タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第5回テーマ 相続税申告 〜その5〜事業承継税制、お金を取るか?自由を取るか?

監 子 はぁ。。。なんだかなぁ、ふぅ。。。

税 太 監子さん、さっきからため息ばっかり。どうしたんですか?

襟 糸 税太君、やめたまえ。監子君もいい年頃なんだ。プライベートに突っ込むのは止そうではないか。世知辛い世の中だがそういう時代だ。だろ?監子君。

監 子 あ、あの、逆にそういう発言こそ問題になるんじゃ。。いや、違いますよ、あくまで仕事のことです。私が会計のコンサルティングをしているお客様が事業承継で問題を抱えていて。

田久巣 ほほう、監子君、その問題とはどういうことだい?

監 子 非上場の同族会社で今のオーナー社長は70代後半なんです。息子さんが40代でこれから経営を承継させたいと思っているんですが、株も譲るとなると株価が高くて税金負担が大変なことに。そこで事業承継税制を使って株を贈与すれば税金を払わなくていいと息子さんがどこかで耳にしたらしくて、早速導入したいから何とかしてくれと仰っているんです。

襟 糸 まさにそこからは税理士の出番だね。この高速回転頭脳の持ち主である私に頼めば問題なんて一気に解決。早速紹介してくれたまえ。

監 子 いや、でもこの税制を利用するには要件を充たす必要があるじゃないですか。しかもその要件は結構拘束力がある縛りだったはず。

襟 糸 えー、えへん。あまりこの分野に馴染みのない読者の皆様に向けて説明するとしよう。一番大事なのは贈与の時までに代表権を後継者に移すこと。あとは贈与後に獲得する後継者の株式の議決権が全体の2/3を超えるようにしないといけないこと。後継者は代表権を降りたり株を売ったりせずに事業を続けること。細かいことを端折るとこのあたりが要件なのだ。えへん。

監 子 オーナー社長さんとしては代表権を移すのは決心が必要だし、後継者さんとしては事業を継続させないと猶予された税金を払わないといけなくなるリスクがある。だけど、この辺をあまり念頭に置いてない様子なので無闇に勧められないんです。

襟 糸 そうかな、税金を猶予してもらうためには多少の不自由は我慢しないと。やっぱりお金は大事。僕なら自信を持って勧めるな。

田久巣 第1回から読んる読者の方はこの話の展開に想像がつくと思うが、税太君に聞いてみよう。どう思う?

税 太 僕なら、お金が有利だけど不自由と、お金が不利だけど自由、どちらも魅力的ですね。僕には妻子がいます。家族がいることは幸せですし、養うことは生き甲斐です。でもその一方で大変なこともたくさんあるわけです。ただ、その代わりお金の面ではいいことも多いなと。僕が働けなくなっても妻が稼ごうと思えば稼げますし、専業主婦でも配偶者控除があるので有利なわけです。襟糸先輩のように独身の方は、自分の稼ぎだけが頼りで、税務上の控除も特にあまりない。でもその代わり自由なわけじゃないですか。ないものねだりですけど憧れることもあります。なので僕なら両方のメリットとデメリットを並べてお客様に選んでもらいます。

監 子 なるほど、それもそうね。私は逆に独身だけど、結婚や家族に憧れるわ。でも独身の良さもすごくわかる。ありがと税太君、また借りができちゃったわね。

【今回のポイント】

今回のテーマである事業承継税制は、2018年の税制改正で大きく緩和された特例制度が創設されたので耳にした読者諸君も多いと思う。一定の要件を充たせば自社株に対する贈与税や相続税が納税猶予されて、ずっと払わなくても済む可能性がある、かなり「おいしい」制度なんだ。ただ、その要件が問題なんだ。監子君も言っている通り、代表権を贈与までに移したり、事業を継続しないといけなかったり、書類の提出を5年間は毎年しないといけなかったり、ほとんどが不動産賃貸業しかやっていないような資産管理会社は原則利用できなかったりと、いろいろと縛りが多いのがネックなんだ。従ってお客様に対しては、この制度を利用する場合と利用しない場合それぞれのメリットとデメリットを並べて整理してあげるのが大事なんだ。これこそまさに税金だけにとらわれない顧客目線のコンサルティング業務と言えるだろう。


[TACNEWS 2019年1月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ社員税理士、株式会社レガシィ常務取締役。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人に入り、会計監査・内部統制監査・IPO準備監査に従事。また事業再生、M&A支援等のコンサルティング業務も行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。現在は相続・事業承継対策コンサルティングを担当。
主な著書:『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)

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