LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #22

Profile

西出 友樹(にしで ともき)氏

京葉銀行勤務
ITストラテジスト
システムアーキテクト

1985年5月生まれ。千葉県出身。明治大学法学部法律学科卒業。京葉銀行に入行後、主に営業として融資業務に携わったのち、2015年7月から次世代勘定系システムの開発プロジェクトに参加。異動を機に、情報処理技術者試験に挑戦し、ITパスポート試験、基本情報技術者試験、応用情報技術者試験、システムアーキテクト試験、ITストラテジスト試験に合格。現在、次世代勘定系システムの開発において、システムの運用設計で手腕を発揮する。

【西出氏の経歴】

2009年 23歳 4月、京葉銀行に入行。さまざまな会社や多様な事業に興味を持ち、主に資金面でのサポートを担当。
2011年 25歳 4月、入行3年目から営業として融資業務を担当。取引先の会社の理念や方針に基づく戦略、事業があり、それを踏まえた提案の必要性を学ぶ。
2015年 30歳 7月、次世代勘定系システムの開発プロジェクトに参加。システム開発の全体像をとらえるため、情報処理技術者試験への挑戦をスタート。
2018年 33歳 12月、システムアーキテクト試験に合格。さらに経営戦略に関する意思決定などの考え方も学びたいと、ITストラテジスト試験に挑戦。
2019年 34歳 12月、ITストラテジスト試験に合格。今後も、中小企業診断士など必要性を感じた資格に挑戦していく予定。         

銀行の融資営業マンから一転、知識ゼロからシステム開発に携わる。
資格取得が、仕事への推進力を高めた。

 社会人として備えておくべきといわれるITスキル。そのITに関する共通的な基礎知識を学ぶ試験から、ITエンジニアとしての基礎知識を学ぶ試験、さらにより高度で専門的なスキルを問われる試験まで、13の区分がある国家試験、「情報処理技術者試験」。京葉銀行に勤める西出友樹氏は、次世代勘定系システムの開発に携わるようになってから、この情報処理技術者試験に挑戦した。知識ゼロからのスタートだったが、知識を仕事に活かそうと奮闘。高度区分のITストラテジスト試験、システムアーキテクト試験の合格は、西出氏にとって将来への弾みとなった。そんな西出氏に、資格取得の動機や資格の魅力、仕事への思いをうかがった。

「ぜひやってみたい!」と行内公募に応募
次世代勘定系システムの開発メンバーになる

 もしあなたが勤め人だったとして、まったく経験や知見のない新規プロジェクトが立ち上がったら、新しい取り組みに尻込みしてしまうだろうか。それとも、おもしろそうだと思って奮い立つだろうか。そのとき、挑戦するほうを選んだのが西出氏だった。

 京葉銀行で融資業務を担う営業マンとしてキャリアを重ねてきた西出氏は、入行して7年目の2015年7月、行内公募の呼びかけに応じ、次世代勘定系システムの開発プロジェクトへの参加を決めた。勘定系システムとは銀行システムの心臓部にあたり、預金、融資、振込、為替などすべての取引を管理している。約20年前に構築した現行システムの刷新がプロジェクトの目的で、新システムの稼働は2022年5月の予定だ。システム開発の経験はまったくなかった西出氏だったが、「ぜひやってみたい!」と手を挙げた。

「営業として仕事をしている中で、『銀行のシステムはすごい』と思っていました。例えば、どこのコンビニエンスストアのATMでお金を引き出しても、瞬時に銀行のホストコンピューターにその取引が記録される。どんなしくみになっているのか、以前から興味があったのです。銀行にとって重要なインフラである勘定系システムの開発に携わりたい、という思いは次第に募りました。当時の上司に話したら、営業の仕事で実績を積み重ねることのほうが将来的にはプラスになるのでは、と一度は諭されました。しかし、これほど大規模なプロジェクトはそうそうない。どうしても挑戦したいと思ったのです」

 こうして開発プロジェクトのメンバーの一員となった西出氏は、システムを日々使い続けることになる行員が滞りなく業務をするために欠かせない「運用設計」の開発を任される。プログラミングによってシステムを組み上げていく実作業はベンダー(システム開発会社)が担うが、西出氏の役割は、多岐におよぶ銀行業務を洗い出すとともに必要な機能を整理し、場合によっては追加する機能を検討していくことだった。

「システム開発がスタートして間もなく、ベンダーから分厚い設計書を渡され、これを読んで内容を把握して、何かあれば変更の申請を出してください、という話になって驚きました。現行システムに携わっていた担当者から教わり、仕事の進め方は掴めたので、業務はこなしていけそうでした。しかし、わからない専門用語も多く、これは勉強しないとまずいな、と。システムを構築するとはどういうことなのか、基礎から学んでいく必要性を感じました。特に、誰が何をしていて、自分はどの工程の仕事に関わっているのか、システム開発の全体像や一連の流れを把握したいと考えました。そこで、何か体系立てて勉強する手段はないかと探していたときに知ったのが、情報処理技術者試験でした」

 13ある区分の中から、まずは初学者が取り組みやすいITパスポート試験、次いで基本情報技術者試験、応用情報技術者試験とレベルを上げて試験に臨み、次々に合格を手にした。「システム開発に携わるシステムエンジニアやプログラマーの方は取り組みやすい試験だと思いますが、実体験が少ない私はなかなか苦労しました」

 努力の甲斐あって、一定レベルの知識が身についたことを実感する西出氏。応用情報技術者試験以上に深い知識が問われ、専門性が高い高度区分の資格にも、思い切って取り組むことにした。

「上司から『ここまでがんばってきたことだし、行内の制度として公的資格の取得に対する奨励金もあるから、もっと上もめざしたらどうか』というアドバイスがあったからです。高度区分の資格の中では、システムの基本設計や構築の担い手が対象者となる、システムアーキテクト試験に興味を持ちました。資格取得の勉強を通じて、自分の仕事に直接役立ちそうだと考えたのです」

仕事に活かそうと、高度区分の資格に挑戦
ITストラテジストの合格は、上司に驚かれた

 本格的にシステムアーキテクト試験の学習に取り組むようになって、西出氏はTACのWeb通信講座を活用する。普段の仕事と勉強の両立に、受験指導校の活用は欠かせないものだったという。

「膨大な学習範囲の中でも、どこに注力して学べばよいかがわかり、効率的な学習につながりました。何よりも、自分に不足していたシステムアーキテクト、つまりシステム設計者としての考え方が身についたのがよかったです。勉強時間の確保のため、少し早めに職場に行って、前日の夜にスマートフォンにダウンロードしておいた講義の動画を見ながら、始業前に勉強していました」

 毎日、少しずつコツコツと進めていくのが西出氏のスタイルだ。休日も必ず勉強の時間を取り、知識の定着を図った。そして、勉強を進めていくうちに実感したのは、自身の仕事とのつながりだ。

「運用設計で普段どんな仕事をしているのかといえば、ベンダーが他の銀行でも利用できるような標準化されたシステムを用意しているのに対して、私は自行向けに必要な調整、つまり標準のシステムに対する差異をどう埋めるかを考えています。例を挙げるとしたら、同じ金融商品でも自行と他行とで微妙に性質が異なるため、調整が必要になることがあります。そのときにどう対処するか、どうしたらスムーズに設計できるか。システムアーキテクト試験ではまさにそうした考え方について問われます。自分が仕事上、行っていることに通じる試験なのだと、改めて思いました」

 他にも、システム開発の目的やそのために必要な機能、導入に対する判断基準などを答える論述試験の対策では、普段の仕事を思い出すことも多かった。

「実際に私は、現場での業務から見えてきたシステムの変更点をベンダーに説明したり、あるいは標準のシステムにある機能を活かして現場のしくみの変更を検討などしたりしました。そうした実体験が、論述答案の構成を考える上でヒントになっています。とはいえ自分の経験は浅いので、Webで見つけたシステムエンジニアの方の個人ブログなどで言及されているシステム開発のエピソードなども参考に、イメージを膨らませていきました」

 実務と結びついた学習が功を奏し、西出氏は2018年12月にシステムアーキテクト試験の合格を果たす。この合格によって、プロジェクトを進める上で必要な知識の習得に手応えを感じたが、西出氏の意欲は高く、すぐに同じく高度区分のITストラテジスト試験にも挑戦したいと考えた。

「システムアーキテクトは決定したプロジェクトに対してシステムの設計を推進していくため、いわば現場の指揮官として、作戦を練るタイプの仕事だと思います。一方、システムアーキテクトの上位にあたる存在がITストラテジスト。情報技術の戦略家(ストラテジスト)として、企業の方針や理念、戦略を踏まえ、システムの開発戦略やその意志決定に関わります。こうした組織の上流にあたる思考のプロセスなどを学ぶことで、私が参加しているプロジェクトの意義や位置付けがもっとよくわかるのではないか、という狙いがありました。また、ここで学ぶ思考方法は銀行員として今後、別の仕事に携わることになったとしても役立ちそうだ、とも思いました」

 これまで触れたことのなかった経営知識の習得、普段の仕事とかけ離れたテーマを扱う論述対策に苦労しながらも、2019年10月の試験日を迎える。

「試験後は、合否のポイントとなる論述試験については自分が書けるレベルは書ききれたから、あとは結果を待つだけ、という心境でした」

 合格発表は、試験から2ヵ月後の12月。職場で昼休みにスマートフォンから主催団体のウェブサイトにアクセスして、合格を確かめた。

「それまで受けてきた試験の中でも、一番うれしい合格でした。自分にとって難しい試験だったということもありますが、自分の答案が合格レベルに達していたことがうれしかった。論述試験で問われているのは、要するにその人の考え方。他の受験者と比べて私は経験が浅いと思いますが、ITストラテジストとしての考え方は大きくずれたものではない、と判定されたことが自信になりました。自分で言うのもなんですが、合格には上司も驚いていました」

知識が増えるにしたがって、自分の考え方を組み立てられるようになった

 次世代勘定系システムの開発プロジェクトがスタートして5年近く経つが、西出氏は引き続き、運用設計で中心となって手腕を発揮している。資格の取得もあってか、難しいテーマを与えられているようだ。本人は「運用設計で大切なのは、業務の定型化を考えること」と話す。

「よくある話ですけれど、システムの運用は現場の人の慣れやノウハウに依存しているところがあります。システムを刷新するにあたり、そうした暗黙知も汲み取って最適化し、みんながより使いやすいものにしたいですね。そのためには、マニュアル化されていない現場の状況を把握することが必要で、これがなかなか大変です。でも、設計書としてまとめ、ベンダーとともにブラッシュアップしながら、徐々に形になっていくことにはやりがいを感じます。小さな積み重ねがなければ、ゴールにはたどり着きませんから」

 もっとも、2022年5月予定の稼働が実現してこそ、開発プロジェクトは目的を達成する。西出氏は「本当の意味で、自分の仕事に達成感が得られるのは新システムが稼働してからだと思います。もっといえば、稼働して終わりでなく、メンテナンスや改修もあるはず。銀行は現在、商品やサービスの入れ替わりも多いので、それに伴う改修も発生するでしょう。自行の経営戦略をシステム面から支えるこの仕事を、誇りを持って続けていきたい」と力強く語る。

 自分の仕事について明瞭に、そして笑顔を絶やさず話してくれた西出氏は「今の自分に必要なら」「今後に役立つなら」という考えのもと、他の資格取得も視野に入れていた。直近ではプロジェクトの責任者としての知見を深めたいと、プロジェクトマネージャ試験への挑戦や、ITストラテジストをきっかけとした経営戦略への関心から、いずれは経営コンサルタントの資格である中小企業診断士にも挑戦したいと考えている。

 思えばプロジェクトの公募がなければ、システム開発に携わることはなく、こうした資格を取得しようとは考えなかったのかもしれない。資格取得の挑戦は西出氏にとって「自分の知見を広げるものだった」と振り返る。

「勉強を通じて知識が増えたことで、自分の考え方をきちんと組み立てられるようになりました。また、それまで気に留めていなかったことにも目が向くようになり、自分の成長につながったと思います。私の場合はより全体像を意識するようになりました。資格に興味や必要性を感じているなら、ぜひ挑戦してほしい。自分には難しいからとあきらめず、とにかく申し込む。すると思いのほか、試験に向けた勉強のスタートが切れるものです。そして一歩を踏み出すと、また違った景色が見えてくると思います」

[TACNEWS 2020年6月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]

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