タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第4回テーマ 相続税申告 〜その4〜 相続では損して得とれ!?
襟 糸 簿記美ちゃん、会社分割したいってお客さんがいるのだけど、仕訳教えてくれない?
簿記美 え!襟糸先輩は空前絶後の高速回転頭脳なのに仕訳知らないんですか?
襟 糸 いやあの、簿記美ちゃん、もちろんわかるさ。だけどこの僕も忙しいんだよ、簿記美ちゃんに手伝ってもらいたいだけ。
簿記美 それならそうと言ってくださいよ!私も簿記マニアなんですぐわかりますけど、教えるのも時間がかかるんで忙しいんです!
田久巣 おーい、君たち何をもめているんだ。読者に見苦しい姿を見せないでくれ。
襟 糸 代表、聞いてください。私のそのお客様は相続税申告を控えているんです。亡くなった方が経営していた事業を3兄弟で相続したいようですが、兄弟仲は悪くて、株の3分割は共有になって嫌なので、相続後に事業ごとに会社を分割して、それぞれを引き継ぎたいようなのです。申告業務で忙しいので会計処理の確認を簿記美ちゃんに頼みたかったんですよ。でも簿記美ちゃんは“世間知らず”で私のような偉大なる大先輩に食って掛かるんですよ。
簿記美 自分で自分を偉大と言う人こそ“世間知らず”と言うのではないんですか?
田久巣 やめやめーい!全くこれじゃあ相続でもめている兄弟間と一緒じゃないか!会社分割の仕訳よりももっと大事なことがあるぞ!それは相続財産をめぐっての争いでもめないコツだ。簿記美ちゃん、なんだと思う?
簿記美 うーん、私なら、これは私のものと両親が生前言ってたと主張します。
襟 糸 それじゃあ火に油だよ。僕なら高速頭脳をフル回転して、もめてしまうといかにみんなにとって税金負担上不利になるかを話すね。もめてしまって遺産分割が決定しないまま申告をするとなると、被相続人に配偶者がいたとしても税額軽減の特例を使えないし、相続財産に土地があっても小規模宅地の評価減の特例も使えないしね。
田久巣 さっきから発言の機会を2人に譲っている税太君はなんだと思う?
税 太 そうですね、争いといえば僕も妻とはよくケンカしちゃうんですが、いつも後悔するのは、ケンカする前に日頃からいろんなことを譲っておけばよかったなってことですね。
襟 糸 税太君、第三回までの君の意見は確かに正しかったこと認めよう。しかし今回ばかりは誤りだ。譲ったら負けを認めるってことじゃないか。
簿記美 税太さん、もめないコツは自分が損しろってことですか??
田久巣 いや、今回も税太君の意見は決して誤りではない。むしろ“半端ない”意見だぞ!
【今回のポイント】
今回のポイントは相続の遺産分割の場面でもめないコツだ。遺産分割は兎角もめやすい。今回のケースでは法定相続分は1/3ずつ。しかし自社株のような多額の財産を1人が引き継がざるを得ないケースは多い。その時何も他の相続人に見返りがないともめやすい。ではその見返りもない場合、どうすればもめないのか?答えはいろいろあるが、ひとつには税太君が言っていた“事前に譲ること”が大事なんだ。確かに譲ってしまえば一見自分は損するように見える。しかし一方で譲られた人の心にはありがたいという感謝の心が生まれるものだよね。特に財産を多く引き継ぐであろう長男は事前に譲ったほうがいいことが多い。たとえば兄弟姉妹に子供が生まれれば忙しくてもいいものを贈る。家族との食事会ではおごってあげる。確かに小さなことかもしれない。でもそうすれば不思議なことにいざ相続の時に価値の高い不動産や自社株を引き継いだとしても、他の兄弟姉妹は“ずるい!”ってことを言わないことが多いんだ。
[TACNEWS 2018年12月号|連載|タックスファンタスティック]
筆者天野 大輔(あまの だいすけ)
筆者天野 大輔(あまの だいすけ)
1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ社員税理士、株式会社レガシィ常務取締役。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人に入り、会計監査・内部統制監査・IPO準備監査に従事。また事業再生、M&A支援等のコンサルティング業務も行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。現在は相続・事業承継対策コンサルティングを担当。
主な著書:『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)