人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第64回 株式会社エー・ピーホールディングス

Profile

相良 朋太(さがら ともた)氏(写真左)

人事本部 人事部 部長

田中 祥恵(たなか さちえ)氏(写真右)

人事本部 人事部 マネージャー

「食のあるべき姿を追求する」をミッションに
産地への「感情移入」を大切にする、
「生販直結」の外食産業を展開しています。

チェーン店のメニューとは思えないほどこだわりの地鶏を提供する塚田農場を始めとする国内外に約180店舗の外食産業を展開するエー・ピーホールディングス。最大の特徴は、食品の生産から流通、販売までオールインクルーシブで展開する「生販直結」にある。「生販直結」とはどのようなビジネスモデルなのだろうか。独自モデルの「生販直結」が生まれた経緯と、そこから生まれた人材教育観や採用、資格支援制度について、人事本部人事部部長の相良朋太氏とマネージャーの田中祥恵氏にお話をうかがった。

ミッションは「食のあるべき姿を追求する」

──最初にエー・ピーホールディングスについてお教えください。

相良 エー・ピーホールディングスは、国内外併せて約180店舗、40業態を展開する外食産業です。数ある外食産業の中で当社を特徴づけているのは、生産と販売をダイレクトに繋ぐ「生販直結」という6次産業化ビジネスモデルに取り組んでいる点です。目の前のお客様に喜んでいただくのは当然ですが、延いては1次産業である生産者の活性化に貢献していきたい。そう考えて、「食のあるべき姿を追求する」というミッションを掲げました。このミッションのもと、自社で地鶏を生産加工し、漁師から直結鮮度の高い美味しい食材を仕入れ、直接消費者にお届けしています。

田中 「生販直結」のきっかけは、創業者で代表の米山久が地鶏に目をつけたことです。米山が「もっと売上を上げるためにはどうしたらいいだろう」と試行錯誤していたとき、地鶏という一般市場に出回らない美味しい食材を得るために、直接産地に行ってやりとりをしました。その中で、通常の仕入れ値の3分の1近い値で生産者が売っていることに衝撃を受けたのです。中でも流通部分に相当なコストがかかっていることに義憤を感じた米山は、生産(一次産業)から流通(二次産業)、販売(三次産業)に至るまで、すべてを手がける独自の「生販直結モデル」を実現しようと心に決めました。
 私たちも産地に赴き、生産者が鶏一羽一羽に愛情と労力を注ぐのを目の当たりにして、共に養鶏から携わることで、働き手や後継者不足など生産者の悩みまで知るようにしています。

──「生販直結モデル」にかける熱い思いが伝わってきます。新たな取り組みがあれば教えてください。

相良 チェーン展開をしていく中で、より個性と専門性の強い展開を進めるため、私たちはコロナ禍前から直営店展開だけでなくライセンス契約を進めてきました。従来型の「安かろう良かろう」のチェーン展開モデルが中心となる中で、居酒屋として塚田農場、四十八漁場は他のチェーン店と比較すると高いと言われることが多々ありました。チェーン展開しているがゆえに「生販直結モデル」を表現し難い部分が浮き彫りになったのです。「もっと食に対してリスペクトする欧州型のカルチャーを私たちから発信していきたい」。そのような思いが強くなって立ち上げた新たな業態の一つが、炭火焼鳥 塚田農場です。これまでの塚田農場が素朴な農場感あふれる雰囲気が売りだったのに対して、炭火焼鳥 塚田農場は、地鶏へのこだわり、産地への感情移入文化をキープしたまま、これまでの業態とは見せ方を変え、おしゃれで、デートにも使えて、インスタ映えする内装にしました。このように直近3~4年は、時代に合わせて顧客ニーズや立地に合った業態に変えていくことが加速しました。

田中 私たちの最大の強みは、料理人や生産者や流通に携わる人と深くつながること、産地への深い理解から生まれる「感情移入」です。大切なのは、産地からお客様の口に届くまでがすべてストーリーになっていること。その価値が店舗オーナーに伝わるかどうかです。アルバイトを含めてカルチャーをしっかりと浸透させられるかを考えたとき、画一的なチェーン展開では難しいと判断しました。その結果、別の軸での展開を考えた答えが、ライセンス契約や事業多角化でした。

相良 ライセンス契約の「じとっこ組合」は、産地とつながることに強く共感してくださっている企業で成り立っています。サブライセンスオーナーが自分の思いで産地に足を運び、地元の酒蔵と直接つながったりしているので、産地イベントを開催するとライセンス店舗のオーナーと私たちの理念に共感してくれたスタッフが大勢来てくれます。オーナーが店舗スタッフ全員を巻き込んで運営している姿を見て、「感情移入」がきちんと伝わっていることを私たちも実感しました。

相良 朋太氏
2007年、塚田農場にアルバイトとして入社し、2008年、新卒社員として入社。入社半年で店舗責任者に。マネージャー職を経て、事業部長として塚田牧場22店舗を管轄。2019年、人材開発部に異動。現在、人事部部長として新卒採用、中途採用、アルバイト採用、特定技能外国人採用、障害者雇用、給与計算、人事労務までを担当。

コロナ禍の中断を経て、2023年から大卒採用を再開

──エー・ピーホールディングスの採用について教えてください。

相良 採用では、新卒、中途、店舗アルバイト、外国人特定技能採用、障害者雇用に分けて実施しています。中でもアルバイトは、年間2500名とかなりボリュームがある採用になっています。と言ってもアルバイトの採用判断は現場の店舗に任せ、人事は広告展開や採用ニーズに合わせた採用の組み立てで採用のサポートをしています。
 中途採用はコロナ禍で一旦ストップしましたが、2021年から市場にいる優秀な専門人材やスキルの高い人材を求めて再開しました。中途採用は外国人の特定技能採用も含めて年間180名を計画しています。

田中 新卒採用はアルバイトからの社内登用や調理学校からの採用によって、コロナ禍でも少しずつ続けてきました。大学卒の新卒は2023年度から本格的に再開し、2023年の新卒入社は大卒1名、調理学校卒業者7名になりました。

──2024年4月入社の新卒は何名ですか。

田中 12名です。ちなみに2025年入社は30名を予定しています。

──入社式とその後の新入社員研修についてお教えください。

田中 入社式は、横浜にある当社のブライダル会場「UNION HARBOR」で実施します。入社式後、集合研修の新入社員研修を挟みますが、すぐに現場配属になります。ただし1年間は人事が並走して、月ごとに何らかの集合研修や面談を通じて接点を持ち続けます。2年目以降は事業部での教育になりますが、相談や評価の部分でのフォローは随時人事部が入っていきます。

相良 コロナ禍のタイミングで業態変換や事業多角化が加速したので、横ぐしの研修は一旦ストップしました。2019年までは30科目の基礎教育カリキュラムを回すエー・ピーユニバーシティで、それぞれのスキルチェックや知識補充をしていました。今もeラーニングで独自カリキュラムを行っており、そこに必要な要素は落とし込んでいます。来期には横ぐしの教育も再開する方向です。
 階層別研修としては、1年目の新卒は人事が伴走しながら社会人としての基本的部分の研修を実施し、2~3年目は中途社員と共に受けるマネジメント研修やポテンシャルの高いメンバー対象のリーダーシップ育成プログラムを実施していきます。

田中 祥恵氏
転職で2015年、エー・ピーカンパニー(現エー・ピーホールディングス)入社。人材開発部で新卒採用をメインに、アルバイト採用、特定技能外国人採用、障害者雇用から社内教育、人事労務まで幅広く担当。

注力しているのは将来を担うビジネスリーダー採用

──新卒の選考フローについてお聞かせください。

田中 説明会に参加していただいたあと、個別の1次選考から始まり、面談を挟みつつ最終選考に至ります。面接は、当社の経営理念への共感と応募者が自分で働くイメージを掴めるかどうかを確認する場です。その場で社内理解を深めていただき、いろいろな事業部とブランドの中で希望を選び、意識を高めていただきます。

──内定から入社までの期間、研修や何らかの内定者フォローをしていますか。

田中 内定承諾までは店舗での食事会や先輩との座談会を設定し、会社の理解をより深めてもらいます。承諾後は研修形式で社内のカルチャーや大切にしている理念浸透を造成していきます。

相良 2023年はオンライン座談会で先輩社員にインタビューして、当社に入った理由や接客面・サービスでの面白さを聞いたり、店舗ツアーを組んで一緒に食事しながら当社のブランドに対する理解を深めてもらいました。

田中 新卒採用のオンライン化は非常に進んでいます。以前は対面のみだったので関東圏、もしくは関西圏の学生としか接触できませんでしたが、今では北は北海道から南は沖縄まで、全国の学生に参加してもらえるようになりました。

──新卒入社で配属されるのはどのような職種ですか。

田中 新卒の大学生は大半が飲食業でアルバイトを経験している方で、接客が楽しい、目の前のお客様が喜んでくださるのが嬉しいという方です。その方たちには、良い店舗作りのスペシャリストとしてストアリーダーコースをめざしていただきます。一方で私たちが今一番求めている層が、将来自分で起業したい、将来自分で事業を作っていけるだけの力をつけたい、若いうちからバリバリ仕事をして実力をつけたいというビジネスリーダーです。今後社内のカルチャーを作っていく、かつ将来の幹部候補生として会社を担っていく方を新卒から育てていきます。会社の発展に重要なビジネスリーダー採用には今一番比重を置いており、新卒採用での肝になってくると思います。

──ストアリーダーとビジネスリーダーの「求める人物像」の違いはどのような点ですか。

田中 共通しているのは、まずミッションへの共感度、事業理解、将来食のあるべき姿を追求するという今後のビジョンに向けて、自分の将来とのマッチ度合がどれぐらいか、プラス人柄です。  ビジネスリーダーはそれにプラスアルファ、将来的な自分の成長をより求める方です。通常、店長になるまでに3~4年かかりますが、1年で店長になるハイペースレベルの力を身につけていただける方を求めています。
 ストアリーダーは、社員として、飲食人として、店舗スタッフをマネジメントしていくことや店舗運営に対してやりがいと面白みを感じられる方を求めています。

実務重視で手厚い資格支援制度を整備

──教育研修制度で独創的な取り組みがあれば教えてください。

相良 ユニークな研修制度の1つに産地研修があります。実際に地鶏の生産地に赴き生産現場を見ることで理解が深まります。今まで一商品として見ていたものが「○○さんの地鶏」のように個々の生産者の顔までが見えてきます。塚田農場では、コロナ禍前の2019年には延べ120人を鹿児島と宮崎の生産地に連れていきました。これも「感情移入」のための取り組みの一環です。
 魚の産地は20ヵ所、50拠点ほど提携先があるので、そこに産地研修に行きます。「私は福井県の日向」、「僕は三陸の陸前高田」のように社員にはそれぞれ推しの地域があって、それぞれ好きな食材があります。年に1~2回なのでもちろん全員が行けるわけではありませんが、行く機会が巡ってくると、その地域の推しが発信担当に指名されます。塚田農場の場合は、「自分が宮崎や鹿児島に赴いたら、こういうことを還元できます」とアピールする「オーディション形式」です。産地研修はコロナ禍で中断していましたが、いよいよ2025年から復活させようと計画しています。

──ユニークな研修ですね。福利厚生など制度面でも何か特別なものがあればご紹介ください。

相良 私たちが大切にしている価値観として「BE A FOODIE,BE A PROFESSIONAL,BE A CHALLENGER」の3つを掲げていて、食のプロフェッショナルとして自分の感性・技術・スキルを磨き続けようと提唱しています。その一環で、5年前からソムリエ資格を積極的に推奨してきました。個人的に受験するとセミナー費用だけで15万円ほどかかるソムリエ資格を、受講費、受験料、合格後の認定費用、すべて会社で負担します。
 飲食事業では調理師や衛生管理士、防火防災管理責任者といった営業するための必須資格があります。その一方でソムリエ資格のようにプロの証となる資格は、持っているだけで称賛されます。そこで毎年10人に絞って資格支援を始めたところ、1年で6人のソムリエが誕生しました。2023年からはSAKE DIPLOMA(酒ディプロマ)という日本酒や焼酎の認定資格の資格取得支援も始めて、2023年は6名合格しています。
 合格者は社内の資格取得講座の講師を務めたり、テスト作成やアドバイスで恩返しをしてくれています。これも3つの価値観を体現する特徴的な制度だと捉えています。

──仕事に直結した資格支援をかなり手厚く行っていますね。店舗運営に関する資格についてはいかがですか。

相良 店舗運営に必要な衛生管理者、防火防災管理責任者などは、受講費、受験料、認定費用の半額を会社で負担しています。その他、事業ごとに「○○マイスター」を設定してスキル研修や検定を実施し、現場に則した内容でスキルアップを図っています。本社内には社会保険労務士や中小企業診断士をめざす人事スタッフや、FP(ファイナンシャル・プランナー)に合格した人事スタッフがいます。ただしプロの飲食人に関わる資格ではないので、そちらは今のところ自己研鑽の範疇になっています。
 今後も野菜ソムリエなども視野に、食にまつわる価値の向上に努めていきたいと考えています。

──食以外の資格などへの取り組みはありますか。

相良 DXが叫ばれている昨今、身近なシステムを使って日常業務をDX化していくプロトアウトスタジオに延べ3名が参加しています。1人約80万円かかるので希望者全員が参加できるわけではありませんが、3人は現場の仕事とどうリンクさせるかに鑑みながら、研修受講やeラーニングに参加して、自分でプログラミングしています。そのうちの1人はレモンサワーが大好きなので、レモンサワーが美味しい店マップを作りました。もう1人はお客様のボトルキープ情報をアプリ化して、社内アプリで共有、管理できるようにしてくれています。
 時代に柔軟に対応しながら、今何が必要かを見極めつつ、必要だと思えることには投資していく。そこが当社の強さの秘訣だと思います。

その資格をどう活かしたいかが大切

──新卒採用では応募者が学生時代に取得した資格をどのように評価しますか。

田中 資格は必須ではありませんが、書いてあれば加点にはなります。ただし、それをなぜ取得して、どのように使いたいのか、本人の意思を確認します。

相良 資格取得が目的になっていてはいけません。当社でその資格をどう活かしたいかにつながれば、大きな加点になるでしょう。例えば、面接で「将来的に自分で事業する上で数字を読むためにFPを取りました」という学生がいたら、非常に高く評価します。
 応募者には飲食業でのアルバイト経験がある学生が多いので、実務要件を満たせば調理師免許試験を受けられる方もいます。今後は社内でも積極的に調理師免許を広げていきたいと考えているので、要件を満たしている方はぜひチャンスを無駄にせずに受けていただきたいですね。

──資格取得やキャリアアップをめざしている方に向けてメッセージをお願いします。

田中 資格取得のために勉強をして知識を増やし、試験に合格する。その証明としてもらう合格証は本当にがんばった証だと思います。どんどん興味のあることに手を伸ばして、知識を広げていただきたいと思います。例え合格できなかったとしても、自分の世界が広がり、考え方やモノの見方が変わるだけで、無駄にならないと思います。

相良 私自身、新しいことを知ったり、新しい世界を見ることに非常に価値を感じているので、資格取得で知識や情報をインプットするのはとても価値あることだと思います。リカレント教育が叫ばれる今、一生学ぶ気持ちが大切です。何のためにその資格を取るのか。目的をぶらさず、学ぶ姿勢を忘れずにがんばっていただきたいと思います。

[『TACNEWS』人事担当者に聞く「今、欲しい人財」|2024年5月 ]

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会社概要

社名     株式会社エー・ピーホールディングス
設立     2001年10月29日
代表者    代表取締役会長 兼 社長 米山 久
本社所在地  〒171-0021 東京都豊島区西池袋1丁目10-1 ISOビル5階

事業内容

飲食店及び食品販売店の経営、フランチャイズチェーン店の加盟店募集及び加盟店指導、養鶏場及び牧場の経営、漁業、農業、食鳥の処理、加工及び販売。食品の加工、流通、輸出入及び販売

従業員数

正社員62名 / パート・アルバイト5名(2023年12月1日現在)
店舗数 直営:160店舗(国内140店舗 海外20店舗)、ライセンス:20店舗 合計:180店舗

URL

https://ap-holdings.jp/