タックス ファンタスティック! 第74回テーマ キーパーソンは「お母さん」?

田久巣会計事務所の代表の田久巣だ。試験シーズンが終わり、士業事務所に勤めている方は息抜きをしつつも、仕事モードに戻って挽回する時期だろう。そんなとき顧客との関係が少し離れてしまっていたりすると厄介だ。いい関係を作ることはビジネスにおいて大事だが、キーパーソンを忘れてはならない。キーパーソン、それが意外や意外、「お母さん」なのかもしれない、というのが今回のテーマだ。


税 太 監子さん!ニコニコ。


監 子 え、税太君、ニコニコって口に出して言うからにはひょっとして!


税 太 そうなんです。試験のことなんですけど。


監 子 そっかぁ~。心配してたのよ。この連載でも再三アドバイスしていたし。手ごたえがあってよかったね!


税 太 いえ、逆です。全然だめだったんです。ニコニコ。


監 子 いやいやいや、ニコニコする意味わかんないし。それなら逆でシクシクでしょ!


税 太 もうわかったんです。試験は向いてないって。だから仕事がんばります!そう割り切れるようになるとニコニコって言いたくなるんです。


襟 糸 税太君、偉いぞ。勉強や資格はこの襟糸に任せて思う存分仕事をしてくれたまえ。


監 子 そういえば襟糸先輩は勉強は得意ですけど、肝心の仕事は顧客対応がまずくて税太君よりできないですもんね。


襟 糸 ぬぬぬ。監子君、言うねぇ…。じゃあ聞くが吾輩の顧客対応のどこが悪い?


監 子 だってこの間の相続税申告、クレームもらっちゃって田久巣先生に謝ってもらってたじゃないですか。


襟 糸 ぬぬぬ。監子君、言うねぇ…。おい、税太君、試験前の休みのあと一発目の仕事だ。モメ案件の相続。相続人はお母さんとお子さん2人。お子さんたちが相続財産の収益性が高い土地を巡ってもめているんだ。お子さんの1人から「あなたはもう1人のほうの肩を持っている」って言われているんだ。さぁ、このクレーム案件どう挽回する?


税 太 あ、それなら簡単です。相続人にお母さんがいるならキーパーソンは「お母さん」ですよ。なのでまず、お母さんに会いに行きます。


襟 糸 ほほぉ、お母さんに注目か、なるほど。それでどうする?


税 太 その収益性が高い土地をお母さんが取得するのものひとつですよ、とお母さんに提案してみます。


襟 糸 ぬぬぬぬぬ。そうすると相続財産のうちほとんど全部が配偶者に寄ってしまうぞ。


監 子 そうよ、税太君、試験でできないっていうのはそういうとこじゃない?配偶者に財産を寄せてしまうと二次相続のとき税金がかかりすぎて困っちゃうじゃない。


税 太 おふたりとも税金に囚われすぎです。二次相続のときは結局、経済状況や家族状況がどうなっているかわからないじゃないですか。お母さんも専業主婦なら今後の生活が不安ですし。そして何よりお母さんは偉大ですし。


襟 糸 なぜ偉大なんだ?


税 太 いつも家にいるからお子さんのタイプもお財布事情も何でも知っているんです。コミュ力もめちゃくちゃ高いですし。そんなお母さんに財産を取得してもらっておくのはとても理に適っています。なにせうちの妻がそうなんです。普段おとなしいんですが、子どもがおもちゃをめぐって喧嘩すると「あんたたち、いい加減にしなさい!このおもちゃはお母さんがもらっておくわ!」という一喝でシュンとなります。


監 子 あ、それすごいわかる!お母さんって、ここぞってときにすごい判断してくれるし。子どもが高熱出して病院に連れていくか、外で感染するかもしれないからまずは自宅で市販の熱冷ましの薬飲ませるか、とか日常でいつもムズい判断しているもんね。「母」だけに「マザマザ」と感じるわ!

【今回のポイント】

「母はキーパーソン」、というのは相続実務をやっている方やファミリービジネスの顧問や事業承継を携わっている方には実感することだろう。何を隠そう、作者の天野大輔さんもレガシィを承継していくにあたり「母」がかなりキーだったという。文学とかSEの道で究めようとしていたところを、事業承継のためにこの業界に資格を取得したうえで入ってみないかと誘ったのも「母」だったとのことだ。試験前の休みで顧客との関係が途絶えてしまった際も結局最初に話をしていくのは先方の「母」だろう。ファミリービジネスの顧問先であれば「母」が会社の総務経理人事を担当することも多いからだ。まず「母」とコミュニケーションを取って信頼を取り戻し、「母」だけに家族にしっかり「マザ」ろうではないか。


[『TACNEWS』タックス ファンタスティック!|2024年9月|連載 ]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学・同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人等で会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後相続専門約60年の税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」、2024年に士業のためのSNS「サムシナ」をリリース。主な著書『相続でモメる人、モメない人』(2023年、講談社/日刊現代)。2023年、YouTubeチャンネル「相続と文学」配信開始。

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