タックス ファンタスティック! 第79回テーマ 母がいなければ事業承継もママならない?Part2

田久巣会計事務所の代表の田久巣だ。前回のテーマでは、母が事業承継の成功に果たす重要な役割について語った。今回はさらに山崎豊子の『女系家族』を取り上げて、母親がいない場合、家族がどのように混乱し、相続が揉めるかを考えてみたい。この小説は母を失った家族の悲劇を描いており、現実の相続・事業承継にも多くの示唆を与えてくれるからだ。
監 子 あー、今日の相続税申告の案件、ほんと疲れた~!遺産分割ですごいモメたのよ。
税 太 え、なんでそんなにモメちゃったんですか?
監 子 お母さんが先に亡くなってしまったのよ。今回はお父さんの相続。
税 太 え、それって答えになっていますか? 二次相続は対等な立場の子どもだけで分割することになるので、モメやすいのは知っていますけど。
監 子 あら、税太君まだまだね。襟糸先輩、解説プリーズ!
襟 糸 実に雑なスルーパスだ。まあいい。税太君、小説の『女系家族』は知っているか?
税 太 『ニョケイカゾク 』…? ニョケイカって種類のイカを食べる人種ですか?
監 子 税太君、キャラになくボケてきたわね。ははーん、ここ数回登場してきて見事なダジャレを放つAI税太君に対抗しているわね。でも結構それは苦しいボケね。
税 太 そんな腹の中まで読まれるなんて。なんだか子どものときにいたずらして自分の「母親」に手の内を読まれた気分です。
襟 糸 まさにそれだよそれ! ヒントは「母親」だ。山崎豊子の『女系家族』では、母親が亡くなって数年後に父親が亡くなる。しかも老舗の女系の家族だったこともあり、母親がいなくなったことで家族の中心を失ってしまった。そんな状態で父親が亡くなったために、父親の遺産を巡って姉妹たちが争うことになったんだ。
監 子 本当にリアルな相続争いを描いているわよね。母親がすでに亡くなっていたことで、家族をまとめる人がいなくなっちゃったのよね。
襟 糸 そうだな。父親が亡くなったあと、姉妹たちがそれぞれの立場で意見をぶつけ合う。母親がいれば、その場を取りまとめて、冷静に話し合いを進められた可能性が高い。
税 太 なるほど…。母親がいなくなったことで、家族のバランスが崩れちゃうケースがあるんですね。
田久巣 (横から登場)その通りだ、税太君。母親は家族の「調整役」として非常に重要だ。子どもの頃、兄弟げんかをしていたらお母さんが諫めてくれた…という記憶がある人も多いだろう。特に相続や事業承継では、父親が目立つように見えて母親が父親の通訳のような立場となって、実質的に中心的に意見をまとめることも多いからね。
監 子 先生もそう思います?
田久巣 もちろんだ。母親がいると、家族間での感情的な対立が起こりにくくなるように感じる。『女系家族』のような話はフィクションに見えるけれど、現実でも同じことが起こりうるんだ。
襟 糸 確かに。感情的になった姉妹たちの間に入れる母親がいれば、対立を防げた可能性が高いですね。
税 太 士業として何かできることはありますか?
田久巣 もちろんだ。まず、母親が健在なうちに家族全員が話し合いをする場を設けることだな。母親を中心に、全員が納得する形で遺産分割の方針や事業承継の計画を立てる。それに加えて、士業が第三者として客観的に関わることで、感情のもつれを防ぐこともできる。
監 子 なるほどね~。でも、母親がいない場合はどうすればいいんですか?
田久巣 その場合は、士業が「母親的な役割」を果たす必要もあるな。家族間の調整を丁寧に行い、感情面にも配慮しながら進めることが大切だよ。
AI税太 (横から)私 AI税太もお役に立ちます! 感情を無にして、冷静に議論を進めるお手伝いが可能です! 「冷静」さで相続における「劣勢」さをなくします!
税 太 いやAI税太、そこは「母親的な温かさ」もうまい具合に必要なんだよ(笑)。
襟 糸 フフフ、AI税太はまだ「母の愛」はプログラムできていないな。でも冷静と劣勢のダジャレはさっきの税太君のイカのダジャレよりかはイカすぞ。
監 子 いやいやいや、そのダジャレ言うのはほんとイカさないって!(笑)
【今回のポイント】

母親の存在が家族の調和を保つカギとなることは、文学でも現実でも共通している。『女系家族』のようなケースを防ぐためには、士業が母親代わりに間に入って家族間のコミュニケーションを円滑にする役割を果たすことが大切だろう。母の愛と士業の知恵が組み合わさることで、より良い未来を築き、将来にイカしてくれるだろう!
[『TACNEWS』タックス ファンタスティック!|2025年2月|連載 ]
筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)
1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学・同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人等で会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後相続専門約60年の税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」、2024年に士業のためのSNS「サムシナ」をリリース。主な著書『相続でモメる人、モメない人』(2023年、講談社/日刊現代)。2023年、YouTubeチャンネル「相続と文学」配信開始。
