LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来への扉」 #06

  
Profile

濵知 有生(はまち ゆうせい)氏

一般財団法人 日本不動産研究所
本社事業部
不動産鑑定士

1986年12月生まれ。大阪府出身。島根大学生物資源科学部地域開発学科卒業後、不動産鑑定事務所勤務。2015年10月、不動産鑑定士試験合格を経て、同年12月に一般社団法人日本不動産研究所に入社。現在は東京本社で社会的にインパクトのある大規模な開発プロジェクトをはじめ、多岐にわたる鑑定評価に携わる。

【濵知氏の経歴】

2009年 22歳 大学卒業後、父が経営する不動産鑑定士事務所に就職。資格取得に向け勉強を始める。
2015年 28歳 不動産鑑定士試験に合格。日本不動産研究所入社。近畿支社に配属される。
2016年 29歳 東京本社へ転勤。大規模インフラの開発チームに加わる。
2018年 31歳 不動産鑑定士登録。

資格取得は夢を挽回するチャンス。
挫折の先に開けた大舞台で「色」のある不動産鑑定士をめざす。

大学を卒業してすぐ、父の経営する不動産鑑定事務所で不動産鑑定士への第一歩を踏み出した濵知有生さん。その後、中堅の不動産鑑定事務所を経て、2015年、不動産鑑定士試験に合格し、大手への転職を果たしました。順調にキャリアアップしてきたように見えますが、その道のりは、決して平たんではありませんでした。どのように乗り越えてきたのか、資格取得によって開けた新しい道とは。詳しくお話をうかがいました。

挑戦と挫折を繰り返し、より高い専門性が求められる職場へ

 不動産鑑定士の資格を知ったのは中学3年のころ。勤め人だった父が独立し、大阪に不動産鑑定事務所を開業したのがきっかけでした。「面白そう」と感じたものの、幼いころから環境問題に興味があった濵知さんは、高校卒業を機に親元を離れ、島根大学に進学。環境や土木、農業を学び、自然と共生するまちづくりへの関心を高めていきました。
 リサイクル関連企業への就職も決まっていた大学4年の2月、父から「不動産鑑定士の仕事は “まちづくり”にも関係があるんじゃないか」と誘われ、直前で内定を辞退。父のもとで働き始めます。「一つひとつの物件にストーリーがあり、新鮮な気持ちで取り組めるところに魅力を感じた」と言う濵知さんは、不動産鑑定士の資格取得を決意しました。
 その後、父の事務所を辞め、ツテのある個人事務所で試験のひと月前までアルバイトをし、合格を逃すとまた別の事務所で働くという資格試験中心の日々を送ります。3年目に全国展開する不動産鑑定事務所に就職し、働きながら勉強を続けますが、忙しさから計画通りには進まず、またしても不合格。5回目の受験を前に「これで最後にしよう」と決め、退職して勉強に専念しました。
 背水の陣で臨んだ最後の試験。並行して就職活動を進めていた日本不動産研究所の最終面接の直前に合格がわかりました。めでたく採用が決まり、近畿支社に配属されます。「合格して、すぐに新しい道がひらけた、という感じでした」
 最初は、これまでの事務所で携わってきた仕事とは、やり方も求められるスキルも異なることに戸惑いを覚えたという濵知さん。何より衝撃を受けたのは、不動産鑑定評価のアプローチが大きく違っていたことです。転職してまもなく、先輩鑑定士から「不動産の価格に影響を与える要因は、価格時点(不動産の価格判定の基準日)での需要と供給のバランスなどによって影響されるもので、分析が足りない」と指摘されます。「物件そのものの現状調査にとどまらず、あらゆる角度から背景を分析し、価値を求めるのが鑑定士の仕事だと言われ、様々な検証を行うことの大切さを痛感しました」
 以来、こだわりを持って評価書作成に取り組むことを心がけ、以前から興味のある地理や歴史、そして大学で学んだ環境や土木の知識を活かし、自分なりの分析を加えます。「お客様に『もっと詳しく聞かせてほしい』と言っていただけると、とても嬉しい。評価書を通して、私自身が評価されているような気持ちになります」

不動産の鑑定評価を通して社会経済を支える

 入社4ヵ月後に東京本社へ異動。大規模なインフラ開発の評価チームに抜擢されました。規模の大きさだけでなく、複雑で難易度の高い案件など、業界最大手だからこそできる仕事は多いと実感しています。
 不動産は金額が大きいため、社会経済に与える影響は少なくなく、不動産の鑑定評価を通して、社会経済を支えているということにやりがいを感じると濵知さんは言います。「例えば、環境問題に発展している中古建物も、安易に取り壊し建て替えるのではなく、新しい価値を提案するのも私たちの課題だと思います」
 スクラップ・アンド・ビルドではなく、100年使い続けるサステナブル(持続可能)な社会へ。学生時代から興味の中心にあった環境問題にも、不動産評価を通じて関わることができます。「不動産鑑定士の資格は、不動産とは直接関係がなくても、個人的な興味や得意分野、やりたかったことが実現できる柔軟な資格です」と指摘します。
 今後はいよいよ、まちづくりにも取り組みたいと意欲に燃える濵知さん。「利便性だけでなく、地理や歴史を踏まえた土地の活用法、川の流れや地形を生かした自然に寄り添うまちづくり。そうした広い視野でまち全体をとらえ、不動産鑑定士の立場から地域の価値が上がるような提案をしていきたいです」
 何度も挫折を味わいながらも、着実に夢の実現に近づいているという手ごたえを感じて気づいたのは、「不動産鑑定士には何かに挫折した経験を持つ人が多い」ということ。「資格取得は夢を挽回するチャンスです」と濵知さんは強調します。
 2018年4月に不動産鑑定士として正式に登録されると、顧客の窓口になる機会が増え、社内外から認められる存在になりました。評価書に自分の名前で署名できるようになり、プレッシャーは大きいものの、「良いも悪いも自分の責任ですから、やりたいことができる」とポジティブです。
 得意分野をこれから磨き、「歴史や地理、土木のことで『困ったらあいつに聞け』と言われるような、色がある鑑定士になりたいです」

[TACNEWS 2019年2月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]

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