vol5【現役外交官インタビュー】
国際法局経済条約課 内藤浩平さん
平成21年入省で、インドネシア語研修の内藤浩平様にインタビューをさせて頂きました。内藤様は、多様な業務に携わりながら外交の最前線でご活躍される一方、お二人のお子様がいらっしゃり、これまで2回育休を取得されています。
お忙しい中お仕事とご家庭をどのように両立をされているのか、外務省ではどのようなキャリア形成ができるのか、お話を伺いました。
内藤浩平(ないとうこうへい)さん
国際法局経済条約課
研修語:インドネシア語
Q.外務省専門職の志望理由やインドネシア語の希望理由を教えてください。
高校生の頃、中国での反日運動についてニュースや書籍で知り、隣国同士なのにわかり合えないことを悲しく感じ、日中改善に貢献したい、外交に携わりたいと思うようになりました。大学で、国際政治経済や中国語を勉強する中で、日に日に希望は高まり、受験を決意しました。 当時は、インドネシア語(尼語)は全く意識していませんでしたが、大学で「ASEAN+3」など地域的アプローチを通じて中国に影響を及ぼす考え方を勉強し、ASEANの中でも人口・経済規模の大きいインドネシアの役割も重要と考え、希望しました。
研修先での伝統衣装パーティー(左)
バリ島の海(中)
ジャワ島の山地(右)
Q.在外研修はどのように過ごされたのでしょうか。
尼語は入省後にゼロから始めましたが、入省1年目の本省研修時から勉強に励み、在外研修では、語学学校とダブルスクールをしながら大学院に進み修士号を取得しました。大学院という目標を持って高いモチベショーンを維持することで2年間の研修成果を最大限高められるよう頑張りました。
研修中:大学院の同級生とプレゼン準備(左)
研修中:現地の学校訪問(書道体験)(中)
大学院修士の卒業式(右)
Q.研修言語はインドネシア語とのことですが、言語を習得されるうえで大切にしていることはございますか。
語学は、音という空気の振動を通じて、思いや感動を伝え、共感し合う、音楽に似た不思議な力があると信じています。皆様も外国の方が完璧な日本語を話すのを聞いて感動した経験があるのではないでしょうか。
そのため、私は、研修時代から「音」を大事にしてきました。発音や抑揚など、現地の先生や友達を「モノマネ」するように練習しました。現在も、毎日ラジオのアナウンサーのしゃべりをシャドーウィングしています。
専門職が目指す語学レベルは、首脳会談で相手国首脳に胸を張って聞かせられるレベルです。実際の首脳会談で、こだわりぬいた尼語訳と「音」に、大統領が「うんうん」と相づちを打ちながら聞き入り、両国首脳が共感し合い、建設的な議論につながったときの喜びは、この上ないものでした。
大緊張の総理通訳のデビュー戦:
ルフット大臣による安倍総理表敬(2016年10月)(左)
(出典:外務省ホームページ)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea2/id/page1_000257.html
日・インドネシア首脳会談(2020年10月)(右)
(出典:首相官邸ホームページ)
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202010/
20indonesia.html
Q.希少言語ならではの良さと苦労される点はどのようなところですか。
良い点は、相手に喜ばれる点です。多くのインドネシア人は日本のアニメを見て、日本車に乗って育っており、非常に親日的です。こちらが尼語を話し始めると、目の色や顔の表情が変わり、心の距離が一気に縮まります。文化行事での司会や挨拶、現地関係者への情報収集をした際には、尼語で話すと相手がより食いついてくるのを感じました。
苦労した点は、和尼・尼和辞書や、ネットの例文検索が不十分なところです。まず、辞書は見出し語の数が圧倒的に少なく、例文はあっても1つです。ネットの例文検索サイトも整備されておらず、一般の記事などで実例の有無を確認することになります。よって、実際の通訳準備では、重要なものは1単語の訳に1~2時間かかることもあります。
在インドネシア大使館勤務時:日本文化行事で尼語による司会
Q.これまで本省勤務ではどのような業務に携われてきたのでしょうか。
専門職は専門分野をずっとやり続けると思われるかもしれませんが、実際には、様々な分野に携わり、広範な知識・経験を得ることができます。
これまでの業務は、「インドネシアの業務」と「特定の外交分野の業務」に大別されます。「インドネシアの業務」については、南東アジア第二課で、二国間外交政策の企画・立案、要人往来時の会談資料作成・各種調整、省内外からの照会・相談等に対応しました。2018年の日インドネシア国交樹立60周年には大型行事にも携わりました。同課では東ティモールを兼任し、河野大臣(当時)による日本の外務大臣として独立以降初の同国訪問という歴史的瞬間に立ち会いました。
次に、「特定の外交分野の業務」について、国際協力局事業管理室で、ODAの技術協力を担当し、円滑な実施・運用のための制度管理や諸課題への対応、安全対策に取り組みました。また、現在は経済条約課で関税等の物品担当として、二国間のEPAや、TPPやRCEPといったホットな多国間経済条約に携わり、条約締結や、既結の条約の解釈や運用上の法的な課題等に取り組んでいます。
これら2つの業務には、相乗効果があり、片方の知識・経験がもう片方の業務に違った視点を与え、活かされます。「専門分野」と「広範な知識・経験」、まさに二刀流を目指せるのが専門職の魅力の1つです。
河野外務大臣の東ティモール訪問:外相会談(2018年10月)
(出典:外務省ホームページ)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea2/tp/page3_002581.htmlQ.日本にいらっしゃる間はどのように語学力を維持されているのでしょうか。
語学は使わないと錆付きます。業務上でインドネシアから離れると言語を使う機会は激減し、また、コロナ禍で通訳機会も減るなど通訳官にとっては試練の時期と言え、大変苦労しております。
語学力の維持で最重要なことは継続できることです。私は日常の負担にならないよう、あえて「勉強の時間を作らない」ようにし、「何かをしながら、ついでに語学」を実践しています。基本的にはラジオのpodcastをipodに落として、通勤や、家事、買い物、趣味のランニングをしながら、耳を使って勉強しています。また、ラジオは、国内外のニュース番組を選び、情報を仕入れる「ついでに」楽しく語学を勉強しています。
Q.育休を取得されたそうですが、その時の状況や省内の雰囲気はどうでしたか。
私には3歳の長女と0歳7ヶ月の次女の二人の子どもがいます。長女のときは1ヶ月、次女のときは1ヶ月半、育休をいただきました。取得に際し、上司から「家庭を優先してください」との温かいお言葉とともに了承の上、関係者と調整いただきました。また、手続面でも職場にサポートいただきました。本当に感謝の言葉が尽きません。
外務省全体としても育休が推進されております。制度としてしっかり整備され、人事課が主導して対象の男性職員やその上司に案内が出されるなど、育休を取得しやすい環境・雰囲気になってきており、管理職から若手まで、育休をとる男性職員は増えてきていると感じます。
絶賛育休中!
Q.育休中はどのように過ごされたのでしょうか。
育休中は、寝ても覚めても育児に明け暮れ、体中の痛みと寝不足で満身創痍でした。育休は、短期的には、産後の妻のケアや、育児の分担といった意義がありますが、それ以上に大事な中長期的な意義があると考えます。育休は、夫婦で共同して育児に向き合うことで、今後の育児における家事・育児の分担や生活習慣の基盤を築くとともに、夫婦で育児の方針や価値観を共有し、責任をわかちあうための機会になります。私自身は、育児・家事の大変さを知り、我が子と接する幸せや夫婦で共同する喜びを感じ、父親・夫としての責任・責務や子に与える影響などについてじっくり考える機会となりました。そして何より、育休後、自分が勤務している間に育児をする妻への感謝の気持ちを持てるようになりました。
育休はとても大切なので、将来の男性の後輩たちには、子どもが生まれた際には、是非、全員に育休を取得してほしいと切に願っております。
Q.お仕事もご家庭も大変忙しいかと思いますが、それらを両立するうえで大切にされていることは何でしょうか。
家族の生活リズムに合わせてワークスタイルを工夫して、育児の時間を最大化できるよう心がけています。現在は、朝は子どもが9時頃まで寝ているので、8時過ぎに早朝出勤して仕事を片付け、その分、夜は少しでも早く帰宅できるよう努めています。帰宅後は、家事、娘のお風呂、遊び相手、絵本の読み聞かせ、寝かしつけ、朝まで夜泣き対応と、充実しています(笑)。
また、外務省全体で業務のデジタル化やテレワーク・フレックスが推進されており、家庭との両立の追い風となっております。私は可能な範囲でテレワークをしており、テレワークの日は、業務の前後を育児や家事に当てています。
そのほか、在外研修中に一時帰国したり、家族を帯同することも制度上可能なので、私は該当しませんが、私の知り合いにも利用している職員がいます。
このように、各種の制度も整備され、柔軟な働き方が可能な環境になってきています。将来の後輩たちには、これらを活用しながら、男女関係なく仕事と家庭の両方を大切する職場づくりを一層進めてほしいと思います。
テレワーク日のお昼休みにお散歩
Q.本省勤務と在外公館勤務では働き方に違いがございますか。
本省では「ワーク・ライフ・バランス」を、在外では「ワーク・アズ・ライフ」をいかに実現するかが大切と考えます。
本省では、基本的にデスクワークで、やりとりも省内や他省庁の関係者との調整が多く、外国との接点は在京大使館や関連団体等に限られます。デスクワークの業務量も在外より本省の方が多く、いかに効率的に裁いて、プライベートの時間を確保するか、が重要になります。
一方、在外では、デスクワークもありますが、相手国政府との協議や、関係者からの情報収集などの外勤が増えます。また、平日夜や土日の文化交流・関連行事や会食の対応が求められることもあります。これらは、仕事として後ろ向きに捉えるのではなく、在外勤務の醍醐味の1つとして前向きに捉え、「ワーク・アズ・ライフ」、楽しむことが大切です。
在京インドネシア大使館と南東アジア第二課の交流
Q.最後に受験生へのメッセージをお願いいたします。
人生の岐路に立って、悩み、不安を感じる方も多いと思います。今一度、自分の胸に問いかけてみてください。あなたが持っている力は何か。あなたはその力で何を守りたいか。守るべきものは、あなたの近くにあるかもしれません。遠く離れた国かもしれません。そして、それがあなたの役割・責任であって、実現する場所を決めるのが職業選択です。外務省こそがその場所だと信じたら、外務省の門をたたいてみてください。
~インタビュアーのひとこと~
お仕事とご家庭を高いレベルで両立されるために、空いた時間を有効に活用しながら努力をされているお姿が大変印象的でした。あわせて、外務省の育休制度も充実しており、男性が取得しやすいように省内の雰囲気もなりつつあるということで、働き方も変化しているのではないかと強く感じました。また、専門職として研修語を極めつつも、本省勤務ではインドネシア関係に限らず、多様な業務に携わってきたことをお聞きして、働きながら学び続ける日々の大変さと楽しさが伝わりました。貴重なお話をありがとうございました。