プロが教える!第10回 お金編 将来もらえる年金の話
ファイナンシャル・プランナー(FP)は、お金に関する幅広い知識に基づいて暮らしや家計についての相談に応え、相談者の夢や目標の実現をサポートする専門家です。今回は、年金をテーマにお話しします。
◆人生100年時代には年金が頼り?
人生100年時代と言われるように、日本はますます長寿社会となっていくことが想定されています。長生きリスクという言葉も聞かれますが、長期化するリタイア後の生活に経済的な不安を持つ人も少なくないと思います。
さて、リタイア後の生活を支えるのは現役時代の貯蓄と年金ですが、長生きしたときに頼りになるのは年金です。長生きすればするほど減っていく貯蓄に対して、年金は生きている限り2ヵ月ごとに振り込まれ、最低限の生活を支えてくれるでしょう。
とは言え、多くの人は自分が将来もらえる年金額について漠然としたイメージしかもっていないのではないでしょうか。そこで、将来の年金額を推定するための方法をお伝えしたいと思います。
◆ねんきん定期便
毎年誕生日前後に日本年金機構から届く「ねんきん定期便」は、将来もらえる年金額の参考となる資料です。受け取り時の年齢によって記載内容が異なり、50歳未満の人に届くねんきん定期便には、これまでの年金加入実績を基にした年金額が記載されています。ただ、これはあくまでも現時点までの加入実績に基づく金額となりますので、若い人ほど実際にもらえる年金額よりも少ない金額となっています(1年しか加入していなければ、1年分の保険料に対応した金額しか反映されていません)。
一方、50歳以上の人に届くねんきん定期便には、これまでの加入実績に加えて、現在の状況のまま60歳まで加入し続けた場合にもらえる年金の見込額が記載されており、こちらは実際にもらえる金額に近くなっています。ただし、厚生年金については、60歳以降も雇用を継続し厚生年金に加入した場合や、一定の時期をピークに給与が減少した場合など、将来の状況によって年金額が増減しますので、あくまでも参考までに見ておくのがよいでしょう。
◆ねんきんネットを活用しよう
50歳未満の人が実際に近い年金見込額を確認したい場合や、50歳以上の人であっても60歳以降の年金加入や給与水準の変動などを考慮した年金見込額をシミュレーションしたい場合には「ねんきんネット」を活用するとよいでしょう。ねんきんネットは、ねんきん定期便と同じく日本年金機構が実施しているサービスで、インターネットを通じて自分の年金の情報を確認することができます。ねんきんネットでは、50歳未満の人でも、今後の年金加入状況を想定して将来受け取る年金額を試算することが可能です。 例えば、55歳までは現在の給与水準で働き続け、55歳以降60歳までは現在の80%の給与水準となり、60歳以降65歳までは現在の50%の給与水準で再雇用により働くといった場合にもらえる年金額のシミュレーションを行うことができます。また、年金額や報酬額が高い人の場合、年金額が一部(または全額)カットされることがありますが、これを反映した金額が計算されます。さらに、年金は本来の支給開始年齢よりも早く受け取ったり(年金額は減少)、遅く受け取ったり(年金額は増加)することができますが、これも試算額に反映されます。そのため、細かく設定すれば、実際にもらえる年金額に近い金額を確認することができます。
年金見込額の試算だけでなく、過去の年金記録の確認もいつでも行うことができ、たいへん便利なねんきんネットですが、ねんきんネットのユーザID発行件数は500万件超と、伸びてきてはいるもののまだまだ利用者数は少ない状況です。利用には一定の登録手続きが必要となりますが、ねんきん定期便が届いてから3ヵ月以内であれば、ねんきん定期便に記載の「アクセスキー」を用いて簡単に利用開始することができます。
◆長生きリスクに備える
ねんきんネットを活用すれば将来の年金額をある程度見積もることができますが、思っていたよりも少ないと感じる人も多いかと思います。現在は高い報酬を得ている人であっても、20代の頃は低い報酬の時期もあったでしょうから、加入期間全体の報酬額を平均したものを基に計算される年金額は、現在の報酬水準からイメージする金額よりも少なく感じるのかもしれません。また、厚生年金の加入者が納める保険料には上限があるため、高い報酬を得ている人であっても、上限を超えた分については年金額に反映されません。 話を冒頭に戻すと、年金が頼りになるとは言っても、リタイア後の生活を支えるためには、公的年金だけでは心もとないという場合が多いでしょう。長生きリスクに備えることを考えると、年金の繰下げ受給や、就業期間の延長、iDeCo(確定拠出年金)などを活用した金融資産の確保などが考えられます。年金の繰下げ受給は、本来65歳からの受け取り開始時期を70歳まで遅らせることで、年金額を最大42%増額することができます。また、iDeCoは現役時代に老後資金を積み立てる制度で、拠出時に税金の優遇を受けられます(当コラム第4回参照)。70歳まで遅らせた年金受け取り開始までの期間、就労による収入や、積み立てた金融資産の運用などによって生活することができれば、増額された年金を生きている限り受け取り続けることができるため、長生きリスクへの不安を軽減することができます。それに加えて、iDeCoの受け取り方法を終身年金とする、民間の終身年金保険を活用する、家賃収入の得られる不動産へ投資するなどして、終身にわたって受け取れるキャッシュフローを確保することが長生きリスクに備えるコツと言えるでしょう。
ただ、年金の繰下げ受給や終身年金保険などを活用する場合、長生きしなかった場合に損をしてしまうと感じ、利用をためらう人も少なくありません。だれしも損をすることには抵抗が大きいためその気持ちはわかりますが、極端な見方をすると、(遺族へ残すということを考えなければ)亡くなってしまえば損も得もなく、生きている間に生活費が足らずに苦労するというリスクにどう対処するかという観点で考えることが必要です。長生きできないことは残念なことではありますが、お金が足りているうちに人生を終えられるというのはある意味幸せなことかもしれません。もちろん、長生きしたときのことばかり考えすぎて、年金の繰下げや終身年金保険料の払込みによって当面の生活が苦しくなってしまうのは本末転倒です。また、遺族の生活費を考慮する場合は少し違った対策となってくることもあるでしょう。いずれにしても、これまでよりも長期化する可能性のあるリタイア後の人生を充実して過ごすためには、しっかりとプランニングを行いバランスのよい対策を早めに進めることが大切です。
FPで学ぶ知識を活用すれば、リタイア後の収入や社会保険料などの支出について把握できるようになり、iDeCoやNISAを活用した積立貯蓄、終身年金保険の活用など、将来に備えてどのような準備を行うべきか判断していくことができます。将来に漠然とした不安を感じているのでしたら、FPを学んで早めの対策を始めてみませんか。
[TACNEWS 2019年3月号|連載|プロが教える!]
FP講座 松田 大
CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー。 FP講座の責任者として日々、試験対策講座の企画・運営に従事。できるだけ多くの人に少しでも早くお金の勉強を始めてもらうべく、マネー知識の必要性を声を「大」にして喧伝中。
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