特集 新時代の弁理士像
スピード納品、定額制、海外ホットラインを軸に
「爆速知財サービス」を提供していきます。
特許出願といえば、弁理士が発明家から話を聞いて、明細書や図面に書き起こしていくイメージが強い。そして書類の初稿納品まで1~2ヵ月が業界平均と言われている中、2週間以内の納品、スピードと品質の両立を謳ってスタートしたのが、特許業務法人IPXである。2018年4月に設立されたIPXは、押谷昌宗氏と奥村光平氏の2人の弁理士が設立。従来にないスピード納品を武器に「爆速知財サービス」を展開する押谷氏と奥村氏に、新たな弁理士像につながるIPXの特徴から今後の方向性までをお話しいただいた。
左から
■特許業務法人IPX 代表弁理士CEO
押谷 昌宗(おしたに まさむね)氏
大阪大学基礎工学部電子物理科学科卒業。大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻修士課程修了。富士ゼロックス株式会社知的財産部勤務、中小規模の特許事務所での勤務弁理士を経て、2018年4月、特許業務法人 IPXを設立し、代表弁理士CEOとなる。 資格取得の理由は、大学時代に弁理士を知り、将来独立可能という点に魅力を感じたことから。
■特許業務法人IPX 代表弁理士COO/CTO
奥村 光平(おくむら こうへい)氏
早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻修士課程修了並びに博士課程修了。日本学術振興会特別研究員(DC2&PD)、鈴榮特許綜合事務所(特許技術者)、中小規模の特許事務所での勤務弁理士を経て、2018年4月、特許業務法人 IPXを設立し、代表弁理士COO/CTOとなる。資格取得の理由は、研究者時代に培ったあらゆるスキルを活かして別な道に進むなら、もう弁理士しかない!と考えたことから。
「アジアナンバー1」をめざしてスタート
──特許業務法人IPXについて教えてください。
押谷 IPXは2018年4月に特許業務法人として設立した新しいカタチの特許事務所です。代表弁理士である私と奥村は、数ある最先端技術の中でも、特にICT(情報通信技術)やソフトウェア分野に精通し、高度で多様な知財サービスを提供しています。
IPXをひと言で表すと「爆速知財サービスを提供するベンチャー企業」です。弁理士は個人事業主としてスタートし、後に特許業務法人化する事務所もありますが、最初から法人としてスタートしたのは私たちが初めてだと思います。
──なぜ最初から法人化しようと思われたのですか。
押谷 私たちの目標は「アジアでナンバー1の事務所になること」だからです。個人事業主では世界進出は狙えません。最初から世界進出を目標に成長していくことを想定し、世界を狙える一流の人材を集めるためにコンプライアンス遵守と定款策定による透明性を担保した特許業務法人としてスタートしました。定款には私と奥村の持ち分を50%:50%と入れてあるので、よほどのことがない限り別れられない。結婚するくらいの覚悟を持って始めました。
奥村 私と押谷は前職の特許事務所で知り合いましたが、本当に信頼できるパートナーに出会ったと思っています。押谷とならば最初から法人にして50%:50%で一緒にやっていけると思いました。目先の利益を考えると、正直個人事業主として経営するほうがメリットはあるでしょう。でも私たちは、自分の取り分などは大した話ではなく、組織のことを第一に考えることにしました。
ベンチャーも大学も求める「スピードサービス」
──「爆速知財サービス」と表現しているIPXの特徴を紹介してください。
押谷 「爆速」とは「2週間以内納品」という、業界の常識を覆す「スピード」です。業界平均1~2ヵ月と言われる中で、これはものすごい速さです。この超高速納品は、徹底したIT活用、外国出願に対応した独自の高速クレームドラフト、3D CADの習熟による図面のワンストップ作成によって実現しています。これらの組合せによって、「2週間というスピード」と「品質」の両立が実現可能になるのです。
──「爆速」という言葉が出てきた理由を教えてください。
押谷 日本国内の特許出願数は下がっているものの、アメリカや中国への出願件数は増えています。日本ではIT企業に資金がどんどん流れ込んでいますので、ITベンチャーにアプローチする際、何が一番望まれているのかを考えた結果、「爆速」、「スピード」になりました。「すぐにプレスリリースを出したい」、「投資家にアピールしたい」など、ITベンチャーにとって、私たちの「爆速」は大きなインパクトがあると考えました。
奥村 元々はベンチャー企業を対象としていた私たちのサービスは、意外にも大学で大きな需要を生んでいます。かつて大学の研究者をめざしていた私は、IPXをスタートする際に出身の東京大学大学院の教授に挨拶に行きました。そこで教授が東大のTLO(大学院等の技術移転機関)を紹介してくださったのです。大学でも「2週間納品」が非常に受けていて、東京大学を筆頭に他大学からも多数依頼が来ています。
──大学ではなぜスピード出願が望まれるのですか。
奥村 技術的アイディアは、プレスリリース等で世の中に公表してしまうと、既知の事実となり特許を取ることができません。公表する前に特許出願する必要があるのです。企業はしっかりと手順を遵守するので開発部の人が勝手に発表したりすることはありませんが、大学の場合、TLOを通さずに研究者が自由に論文発表することが普通です。後手に回った知財情報がTLOに来て、「2週間後に学会発表です」と言われても、今までの特許事務所の常識では、特許出願が間に合いませんでした。それが2週間以内のスピード納品なら間に合うのです。求めているのは、ベンチャーも大学も同じ「スピード」なのです。
既成概念を覆す
──スピード納品以外の特徴についてもお教えください。
押谷 「2週間以内のスピード納品」に加え、「定額制の採用」と「海外ホットライン」がIPXのビジネスの根幹を支えています。
奥村 「定額制」とは、特許・実用新案の新規出願であればどんな案件でも同一金額で行うものです。見積りの際、ほとんどの特許事務所は書類の作成枚数で料金を決める従量制を採用しています。つまり、弁理士は明細書や図面の最終的なページ数を予想して見積りを出すのです。しかし、実際に作成してみるとページ数が増え、見積りより遥かに高額になってしまうことがしばしばあります。予算オーバーですから、お客様は不満を募らせますし、こちらとしても重要な論点として記したものが、「予算の都合上これは消したい」と言われれば、せっかくの提案も無駄になってしまいます。このやり取りは、お客さまも弁理士も誰も得をしません。そもそも見積り自体が無駄になってしまいます。
そこで「見積りと実際の請求は完全に一致すべきだ」という観点から、「定額制」にしました。
押谷 金額は、特許・実用新案新規出願の場合は35万円です。定額制なら企業担当者が上司に毎回料金の承認を得る手間や社内稟議も省けますので、お客様側のコストダウンにもつながるのです。こちらとしても毎回見積りを作成するという工程がなくなり、無駄な時間を省くことができます。
──「海外ホットライン」とはどのようなものですか。
押谷 2017年に奥村が2ヵ月間韓国の特許事務所へ、私がドイツのミュンヘンとベルリンの特許事務所へ武者修行に行きまして、かなりの人脈ができました。そこで、現地事務所の所長や日本人スタッフとチャットツールによる「ホットライン」を構築し、直接情報交換できる環境を実現しました。最近ではドイツと韓国だけではなく、アメリカや台湾等とも積極的に情報交換をすることができる体制を構築しました。
私たちは定額制を海外にも広げたいという目標があるのですが、外国に出願を依頼すると外国の代理人の手数料がかかります。例えば日本企業がアメリカに出願する際の費用はタイムチャージが多いので、内容により変動します。実はアメリカでは、日本とは異なり、特許出願を進める際に生じる不定期な手続きについても手数料が発生します。我々は、アメリカの事務所に定額制のコンセプトを説明し、不定期に複数回発生し得る手数料の支払いを、1回の定額に変更してもらうことに成功しました。アメリカでの特許出願においても、所定の手続きに関して定額制を確立したというのは、私たちが最初だと思います。
スピードとクオリティの両立を支えた「気づき」
──2週間以内のスピード納品を実現するためのノウハウとは、具体的にどのようなものなのですか。
奥村 基本的に、私たち含めスタッフにはその稼働時間を極力「人間がすべき作業」に尽力させたいので、ITによってショートカットできる部分を徹底的に洗い出しました。
まず、事務作業については、特許庁に出願する際に、作成した図面を規定の形式に変換する必要があるのですが、通常その作業は特許事務所の事務員が手作業で図面1枚1枚をチェックし、それを適切な形式に変換していきます。つまり図面の枚数によって作業時間が変わり、枚数が増えれば増えるだけ作業時間も長くなります。しかも枚数が多くなるとヒューマンエラーが発生しやすくなりますので、丁寧に時間をかける必要があります。私たちはこの作業を無駄な時間と捉えました。そこで、図面の形式を整える専用プログラムを開発し、この作業が一瞬で終わるようにしました。これにより、図面の枚数が100枚であろうが200枚であろうがワンクリック、わずか10秒で図面処理を終わらせることが可能になります。
次に、実際の書類作成については、明細書の作成に必要となる膨大な技術・法律用語を辞書登録しました。例えば「情報処理装置」という単語は手入力すると約3秒かかりますが、「JS」と短縮すればわずか1秒で入力できます。たった2秒の差ですが、これが積もり重なれば全体として3分の1~2分の1という校閲工数の大幅な削減につながります。また、明細書において、「構成要件+符号」と記載するのが通例ですが、「情報処理装置5だったかな、情報処理装置7だったかな?」と迷うことがあります。ところが、「情報処理装置5」という単語を「JS」で辞書登録してしまえば、符号のタイプミスも激減します。つまり、スピードを追求するためにITを活用した工夫をすることで、結果的にミスが減って仕事のクオリティが高まるという相乗効果が生まれます。
また、専門用語で書かれている明細書を海外に出すとき、翻訳しやすく、かつ意味が明確になるように独自の高速ドラフティングテクニックを開発しました。
特許出願では、発明者らによる研究開発の成果から「発明を抽出する」という作業が一番重要です。そして、「発明」を特許請求の範囲という法律文書に起こす(ドラフティング)のが、我々弁理士の仕事であり、腕の見せ所でもあります。一般的なドラフティングは発明抽出能力に加え、特許請求の範囲はこのように書かれるべき、という従来の体裁に整える構成力が求められるものでした。そして、この体裁を整える工程に膨大な時間がかかっていました。しかし、我々は、この体裁を整える工程を独自の高速ドラフティングテクニックによって大幅に時間削減することに成功しました。
もちろん、発明抽出能力は従来どおり必要ですが、むしろこの「抽出」という最も重要なプロセスにより時間を割くことができます。そして、煩わしい構成力の部分をカットして、明確な表現で高速に特許請求の範囲を完成させることができるようになりました。
これらの取り組みにより、いろいろなプロセスで時間短縮を図った結果、一般的な特許事務所の半分程度の時間で出願書類を完成させることができるようになりました。
押谷 「スピードとクオリティはトレードオフの関係にある」というのが一般的な感覚としてあると思いますが、スピードを求めるとクオリティが下がるのは、特に手作業の分野で顕著です。例えば、急いで手書きをすれば字が汚くなることがこれにあたります。
ところが、様々なITツールを活用することにより、スピードが上がればクオリティも上がることに気づきました。
なお、プログラムに関しては今回代表的なものだけを紹介しましたが、実際には他にも作業の自動化を実現しているプログラムが山ほどあります。それはすべてCTOの奥村の手によるものです。
──かつて「明細書を1,000枚書いたら一人前」と言われていた特許出願のイメージが変わりました。
奥村 従来の「地道に書く作業」というのも必要だと思っています。ITツールを使おうが使うまいが、出願書類を作成する上で頭の使いどころとしては大きくは変わりません。逆に「地道に書く」ことによって、ITツール活用のすごさがわかるので、修業は必要です。そこで必要ないことに気がつける人と気がつけない人がいて、たまたま私たちは気づいただけです。
押谷 私たちが次に進んでいくのは、誰がやっても同じものができる「標準化」です。これを属人性の高いこの業界で実現したいと思っています。
プル営業とプッシュ営業を使い分けてアプローチ
──先ほどITベンチャーと大学へのアプローチをお話しいただきましたが、クライアントはどのように開拓してこられたのですか。
押谷 Webサイトを綺麗に作り込んだのが最初で、その後、渋谷を中心にIT系企業約950社をリストアップし、ダイレクトメールを出しました。また、旧交のある知人から依頼がきたり、そこから別のお客様への紹介に繋がったりしました。
奥村 いろいろ模索した結果、やはり人脈でしたね。
押谷 最初はいろいろともがきました。Webサイトとチラシとダイレクトメールとマッチングコミュニティ。あとはいろいろなイベントに行って紹介を受けてきました。ベンチャー企業や投資家といった私たちと競合しない人に対して、何かしら提携できないかとアプローチもしました。結果、ある金融機関とは業務提携し、大手保険会社とも今顧問契約についての話を進めているところです。
一つだけではダメですからいろいろな営業ルートを作り、まずは風呂敷を大きく広げてみて、実際に効果があるものだけを残す。結果的にリストラした営業ルートもありますが、残ったルートが太くなっていき、様々な方面から紹介が来る仕組みを構築することができました。また、SEOにも力を入れており、「特許×IT」等のビッグワードでも上位に表示されるようになりました。
──アプローチによって顧客層に違いはありますか。
奥村 相対的に、Webサイト経由で来る方はこれから初めて特許を出願するベンチャー企業やスタートアップ企業が多いですね。逆に、こちらから潜在顧客を訪問するプッシュ営業では、すでに特許出願をされている企業を対象にしています。これらの企業に対しては、シンプルに我々の強みを説明するだけです。つまり、これらの企業の担当者は、既にお付き合いのある事務所と我々の差を見せられることで、IPXにスイッチしない理由がなくなると考えているからです。特許の実務に詳しい方ほど、IPXの強みを深く理解するとともに、大変驚かれますね。ちなみに、最近では一部上場企業にもプッシュ営業をしています。
このように、プル営業とプッシュ営業を使い分けています。
目標は「5年で100人規模」
──スタートからまだ1年経っていませんが、1年目に実現しようとしていた目標はありましたか。
押谷 具体的な数値目標としては、1年で人員10人、売上規模4,000万円というのが最初の目標でした。しかし、最近では目標を引き上げ、1年で15人前後に成長させる予定です。
──3年後、5年後の目標はいかがですか。
押谷 最初は3年で30人が目標でしたが、今は3年で50人、5年で100人をめざしています。その頃には東京の特許事務所の中でも上位数%に入っているでしょうから、海外に拠点を展開していきたいですね。最初はシンガポール、あとは市場規模と法律整備の観点で言うとタイ、そしてインドネシア。ヘッドクオーターをこれらの国に据えることも視野に入れています。
──最初はスタートアップ企業やベンチャー企業をターゲットにしていたのが大手企業へとシフトしていきました。現在、クライアントの構成はいかがですか。
奥村 やはりベンチャー企業の割合が最も多いですね。次に大学。一方、大手企業はリピート率が高いので、案件数でいえばベンチャー企業と中小/大手企業が五分五分といったところです。
──海外への特許出願数はいかがですか。
奥村 まだそこまで数字には表れていません。通常は日本での出願(第1フェーズ)を経てから海外への出願(第2フェーズ)へと移っていくので、それはこれからだと思います。ただ、逆のパターン、つまり海外からの問合せが増えていますね。海外から日本国内への出願依頼は第3フェーズと捉えておりましたが、第2フェーズをすっ飛ばして海外からの依頼が増加しています。海外ホットライン開設が後押ししているのでしょう。
──当初はベンチャー企業がターゲットでしたから、想定より成長が早いのですね。
押谷 第1ステップではベンチャー企業とスタートアップ企業をターゲットにし、第2ステップで中小企業をターゲットにし、第3ステップで一部上場企業にアプローチをかけようと思っていました。ところが、開業数ヵ月で一部上場企業への営業ルートも徐々に開拓できてきて、第2ステップで狙うべきところからもう既に仕事をもらっている状態になりました。私の中では1年ぐらいかけて第2ステップまで進めていく予定だったので、予想以上に早期にステップアップできました。
このような急成長をしましたが、それに伴うリスクと甘さが表面化しないように、ずっと謙虚な気持ちを忘れずに、冷静と情熱のバランスを取りながら進めていきます。
──スタートしてからここまでは順調ですね。
押谷 当初は渋谷のシェアオフィスで始めて、2018年内はここでいいかなと思っていたんです。賃料も1人2万円と安かったし、人を雇うのは2019年3月ぐらいからかなと思っていました。ところが、開業2ヵ月ほどで仕事が激増したので、急遽スタッフや弁理士の採用を決め、表参道に移転しました。
──次にオフィスを構えるとしたらどのあたりを想定していますか。
押谷 ITベンチャーがターゲットだとやはり渋谷周辺がいいし、大手企業には「私たちは港区にオフィスを構えていて特許庁へのアクセスもいいです」と言うと信用度が違います。やはり渋谷エリアでありながら、港区ブランドが使えるという点がポイントです。つまり、いいとこ取りが今のロケーションです。プライベートでは「青山で働いてます」と言ってます(笑)。だから次に引っ越すとしても表参道周辺がいいなぁと思っています。
グローバルな知財の総合商社をめざして
──IPXの将来像はどのように想定されていますか。
押谷 アジアナンバー1というからには、500人体制にしていきます。サービス面では従来の知財案件だけでなく、製品・サービスの流通コンサルティング等にも興味があります。言ってみれば知財の総合商社のような存在になりたいですね。
時代のニーズによってサービスは変わってくるのでまだ先のことはわかりませんが、私たちがやるべきことは、知財サービスに加え、イノベーションを促進する「場」を提供することです。また、「IPXに頼めば全部ワンストップでOK」と思われるような存在になりたいです。具体的には、弁護士や公認会計士、税理士など、他士業とのネットワークを構築し、投資家やIPO上場企業とのマッチングもタイムチャージなしでつなげていきます。従来の事務所ではできなかった周辺業務を提供できる体制を構築し、「IPXに頼めば全部やってくれる」と言われるサービス。そこまで持っていきたいですね。ここからさらに、世界中の頭脳をマッチングさせる「場」の構築まで持っていければ最高です。
奥村 押谷がCEOとして経営ビジョンを語ってくれたので、私はCOO/CTOとして技術的側面から言いますが、ビジネスの幅が広がってもやはり技術の部分は残したい。技術を軽視してしまったらお終いだと思っています。これからどんどん業務が多様化していく中で、技術が希釈化されていくのは仕方ないと思います。ただ本質は「技術あっての私たちである」。ここは貫きたい。
そしてIPXの未来を担うための若い人材が欲しいんです。私たちが採用するにあたって基準としているのは、能力よりも「私たちのビジョンに共感できるかどうか」です。私たち弁理士の世界は新卒が入ってくることがあまりない業界です。メーカーに数年勤めて転職して来る人はいても、新卒は入ってきません。一方で、例えば同じ専門職でもコンサルティング業界には新卒が入っています。そこで「IPXに入って世界で活躍したい」という、ものすごいキレっキレの若者が入ってくるような魅力ある会社にしていきたい。
──コンプライアンスから制度まできっちり整備されているということですが、新卒採用となると、内部体制や教育システムの充実が求められます。
奥村 そこは、この規模では考えられない位、めちゃくちゃきっちりやっています。
押谷 例えば、給与明細は紙で出すことが法律で決まっていますが、従業員全員に同意書を提出してもらい、電子データで配付するようにしています。コンプライアンスの徹底は100人規模になってからやろうとしても手遅れです。習慣づけされるものだからです。私たちは世界をターゲットにしているので、最初から制度を作って運用しているわけです。
奥村 途中から制度を変更すると、どれだけ変更コストがかかるか計り知れません。だからこそ、最初からビジョンに従って作っていくべきなのです。ITの話に戻って恐縮ですが、手作業だったものを途中からITツールに変えるのは、慣れてしまった人には本当に大変なのです。だからこその、最初からのIT化!
──年々弁理士をめざす人が減ってきています。そんな中で今後弁理士をめざしていく人に活躍の場はありますか。
押谷 活躍する場はたくさんあります。国内が飽和状態なだけで、海外、特に中国などは激増しています。実際に日本人が中国語を学んでも語学面では中国人に勝てないと思いますが、そこの橋渡しや、日本人の美徳を活かした国際的な仕事なら可能性はたくさんあると思います。
あるいは特許を単に出願するだけでなく、その価値を算定して担保にするサービスも最近は増えています。市場としてはまだそれほどできあがっていないのですが、大いに可能性を感じますね。今までなかった業務、特許のオークションや、特許のライセンス先を見つけていくといったように、独自の視点で考えれば活躍の場は大いにあると思います。
──そうなれば、弁理士資格からさらに広がった分野に世界は広がりますね。最後に資格取得をめざして勉強中の読者に向けてメッセージをお願いします。
奥村 資格はマストです。資格は信用を得るために取得しましょう。一流大学を出るのと同じです。国家資格でありグローバルスタンダードなので、信頼のツールとして必要になります。ただしその先は自分で開拓しなければなりません。資格取得は通過点。ゴールはそこではありません。通過点の信頼獲得だけで終わらないでください。
──貴重なお話をありがとうございました。
[TACNEWS 2019年2月号|特集]