人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第49回 シチズン時計株式会社
梅山 聖奈 氏
人事部 人財開発課
2017年、新卒で美術品関係会社に入社し、管理部門に従事。2022年、シチズン時計株式会社に転職し、主に新卒採用を担当。
腕時計の部品から完成時計の組み立てまで自社で一貫製造できる「マニファクチュール」として、世界140ヵ国以上の国と地域で事業を展開し、1918年の創業以来、多くの「世界初」「世界一」の技術を開発してきたシチズン時計。100年もの間、最先端を走り続けてきたシチズン時計には、どのような企業風土と人財育成環境が整っているのだろうか。人事部 人財開発課 梅山聖奈氏にお話をうかがった。
「世界初」「世界一」を生み出してきた時計メーカー
──最初に、シチズン時計株式会社をご紹介ください。
梅山 シチズン時計(以下、シチズン)は、2018年に創業100周年を迎えた時計メーカーです。1918年、シチズンの前身である「尚工舎時計研究所」の創業当時、時計は輸入品が主流で、かつ高価な時代でした。「時計を国産化して、より高性能なもので、しかも手に取りやすい価格で広く市民にお届けしたい」という思いから、当時の東京市長である後藤新平氏が「永く広く市民に愛されるように」という思いを込めて初代懐中時計に「シチズン(市民)」と名付け、これがのちに社名となりました。
シチズンの特徴のひとつには、時計の企画に始まり、デザイン、開発・設計・製造、営業、アフターサービスまで、すべての過程を内製化している世界でも数少ない時計の総合メーカーであることが挙げられます。
そして時計事業に軸足を置いているシチズンの一番の強みは、やはり技術力にあります。これまでも世界初、世界一の技術を多数生み出してきました。例えば光を当てると発電するエコ・ドライブ(光発電のアナログ式)時計、電波を受信して正確な時間を表示する多局受信型電波時計なども、実はシチズンが世界で最初に作っています。最近では1年に1秒しか誤差が生じない正確な時計や、薄さ3mm以下の極薄時計を開発しました。
また、時計はアクセサリーのようにファッションの一部として身につけるものでもあるので、技術力だけでなく、デザイン性や使いやすさに優れた時計を開発しているところも、シチズンの魅力だと捉えています。
──2023年、新たな取り組みがあれば教えてください。
梅山 今注力したい業務として、「グローバルブランド」と「プレミアムブランド」の強化が挙げられます。まずグローバルブランドについては、これまでも当社は各エリアの特性に合わせた販促やマーケティングによって世界中でグローバルに時計を販売してきましたが、今後は全世界へ一貫したブランドコンセプトを訴求することで、当社の「顔」となるブランド・商品を作り、シチズンのブランド価値を高めていこうという動きがあります。
また、プレミアムブランド強化については、近年、高機能・高価格、あるいは機械式の時計が継続的に市場を拡大させている傾向があるので、シチズンとしてもそうしたニーズに合わせ、プレミアムブランドによる高付加価値商品の強化をしていきたいと考えています。
他にも、お客様が時計を手に取り身につけるときに得られる「体験価値」にフォーカスして、ユーザーとの接点をさらに増やしていくことにも注力しています。具体的な施策としては、自分の好みや感性に合わせてAIがお勧めの時計を提案してくれる「AI WATCH RECOMMEND」機能を開発したり、シチズンの世界観を感じてもらえるようなバーチャル空間「CITIZEN Timeless City」を生み出したり、バンドや針を自分好みのものにカスタマイズした時計を作ることができるFTS(ファイン・チューニング・サービス)などを展開したりして、ユーザーとの接点を増やし、体験価値を高める取り組みをしています。
求めるのは「次の100年にともに立ち向かう仲間」
──新卒採用とキャリア採用の採用方針はどのようになっていますか。
梅山 新卒とキャリア、どちらの採用も積極的に展開しています。
新卒採用については、2023年4月入社は13名の予定で、2024年4月入社に関しては15~20名を想定しています。当社は夏と冬にインターンシップを複数回開催しているのですが、この冬も2024年4月入社を対象に、シチズンでの仕事を体感していただけるよう「営業企画」「商品企画」「技術」「デザイナー」の4コースで実施します。
また、会社やそこで働く社員の雰囲気を知ってもらう機会として、複数の先輩社員とざっくばらんに話していただく「CITIZENCafé」というイベントも企画しています。以前は本社食堂で雑談する形式でしたが、コロナ禍により残念ながらオンラインでの実施になりました。2023年も状況を見つつ開催方法を検討中です。
選考に関しては、まず説明会に参加していただき、エントリーシート提出とWeb適性検査による書類選考後、複数回の面接で内定に至るという流れになっています。
──2023年4月入社の内定者に対して、研修や課題などのフォローは行っていますか。
梅山 内々定を出してからは、基本的に各自で自己啓発型のeラーニングに取り組み、毎月レポートを提出してもらっています。自分の興味があるテーマを選んで受講するものですが、幅広くいろいろな講座を用意しているので、皆さん積極的にビジネススキルを身につけている印象があります。
その他にも銀座にある当社のフラッグシップストアの見学ツアーを実施したり、本社東京事業所にある工場やミュージアムを見学して会社理解を深めていただいたりもしました。
──シチズンの「求める人物像」とはどのようなものでしょうか。
梅山 人物像に関して、採用の要件は3つあります。「先頭に立って行動することを恐れない人」「問題意識があり向上心が強い人」「強い意志を持ってやり抜く人」です。100年以上の歴史があって、それぞれの時代に新しい時計を生み出し、時計業界に革新を起こしてきた企業なので、次の100年に向けて時代の流れや環境の変化にどう立ち向かっていくかが重要になってくると思います。ですから「次のシチズンは、私だ」という熱い情熱を持った方と一緒に働きたいと考えています。
加えてシチズンは社風が自由闊達で、部門を超えた交流の場が多々あり、課長や部長も役職ではなく「さん」づけで呼ぶようなフラットな関係性のある会社です。若いうちから責任ある仕事を任されて第一線で活躍している若手社員が多いのもの特徴で、こうした環境の中で成長していけるチャレンジ精神溢れる方をお待ちしています。
シチズン独自の「時計学校」で、時計の分解・組み立てを実習
──2023年4月の入社式後の新入社員研修はどのような内容で実施される予定ですか。
梅山 技術職、事務職、デザイナー職、それぞれまだ内容は確定していないのですが、おそらく対面式とオンラインの両方を織り交ぜながらの研修になると思います。コロナ禍以前は実際に時計の製造現場を見てもらう製造現場実習や店頭販売実習がありました。グループ全体でマーケティングを学ぶ研修もありますが、2023年に関しては現在検討中です。ただ現場研修で実際の実務に触れていただくのはとても大事だと思っています。
当社では4月の入社時点ですでに配属先は決まっていて、早ければ5月中旬には配属になるので、研修期間はそれまでの約1ヵ月半を想定しています。ただ、年によっては半年間研修を行ったこともあります。内容面も含め、その時々の状況に合わせて研修を企画し実施していますね。
──新入社員研修のあと、同期が一堂に会する機会はありますか。
梅山 入社2年目にフォローアップ研修がありますので、そこで一度集まります。シチズンは人財育成を非常に重視しているので、研修制度が充実しています。2年目のフォローアップ研修後は、若手向けキャリア研修、中堅社員向け研修、上級職研修、課長職研修、部長職研修、経営層研修といった階層別研修を用意しています。手挙げ式のものが多いのですが、その他にも、DXスキル研修、育児期間中の社員研修、海外赴任前の赴任者研修といったテーマ別研修が用意されています。このような研修以外にも、オンライン英会話や自己啓発、eラーニングなどの研修が同時並行で行われていますので、「学びたいときには、いつでも制度を利用して学ぶことができる」という研修形態になっています。
──「時計学校」という名前の研修もあるようですが、これはどのような内容ですか。
梅山 時計学校では、時計修理技能士という国家資格を取得したい社員に対して、取得を補助する時計修理技能士講座を定期的に開講しています。この講座は基本的に技術職社員のスキルアップやレベルアップの目的で設けられたものなので、受講するのは技術系社員が多いです。とはいえ営業職や店頭販売員にも密接に関わってくる内容なので、技術系以外でも自発的に取得する社員がいます。時計の分解と組み立てだけの研修は1日程度で終わりますが、時計修理技能士は2級、1級とステップアップするのにかなりまとまった学習期間が必要になります。時計学校は毎週開校されていますので、資格取得をめざす社員は複数回参加して、試験に備えています。
充実した研修制度で、社員の自律的キャリア形成を支援
──人事制度でもユニークなものがあればご紹介ください。
梅山 今、シチズンでは社員一人ひとりの自律的なキャリア形成とその支援に力を入れていて、年に1回自己申告制度を設け、自身の異動希望や今後のキャリアについて申告できるようにしています。その際、希望者は人事担当者に相談することもできますし、2022年からは外部のキャリアコンサルタントとの面談も可能になりました。
加えて2021年からキャリアデザインセミナーと社内副業制度をスタートさせました。キャリアデザインセミナーでは、キャリアの基礎と理論を学び、かつ同世代の社員同士でキャリアの悩みなどを共有してもらい、自身のキャリアについてより深く考えるきっかけにしてほしいと考えています。
また、社内副業制度という、就業時間の2割程度を他部門の仕事に充てることができる制度もあります。他部門の業務を経験することで、通常業務の中だけでは得られない知識、経験、スキル、人脈を得ることができますし、副業先での成績やパフォーマンスも自身の評価に反映していくので、自身のモチベーションアップにつながることを期待しています。
その他、最近では社員たちの相互理解のために、社内でプロジェクトストーリーライブを配信しています。人事部門が主導で行っているのですが、社内の各プロジェクトの担当者が、自分の携わっているプロジェクトについて熱く語っている動画を配信するものです。今、社内にどんな動きがあるのか、同じ社内で働いている仲間がどんな思いを持って仕事に取り組んでいるのかがリアルにわかるので、「自分もがんばろう」というモチベーションアップにつながればと思っています。
──社内副業制度は、どのような部署で運用されるケースが多いですか。
梅山 例えば、開発担当の技術職社員が「CITIZEN Timeless City」のバーチャル空間を扱う企画系部署で副業を経験し、そこで新しい企画を考えるなどしています。まったく違う視点や経験、普段は接する機会のない部署のメンバーとの会話などがとても大きな刺激になるようで、本来所属している部署と副業先の部署、どちらの部署でも相乗効果を生んでいるようです。
──福利厚生面でも何か特筆すべき制度がありますか。
梅山 社員食堂が広々としていて明るく、おしゃれで素敵な空間になっています。そこでは毎日5~6種類の美味しい日替わり定食を安価で食べることができ、大変好評です。また、新入社員は入社から所定の年数は借り上げ寮に入れますし、テレワーク、フレックスタイム、時短勤務制度もすべて完備しているので、プライベートとの両立がしやすいと思います。女性社員の産前産後休暇・育児休暇からの復帰率も100%ですし、最近は男性社員が育児休暇を取得するケースも増えてきていて、男女ともに働きやすい環境が整っています。健康優良法人にも認定されていますので、安心して働ける会社です。
──テレワーク主体の働き方を選べる企業もありますが、シチズンでは現在どのようにテレワークを実施していますか。
梅山 現在は月単位でテレワーク可能日数を定め、どの日をテレワークにするかについては個人の裁量に任せています。ただし働く場所については、感染症予防やセキュリティの観点から、サテライトオフィスや外部のカフェなどではなく、自宅での勤務に限定しています。
資格取得でキャリアを開拓
──先ほど、時計修理技能士の国家資格は希望者が取得できるように制度を整えているとのお話がありましたが、シチズンで仕事をする上で取得を義務づけられているような必須資格はありますか。
梅山 必須の資格はありません。ただし、ビジネスライセンスとして社内で指定した国家資格や公的資格を取得した場合には、表彰と奨励金をお渡しする制度があります。該当資格は適宜見直しを行ってアップデートするようにしていて、最近ではDX関連の資格が大幅に追加されています。
──具体的にはどのような資格が指定されていますか。
梅山 全部で50~60種類以上の資格がラインナップされています。例えば、社会保険労務士、税理士、衛生管理者、危険物取扱主任者、プロジェクトマネージャなどの情報処理系資格の他、一般的な資格はほぼ網羅されています。
──最後に、スキルアップやキャリアアップをめざして新しい知識を身につけようとしている方に向けて、メッセージをお願いします。
梅山 シチズンは今、キャリア開発に注力していて、社員一人ひとりが今後どのように自分のキャリアを歩むかに対し、できる限りのサポートを行っています。そのサポートを利用して、資格を取得する、新しいことに挑戦するといったように、それぞれ自分らしくキャリアを描いてほしいと考えています。
資格取得に向けて努力されている方々は、自ら学ぼうとする「学びの姿勢」を持った本当に素晴らしい方たちだと思いますし、自発的に資格を取得しようという方は、自身のキャリアや仕事に対する意識が非常に高いに違いありません。資格は、自分自身の幅を広げたり、新しい分野に挑戦したりするためのツールです。ぜひそのツールを使って、ご自身のキャリアを開拓していただけたらと思います。
[『TACNEWS』2023年2月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]
▲ 本社のある東京事業所には、200本以上の樹木を植樹した「CITIZENの森」があり、憩いの場になっている。
会社概要
社名 シチズン時計株式会社
設立 1930年5月28日
代表者 代表取締役社長 佐藤敏彦
本社所在地 東京都西東京市田無町6-1-12
事業内容
各種時計類及びその部分品の製造及び販売並びに持株会社としての、グループ経営戦略の策定・推進、グループ経営の監査、グループ技術開発及び知的財産の管理その他経営管理等
従業員数
17,044名(連結)(2021年3月31日現在)
URL
コーポレートサイト https://www.citizen.co.jp/
サービスサイト https://citizen.jp/