プロが教える!第11回 不動産編 東京五輪・大阪万博・宅建士・地価の四位一体研究

  

◆オリンピックの夢を、ふたたび

 2013年9月7日、ブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の総会で、2020年の第32回夏季オリンピック競技大会の開催都市に東京が選ばれました。
 選手村の用地面積は44ヘクタール。敷地に陸上トラックやプール、テニスコート等を備え、海沿いにジョギングコースも設置されます。部屋から東京湾の景色も堪能できるように設計されます。きれいな夜景を観れば、選手は競技や練習の疲れを癒すことができるでしょう。部屋からメーン食堂やバスターミナルに徒歩6分以内で到着できます。温室効果ガス削減のため、電気自動車や太陽光発電も採用されます。豊洲の魚市場の屋上庭園から眺めると、東京2020選手村が着々と建築されていますが、五輪後選手村の建物は改修され、分譲マンション・賃貸マンションとして一般の人々に利用されることが予定されています(都市開発プロジェクト「HARUMI FLAG」)。五輪をステップ台として、①コンパクトシティの達成・②住宅不足解消・③地球温暖化対策・防災対策・雇用対策がなされるため経済効果が大きいのです。宅地建物取引業・建設業の未来図を東京五輪・大阪万博計画を検証しながら、探っていきましょう。

◆東京五輪・大阪万博・地価の連動性

 東京五輪・大阪万博、宅地建物取引士資格試験(以下、宅建士試験と略す)及び地価の動きを考察し、関連性を分析してみましょう。
 宅建士試験は、昭和33年に宅地建物取引員試験としてスタートしました。初年度こそ3万人の人が受験しましたが、2年目は3分の1の受験者数に激減しました。そこに、東京五輪開催決定です。(図表1)を見てください。東京五輪決定から東京五輪開催年までに実に受験者数が3倍以上となり、合格率は90%台から20%台へと急降下しました。
 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と言われるように、今、世の中で発生していることを分析するには、歴史を辿ることが一番です。右記昭和33年からの出来事を紐解いて、経済を振り返っていきたいと思います。

 東京五輪翌年の昭和40年に、受験者数が約40%も減少したのは、五輪景気は終了し、「40年不況」に陥ったということもありますが、この年より問題数が30問から40問に増加したことも大きな原因です。ところで、東京五輪に向け整備された東海道新幹線・首都高速・下水道・マンション…日本の技術を世界中から集まったお客さんにアピールしたわが国は、6年後の昭和45年に再び世界の脚光を浴びることになります。日本万国博覧会(EXPO’70)です。大阪吹田の千里丘陵で開催されたこのイベントでは、動く歩道・テレビ電話・ロボット・太陽の塔等が話題となりました。宅建試験は8万人台の受験者数となりました。東京五輪及び大阪万博は共に土木・建築・不動産業界を中心として経済効果が大きく、それと連動して宅建試験受験者数は増加したのです。すなわち、宅建受験者数は、一つの経済指標である、と私は考えています。昭和45年には、地価公示がスタートし、最高価格は銀座5丁目の220万円でした。日本一地価の高い地区は銀座と言われ、地価が上昇または下降するときは銀座から始まり全国に波及すると主張する学者もいます。(図表1)の平成21年以降を見てください。リーマン・ショックの翌年からさっそく地価が下がっていますよね。でも、東京五輪決定の翌年から再び上昇に転じています。世の中の出来事と地価をリンクさせてみるって楽しいでしょ?
 2018年11月23日、博覧会国際事務局(BIE)は、パリで開いた総会で大阪開催を決定しました。テーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」。会場は、大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)です(図表2・3参照)。ロボットによる会場案内・ドローンによる来場者の荷物運搬等が予定され、経済効果は2兆円と見積もられています。

 関東は元気ですが、関西は元気とは言えません。しかし、G20大阪サミット・ラクビーW杯・大阪万博によるホテル・マンション・鉄道等のインフラ整備計画が進みつつあります。宅地建物取引士の役割もさらに重要性を増してくると期待しています。
 「プロが教える!」シリーズの不動産編は今回が最終回です。お読みいただきありがとうございました。

[TACNEWS 2019年4月号|連載|プロが教える!]

Profile

相川 眞一 (あいかわ しんいち)

宅地建物取引士・マンション管理士・管理業務主任者。
大学1年時より資格の学校の講師を始め、TAC・大学・企業・官公庁等を合わせた講師生活は、今年で40周年を迎える(TACでは、宅建士まるかじり本科生を担当)。2016年4月に、大阪学院大学経済学部准教授に就任。専門は、不動産学・都市経済論。日本地方自治研究学会所属。不動産学の立場から、地方創生・防災・まちづくり・税制のあり方等を研究。2019年9月の同学会全国大会で、コーディネーターを務める。

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