人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第52回 株式会社ファンケル
小田島 真従氏(写真左)
管理本部
人事部 採用グループ課長 キャリアコンサルタント
西田 佳菜子氏(写真右)
管理本部
人事部 採用グループ
株式会社ファンケルは1980年の創業以来、無添加化粧品やサプリメントを中心とした美と健康の領域で、不安・不便・不満といった世の中の「不」の解消に取り組んできた。
「人間大好き企業」であるファンケルでは、どのような人材観を持って採用活動をしているのだろうか。人事部採用グループの小田島真従氏と西田佳菜子氏に、採用・人材戦略の取り組みに加え、ファンケルらしい育成制度や福利厚生についてご紹介いただいた。
製販一貫体制を強みに新規事業を展開
──株式会社ファンケルは、化粧品やサプリメントで多くの方々から親しまれているブランドです。改めて、どのような会社なのかご紹介いただけますか。
小田島 ファンケルが創業した1980年当時は、化粧品による肌トラブルが社会問題になっていました。そうした背景があって、ファンケルは不安・不便・不満といった世の中の「不」を解消したいという思いでスタートしています。以来、無添加化粧品を中心とした美と、サプリメントを中心とした健康を軸に、通信販売や直営店舗販売という直販部門を持った研究開発型メーカーとして製販一貫体制を特徴としてきました。
現在は世の中の「不」を解消する会社として、フードテック、ヘルステック分野への挑戦や、シニア女性がおしゃれを楽しみながら長く健康に歩けるパンプスを開発するなど、新たな領域への挑戦が始まっています。
──他にも取り組んでいることがあれば教えてください。
小田島 グローバル化をさらに推進していくため、海外進出にも力を入れています。2022年11月からはシンガポール、タイ、ベトナム、インドへと中堅社員が赴任して、現地市場調査をしています。アジア地域でのグローバル展開は今後さらに強化していく方向です。
新卒は総合職、研究職、生産技術職の3職種を募集
──ファンケルではどのような方針で採用活動を行っていますか。
小田島 新卒採用と中途採用の両方を実施していますが、中途採用は特定分野の強化や欠員補充を目的としており、新卒採用は複数の専門性や多角的視点を持って将来のファンケルの中核を担う人材を確保することを目的としています。変化の激しい時代においても活躍できる人材であり続けてほしいという想いから、ジョブローテーションを通して、複数の得意分野を身につけていただくことを重視しています。こうしたキャリア形成に共感できるかどうか、特に新卒採用では学生と会社のマッチングをしっかりと見ています。
──求める人物像はどのようなものでしょうか。
西田 ファンケルグループには正社員1,270名(2022年3月末現在)が在籍しています。その中で新卒採用、中途採用、すべての社員に共通して最上位にある素養は「創業理念、経営理念への共感」です。その上で「何事にも前向きに挑戦することができる、あきらめない情熱、誠実さを持ってリーダーシップ、チームワークを発揮できる方」を求めています。
新卒の募集職種は、総合職、研究職、生産技術職の3職種です。全職種に共通しているのは「物事を自分ごととして捉え、失敗をおそれずに果敢に挑戦することができる人」「今何が求められているかを考えスピード感をもってやり遂げられる人」「多様性を認め合い周囲に働きかけチームワークを発揮できる人」の3点です。
総合職に関しては、さらに「経営戦略に対応できうるポテンシャルを持った人」「今会社として注力しているマーケティング、デジタル、グローバル、新規事業分野で活躍できる人」を求めています。
──技術職というくくりではなく、研究職と生産技術職に分けた採用をしているのはなぜですか。
小田島 一般的には研究部門と生産部門を一括した技術職として理系の方を採用している会社が多いと思いますが、ファンケルは最初から入口を2つに分けています。というのは、工場配属の生産技術職は特に理系に限定しているわけではなく、生産管理や品質管理などの分野はもちろん、工場の人事部門や購買部門、品質管理部門といったようにマネジメントを担う文系の総合職に近い働き方もあるためです。
2023年4月の新卒社員は総合職・研究職・生産技術職・販売職を計51名採用しました。2024年卒は総合職・研究職・生産技術職の3職種に絞って採用するため、約40名を想定しています。
小田島 真従氏
2011年、新卒でファンケルに入社。電話窓口部門、ファンケルの教育機関である「ファンケル大学」を経て2022年10月より人事部採用グループに異動。新卒・中途採用のほかエリア正社員採用まで採用全般に携わっている。
対面での内定者オリエンテーションを3回実施
──採用プロセスは職種によって違いますか。
西田 総合職は、1次選考がエントリーシートと適性検査、2次選考がWebテストと動画選考、3次選考がオンライン面接、4次選考は対面面接を行い、最終選考で対面面接と5回の選考があります。研究職はその場でプレゼンテーションしていただく面接を取り入れており、研究職と生産技術職は4次選考が最終面接となっています。またすべての職種で、選考の途中に本社や研究所、工場の見学ツアーを行い、会社の雰囲気を知ってもらう取り組みもしています。
そして全職種共通で選考後に若手社員との座談会を設けています。ここでの話は選考には一切影響しませんので、面接の中では聞けなかったことを若手社員に質問して、少しでも不安を解消していただきたいと思っています。
──内定後のフォローや研修にはどのようなものがありますか。
小田島 内定者オリエンテーションを6月、11月、2月と入社までに3回行います。基本的にすべて対面で実施して、どんな会社なのか、どんな同期がいるのかを見ていただけるようにしています。そして内定者オリエンテーションの中で、企業理解や会社の理念理解を促す研修も行います。さらにファンケルクラシックというプロゴルフの国内シニアツアーや社内イベントにも参加していただき、なるべく会社の雰囲気を知ってもらえるよう配慮しています。また資格に関しては、入社後3年間で取得してもらう資格情報を事前にお伝えして、ITパスポートに関する書籍を配付するなどして準備を促しています。
──座学以外の取り組みもあるのですね。
西田 そうですね。他にも、2023年から始めたファンケルの採用Instagramアカウントの運用について、これから就職する後輩たちにどのような内容を発信したらファンケルの魅力が伝わるかを内定者オリエンテーション内のディスカッションテーマにして、実際に内定者にデザインから投稿内容まで作ってもらうこともしていました。
半年間の新入社員研修を実施
──2023年4月の入社式はどのように実施しますか。
小田島 本社で集合型の入社式を実施します。事前に抗原検査をした上で、政府の方針に従い、基本はマスクを外して参加してもらいます。
──新入社員研修の実施期間を教えてください。
小田島 トータルで半年間の研修期間を設けています。そのうち入社式後の2ヵ月間は本社でファンケルの理念やビジネスマナーの集合研修を受けていただき、その後、例年は3ヵ月間の店舗実習として各店舗で1名ずつ研修に入っていました。2023年はそれにプラスして、製造部門(工場)に1ヵ月間の研修に行くことが決まっています。新入社員のうちから現場のモノづくりについても学ばせたいという想いや、モノづくりの視点を学んだ上で実際にどういったお客様が購入して、どういったことを求めているのかを、実習の中で体感してほしいという想いがあります。その後、10月から本配属になります。
──半年間の研修で基礎固めをしたあとは、どのような研修を用意していますか。
小田島 ファンケルでは経済産業省が提唱している「ポータブルスキル」の習得を3年間でしっかりと行い、どの部署・どの会社に行っても必要となる社会人基礎能力を身につけてほしいという方針を掲げています。そこでファンケルの教育機関である「ファンケル大学」が主体となった教育プログラムを、入社3年目まで継続して実施しています。
1年目は最も手厚い新入社員研修で、1年目の終わりにポータブルスキルの習得状況を確認するための集合研修を設けています。2年目も、2回ほど集まってポータブルスキルの習得確認を行うと同時に、上司も集まって育成方針のナレッジ共有を行います。3年目は総集編的に、若手社員として求められていることを改めて確認したり、ポータブルスキルが最終的にきちんと身についているか確認したりする機会として、集合研修を実施します。
※ ポータブルスキル:職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキルのこと。
──どこに行っても通用するスキルをしっかり身につけられる内容なのですね。
小田島 そうですね。中でも資格については、いつまでにどれくらいのレベルになってほしいかという基準も明確に設けています。TOEIC® L&R TESTは650点以上、ITパスポートは2年目までに取得、財務分野では1~2年目を中心に3年目には法務に関する知識習得のためビジネス実務法務検定試験®3級を取得することになっています。マーケティング分野に関しては研修などでカバーし、該当しない経済知識に関しては、1年目に日経TESTを受けて習慣化してもらう流れになっています。
これらの研修は基本的にジョブローテーションが前提になっているので、「法務の知識は法務部のメンバーだけが持っていればいい」ということではなく、どの部署でも必要となる最低限のレベルをきちんと身につけてほしいという考えです。
この研修のあとは、必須の中堅社員研修を設定し、さらに係長研修、課長研修といった階層別研修に入ります。手挙げ制の研修プログラムのほか、グローバル、自己研鑽系プログラムとして英語スキルの取得サポートがあるほか、希望者はTOEIC® L&R TESTもまた受けられます。ITパスポートは既存社員にも資格補助がありますし、全社的にeラーニングを導入しており、ビジネススキル全般的の知識が得られる多様な研修を用意しています。
西田 佳菜子氏
2010年、新卒でファンケルに入社。3年間、販売員として店舗運営に携わり、その後ファンケル大学で店舗スタッフや正社員向けの教育に従事。産前産後休業・育児休業を経て2020年から人事部採用グループに。現在は新卒採用中心に携わっている。
教育だけではない「ファンケルらしい社内制度」
──このほか、ファンケルらしい社内制度や取り組みがありましたらご紹介ください。
小田島 キャリア開発では自律的なキャリアや学び直しが問われますが、目の前の業務に直結するものだけが学びではありません。リベラルアーツ的な学びも必要だという考えから、キャリア開発制度の一環として「ディスカバリー休暇」を必須で取得してもらいます。これは5年目、15年目、25年目のタイミングで、有給休暇とは別に5日間の休暇を付与し、美術館に行く、四国のお遍路に行く、ちょっと海外に行くなど、新たな学びになることであれば何をしてもいい休暇です。「自由に使って、何かこの機会に学びたいことを学んでください。お休みしても給与は出ます」ということですね。
他にも、「キャリアカウンセリング制度」では希望制で月1回、社内外のキャリアコンサルタントに自分のキャリアについて相談することができますし、年に1回上司とセッションを設けて自分のキャリアについて考え、自分が今後どのようなキャリアを積んでいきたいのかを棚卸しする機会もあります。
西田 ファンケルらしい社内制度としては、内定した時点で内定者のご家族にお手紙と会社案内パンフレットを郵送して「こんな会社です」とご案内することもしています。2022年はこれに加えて、入社式の様子を収めたDVDもお送りしました。2023年も同様の取り組みを行います。
ファンケルには「人間が大好き」という経営理念があって、創業者がその思いをとても大切にしています。従業員を大切にしている思いの一端が、このような丁寧な企画になるのだと思います。
──入社式のDVDをプレゼントするというのは、他社ではなかなか聞かない取り組みですね。福利厚生面にもファンケルらしい企画がありますか。
西田 新卒・中途を問わず、入社6年目まで、毎年お誕生日プレゼントが届きます。1年目はウェッジウッドのカップ、2年目はティーソーサー、3年目はスプーンといった内容になっているので、6年経つとウェッジウッドのティーセットが揃います。今後はプレゼント内容を本人が選択できるようにすることも検討しています。
もう1つご紹介したいのは、過去最高売上を達成すると、その翌月に社長からメッセージ付きで社員一人ひとりにホールケーキが1個届くという制度です。これはファンケルが創業間もない頃からの制度で、創業者ががんばってくれた社員と家族とも一緒に喜びを分かち合いたいということで始まりました。当時からお願いしている横浜のケーキ店に今も発注しています。実は私も、育児休業中に自宅にホールケーキが届きました。「職場から離れていても、私も社員なんだ。温かい会社だなあ」と、つながっているうれしさを感じましたね。
──会社の温かい雰囲気がとてもよく伝わってきますね。
小田島 私も、会社が大きくなっても創業当時のアットホームさを失わない、いい会社だと感じています。小さいわけではないけれど、大企業と言われるまでの人数規模ではない、ちょうどよいサイズ感です。どの部署でどんな人が働いているのか、どういう気持ちで働いているのかが自然に伝わってくるように思いますね。創業者は今も時々会社に来て、社員に声をかけてくれます。2022年には150人以上が対象となる大異動があり、私も異動したのですが、社長など経営陣は私に「その後どうですか?」と声をかけてくれます。創業当時からの「人間が大好き」な風土がどの社員にも根づいていて、こうした距離感の近さやアットホームさが受け継がれているのだと思います。
資格取得助成制度で万全な資格サポート体制
──社員のスキルやキャリアに丁寧に向き合っている印象を受けますが、資格取得については何かサポート制度を用意されていますか。
小田島 資格取得助成制度を用意しています。部署として必須であり取得してほしい資格が指定されていて、全額資格取得の補助が支給されます。また指定されていなくても、業務上有益な資格であれば、社員が自ら取りたいという場合にも合格お祝い金として一部を会社が負担します。
またTOEIC®L&R TESTやITパスポートは、部署や職種によらず会社としてぜひ身につけてほしい資格なので、ファンケル大学が主幹となり、合否にかかわらず会社で受験料を負担しています。
──部署で必須としている資格をいくつか教えてください。
小田島 財務系では経理部門の日商簿記検定2級、人事部門ではキャリアコンサルタント、研究部門では危険物取扱者と管理栄養士、販売部門では販売士などがあります。ただし必ずこの資格を持っていなければいけないということではありません。
──新卒応募者が1次選考のエントリーシートや履歴書に学生時代に取得した資格を記載している場合は、どのように対応しますか。
西田 そのスキルを入社後どのように活かしていきたいのか、具体的なビジョンを持っているかを確認させていただきます。資格を持っているだけで優遇されることはありません。それよりも資格取得をめざした経緯や資格を取得する過程での苦労や学び、そこから得られた学びのスタイル、資格をキャリアの中でどう活かしていきたいかを面接の中でお聞きします。
──最後に、資格取得やキャリアアップをめざしている読者へのメッセージをお願いします。
小田島 自分にとって必要な学びは何であるかを自分で見つけて、時間のやりくりをしながら学んでいる受験生の皆さんはすばらしいです。私も年2回、資格受験する生活を続けてきましたが、学び続けることに終わりはないですし、新しいことを学ぶのはとても楽しいことだなと思います。自ら課題設定して学んでいくことは、この先絶対に必要なスキルです。自信を持って突き進んでいただきたいと思います。
西田 資格をめざすという新しいことに挑戦する気持ちは、ファンケルの精神に通じるものがあります。ぜひこの気持ちを社会人になっても忘れずに持ち続け、取り組んでいってほしいと思います。
[『TACNEWS』2023年6月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]
会社概要
社名 株式会社ファンケル
設立 1981年8月18日
代表者 代表取締役 社長執行役員 CEO 島田 和幸
本社所在地 横浜市中区山下町89-1
事業内容
化粧品・健康食品の研究開発、製造および販売
従業員数
1,270名
※2022年3月31日現在 契約社員・パートなどは除く
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