タックス ファンタスティック! 第76回テーマ 士業は結局アナログなのかデジタルなのか?

田久巣会計事務所の代表の田久巣だ。士業の仕事はまだまだアナログであり、だからこそデジタル化をすべきだと言われる。確かにそれに対して納得する人は士業も士業以外も多いだろう。でも、この常識を一度疑ってみるとどうだろう?つまり、士業はデジタルすぎるのでアナログ化すべき、と考える人がいたらどうするだろう?


監 子 ひいふうみいよう。


税 太 監子さん、先月と同じセリフですけど、いきなりどうしたんですか?また先月と同様に合コンが重なっちゃったんですか?しかも4つ!?


監 子 フフフ、おぬしも野暮やのう。ってちがうわよ!監査してるの!


襟 糸 監子君、その「フフフ」というのは私の専売特許の言い回しだ。そして、そのノリツッコミは時代遅れなので若い税太君には勘弁してくれ。


監 子 いやいやいや、普通そこじゃなくて「監査してるの!」のほうにツッコむでしょ!このデジタル化社会に「ひいふうみいよう」って数えているのよ!「1・2・3・4」じゃなく!


税 太 あ、確かに。監子さん、もしかして疲れてます?


監 子 そう、めっちゃ疲れてる!オンライン合コンもマッチングアプリも私の良さがわからない人ばかりでうまくいかないし、減価償却費の推定値計算もなぜかうまくいかないし、ZOOMでのデューディリミーティングもうまく資料そろわないし、電卓をそもそも使うのつかれちゃって、指で、日本語で数えたくなっちゃったのよ。


襟 糸 Why Japanese People!?


税 太 あ、あの、襟糸先輩こそ時代遅れじゃあ…。とはいえ、たしかに襟糸先輩の反応の通り、普通反対ですよね。監査だけでなく税務も結構デジタルツールが出てきたとはいえ、まだまだ非効率な部分が多くてアナログだと思うんです。でも監子先輩は普段仕事がデジタルすぎて疲れちゃっている。アナログに戻りたいんですか?


監 子 うーん、いやデジタルの良さはわかるし救われている部分もあるよ。生成AIは感情にも配慮してくれるし、めっちゃ優秀だし。でも恋愛体質は抜きにして、なんだか人肌さみしくなるのよね。秋なのかなぁ。


税 太 あ、それめっちゃわかります。デジタル化って効率性を上げる合理的な手段だけど、人の感情とか数字で表しにくい部分を削ぎ落としてしまいがちな側面もありますよね。前職のSEのときは今よりもデジタルにまみれていましたが、仕事がすごいはかどったのは、職場で仲の良い同僚と一緒にランチして、夜遅くまで飲んで、終電逃して寮に泊まらせてもらって…。みたいな経済合理性と反対の行動している時期だったからかも。士業はお堅めな仕事の性質上、実はデジタルすぎてしまうのかもしれません。


襟 糸 そう言われればそうかもな。相続もアナログな面が多いと思っていたが、反対かもしれない。遺産分割なども数字のシミュレーションを一生懸命やりすぎて感情を害してしまいがちだが、そのときは思考がデジタルすぎるのが原因だったりする。


監 子 そうでしょ?だから監査で数を数えるときくらい「ひいふうみいよう」でいいんじゃないかとも思うのよ。よく聞くと「皮膚見よ」に聞こえるでしょ?人肌恋しいだけに(笑)。

【今回のポイント】

士業の仕事は手作業が多い。もちろん大手監査法人や税理士法人では、しくみ化されていてシステム投資も大きいし優秀なSEも多く、ノウハウもあるので自動化もある。しかし、業界的に大手はごく一部で、大多数は独立した個人事務所が多く、年齢的にも高い。そのためマニュアルベース、アナログな印象がぬぐえない。そこで近年は、デジタル化をめざしてクラウド会計やRPA、そして、直近では生成AIが人気となった。士業の業務のデジタル化は歓迎されるべきで私もまったく異論はない。しかし、そもそも士業の現在の仕事は世間で言われるほど本当にアナログかといわれると反論したくなるのだ。監査は監子君が言う通りロジカルな計算や考え方に満ち溢れているし、税務も数字が細かくデジタル思考を本当によく使う。官公庁や大企業ではセキュリティリスクを恐れて使えないような市販のデジタルアプリも柔軟に使う機会が多く、世間の波にも乗れていることが多い。デジタルデトックスというほどではないが、アナログが必要な局面もなかろうか?というのが今回の議題だったわけである。
ちなみに作者の天野さんもデジタルサービスを打ち出す人ではあるものの、休日はこどもと公園や人形で遊び、文学を紙の書物で読むのが好きな模様だ。


[『TACNEWS』タックス ファンタスティック!|2024年11月|連載 ]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学・同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人等で会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後相続専門約60年の税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」、2024年に士業のためのSNS「サムシナ」をリリース。主な著書『相続でモメる人、モメない人』(2023年、講談社/日刊現代)。2023年、YouTubeチャンネル「相続と文学」配信開始。

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