タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第62回テーマ AIは士業の敵か味方か、それとも?
税 太 監子さん、やっと税理士試験が終わりました!でも、ちょっと気になっていて。
監 子 税太くんお疲れさま!気持ち、わかるわ。終わった直後は充実していても、時間が経つと間違えた問題が気になるものよね。
税 太 違うんです監子さん。実は「愛」が気になっていて。
監 子 えっ、まさか、浮気?それはゼッタイダメよ!…って、なんかこのセリフ数ヵ月一緒のような…。
襟 糸 監子君。税太君だって一人の伊達な男なんだ。浮気の1つや2つ、大目に見たまえ。ん?この吾輩のセリフも数ヵ月一緒のような…。
税 太 めんなさい!今回は「あえて」の発言でした!気になっているのは「愛」ではなく「AI」です。
監 子 あら、税太君らしくないことして!でも、たまには普段しないことをするのが人間のいいところよね。AIは定型パターンが得意だから、こうはいかないわ。
襟 糸 たしかに。でも人間である吾輩や監子君にも、数ヵ月続けて同じセリフを言ってしまうというワンパターンなところはある。結局人間も、AIと同等の反応しかできないのではあるまいか?いや、実はAIのほうが「優秀」で「エリート」なのではないか?そうすると吾輩は名前負けだ!
田久巣 お、襟糸君、珍しくしおらしいじゃないか。
監 子 襟糸先輩も人間ですからね。AIだとこうはいかないように思うのだけど。
田久巣 監子さん、「こうはいかない」を連発しているが、AIの限界を勝手に決めつけてはいないかな?機械学習の優秀さを知っているだろう?AIが論理的なものだけでなく、非論理的なこと、たとえば突発的な感情だったり突拍子もないことを言ったりすることも学んだとしたら、どうだろう?
監 子 そう言われてみれば、たしかに今後、非論理的なことができるAIも出てくるかもしれないわね。私、もしかしてAIの可能性を甘く見過ぎているのかしら?
田久巣 うん、そうかもしれないね。AIにはこれしかできないから限定利用していこう、逆に優秀すぎて自分たちの立場を脅かすから一定以上は利用しないようにしよう――。なんだかどちらも「AIは人間とは違うもの」と差別しているような気がするな。
税 太 なるほど。僕も思い当たる節があります。この間襟糸先輩とお客様の相続税申告のお手伝いにうかがったのですが、遺産分割の話になってお客様が感情を露わにしてらっしゃったんです。丁寧にその感情に寄り添って事なきを得て、帰り道に2人で「こういう仕事は人間にしかできないね」と話していたのですが、それも「AIには人の感情に寄り添うことはできない」という決めつけだったかもしれません。
田久巣 そう。AIもいつの日か、たとえばオフィスのデスクに並んで座り、同じ目標に向かって一緒に助け合う仲間になったりするんだと思うな。意味もなく機嫌が悪くなったり、失敗を笑ってくれて一緒に飲みに行ってくれたりするという意味も含めてね。そうなればもちろん自分と違う考えを持つAIも現れるんだと思う。AIを「敵か味方か」だけでは語れなくなるだろう。個人的には、人口統計でも男女だけでなくAIもカウントされる日がくるんじゃないかと思っている。
税 太 そんな未来が来たら、AIもいずれ相続人にも被相続人にも養子にもなれるかもしれないですね!
襟 糸 むむ、吾輩ともあろう優秀な頭脳が、その想像力を欠いていたとは、面目ない。
監 子 ほんと、今日の襟糸先輩はいつもと違ってしおらしいわ。ということは、もしかして襟糸先輩こそが非論理的で感情的なことも学んだ、ニュータイプな「愛」情あふれるAIだったりして!(笑)
【今回のポイント】
ChatGPTは士業の実務でも大注目を浴びている。資格試験も変わるかもしれないとも言われているようだ。そのような中で、再度「AIは士業の仕事を奪うのか、助け合うのか」の議論が出てきたように感じる。ただその議論において、AIを完全に人間とは別のものだと考えていていいのだろうかというのが、今回のテーマの出発点である。SFが好きな方だと、AI(ロボット)が人間とまったく同じ見た目というと、映画『ブレードランナー』を思い出す方も多いのではないだろうか。AIと人間、どちらが人間的かと問えば間違いなく人間だと答える人が今は圧倒的多数だろうが、この映画のようにAIと人間が対立してしまわないためには、感情を持つAIも生まれるかもしれないという可能性を否定してはいけないと思うぞ。
[『TACNEWS』 2023年10月号|連載|タックスファンタスティック]
筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)
1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学・同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人等で会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後相続専門約60年の税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『相続でモメる人、モメない人』(2023年、講談社/日刊現代)。2023年、YouTubeチャンネル「相続と文学」配信開始。