざすことにした。
 それからは、コールセンターで深夜に働きながら勉強に没頭する日々。夜8時に夜勤に入り、途中の仮眠の時間を除いて、手の空いている時間はすべて朝まで勉強に打ち込んだ。仕事が終われば家に帰り2時間ほど眠ったあとは、仕事がなければそのまま夜10時まで勉強。仕事があれば、睡眠時間を6~7時間確保できるようにしつつ夜勤の合間に勉強した。
「司法書士の資格を取って、芸人時代から精神的に支え続けてくれていた彼女を安心させたいという気持ちが強かったので、受験期間、私自身はまったく苦ではありませんでした」と語る森成氏。
 約1年半の受験勉強の末、30歳の7月に司法書士試験を受験し、試験翌日から同棲を始め、合格発表前の8月には籍を入れた。「手ごたえはありましたが、記述式の問題で大きなミスをしていて、もしかすると合格基準点に届かないのではという不安はありました。ただ、彼女は私が合格していると信じてくれていて、ほとんど何の心配もしていない様子でした(笑)。結局、問題の記述式のミスも結果としては大きな痛手にはならず合格できました。自分の両親も彼女の両親もとても喜んでくれましたね」
 受験勉強中はWセミナーの山本講師の勉強法を参考にしていたという。
「『暗記しない勉強法』というのが大変役に立ちました。単なる丸暗記ではなく、そもそもその法律がなぜできたのかという理由を紐解いていくのです。法律の本なのにまるで小説を読んでいるようで衝撃的でしたね。この勉強法のおかげで初めて見る問題でも理論的に考えることができるようになりましたし、今実務をしている中でも大変役立っています。単純に暗記した内容は忘れてしまいますが、背景まで理解するこの勉強方法だと、身についた知識は一生ものとなります」

ダブルライセンスで得た専門性を武器に事務所勤務を経て独立開業

 合格後は3年間、2ヵ所の司法書士事務所で実務を学んだ。約2年間勤めた2番目の事務所では「商業登記・企業法務チーム」の統括として100社を超える企業の設立、50社以上の組織再編の法務手続きを手掛け、あらゆる種類の商業登記手続きを経験した。そして、2020年9月1日、千葉県浦安市に「司法書士 森成事務所」を設立して独立を果たした。
 森成氏の現在の主な仕事は、商業登記と相続で、商業登記はこれまでの豊富な経験を活かして対応している。商業登記には様々な形態があり、中には経営者自身がインターネットで調べながら対応可能なレベルのものもある。だが、そもそも「簡単に済む内容なのか」を判断すること自体が難しいという。
「商業登記は、仮に時間と労力をかけて経営者が自分の力で行ったとしても、その経験が他の業務に活かせるわけではありません。それに経営者には本業に集中していただきたいので、専門家である私ができる限りのサポートをしようという思いで仕事をしています」
 相続の仕事は、高齢化が進む生まれ育った浦安の地に貢献したいという思いで取り組んでいるという。
「チラシ配りや、相続や終活についての相談会を定期的に実施することで集客につなげています。本人が亡くなったあとや認知症になってからでは対応が難しくなってしまうので、相続のトラブルを未然に防ぐには、事前の準備が大切です。早いうちから相続の準備を進めておくことの大切さ、スムーズな相続を見据えた終活への取り組みを、地域の方々へ呼びかけています」
 森成氏は、独立後の営業活動などに不安を抱える後輩たちにこんな助言をしてくれた。
「司法書士の仕事は不動産会社や金融機関から案件を紹介されるケースが多いイメージがあると思います。ただ、逆に言うと不動産会社や金融機関は、すでに決まった司法書士とのおつき合いがある場合も多いのです。新規参入のハードルが高いため、私の場合は、他の士業の方々との交流で仕事を増やしていきました。SNSで気の合いそうな士業の方を探したり、ビジネスマッチングアプリを利用したりすることが多いですね。主に税理士の方からお仕事をご紹介いただく機会が多いですが、迅速・丁寧に仕事に取り組むことで、継続的に仕事をいただけたり、またお知り合いの税理士をご紹介いただけたりと、人脈や仕事を増やすことができました」
 「手に職」をめざして実現した資格取得によって、自分と自分の家族が生活に困らないくらい稼げるようになったという森成氏。仕事の時間をコントロールできる司法書士の仕事を続け、士業のネットワークを活かしながら、地域の未来を作っていくことだろう。

[『TACNEWS』 2023年1月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]

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