LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #16

  
Profile

木村 祐太(きむら ゆうた)氏

司法書士行政書士事務所グレープリーガル 代表
司法書士・行政書士

1985年12月生まれ。東京都出身。法政大学法学部法律学科卒業。一般事務として働きながら資格取得の勉強に取り組み、2012年に行政書士試験に合格。その後、司法書士事務所や行政書士事務所で実務に携わるかたわら勉強を続け、2017年に司法書士試験に合格。2018年1月に司法書士・行政書士事務所「グレープリーガル」を開業。2020年1月から、Wセミナーの講師として講義を受け持つ予定。

【木村氏の経歴】

2010年(24歳) 独立への想いから、内定を得た会社を辞退し、大学卒業後、一般事務をしながら行政書士をめざす。
2012年(26歳) 1月、行政書士試験に合格。その後、さらなる強みを持つために、司法書士の資格取得をめざす。
2017年(31歳) 10月、司法書士試験に合格。独立に向けた準備を進める。東京・自由が丘の司法書士事務所に入所。
2018年(32歳) 1月、急きょ先代を引き継ぐかたちで、東京・自由が丘に司法書士行政書士事務所「グレープリーガル」を開業。

司法書士試験に合格して3ヵ月後、
予期せぬ事情で仕事を引き継いだ。
資格があったからこそ、今がある――。

 司法書士、行政書士として活躍する木村祐太氏は、独立してからまもなく2年目を迎える。しかしその独立は、予期せぬ事情で急きょ仕事を引き継ぐという、意外なかたちで実現した。多忙な中でも、確かな手腕と優しい人柄で窮地を乗り越え、現在は順調に事務所運営を続けている。
 「お客様が話しやすい、カフェのように居心地のよい事務所にしたい」と語る木村氏に、独立を志したきっかけ、仕事を引き継ぐことになった経緯、そして将来の夢をうかがった。

内定先を辞退して、資格取得を決意
行政書士、そして司法書士をめざすことに

 身近な人の影響が、人生を方向づけることがある。木村氏にとってのそれは祖父だった。彼が小学生の頃、独立への憧れを抱くきっかけとなる人だ。

「総合商社を退社して会社を立ち上げた祖父は、もちろん苦労もあったはずですが、バリバリ働いていて、幼心に楽しそうに見えました。私が将来、手に職をつけて独立したいと考えるようになったのは、そんな祖父の影響ですね。士業を志したのは、何の武器もなく独立開業できるほどの才能が自分にはないと思ったから。資格を取得して、安定して長く続けられる仕事をしたいと考えていました」

 将来への希望を胸に、進学先には法政大学法学部法律学科を選んだ。大学2年生に進級すると、興味のあった法律の知識を活かせる、行政書士を志すようになる。このとき、資格取得に向けた勉強に本腰を入れようと、TAC池袋校に通い始めたが、しばらくして挫折してしまう。

「資格取得に必要な学費は自分でなんとかしたいと思っていて、いくつかのアルバイトをしていたのですが、そちらのほうがおもしろくなってしまったからです。居酒屋スタッフや高層ビルの窓拭き、アミューズメント施設のホール担当などいろいろやっているうちに、勉強から離れてしまいました」

 そのまま資格取得の学習を再開することなく、大学3年生になると就職活動に取り組んだ。選考は順調に進み、ある不動産会社から内定を得ることができた。だが、木村氏の胸中にあったのは、独立への思いだった。

「独立のことを考えると、内定先の会社で忙しく働きながら勉強するのは難しいなと思いました。それならば、勉強時間をできるだけ確保して、資格取得や独立に備えたいと考え、内定先を辞退したのです。大学卒業後は一般事務のアルバイトとして働きながら、一度は挫折してしまった行政書士の勉強に再び向き合いました」

 決意を新たに、夢の実現をめざした木村氏は2012年1月、念願だった行政書士試験に合格した。そして、いよいよ独立へ……と考えていた矢先、司法書士などの士業として働く知り合いたちが「行政書士に加えてもうひとつ別の資格があれば、独立したときにさらに強みになるのでは」というアドバイスをしてくれた。その言葉をきっかけに木村氏が挑戦したのが、司法書士である。

「できるだけ早く独立したいという思いもあり、当初は社会保険労務士を目標としました。しかし実際に勉強してみると、細かい数字を覚えることが多く、私には向いていないな、と(笑)。そこで、司法書士に切り替えたのです。合格率約3%の狭き門となりますが、資格を取得すれば、裁判関係の仕事に携われるようになることにも興味がありました」

 司法書士の勉強にあたっては、Wセミナーの講座を利用した。すでに合格している行政書士と重なる科目があるため相乗効果を発揮したものの、覚える項目は少なくなかった。学習のポイントとなったのは、いつでも知識を引き出せるようにすることだった。

「Wセミナーの講座以外で活用したのが、早稲田経営出版から出されている『直前チェック』シリーズというテキストです。学習内容がコンパクトにまとめられているので使いやすく、重宝しました。学習中に気づいた重要な点も書き込んで利用しましたね。自分の言葉で書き留めておくと理解しやすいし、忘れにくくなり、効率的だと思います。また、問題を解くうえで気をつけていたのは、主語と述語をきちんと確認すること。法律は文章がややこしく、途中から何が主語かわからなくなりがちです。私の場合、主語には必ずマークをつけるようにしていましたね」

勉強のかたわら、司法書士業務に携わる
さまざまな実務経験が独立への礎を築いた

 法律知識の理解や習得と並行して、木村氏が不可欠だと考えたのが、実務経験だ。そこで2013年、知識の定着に手ごたえを感じるようになった27歳のときに、司法書士事務所への入所を決断する。

 司法書士の仕事は、基幹業務の不動産登記や商業登記をはじめ、近年増えている外国人のビザ申請、相続や成年後見など多岐にわたる。したがって、事務所によっても強みや特色が異なるため、木村氏は幅広く業務を学ぶ目的で1、2年ごとに事務所を移っていくことにした。

 最初は数人のスタッフを抱える小規模な事務所、次に数十人の中規模の事務所、そのあと一度だけ行政書士事務所で働いたのち、アルバイト・パート含めて百人近くを抱える大規模な事務所に勤務した。それぞれで学ぶことは多かったが、特に最初の事務所で教わったことが、司法書士としての礎となっている。

 「その事務所では、不動産登記や成年後見などに携わりました。所長をはじめ皆さんが、仕事を一から十まで丁寧に教えてくださり、ありがたかったです。初めから大きな事務所で働いていたら、司法書士業務の全体像が見えなかったと思います。所長とは独立した今もおつき合いが続き、仕事上の相談もさせていただいています」

 次の事務所では商業登記や裁判関係に、行政書士事務所ではビザ関係の仕事に取り組んだ。その後の事務所では不動産登記を担当するが、それだけでなく情報の管理やスタッフ教育の手法が勉強になったという。しかし一方では、仕事で多忙となり、試験の突破には時間がかかってしまった。当時をこう振り返る。

 「当初、試験を受けるのは30歳で最後にしようと思っていました。ところが結局、その年も残念な結果に……。落ち込みました。家族に報告すると、父親や祖母は、その年に亡くなった祖父が私の合格を楽しみに待っていた、という話をしてくれました。それを聞き、気持ちが落ち着くとともに背中を押された感じがして、もう1年だけ挑戦することにしたのです」

 自身の努力はもちろんだが、さまざまな人に支えられて手にしたのが、木村氏にとっての合格だった。
 「合格発表は2017年10月、仕事帰りの電車の中で、スマートフォンから確認しました。緊張で手が震え、誤操作で違うところを押してしまい、時間がかかったことを覚えています(笑)。合格がわかると、すぐに祖父のお墓参りに行きました。いい報告ができてよかったです」

顧客との対話、アフターケアを大切に
カフェのように居心地のよい事務所を

 こうして司法書士の資格を手にした木村氏は2017年11月、次の道を模索する中で、のちに仕事を引き継ぐことになる、東京・自由が丘の司法書士事務所と出会う。個人で営むこの事務所は所長が高齢で、後継者を募集していたのだ。  
 会いに行き話をしてみると、「3~4年後には仕事を引き継いでもらえたら」という希望だった。それを受けて、自分自身もまだ実務を通じて勉強したかったことや、引き継ぐことになってもある程度の準備期間が必要だと判断したことなどから、この事務所で働き始めるようになった。ところが、2018年の年が明けてすぐ、所長が倒れ、そのまま帰らぬ人になってしまった。入所してわずか2ヵ月のことだった。

 「仕事を依頼されるお客様が困るので、私が仕事を引き継ぐことになりました。やるしかない、という状況です。幸い、資料はすべてスキャンしてパソコンに保存してあったので、滞りなく業務を進められました。しかし、とにかく忙しい毎日。当時のことはあまり覚えていないくらいです」

 当面の仕事が落ち着いたのは、2018年3月だった。このタイミングで事務所を移転した。
 「お客様がついていましたので、電話番号が変わると困ると思って、これまでと同じ自由が丘エリアで移転先を探しました。結局、駅から近いアクセスのよさ、家賃との兼ね合いなどもあり、同じマンションの1階下の部屋になりましたが(笑)。事務所名の『グレープリーガル』は前々から決めていました。グレープ、つまりブドウが一房にたくさんの実をつけることからイメージして、関係者と力を合わせて問題解決にあたっていきたい――そんな願いを込めています」

 木村氏の場合、司法書士としての仕事がメインではあるが、行政書士の資格も持つため、本来ならそれぞれの専門家に持ち込まれる仕事も一手に引き受けられる強みを持つ。日頃は、金融機関や不動産関係の担当者、税理士を通じた仕事の依頼が多いが、もちろん個人からの相談もある。とりわけ、藁にもすがる思いで寄せられる依頼が、借金の問題だ。

 「例えば、借りていたお金の返済業務が時効で消滅しているにもかかわらず、請求され続けているケースがありました。私が裁判書類を作って対応し、お客様に『これで正式に時効消滅しました。もう返さなくても大丈夫ですよ』とお伝えしたときは、心から喜んでくださいました。最初は電話口で泣きながら依頼してきたお客様が、ひと通り終わったあとにお会いしたときには安心して、すっきりとした表情だったことが忘れられません」

 こういった依頼は、不動産登記や商業登記などに比べれば現状では少ないものの、本人は「自分が受けた仕事によって、依頼主の人生をよい方向に変えてあげられたときが、仕事をしていてよかったなと感じる瞬間です」と語る。そのため今後、さらに業務の幅を広げられるよう、簡裁訴訟代理等関係業務を引き受けられる「認定司法書士」の資格取得に向けて、挑戦を続けている。

 独立してからまもなく2年目を迎えるが、木村氏には夢がある。
 「お客様が話しやすい雰囲気を作りたいなと思っていて、理想はカフェのように居心地がよい事務所です。相談の内容によっては、お客様が委縮してしまい、なかなか話せないことがあります。士業といえどもサービス業ですから、そうした工夫で、親身になって話をうかがえるようにしたいです。ほかにも、ご縁のあったお客様には、負担のないものであればその後も気軽に相談にのるなど、アフターケアにも力を入れたい。長く仕事を続けたいので、背伸びをせずに、事務所も少しずつ大きくしていけたらいいですね」

 穏やかにそう話す彼は「仕事を終え、『ありがとう』と言ってもらえることが最もうれしい」と笑顔を見せる。独立の夢を叶え、今の仕事にやりがいを感じている木村氏にとって、資格とはどんな存在だったか――。「人生の選択肢を増やすものでした。資格を得たことで、できることが増え、出会えなかったような人たちとも知り合えました。その出会いが自分の価値観を広げ、そして今があるのだと思います。祖父は生前、それまでに受けてきた恩を、自分にできるかたちで社会に返していかなければいけない、という話をよくしていました。今、自分にできること――有資格者でなければできないこの仕事を通じ、社会や、困っている人の力になれたらなと思います」

[TACNEWS 2019年12月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]

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