タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第6回テーマ 相続税申告 〜その6〜農地の価値は低い?高い?
農 美 代表~、これ実家で取れたブドウです。日頃のお礼にと両親からです。はい、3房。
田久巣 お~、農美ちゃん、ありがとう!こ、これはうまい!人生で一番ウマいブドウだ!
農 美 代表は事務所運営だけでなくお世辞もウマいですね!あ、税太さんには、4房です。
税 太 あれ?代表より多くくれるんだ、ありがとう!でも、いいのかな?
農 美 税太さんはご家族がいらっしゃいますからね、てへっ!
襟 糸 何がてへっ!だ。代表だってご家族がいるのに。税太はちょいとイケメンだからってか?残念ながら妻子がいますよー、だ。さーて、エリート税理士にも関わらず数多の縁談に見向きもせずに独身を貫き通している将来超有望なこの襟糸様には何房くれるのかな?
農 美 ざんね~ん、あげようと思ったけど今の発言でブドウはゼロ!縁談もゼロ!
襟 糸 く~、これだから最近の若者は!遺産分割がこれだったら大変なことだぞ!
農 美 遺産分割で思い出しました、そういえば私の実家の近所の農家で相続があったんですけど、モメてしまっているんです。
襟 糸 フフフ、相続の話ならこの襟糸に任せたまえ。原因は何だったのかな?
農 美 財産の大部分を占めるのは農地で、先祖代々ずっと農家、これからも末っ子のご長男が農業を続けていくつもりなんです。
襟 糸 ってことは相続税の申告上、納税猶予を受けられそうだね。他の要件は充たしているのかな?
農 美 はい、充たしています。なので相続税の納税はだいぶ負担が少なく済みそうなんです。だけど、遺産分割ではモメました。ちなみに相続人は配偶者と3人の子供。上から長女、二女、長男です。基本方針としては相続税評価をベースに法定相続分で分けたんですが、農業を引き継がなかった姉たちは、農業を継いだ弟が農地を全て取得したのを許せないようです。
襟 糸 なぜモメるのかわからんな。末っ子の長男は農業を継いだわけだし、そもそも農地は納税猶予が受けられる関係で相続税評価額が安いんだから、不公平感はないと思うんだけどな。まあ僕は一人っ子だから兄弟仲の実体験はないのだけれども。
農 美 あのう、そういえば税太さんは確か3人兄弟でしたよね?
税 太 うん、そうだよ。しかも末っ子。僕はモメてしまった理由がわかるな。その農地の相続税評価上は安くても、その家にとっては重要な財産だと思うからね。それを末っ子の弟に低い価値で引き継がせるのはお姉さん達の感情としては嫌だよね。だってこんなおいしいブドウが収穫できるんだから。
農 美 あ!ふふ、バレちゃいましたね。
田久巣 おい、税太、いくら職場仲間でもプライベートを探りすぎるのはダメだぞ!
農 美 いえ、代表、いいんです。わかりやすいように話したのは私ですので。その通りで、近所の農家と言うのはウソで、その末っ子長男が私の父なんです。でも今は伯母たちも納得してくれて無事に解決したんです。試すような真似をして申し訳ありませんでした。今度実家からモチが送られてくるのでそれで許してください!
一同 モチ論!
【今回のポイント】
今回のテーマは農地の納税猶予だ。一定の農地において、今後も営農を続けるなどの要件を全て充たせば、農地は本来の評価額よりも非常に安い評価額で相続できて、その差額に対応する税金は猶予を受けられる仕組みなんだ。農業は重要な産業だから国は納税面で大目に見てくれるんだよね。ただ相続人が複数いる場合の遺産分割ではそれが逆に問題になることが多いんだ。今回のように先祖代々のゆかりの農地、いわばその家のシンボルともいえる農地を末っ子の長男が低い価値ですべて相続すると、他の相続人はその家から外されたように感じてモメるケースがあるんだ。こういう場合、遺産分割上は農地を低い評価額ではなくて一般の評価額だったり時価を使うといいんだ。法定相続分で分割する方針なら農地が高い分、他の財産が姉たちに行き渡るからね。農地がその家にとってどのような財産なのか見極めること、そして相続人たちの気持ちを推し量ること。これこそ相続人の家族の幸せを守るプロの税理士がなせるワザなんだ。
[TACNEWS 2019年2月号|連載|タックスファンタスティック]
筆者天野 大輔(あまの だいすけ)
1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ社員税理士、株式会社レガシィ常務取締役。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人に入り、会計監査・内部統制監査・IPO準備監査に従事。また事業再生、M&A支援等のコンサルティング業務も行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。現在は相続・事業承継対策コンサルティングを担当。
主な著書:『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)