人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第56回 株式会社東京きらぼしフィナンシャルグループ
辻 秀樹氏
株式会社東京きらぼしフィナンシャルグループ 人事部長 HM室長
株式会社きらぼし銀行 理事 HR部長
1994年、新卒で東京都民銀行(現:きらぼし銀行)入行。営業職として複数の支店勤務などを経て、2013年7月、人事部に異動。2018年5月の合併まで人事部としての合併手続に奔走。2018年8月より中山支店支店長。2020年、人事部に戻り、人事部副部長。2022年10月、人事部長に就任。きらぼし銀行のHR部長を兼務。
2018年5月、東京都民銀行、八千代銀行、新銀行東京の3行が合併して「きらぼし銀行」が誕生した。持株会社である東京きらぼしフィナンシャルグループは、きらぼし銀行を始めとするグループ会社全21社の総合力を発揮し、「金融にも強い総合サービス業」を標榜している地域金融グループである。現在、先進的な人事制度改革を進めているきらぼしグループの人材観とは、どのようなものなのか。求める人物像、採用方針、人材教育・育成、福利厚生などについて、人事部長の辻秀樹氏にうかがった。
専門性の高い知識・スキルを持った人材の育成に着手
──東京きらぼしフィナンシャルグループ(以下、きらぼしグループ)について教えてください。
辻 きらぼしグループは、東京圏に地盤を持つ地域金融グループです。2018年5月の東京都民銀行、八千代銀行、新銀行東京の合併によるきらぼし銀行の誕生を機に現社名に商号変更し、将来像に「金融にも強い総合サービス業」を掲げています。きらぼし銀行をはじめ、デジタルバンクのUI銀行、フィンテックビジネスのきらぼしテックなど、グループ全21社の総合力で多彩なサービスを展開しています。
きらぼしグループの経営戦略を実現するためには、専門性の高い、多様性に富んだ人材を育成することが必要だと考え、3行の合併の3年後に抜本的な人事制度改革を行いました。現在の人事制度においては、報酬制度は年功序列による職能給を撤廃し、役割(ジョブ)型にすることで役割を明確にし、多様な価値や専門性を発揮している人を高く評価できるようにしています。
2023年5月にはグループ全役職員が「TOKYO(=東京圏)を輝かせる」という使命を果たすために、「TOKYOに、つくそう。」という新たなブランドスローガンを策定して、お客様や地域のためにグループの総合力を最大限活用しつつ、金融の常識を超えて全力で課題に立ち向かうことを宣言しました。
──「TOKYOに、つくそう。」というスローガンには、どのような思いが込められていますか。
辻 TOKYOの様々な課題に着目して、きらぼしグループの総合力を結集して課題解決にコミットし、すべての人を輝かせたいと考えています。ブランドスローガンのもと、きらぼしグループの一人ひとりが3つの行動指針である「“高い志”を持つひと」「『どうしたら出来るのか』を常に考えるひと」「結果にコミットし、果敢に挑戦し続けるひと」を体現する「きらぼしびと」として、その姿勢や実績を通して「新たな金融のかたち」を発信していきます。
──3つの行動指針に基づいた「きらぼしびと」とは、具体的にはどのような人材でしょうか。
辻 例えば「専門性や高度なスキルを追求し、今までにないサービスを生み出すことに意欲的な人」「創造性に富んだ仕事や、高い付加価値をめざす仕事に積極的に取り組もうとする人」「多様性とチームワークを大切にしつつ、業務を通じてより高いパフォーマンスを追求できる人」といった人材です。
高い志を持ち、自ら考えて挑戦する「きらぼしびと」の育成をめざして、きらぼしグループでは研修制度と自己研鑽のハイブリッド型で、専門性の高い知識・スキルを持った人材の育成に取り組んでいます。
「きらぼしびと」として育成する専門人材を年間100名採用
──新卒採用と中途採用では、どちらを軸にしていますか。
辻 新卒・中途ともに同じように力を入れて採用していますが、人数で言うと新卒採用者のほうが多くなっています。加えて私たちは、新卒採用でもデジタル人材やコンサルティング人材と言われる専門人材を採用しています。
専門人材に関しては、フィンテックなどのデジタル分野を担う人材であれば当社のデジタル戦略部、グループ会社のきらぼしテック、UI銀行、きらぼしシステムなどに配属となります。コンサルティング人材であれば、きらぼしコンサルティングに配属となります。また、これまでもきらぼしシステムでは新卒の専門人材を直接採用してきましたが、2023年からはグループ採用と捉えて、当社の人事部も一緒に面接に入り、内定式や入社式も合同で行うようになりました。
2023年4月の新卒入社は、銀行一括採用77名、きらぼしシステム採用2名、合計79名になりました。
──中途採用についてはどのように行っていますか。
辻 中途採用では、デジタル部門はもちろんですが、それ以外にもストラクチャードファイナンスやM&Aなどの各セクションで即戦力となる人材を中心に採用しています。2022年度は約30名が入社しました。
中期経営計画期間中に100名の専門人材を採用する計画となっています。
多様な個性と幅広い得意分野を持った人材を育成
──2023年4月の新入社員研修はどのように実施しましたか。
辻 約20日間の集合研修を実施し、4月下旬に配属先を決定しました。同期の親睦を深め、より深くグループを知っていただく目的で、20日間の研修期間のうち5日間は多摩の研修センターで合宿型研修も実施しています。
研修後は、多くの新卒社員がきらぼし銀行の支店に配属されました。2023年からはメンター制度を導入しており、全社員の中からメンターを選出し、新入社員は担当メンターがいる支店に配属しています。これも人事制度改定のひとつで、1日でも早く営業になじみ一緒に成功体験を味わってほしいと考えて、支店ありきではなく、メンターを中心とした配属に変えました。
──どのような方がメンターになるのですか。
辻 課長代理職以下で年齢が35歳以下の社員の中からメンターとして適性のある者を選出し、研修を経たのちに新卒についてもらいます。
以前は3年間のジョブローテーション期間を設けており、1年目は融資事務や預金業務を覚える期間になっていました。しかし今、AIの進化とともに銀行の事務業務が急速に変化しています。従来のように3年間かけて一人前の銀行員に育てるという考え方では、時代の流れに取り残されてしまうおそれがあります。1日も早くお客様と接点を持ち、メンターとともに「お客様のために何ができるか」を真剣に考えることでより早い成長につながると考えています。
──新入社員研修後には、どのような研修が用意されていますか。
辻 9月には半年間の振り返りを行う研修とともに、業務別の集合研修がスタートし、さらにその1年後に階層別研修で営業に出る準備を行います。ただし、2年目以降の研修は「きらぼしびと」の育成をめざして、従来よりも階層別研修は減らし「自分のキャリアを自分で決めて、自学の中でキャリアと専門性を高めていく」という方向に舵を切っています。「自分にとってどの研修が必要か」「自分のキャリアの中で何を学べばいいのか」を自分で選択してもらうのです。選択内容によって受講する研修が変わってきますが、例えば「道場研修」と称してSF(ストラクチャードファイナンス)分野、PB(プライベートバンキング)分野、コンサルティング分野、信託分野、デジタル分野の5つの分野で、メニュー豊富な研修を用意し、挙手制で学んでもらっています。
面接では「深掘りする質問」で考え方を問う
──2024年入社の新卒採用について、選考に際し工夫している点をお聞かせください。
辻 選考フローは一般的で、エントリーシート提出後、適性検査を含めた書類選考、オンラインによる面接官1名対学生3名の1次面接、1対1の2次面接、対面による青山本社での最終面接となります。面接の際は、志望動機や学生時代の経験といった学生が用意してきた答えを披露する場にならないよう、意図的に考え方を問うような、深掘りする質問を心がけています。
内定後はきらぼしグループへの入社の意思を固めてもらうために、内定者座談会やバーベキューイベント等を行っています。
──入社までに取得してほしい資格などはありますか。
辻 入社後に必要となってくる資格に証券外務員があります。これについては、内定式のタイミングで案内をして、入社までの間に取得をお願いしています。加えて、生命保険と損害保険の資格は業務上絶対に必要になってくるので、入社後に模擬テストなどでフォローしながら取得していただきます。
あとは自分のめざすべきキャリアや専門性によって必要な資格が変わってきますので、何か特定の資格を取得してほしいといったアナウンスはしていません。それよりも、自分のキャリアの中でどの資格が必要かをご自身で考えて取得していただきたいと考えています。
──面接や内定後の説明会では「入社前に取っておくべき資格はありますか」「どのような勉強をしておいたらいいですか」といった質問をする学生もいると思います。どのように対応していますか。
辻 業務上必要な資格はこちらから伝えますので、然るべき時期に取得していただきます。私たちが内定者にしてほしいのは、自分が銀行で働いている姿をイメージして、「自分が将来どのような銀行員になりたいのか」、あるいは「きらぼしグループの中でどのような役割を担いたいのか」をよく考えていただくことです。そして、それまで大学で学んだことや就職活動で経験したことを一度振り返る機会にしていただきたいと思います。
新卒社員を見ていると、最近は自分のキャリアをしっかりと考えている人が増えていると感じます。従来型の画一的な銀行員育成ではなく、様々な個性と多様な得意分野を持った社員を集めて、常にお客様のために何ができるか考え、多彩なサービスを提供できる社員に育てていきたいと考えています。
人事制度改革によってキャリア形成で先進的な試み
──斬新な人事制度改革を実践しているきらぼしグループで、特徴的な制度があれば教えてください。
辻 3行が合併した2年後、私が支店長職から戻ってきたタイミングで新しい人事制度構想が湧き上がり、そこから1年弱で新たな制度を作り上げました。当時の銀行で、職能給を完全に撤廃し、報酬制度を役割(ジョブ型)ベースに切り替えたのは非常に斬新だったと思います。社内のメンバーだけでなく、先進的な制度を導入している外部のメーカー人事の方にも参画してもらい、一緒に構築してきました。
中でもキャリア形成は先進的な試みが詰まっています。その1つ目として、雇用期間を見直し、70歳まで働けるように制度設計し直しました。それまで培ってきた専門性が60歳になった途端に衰えるわけではありませんし、今の60代は若くて生き生きと働いている方が大勢います。そこで定年の60歳以降、65歳までだった再雇用を70歳まで引き上げ、再々雇用する制度にしました。
2つ目は、キャリアを自分で切り開く1つの手段として、年1回「キャリアデザインシート」を提出してもらうようにしました。3年後、5年後の自分のあるべき姿を思い描いてもらい、「そこに向かって何が必要か」「どういった部署を希望するか」を表明してもらいます。
3つ目は「SR制度」(セルフレコメンデーション制度)といって、年1回、自分の行きたい部署に異動希望を出せる制度を設定しました。各部・グループ会社から募集情報を社内SNSで流してもらい、そこで働きたい社員が手を挙げる制度です。すべて希望通りというわけにはいきませんが、SR制度で挙手した社員を優先的に定期異動の対象としています。
──社員自らが主体的にキャリアを築けるように工夫されているのですね。
辻 そうですね。加えてプロフェッショナル育成と多様なキャリアデザインの実現をめざして、「プロフェッショナル」「マネジメント」「スタッフ」の3つのキャリアを設定し、一人ひとりが様々なフィールドで、多様な価値を発揮しながらキャリア形成ができる体系を構築しました。これによりキャリアや等級、報酬、評価などを処遇に反映しています。具体的には、マネジメント職の最上位グレードよりもプロフェッショナル職のほうが高いグレードを設定し、例えば支店長・部長職よりもプロフェッショナル職のほうが報酬が高いケースもあります。また、2023年度よりスペシャリスト制度を作って、役員同等クラスの報酬体系としています。
──報酬体系も大きく変わったのですね。
辻 はい。2023年は三十数年ぶりにベースアップを行い、新卒の初任給も20万5000円から25万5000円に上げました。これは銀行業界でもトップ水準です。このように人的資本経営の一環として可能な限り従業員に還元していきたいと考えています。また社員一人ひとりと向き合うため、1on1面談は2ヵ月に1回行い、360度サーベイも定期的に実施して3年目になります。その他、パーソナル診断によって自分の強み・弱み・特性がわかる個人アセスメントも年1回実施しています。
──福利厚生面で、きらぼしグループらしいものがあればご紹介ください。
辻 健康でなければお客様に尽くそうというマインドも起こらないので、やはり健康が第一と捉えています。そこで、健康診断の際は一般的なメニューだけでなく、線虫がんによる検診や脳ドッグなどのリスク検診、オンラインの禁煙プログラムに対しても補助金を出しています。
また、団体長期障害所得補償保険(GLTD)にグループで加入し、休職期間満了まで最長42ヵ月の間、約7割の収入が補填できるしくみも導入し、従業員の健康リスク管理にも配慮しています。
取得資格は自らのキャリアプランによって選択
──証券外務員資格は入社前に取得することになっているとうかがいましたが、その他の資格はキャリア形成上、個々人で考える方向なのですね。
辻 はい。とにかく自分のキャリアプランや、人生を歩む中で必要な資格は自分で判断して選んでほしいという考え方なので、推奨資格はありません。強いて挙げればFPは法人・個人問わず非常に重要になりますので、希望制で事前セミナーを実施し、社内の報奨金として受験料を支払っています。報奨金制度については、資格によっては受験料以上の金額を支援する制度としており、対象資格を順次増やしているところです。
自己啓発に関しては、自己研鑽の一環でセミナーや書籍購入、スクールに通う際の学費の一部等に対して年間2万円まで補助しています。また資格に限らず、自学を希望する行員のために、ビジネスや読書に関する各種オンラインの学習サービスも使えるようにしています。他にも社内LMS(Learning Management System、学習管理システム)内にオンデマンドによる自学ツールのメニューを複数用意しており、随時受講することも可能です。
──資格に関して、新卒の応募者がエントリーシートや履歴書に何らかの資格を持っていると記載していた場合は、どのように評価しますか。
辻 資格の有無は採用可否に直接は影響しませんが、応募者の努力を含めて参考にはします。業務に紐づく資格であれば、面接の中で詳しくお聞きすることはあると思います。あくまで個人の強みを見極めるための糸口として非常に有効な情報だという判断です。
──最後に、資格取得やキャリアアップをめざしている方々にメッセージをお願いします。
辻 資格取得は、課題を解決するための第一歩目の手段です。ただ、今の時代は課題も多様化・複雑化しています。ですから資格取得によって得た知識だけでなく、それをいかに実践していくか、実務の中で揉まれ、経験していくことが重要になってくると思います。
人生100年という長寿の時代です。年齢や職位に関わらず、ぜひ資格を含めた「自学」を通して、自身のキャリア形成につなげていっていただきたいと願っています。
[『TACNEWS』2023年10月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]
会社概要
社名 株式会社東京きらぼしフィナンシャルグループ
設立 2014年10月1日
代表者 代表取締役社長 渡邊壽信
本社所在地 東京都港区南青山三丁目10番43号
事業内容
銀行、その他銀行法により子会社とすることができる会社の経営管理、その他前号の業務に付帯関連する一切の業務
従業員数
72名(単体)2737名(グループ連結、嘱託およびパートを除く)(2023年3月末日現在)
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