資格試験・資格取得の情報サイト>外交官(外務専門職) >Diplomat News | 外交官(外務省専門)>Diplomat記事|【合格者の素顔!】vol.10 19年度 海外体験記 エジプト②

vol10【2019年度内定者海外体験記】 エジプト②

こんにちは!
そして関西の受講生さん以外の方、はじめまして!
現在関西地区で合格者アドバイザーをしている川口祐樹と申します。

私は大学でアラビア語を専攻し、エジプトの首都カイロに留学していました。

まず、そもそも私がアラブに興味を持ったきっかけは、中学生の時にテレビでアラブの春のニュースを見たことでした。 歴史に興味があった当時中学生の祐樹少年は、市民が通りや広場に繰り出して独裁政権を倒す「革命」という言葉に衝撃を受けました。
それまで革命といえばフランス革命など歴史上の出来事であって、まさか自分の生きている時代に革命などというものが起こるとは夢にも思っていなかったからです。

紆余曲折があって外国語学部のアラビア語専攻に進学した私は、3年後期から1年間大学を休学してエジプト留学をすることになりました。
日本の大学で勉強しているだけではどうしてもアラビア語を話したり聞いたりする機会は限られてしまうので、実用的なアラビア語を使いこなせるようになることが留学の目的でした。

アラビア語が話されている地域はダイグロシアという特殊な状況にあり、文語(フスハー)と口語(アンミーヤ)の隔たりが大きい(詳しくは関東LAふじっきーの体験記をチェック!)ため、日本でも勉強していた文語をさらに深めつつ、エジプトのアンミーヤ(エジプト方言)も新しく勉強することになりました。

留学期間のうち、最初の3カ月は日々生き延びるためにエジプト方言の知識を増やすことに集中しました。
レストランでの食事、スーパーでの買い物、携帯電話の契約、大家さんとのやり取り、タクシーの運転手とのバトル、、まず日常生活で使われているエジプト方言を習得しないことには、日常生活を安全に送ることすらままならなかったからです! カイロに着いた5日後から語学学校に通い始め、2時間×週5日、エジプト人の先生からマンツーマンで、エジプト方言でエジプト方言を教えて頂きました。


(写真1:初めての授業の日の板書)

授業で新しい文法や熟語を学び、それを町中で実際に使うことでエジプト方言はだんだん理解できるようになってきました。
留学初期は勉強すればするほど聞けるようになって話せるようになるので、無敵感に支配されます。
そんな僕が留学初期に直面した最大の挫折は町中の理髪店に行ったことでした。

恐らくエジプト人以外の客があの理髪店に来るのもほぼ初めてですし、マスターもくりくりのくせ毛なエジプト人の髪しか切ったことがないのでしょう。
私はそれを見越してモデル写真を何枚か見せて、「この通りに切ってほしい」と注文しました。
マスターは後ろの髪から切り始め、あっという間に私の希望通りの髪形に近づき、いよいよ前髪に取り掛かるかに見えたときに事件は起きたのです。
言葉で説明するよりも事件直後の写真を見る方が早いです。


(写真2:呆然とする川口の図)

マスターは私の前髪に対して垂直方向にハサミを当て、ザクザクと一直線に切り落としてしまいました。
私こそアラビア語でなくても「あっ!」とか「ストップ!」とか言えば良かったのですが、驚愕のあまり言葉が出ず、硬直している間の2秒ほどで全てを持って行かれたのです。
呆然としてマスターと何も会話を交わせないまま帰宅し同居人に笑われ、当時知り合ったばかりだった関東LAふじっきーには陰でかわいそうと言われ、行く先々で話のタネになりました。。

真面目な話に戻ります。
この留学初期の、勉強すれば勉強するほど聞けて話せるようになる感覚は非常に楽しいですが、ある程度伸びて限界が見えて来るのも2カ月から3カ月経った頃だと思います。
僕の場合は、次は学術的な言語である文語(フスハー)のレベルアップも図っていきたいと思うようになりました。

ただここで問題になるのは、「アラビア語を学ぶ」のか「アラビア語で別のことを学ぶ」のか、ということでした。

特にアラビア語の文法は世界で一番難しいと言う人もいるように、果てしない奥深さがあります。
あまりに難解過ぎて、ネイティブのアラブ人でも正しくアラビア語の文法を理解している人はほとんどいないでしょう。
そしてみんな文法ルールを守らないため、文法を正しく理解できていなくても意味が通じてしまうことが非常に多いです。
その上で、アラビア語を専門に学ぶ者として、「なんとなくアラビア語を使えるようになれば良い」のか、「きちんとルールを分かった上で敢えて文法ルールを破って使いこなせるようになれば良い」のかという問題に突き当たったのです。

ここで前髪のない私が下した結論は、「文法は外務省の海外研修で来た時に学んで、今は多少雑でも実用的な知識を身に付ける」ということでした。


(写真3:結論を下した頃の、前髪のない時代の私。カイロ大アラビア語学科長のハイリー博士とともに、同学科の父ターハ・フサインの像の前で。)

そこで選んだのがカイロ大学付属の語学センターで、そこで先生と一緒に一冊の本を読んでいくことになりました。
最初に書いたように僕がアラブに興味を持ったのはアラブの春がきっかけだったことから、エジプトの革命を率いた重要人物のうちの1人であるワーイル・ゴネイムの『革命2.0』という随筆を読むことになりました。

最初は家で5ページくらいを読んで来て、授業内で先生と一緒に内容を確認していくという授業でした。
日本の大学の授業でアラビア語の小説を読んだりすることはありましたが、日本で受けていた授業とは比べ物にならない分量になったため、最初は毎日夜遅くまで予習するなど、非常に苦労しました。
ところが寝ても覚めてもアラビア語を読み続けるという生活が1カ月から2カ月ほど続くと、自然と辞書なしでスラスラ読めるようになってくるものです。

こうなってくると一日に読める分量も格段に増え、1回の授業で進むのが5ページだったのが10ページになり、20ページになり、という具合に増えていきました。
また授業の形式も、先生と一緒に文章を読んで一文ずつ意味を確認していくという形式だったものが、本の内容を自分の言葉で要約して先生に説明し、文章の意味が理解できているかを確認するという授業形式に変化していきました。
またその中で、アラブの春について、また中東情勢や日本・エジプト関係についても先生と議論したりするなど、読むだけでなく、相手の意見を踏まえて自分の考えをアラビア語で表現する能力も付きました。


(写真4:実際に使用していた『革命2.0』)

この状態(エジプト方言は生活に困らない程度で、文語もネイティブと議論できる程度)になるまで私は留学開始からおよそ半年、アラビア語を学び始めてからだと丸3年かかってしまいました。
これでも、途中に書いたように文語の文法は何となく理解しているだけでしたし、方言も生活に困らないというだけで分からないことはたくさんあります。

留学中に大変な思いもしながらこんなに難しいアラビア語の勉強をしてきて、「これほどアラビア語の勉強を頑張ったんだから、この語学力を人のために使わない手はない」と感じるようになりました。
もちろん外務省で活躍されている先輩方と比べればまだまだ未熟なレベルですが、外務省専門職員の試験勉強中、「もっとアラビア語を勉強して優秀なアラビストになる」という想いは一瞬たりとも忘れたことはありませんし、この想いを糧に他の誰よりも強い信念をもって勉強を続けた自信があります。

これから外務省に入省して1年間の本省での研修と3年間の海外研修を経て、アラビア語の専門家としても、アラブ諸国の専門家としても、また一人の人間としても大きく成長して、これからの長い人生、優秀なアラビストとして国と国民に仕えていきたいと思うばかりです。

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