人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第61回 エコナビスタ株式会社
榎本 奈津子氏
経営企画室 1級建築士
大学の都市工学の学科を卒業し、新卒で東京ガス株式会社に入社。集合住宅向けガス機器、住宅設備機器周りのリフォーム営業を経て、企画部門に異動。エリアマーケティング、販売企画、営業企画、住宅の温熱環境調査・研究から新規事業創出まで幅広く手がける。ビジネススクールで経営学を学び、2023年4月、エコナビスタ株式会社入社。東証グロース上場の節目に、経営企画室で人事、広報、営業支援を担っている。
エコナビスタ株式会社は2009年の創業以来、睡眠解析技術とセンサフュージョン技術を活用し、施設介護の事業運営を下支えし、介護業界の人材不足を支援するためにDX支援事業を展開してきた。
2023年8月には東証グロース市場に上場し、「睡眠解析技術で、未来社会に健康と安心を提供する」を標榜するエコナビスタでは、どのような人材が活躍しているのだろうか。経営企画室の榎本奈津子氏に、採用方針や人材感、人材教育、社内制度などをうかがった。
睡眠・疲労医学の第一人者が創業
──最初に、エコナビスタ株式会社についてご紹介いただけますか。
榎本 エコナビスタは、大阪公立大学(元・大阪市立大学医学部疲労医学講座)教授だった医師・梶本修身が睡眠と疲労医学の研究の知見を、事業として広く役立てていきたいと考えて2009年に創業しました。
私たちがコアにしているのは、膨大な睡眠データを蓄積し、それを様々な生活習慣データと合わせて分析し、可視化し、価値化する睡眠解析技術です。その技術を、今最も大きな社会問題である超高齢化社会の介護分野に活用しています。このサービスの要となっているのがAIによる予測技術です。睡眠データと生活習慣データを組み合わせると、例えば認知症の予測AIであったり、予後・余命予測AIであったり、少し先回りした予測が立てられます。介護業界にこのデータを提供することで、よりたやすく介護プランが立てられたり、施設入居者のケアがやりやすくなったりと、人手不足の一部を補完できるようになります。
──睡眠データと生活習慣データを介護分野に活かすのですね。
榎本 はい。エコナビスタの主軸となる介護サービスは、大きく2つあります。1つ目は、睡眠解析技術をベースに開発した介護施設向けのSaaS型高齢者見守りシステム「ライフリズムナビ+Dr.」です。介護施設内の看護師や介護士の方に使っていただくシステムで、ベッドのマットレスの下に独自開発したセンサーを設置して、入居者の離床や身体の動きを検知するほか、睡眠解析や心拍測定もできるものです。介護記録システムとの連携も可能で24時間365日、施設利用者の状態をクラウド上で把握できるので、記録業務軽減と人手不足解消の一助となるサービスです。
この「ライフリズムナビ+Dr.」は、現在200施設以上、累計人数1万6000人超に導入されています(2023年10月取材時点)。介護施設の知見やノウハウが蓄積されてきたので、圧倒的に多い在宅介護者向けに提供しようと考えました。そこで東京ガスと共同研究開発したのが、2つ目のサービス「ライフリズムナビ+ホーム」です。施設でプロの方に使っていただいた意見を踏まえて、在宅ではどうあるべきかに転換したシステムです。
──介護施設だけでなく、在宅の介護分野にも活かせるのですね。
榎本 はい。今後も高齢者見守りと並行して他業種と共同研究開発し、蓄積したデータを介護から医療、保険、住環境、ヘルスケアなどに発展させ、介護業界の人手不足にフォーカスしながらサービス提供を続けていきます。
ただ、これまで人の手で行ってきた介護業界をDX化するためには、リテラシーなど様々な問題が介在しています。従来の業務のやり方を変えることに対する抵抗感が強いため、当社はまず業務改善コンサルティングから始めます。その後もシステムを導入して終わりではなく、しっかりと業務に組み込まれるまで1年ほどかけて伴走していきます。こうしたきめ細かいサービスの結果、サービスの年間解約率は0.02%以下と、ほぼゼロに近い数値に留まっています。
とはいえ日本の介護施設は全国で約220万室もあるので、普及率で言うとまだまだ本当に小さな一歩です。まずは介護施設の皆様に知っていただき、さらに在宅介護でしっかりと使っていただいて、その後予防、健康維持増進といった手前のケア領域で私たちのデータが使えるようになることをめざして、「ライフリズムナビ」をさらに進化させていきたいと考えています。
求めるのは社会課題解決へのビジョンに共感できる人
──エコナビスタの「求める人物像」とはどのような人材ですか。
榎本 ビジョンに共感いただける方です。エコナビスタは2023年11月時点で従業員数35名になりました。採用は100%中途採用です。2023年8月に東証グロース市場に上場して、ステージが変わる節目にありますが、創業以来変わらない「睡眠解析技術で未来社会に健康と安心を提供する」という社会課題解決へのビジョンを据えています。まずはそこに共感していただける方を求めています。
──中途採用ではどのような職種で人材を募集していますか。
榎本 ジョブ型雇用を採用しており、営業職、お客様と伴走する総合職(カスタマーサクセス)、アプリ・サーバーを開発するエンジニア職、現場に出向き設置・運用まで手がけるインフラエンジニア職、経理職で人材を募集しています。
まず営業職は介護施設への提案営業を担います。「売って終わり」の営業ではなく、介護施設を訪問して業務改善のための課題を摘出し、それにきちんと納得がいくプランを提案するコンサルティング営業です。加えてマーケティングスキルも重要なので、マーケティングをして、コンサルティングをして、セールスをする人材を営業職として求めています。現在、営業職は4名在籍しています。その4名で、北海道から九州まで全国を飛び回り、会社の売上をほぼ支えている状況です。東証グロース上場を節目に、首都圏中心だったご要望が全国に広がっているので、既存の顧客に柔軟に対応しながら全国に当社のサービスのファンを創ることができる人材を新たに求めています。
──営業職で入られた方たちは、どのようなキャリアの持ち主ですか。
榎本 前職はそれぞれ違う企業ではありますが、介護医療業界でIoT、ICT機器を提供・販売してきたメンバーが集まっています。4名とも業界に精通していて、IoT、ICT機器に関しても知見があります。今後の採用では、彼らをコアメンバーに据えて、大切なことは引き継ぎつつ、違う売り方・違うスキルで全国に当社のサービスのファンを創ることができるメンバーを採用したいと考えています。私たちの「ライフリズムナビ+Dr.」を施設や施設の企画本部に提案していただけるBtoB営業の経験に、ITの知識や、無形商材の営業提案の経験がある方はさらに歓迎したいと思います。即戦力の方に加えて、これからの育成も視野に採用活動を進めています。
メンバーの3割がカスタマーサクセス
──カスタマーサクセスとはどのような業務を担う人材ですか。
榎本 システム導入後のフォローはまず営業職が携わりますが、そこから徐々に引き継いでサポートしていくのがカスタマーサクセスの役割です。私たちのサービスはデジタルとクラウドを利用しているので、デジタル機器のメリットやクラウドの利点を説明することから、システム系のサポートまで行います。データの確認方法や活用方法についての質問対応はもちろんですが、介護スタッフからマネジメント層まで、様々な階層の施設関係者にきちんと寄り添ってコミュニケーションが取れることが重要です。
──重要な役割を担っているのですね。
榎本 そうですね。お客様とは長いお付き合いになるため、カスタマーサクセスは最も人数が多く、メンバーは当社の3割を占めます。介護福祉士の資格を持って施設で働いていたスタッフや、資格はなくても介護現場を経験したスタッフも在籍しています。人手不足が喫緊の課題であることなど、施設の課題をリアルに経験して、「施設はこうしたところで困っている。そこを変えたい」という思いでエコナビスタに入社しています。業務改善のためにシステムを導入することになったのに、「介護は人の手でやるもの」という現場からの反発の声が大きかったとき、介護現場を知るカスタマーサクセスが間に入って寄り添うことで、徐々に理解してもらえたこともありました。
他にも、IT系企業で働いていたシステムに強いメンバーや、コールセンターで日々お客様の突発的事象に対して適確に返答してきたコミュニケーションに長けたメンバーなど、カスタマーサクセスではバラエティに富んだ多様な経歴の人材が活躍しています。またカスタマーサクセスといっても「現場第一主義」なので、営業職と一緒に全国を飛び回ることがあります。
──一般的なサポート業務とはだいぶ違いますね。
榎本 一般的なカスタマーサクセスよりもかなり業務範囲が広いと思います。待ち・受け身ではないところが当社のカスタマーサクセスの特徴で、実は解約率0.02%を支えているのもそのメンバーです。商品をきちんと使いこなし、定着させて、業務にしみ込ませる。そこを背負っているのがカスタマーサクセスなので、飛んで来たボールをただ打ち返すだけでなく、こちらから提案もしています。その上で「この施設でうまくいったことは、こちらの施設でもあてはまるかもしれない」といった好事例を訴求する企画業務も担っています。施設見学ツアーや施設同士の交流会の提案も、カスタマーサクセスのメンバーや営業メンバーからよく上がってきます。
──エンジニア職はどのような業務をメインにしていますか。
榎本 開発エンジニア職は「ライフリズムナビ+Dr.」のサーバー開発からアプリケーション、お客様とのインターフェースまでを担っています。「ライフリズムナビ+Dr.」は開発を重ねて現在の形まできていますが、これからも進化し続けることをめざしています。
インフラエンジニア職は、「ライフリズムナビ+Dr.」を導入する介護施設のネットワーク設計とシステム導入から運用までを担います。
壁打ち感覚のミーティングを毎日実施
──採用の選考プロセスはどのような流れですか。
榎本 業種によりますが、一般的には人事担当の私あるいは部門担当による1次面接、役職もしくは取締役による2次面接、その後必要に応じて3次面接として社長面接があります。面接を通過した方には見学会を実施して職場に来ていただき、対面でお話しして内定に至ります。
選考にも工夫をしていて、スキルと経験、得意分野を見せていただくために、簡単な課題を出して数十分の制限時間内に考え方をお聞きします。例えば経理職であれば財務に関する質問に答えていただいたり、営業職であれば「施設を初めて訪問するとき、あなたならどう説明しますか」といった課題を出したりして考え方のプロセスをお聞きし、最適配置を見極めています。
──中途採用での募集ですから、入社時には配属先が決まっているのですね。
榎本 ジョブ型雇用なので、職種別での募集になります。その後は現場のOJTで部門内の担当OJTリーダーの指導のもと、期間と目標を設定し、計画を立てて進めていきます。入社後は1on1も実施していますが、部門長とだけでなく、人事部門とも定期的に実施して共有化を図っていきたいと考えています。ジョブ型雇用で入ってきているのであまり大きなジョブローテーションはないのですが、将来的なローテーションも視野に、人事施策を模索している段階です。
またこれまでは35名の組織だったので、入社してしばらくすれば全員の顔も力量もわかる環境でした。ただ、会社を大きくしていく上では限界が来ますので、しくみとして整備する人事施策も検討中です。
──これから制度などを構築していく部分も多いのですね。
榎本 そうですね。会社の成長と共に制度も進化が必要だと考えていますが、大切にしているのはやはりコミュニケーションです。35名一人ひとりが得意分野を持って当社に入り、何らかの役割を持っています。それを活かす方向で各部の管理者がマネジメントしていますが、尖った役割を持った人が多いぶん、束ねなければバラバラになってしまいます。そこには求心力が必要になってくるので、当社では社長、役員、部長、担当者が参加するデイリーミーティングを開いています。管理部門ミーティング、営業、カスタマーサクセス、開発部門とのミーティングに分かれて、毎日30分1本勝負で、現場の実情や顧客ニーズの報告、それに伴う意思決定が下されます。毎日、他部署のメンバーや社長を含むボードメンバーと打合せをし、認識を合わせながら進めています。こうしたコミュニケーションの良さ、風通しの良さは、人数が増えても文化として残していきたいですね。
取得した資格を「使える資格」に
──社内制度や福利厚生で何か特別な制度はありますか。
榎本 ご紹介した1on1やデイリーミーティングだけでなく、評価委員会なども今進行中ですが、より組織横断的に情報共有化できる「ものさし」を作っていきたいと考えています。全員が中途採用者の組織で、人数もまだ35名ですからタレントマネジメントできる範囲です。次に新部門や組織横断的プロジェクトが立ち上がったときには、「誰がどのようなスキルとキャリアを持っていて、誰と誰を組み合わせるのが最適か」といったチーム編成が速やかにできる体制を整えておきたいと考えています。加えてそれぞれの尖っている強みを伸ばす組織であり続けたいので、専門性を伸ばす研修制度や資格支援制度も検討中です。
──榎本さんは1級建築士をお持ちですが、社内では他にどのような資格を持った方がいますか。
榎本 私自身は、1級建築士の他に宅地建物取引士、ITパスポート、日商簿記検定3級を持っています。社内にはITパスポートはもちろん、エンジニアには情報処理系の各種資格を持った人がいますし、経理部門で簿記2級を持っている方はもちろんいます。
資格については、管理部門の経理系業務であれば「簿記3級以上」を応募要件に入れることもありますし、「簿記2級、税理士1科目以上合格は尚よし」、営業であれば「ITパスポート保持者は尚よし」という気持ちで採用しています。
──最後に、キャリアアップをめざしている方々に向けてメッセージをお願いします。
榎本 資格を武器として使うことで、自分の強みをさらに伸ばすことができます。せっかく持っている武器をぜひ業務を通じて磨き上げて、有用な武器にしていただきたいと思います。
私自身、「なぜ建築士資格を持っているのか」とよく聞かれます。私の場合は建築物を構築するプロセスも好きで建築士を取得したのですが、仕事をしていく中では、そのときの自分が置かれた環境に応じて必要だと感じるスキルや資格が出てくると思います。そのときに集中して理解を深める勉強方法として、資格取得はとても良い手段です。
また、私は建築物の設計と事業構築のプロセスは似ていると考えています。建物を造る上では、そこに「こういうものが必要である」というニーズや解決したい現状の課題があります。そこを議論した上でコンセプトを決め、プランニングして詳細を設計し、最終的に建物ができ上がります。こうしたプロセスは事業や無形サービスであっても考え方としては同じだと思うので、私は建築士としてこの仕事をしていることに違和感はありません。
どのような資格であっても、興味をもって勉強し、一定程度まで極めたことは大きな武器になりますし、その資格を使って活躍の幅を広げるきっかけになります。資格の使い道は複数あると思いますので、興味を持ったものにチャレンジすることはとてもいいことです。皆さまのご健闘をお祈りします。
[『TACNEWS 』2024年3月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]
会社概要
社名 エコナビスタ株式会社
設立 2009年11月18日
代表者 取締役会長 梶本修身
代表取締役社長 渡邉君人
本社所在地 東京都千代田区紀尾井町3-1 KKDビル6F
事業内容
睡眠/生活習慣ビッグデータ解析による、健康状態の推移を予測するAIアルゴリズム開発、睡眠解析技術とセンサフュージョン技術を駆使した見守りシステムの提供、他
従業員数
35名(2023年11月末日現在)
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