タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第8回テーマ
M&A 〜その2〜
「組織“再編”税制は“大変”?」
税 太 う~ん、全くわからないなぁ…。
襟 糸 お、どうした税太。第7回まで大車輪の活躍を見せていたが、とうとうスランプか?この襟糸様のような高速回転頭脳をお持ちでない凡人には誰にでもあることだ、ドンマイ!
税 太 僕の顧問先の会社から、後継者がいない70代の知人がオーナーになっている会社と合併をしたいと相談があったんです。
襟 糸 お、顧問先の規模が拡大するってことじゃないか!今の時代は後継者不在で事業承継問題に悩む方が増えているからね。どんどんサービス提供したまえ。
税 太 問題は、社長が「いきなり合併する」って言っていることなんですよね。普通に考えればまずは会社の株式を買って、子会社にしてから頃合いを見計らって合併するのがいいと思うのですが。
そし子 税太君、いいとこ突いてる~!たしかにそっちのほうがお得ね。
襟 糸 むむむ、そし子君、いきなり割って入ってなんだなんだ、そもそも君はこの事務所のメンバーでもなんでもない、ただの監子君の友達だろう?
そし子 組織再編の話をまさにしているっていうのに、人をどの組織に所属しているかなんていう狭い視点で判断するようなその発言はイケナイわ。フフフ、やはり襟糸さんは監子ちゃんが言うようにお堅いわね。
田久巣 襟糸君、そし子君を呼んだのは僕だ。ちょっとお茶でもしながら組織再編税制の整理をしたくてね。彼女はめちゃくちゃ詳しいし、実務も経験していて頼りがいがあるんだ。そし子君、なぜ税太君がいいとこ突いてるのか教えてくれないか?
そし子 いきなり第三者がオーナーを務める会社と合併をした場合、いろんな細かい要件を充たさない限りは「非適格合併」といって会社の持つ資産負債を時価評価するルールを適用されてしまって、税金負担が高くなることがあるんです。でも、一旦子会社にしてから親子会社間で合併すれば「適格合併」に該当して税金負担が低くなる可能性があるんです。なので税金負担を極力なくしたいと考えているお客様であれば後者を選ぶはずなんです。
税 太 ところが僕の顧問先は税金負担を極力なくしたいとは考えていないようでして。。。
そし子 そう、これは組織再編の実務ではよくあることなんだけど、その社長は税金負担を軽くすること以上に「平等」を重んじているんだと思う。
襟 糸 いや、税太君の冒頭の意見の繰り返しになるけど、全くわからないなぁ。なんで「平等」を重んじていると税金で損をしてもいいって思うんだ?
税 太 あ、そうか!僕の顧問先の社長は、その合併相手の知人オーナーに気を遣ったんだね。子会社にするということはたとえ短期間だったとしても大切な知人を格下に見ていることになってしまう。そうではなく対等で合併するということにすれば知人の方のお気持ちも納得に向かうもんね。
そし子 さすが、税太君。これも監子ちゃんの言う通りね。そうなの、優先順位として「平等の精神の遵守」が「税金負担」を上回ることはザラにあることなの。だから顧問先の社長さんはいきなり合併することにこだわっているのね。
税 太 そし子さん、ようやく気付けました。「適格」な、いや、「的確」なアドバイスありがとうございます!
【今回のポイント】
今回はM&A第二弾で組織再編税制だ。この組織再編税制は厄介で法人税を受験科目に選んだ税理士受験生諸君も頭を悩ませていると思う。そう、とにかく細かい規定が多くて複雑であり、かつ実務的にも「大変」なのだ。しかし今回のポイントは適格要件、非適格要件といった細かい話ではなく、どちらも関係なくなるくらい配慮しないといけない問題があるということなんだ。それが「平等性」。確かに子会社にしてから合併したほうが得なのだが、それはあくまで税金負担上お得ということ。一旦子会社にするというスキームを提案した時点でオーナーさんの気分を損ねてしまいこの合併の話が流れてしまったら、そもそも全然お得ではないよね。このように、組織再編税制というのはあまりに細部にとらわれていると全体が見えなくなってしまうから、そういう意味でも「大変」なんだ。
[TACNEWS 2019年4月号|連載|タックスファンタスティック]
筆者天野 大輔(あまの だいすけ)
1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ社員税理士、株式会社レガシィ常務取締役。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人に入り、会計監査・内部統制監査・IPO準備監査に従事。また事業再生、M&A支援等のコンサルティング業務も行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。現在は相続・事業承継対策コンサルティングを担当。
主な著書:『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)