LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #50
吉田 優一(よしだ ゆういち)氏
社会保険労務士法人ONE HEART
代表 社会保険労務士
1984年3月7日生まれ。現役で慶應義塾大学に入学するも、将来の目標が見つからず最終的には大学を中退。自身の進路を模索する中で出会った1冊の本をきっかけに日本の雇用環境に問題意識を持ち、社会保険労務士を志す。その後2012年に試験に合格。社会保険労務士事務所での勤務を経て、2021年に独立し社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。ITソリューションを活用した効率的な労務管理を強みとし、顧問先約30社、スポット案件で年間約50社など、スタートアップ・中小企業を中心に信頼を集めている。
【吉田氏の経歴】
2002年 18歳 慶應義塾大学 理工学部に現役で合格。その後就職に不安を感じ大学を中退。アルバイトの傍ら2,000冊以上の本を読む中で、日本の雇用環境に問題意識を抱く。
2012年 28歳 労働問題の改善に寄与したいと社会保険労務士をめざし、受験2年目で合格。
2013年 29歳 社会保険労務士法人に勤務し、手続業務からコンサルティング業務まで幅広く経験する。
2021年 36歳 「中小企業の労務管理を支援したい」という思いから、独立し社会保険労務士法人ONE HEARTを設立。ITソリューションツールを活用した効率的な業務推進により成長中。
ITソリューションを活用した効率的な業務設計で労務管理を支援。
自分たちの働き方もアップデートしていく。
「日本一生産性の高い社労士事務所」をめざし、クラウドツールやリモートワークを取り入れた経営スタイルを貫く社会保険労務士法人ONE HEART。2021年の設立以来、スタートアップ企業を中心に、効率的な労務管理の設計を提案している。DXの波が到来する中で、時流をいち早く掴みデジタルツールの活用に取り組んできた代表の吉田優一氏に、社会保険労務士をめざすに至るまでの紆余曲折や、独立開業までの経緯、経営のこだわりなどをうかがった。
進むべき道が見つからず数年にわたったモラトリアム
高校時代、数学が得意だったという吉田氏。大学受験では予備校に通って勉強し、名門・慶應義塾大学に見事現役で合格した。入学後は充実したキャンパスライフを送っていた吉田氏だが、「就職」を意識するようになってからはそれが大きな壁に感じられ、将来に対して不安を抱くようになった。「特に将来の目標もなく大学に入学してしまったので、何を判断基準にして就職活動を進めるべきかわからなくなってしまったのです。徐々に大学からも足が遠のき、最終的には中退してしまいました」と吉田氏は当時の自分を振り返る。
その後は様々なアルバイトを経験しながら、「自分はどう生きるべきなのか」を模索する日々。アルバイトで稼いだお金を書籍代につぎ込み、そのヒントを探し続けた。そうして2,000冊以上の本を読む中で出会ったのが『労働市場改革の経済学』(八代 尚宏著・東洋経済新報社刊)という1冊だった。経済学者として労働格差の是正を訴える八代氏の主張から、吉田氏は次のように感じたという。
「日本において、“40~50代”の“男性”に代表される一定のカテゴリに入る人たちは高い給与を得やすいですが、それ以外の人たちの給与水準はずっと低いままです。この本を読んで、『こんなことがまかり通っているのは絶対におかしい。歪んだ雇用環境を改善し、労働問題を解決するために自分が何かできることはないだろうか』と考え始めました」
これがきっかけとなり、吉田氏の前に道が開けた。自身のキャリアに関するビハインドを乗り越えるためにも資格の取得が必要だと考えた吉田氏は、調べていく中で労働問題を専門とする国家資格である社会保険労務士(以下、社労士)の存在を知り、「これが自分の進むべき道だ」と社労士試験への挑戦を決意した。
取捨選択の範囲を明確にし、効率的な学習で社労士試験に合格
受験を決意したのは4月。8月の試験までわずか4ヵ月という短い期間では準備が間に合わず、初めての受験はあえなく不合格となった。しかし「来年は絶対合格する!」と心に決め、TACの通信講座を利用し勉強を続けた。
「受験勉強で一番苦労したのはモチベーション管理です。社労士試験の9割は過去の出題をベースにした基本的な問題ですが、残り1割が曲者。誰も見たことがないような難問が出されるため、出題範囲もまったく予想がつきません。受験生の中には、こういった難問の対策に時間をかけすぎた結果、残り9割を犠牲にしてしまい、何年も合格できない状況に陥ってしまう人もいます。そこで私は、思い切って難問の対策には時間を割かないと決め、確実な合格ラインを狙う戦略を立てました。TACのテキストは、過去の試験問題の分析に基づいて、実際の試験を想定した作りになっていますので、安心して取り組むことができました」
他の受験指導校の模擬試験もすべて受験し、着々と実力を身につけていった吉田氏。日々の積み重ねが功を奏し、翌年には目標通り合格を果たした。
社労士法人での勤務経験を活かし念願の独立開業へ
試験に合格した翌年から、吉田氏は社労士としてのキャリアをスタートさせた。最初に勤務した社労士事務所では、社会保険の手続きや給与計算などの業務を中心に経験。その後、独立を見据えて労務コンサルティング業務を中心とする事務所に転職し、2021年に独立。社会保険労務士法人ONE HEARTを設立した。「ONE HEART」という名前には、一人ひとりのお客様や、一つひとつの仕事に心を尽くして向き合いたいという思いを込めたという。
「独立するにあたって、何を強みとするのかというビジョンは最初から明確に持っていました。それは、ITソリューションツールを活用した、効率的な労務管理業務の設計を行うことです」
実際、ONE HEARTでは、給与計算、勤怠管理、人事データ管理などにクラウドサービスを利用し、それぞれを連携させることで業務の自動化・効率化を可能にしている。
「社労士は人事・労務のプロフェッショナルとして、顧客から完璧な対応を求められます。また、私たちのミスが顧客である企業やそこで働く人たちに大きな影響を与えてしまうこともあります。
ミスのフォローにかかるコストや精神的負担も大きいので、品質管理は業務効率化をめざす上で、何より重要なポイントだと思いますね」
どれだけ優秀なスタッフ同士でダブルチェックをしたとしても、人間が携わる以上、ミスを完全に防ぐことは不可能だ。吉田氏は、マンパワーや精神論に頼らず、ITソリューションツールを活用しオペレーション自体の見直しを図ることで、そもそもミスが起こりにくいしくみを作ることをめざしたのだ。また導入するツールの選定においては、情報収集に加え、実際にそのツールを自分たちで徹底的に使い込んでみることで、自信を持って顧客に提案できるだけの知見を深めていったという。
ITソリューション×リモートワークで「日本一生産性の高い社労士事務所」へ
吉田氏は「日本一生産性の高い社労士事務所」を目標に掲げている。この目標を達成するため、前述のITソリューションツールの活用に加え、リモートワークも採用した。
「リモートワークは、オフィスの賃料を抑えることができ、経営面でのメリットが大きいです。一方で、ちょっとしたコミュニケーションが取りづらいといったデメリットも強調されがちですが、私はこれは逆にメリットであると考えています。『これちょっと教えてよ』という会話ができない以上、何かしらのツールを通じてやり取りを行うことになりますので、それらのログ(履歴)をストックしておくことができれば、それだけで立派な業務マニュアルになるからです。そのため、情報管理用のクラウドツールを活用するなど、ログを編集・ストックしやすいしくみ作りにも注力しています」
その他に経営で重視しているのは、自分たちが選んだITソリューションツールに特化するスタンスをぶれさせないことだという。
「私たちは、お客様の希望に合わせてアナログとデジタルを使い分けたり、複数のツールをいくつも併用したりすることはありません。幅広く対応できることで得られるものもありますが、高いクオリティを担保しながら生産性を高めるという意味では、特定のツールを極めることが最適解だと考えているからです。この姿勢を崩さないために、導入するツールや運用ルールに同意していただけるお客様とのみ契約をするようにしています」
どんな時代にも求められる資格を武器に顧客・自事務所を成長させていく
明確なビジョンのもと、統一されたツールを活用する。そうすればミスが起こりにくく、高いクオリティを保つことができ、顧客満足度を高められる。同時に、そのツールを使い込むことでスタッフは効率的にスキルを習得し、広く・深く業務に対応できるようになる。
ビジョンを明確化し徹底して実践することで、自分たちと顧客企業双方のメリットを創造し、成長のループを鮮やかに描いている社会保険労務士法人ONE HEART。これからはどこへ向かおうとしているのだろうか。
「今後は、より自信を持って自分たちのサービスを提供できるようにしていきたいと考えています。売上や従業員の規模を拡大することよりも、より洗練されたオペレーションを作り上げていくことが目標ですね。私たちのお客様はスタートアップ企業が多く、成長志向が強いのが特徴です。自分たちも成長することで、お客様の成長をより強力にサポートできるようになっていけたらと考えています」
最後に、これから資格をめざす人たちに向けてメッセージをいただいた。
「よく言われることですが、4大経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報のうち、最も重要と言われる『ヒト』を支える専門家が社労士です。たとえリーマンショックやコロナ禍のような社会的大変動があったとしても、それはダメージとなるだけでなく、労働にまつわる新しいニーズも生み出します。社労士が活躍できるフィールドは常に広がり続けているのです。私にとってそうだったように、社労士は、人生を変えるインパクトを持つ資格です。興味のある方は、ぜひチャレンジしてみてください。きっと、新しい未来の可能性が広がるはずですから」
[『TACNEWS』 2023年3月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]