タックス ファンタスティック! 第69回テーマ 仕事を自分より不得意な人に手伝ってもらうのは正解か?
田久巣会計事務所の代表の田久巣だ。この時期は、3月決算の企業が多いため公認会計士も税理士も繁忙期。仕事が多いと猫の手も借りたいが、実際猫だと仕事がはかどらずに困る、という声もよく聞く。しかし、士業は実際のところ人手不足。高度スキル人材をそろえるという贅沢なことも言えない。AIで乗り切るにも使いこなすスキルが必要。さて、仕事が溢れそうなときは、人に手伝ってもらうのか?自分でやるのか?
税 太 『仏の顔も三度まで!』
監 子 税太君、前回と同じことわざを持ち出してどうしたの?編集者さんは前回と同じ連載だと思って混同するからそういうのやめてほしいと思っているはずよ!
税 太 あ、監子さんも編集のなわこさんもごめんなさい。繁忙期があまりにも忙しすぎてつい前回叫んだことわざがまた出てしまいました。去年よりも格段に仕事量が重くなっている気がして。
監 子 あら、そうなの?私は年々軽くなっている気がするんだけど。ラ~ララ~♪
襟 糸 フフフ。軽くなっているのは仕事量じゃなくて脳みそじゃないのか?
監 子 あ、その発言は今の時代、「仏の顔」が通用しないやつで一発レッドカード!
税 太 なんで監子さんは仕事量が軽くなるんですか?日本全体で見ても仕事量は多くなっているのに労働力人口は不足しています。普通は忙しくなるはずです。
監 子 それは簡単。人に手伝ってもらっているから。たとえばそう、税太君に。
税 太 あ、その発言は今の時代、「仏の顔」が通用しないやつで一発レッドカードです!僕が一番下っ端だからって弱いものいじめです!
監 子 いやいや税太君。よく考えてみなさいよ。読者はだいぶ昔過ぎて忘れていると思うけど、あなたを手伝ってくれる人としてアルバイトの簿記美ちゃんがいるじゃないの。
税 太 そうですけど、簿記美ちゃんには僕のやっている仕事は任せられないです!
監 子 あら、言うわね。簿記美ちゃんは簿記が得意よ。
税 太 そうですけど、僕のほうが税理士試験の簿記論に受かっていて詳しいので、僕は負けてません。システム面も僕のほうが得意ですし、自分でやったほうが早いんですよ。
監 子 気持ちはわかるけど本当にそれでいいのかなぁ。退場した襟糸先輩、重い脳みそで反論プリーズ!
襟 糸 フフフ、監子君、君はどうやらいい意味であえて脳みそを軽くしたようだな。むしろ賢い。税太君、監子君の言う通りだ。簿記美ちゃんに簿記の仕事を今すぐ任せたまえ。
税 太 何でですか?簿記美ちゃんの中では簿記が得意なのはわかります。でも僕のほうが得意なんですよ!
襟 糸 フフフ、まさにそれは『比較優位』というやつだ。リカードという今から約200年前のイギリスの経済学者が「国際貿易の考え方」として唱えている。何でも輸出するのではなく「自国の中でマシなほう」を選んで輸出し、その他は輸入するというように分業をすると両国とも得ができるというもので、長年の歴史で正しいとされている考え方なんだ。税太君のほうが簿記の知識が多かったとしても、簿記の仕事まで自分でやって税太君が自分の中で一番得意なシステム関連の仕事ができなくなったらどうだろう?一番得意なことは税太君がやったほうがいいんだ。
税 太 なるほど!単体でみて得意だからとやってはいけないんですね。確かに監子さんは監査が一番得意だから監査の仕事は僕に渡さず、システム関連の仕事を僕に任せますもんね。
監 子 その通り、システム関連は私だって別に不得意じゃないけど、自分の仕事の能率を落としたくないからあえて渡しているのよ。
襟 糸 フフフ、吾輩だって本当はダジャレが得意なのだが、いつもこの連載で監子君にダジャレを言わせてあげているのは監子君のあらゆるスキルの中でダジャレが一番マシだからだ。
監 子 あ、その発言は今の時代、「仏の顔」が通用しないやつで一発リカード!
税 太 あ、全然マシじゃない(笑)
【今回のポイント】
今回のテーマ、実は第45回でも取り上げた分業の話だ。他の仕事でもそうだと思うが、士業も仕事が溢れやすいと言われている。というのも、いくらシステム導入が進んだとはいえ、まだまだ労働集約型産業であり、人の力(労働力)で事業が成り立っているからだ。そのため基本的に「分業化」が、仕事が溢れないためのキーワードとなる。しかし、得てして職人は人に任せたくないもの。士業には職人気質が多い。従って分業が進まない。しかし、このデヴィッド・リカードの「比較優位論」(各個人が自身の中で最も優位な分野に特化集中しあって仕事を交換すれば得をする)をしっかり理解できれば、自分より不得意な人でも分業したくなるはずだ、ただし交換する人が自分の中でそれが得意であればだが。監子君のように感覚的にわかる人もいたりする。体験のために一時期いろいろな仕事をやるのならいいが、普段はしっかり分業して仕事を早く終わらせてウェルビーイングをめざしていこうじゃないか。
[『TACNEWS』タックス ファンタスティック!|2024年4月|連載 ]
筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)
1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学・同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人等で会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後相続専門約60年の税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『相続でモメる人、モメない人』(2023年、講談社/日刊現代)。2023年、YouTubeチャンネル「相続と文学」配信開始。