人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第48回 株式会社クラウドワークス

Profile

伊藤 潤一 氏

執行役員兼CHRO(最高人事責任者)

1993年、東京大学教育学部卒業。同年、三和銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。その後、数社の外資系資産運用会社を経て、ヘッジファンドにてポートフォリオ・マネージャーを21年間務める。2019年秋、「東大金融研究会」を主宰し、国内最大級のビジネス金融系サークル(参加者2,400名)へと成長させる。2021年9月、株式会社クラウドワークスに参画し、執行役員兼CHRO(最高人事責任者)として金融業界での知識と経験を活かし、事業と人の成長が連携した組織作りに尽力している。


クラウドワークスは、ミッションに「個のためのインフラになる」、ビジョンに「世界で最もたくさんの人に報酬を届ける会社になる」を掲げ、日本最大級のクラウドソーシング「クラウドワークス」をはじめとした企業と個人をつなぐオンライン人材マッチングプラットフォームを開発・運営している。2021年9月、「東大金融研究会」設立者であり、30年近く金融業界で活躍してきた伊藤潤一氏がジョインし、執行役員兼CHRO(最高人事責任者)に就任。ミッション・ビジョン・バリュー実現のためのひとつの重要な要素として「人的資本」を掲げ、人事と財務からの戦略的アプローチに挑んでいる伊藤氏に、クラウドワークスがめざす強固な組織体と人材戦略についてうかがった。

日本最大級のクラウドソーシングサービス

──クラウドワークスとはどのような会社ですか。

伊藤 クラウドワークスは、インターネットを活用して個人の新しい働き方を提供するクラウドソーシングサービスの会社です。副業を推奨する大企業の社員や在宅勤務を行うリモートワーカー、フリーランス、個人事業主、子育て中の方、退職後のシニア、若年層、障害を抱えている方といった多様な個人に、時間や場所、年齢に関係なく、仕事を受ければ収入が得られるマッチングサービスを提供しています。2022年9月末時点で、当社グループの提供サービスのユーザーは527.5万人、クライアント数は84.9万社に達し、内閣府・経済産業省・外務省など政府12府省を筆頭に、80以上の自治体、行政関連団体にも利用されています。また、2015年には経済産業省 第1回「日本ベンチャー大賞」ワークスタイル革新賞および、グッドデザイン・未来づくりデザイン賞を受賞しました。
 私たちが一番お伝えしたいのは、当社が素晴らしいミッション・ビジョン・バリューを持つ会社であることです。ミッションは「個のためのインフラになる」こと。私たちは世界中の一人ひとりが「何かやりたい!」と思ったときに、世界と繋がれるような新しい社会インフラを作りたいと考えています。このミッションのもと、バリュー(行動規範)である「“働く”を通して人々に笑顔を」を意識して行動しています。新しいインフラを作る会社なので、事業成長を通して個人の幅広い成長機会がある。それがクラウドワークスの魅力です。

──現在伸びている事業や2023年にかけて新たな動きがあればお聞かせください。

伊藤 今非常に大きく伸びているのが大企業の副業で、今後も副業を一番の目玉として注力していきます。
 副業が伸びている背景についてお話ししますと、まず派遣市場(スタッフィング)と転職市場(リクルーティング)という2つのワークスタイルがある中で、グローバルな派遣市場ではアメリカがトップでシェア41%、日本が2位で18%です。日本の派遣の歴史は30年とかなり長く、バブル経済崩壊後、重荷となる固定費の削減、つまり人件費削減のために派遣社員を活用してきました。日本は本来生涯雇用なのに、派遣市場のシェアは18%と無視できない数字になっています。
 一方、転職市場のグローバルシェアを見ると、トップはやはりアメリカで、日本は6位のシェア5%。最近でこそ転職市場の動きは活発に見えますが、実際はまだまだとても小さいマーケットです。年収アップを狙ってキャリアアップ転職をする方もいますが、生涯雇用が崩れることは当面なさそう。しかし企業のコストカットは限界に来ているので、「これ以上給料は上げられないから、各自副業してください」という動きになっているのです。最近の副業の増加率を見ると、時代の変わり目が来ていて、ここ2~3年が勝負だと感じています。

キーワードは「カルチャーフィット」と「個の力の強さ」

──2023年新卒採用ページには「必須スキル」として「自分で考え、動くことができる方」「チームの一員として仕事が出来る方」「変化を楽しめる方」「CWで働いてみたい!という方」が挙げられています。これは「求める人物像」にあたりますか。

伊藤 そうですね。「歓迎スキル」でも「仕事に対して意欲的にチャレンジし、自走できる方」「出来上がっていない環境や変化を楽しみ、柔軟に対応できる方」「新しいことに挑戦することにモチベーションを感じる方」と同じ素養を謳っています。
 私たちはカルチャーをかなり意識している会社なので、カルチャーフィットできるかどうかが肝です。加えて、今後は「個の力の強い方」を積極的に採用していきたいと考えています。

──「個の力が強い方」とは、どのような人材ですか。

伊藤 「投資」に例えて考えてみましょう。同じ「10%のリターン」がある2つの投資商品を比較した場合、片方は野球のイチロー選手のようにコツコツ練習して本番でコンスタントに成績を残すタイプ、もう一方はホームランか三振、つまりイチかバチかの成績であるタイプとわかった。この場合、どちらに投資したいでしょうか。総合的な結果が同じ10%でも、コツコツ型のイチロー選手タイプのほうが安定性が高い、つまり「個の力が強い」ので圧倒的に優秀ですから、同じリターンならリスクが小さいイチロータイプを選択するでしょう。
 クラウドワークスで言えば、ミッション・ビジョン・バリューにカルチャーフィットする人で、安定的に結果を残してがんばってきた「個の力が強い」人、かつ多様な人材を入れることで、良い意味で人材が分散している企業にしたいと考えています。「将来こうなりたい」という方向性が同じでも、金太郎飴的に同じような人材しか採用しない企業と、多様な人材を採用している企業では、ポートフォリオを組むという観点からも、私は絶対的に後者が強いと思っています。
 ですから金融に特化した人、会計に強い人、法務に詳しい人など、何らかの分野で「個の力が強い人」を幅広く採用し、その力を融合させていきたいですね。チャレンジしてみないとわからない部分もありますから、やってみてうまくいかなかったら、また変えればいいと思っています。

2022年度は約100名の中途採用を実施

──採用に関しては、新卒と中途のどちらを軸にしていますか。

伊藤 どちらも重視していますが、現段階では中途採用が多くなっています。新卒採用は2022年4月入社が11名でした。2023年4月入社は内定者17名で20名を、2024年4月入社は30名をめざしています。
 一方、中途採用は2021年度が年間70~80名、2022年度は100名超をめざしています。カルチャーフィットしているチームを大切にしているので、これまで持っていたカルチャーの良さが失われないようにしつつ、新しい人の良さも入れ、それを融合してより良いものを作っていきたいと考えています。

──新卒採用の選考フローを教えてください。

伊藤 説明会参加後、エントリー時に履歴書を提出、そして書類選考通過者は1次面接、2次面接、最終面接となります。1次面接は原則人事採用チームが行い、2次面接は事業部のメンバー、最終面接は執行役員3名のうち2名がお会いし、内定に至ります。

──内定式後のフォローアップ研修はありますか。

伊藤 入社まで特に課題はありませんが、早めにオフィスの雰囲気を知りたいという方はインターンとして稼働しています。携わる業務は学生に任せていて、自分が希望する配属先の業務を選んでもいいし、まったく違う業務を選ぶことも可能です。私はあえて違う業務を推奨していますね。また、今後はカジュアルな集合研修も考えていきます。

──2022年4月の新入社員研修はどのように実施されましたか。

伊藤 1週間のオンボーディング期間を設け、人事部や各部署のメンバーによって会社全体の事業部を説明し、ゴールデンウィーク前に配属の事業部が決まります。

──新入社員が入社後に再度集まる機会はありますか。

伊藤 CEOの吉田浩一郎が新潟に田んぼを持っているので、今年は全員集まって田植えをしてきました。2023年以降の新卒新入社員も行う予定です。他にも1ヵ月に1回、私が新卒と1時間ミーティングをして、困っていることやクラウドワークスの成長についてどんなことを思い描いているのか、話を聞いています。
 1年後からは、担当業務の垣根を越えて意見を交わし合うオフサイトミーティングも計画中です。事業部配属になると、どうしても配属先の論理が世の中のすべてになってしまいがちです。でも私はもっと外の世界を見てほしいので、自分たちの未来について、今何が起きているのかといったチームディスカッションをしてもらいたいと思っています。

──中途採用については、ホームページ上でもかなりの職種で募集が行われているようですが、常時幅広い採用があるのですか。

伊藤 今期は100名を採用予定なので、現在Webサイトに掲載しているボリュームで常時募集しています。補充のための超短期募集もあれば、1~2年後にある部署が人手不足になることを想定した中期的募集もあり、そこは事業部のニーズに合わせています。
 採用プロセスはエージェント経由での応募や、自社サイトを見ての応募のほか、こちらからスカウトして面談する場合もあります。流れとしては書類審査後、1次面接、2次面接、最終面接となり、希望すれば応募前にカジュアル面談も設けています。ちょっと話を聞いてみたいという方向けで、興味を持っていただければ選考プロセスに進んでもらいます。

──中途採用の研修制度はありますか。

伊藤 基本的に即戦力として採用しますので、全員すぐOJTに入ります。ただしオリエンテーションは2~3日設け、CEOの吉田が書いたカルチャーブック(クラウドワークスがどのようなミッション・ビジョンを掲げ、めざしているのか。そのために、どのような心がけを持ち、どのような行動規範を求められているかをまとめたもの)については吉田本人が3時間かけて説明し、その後ソリューションブックで仕事のやり方を説明しています。

──社内研修制度はどのようになっていますか。

伊藤 1つはレイヤーごとの研修で、マネージャー研修を四半期に1回実施しています。人数が増えてきたマネージャー内で、さらにレイヤーを分けて実施する研修も企画中です。またもう1つ、事業部ごとの研修も事業部全体で実施しています。
 ただ、マネージャーになっていない若手や中途採用者向けの研修がほぼないので、そこは今設計中です。直近では3ヵ月後に中途採用者向けオフサイトミーティングを計画しています。

一人ひとりの市場価値を上げるための制度

──伊藤さんは次々とユニークな制度を企画されているそうですね。

伊藤 いろいろな制度改革をしてきました。例えば既存の書籍購入費補助制度は、業務に関係ある書籍を買うために半期に2万円を補助する制度ですが、ただ費用を補助して終わりではなく、誰がどれぐらい買って読んでいるか、全部データ化するようにしました。
 また月に1回エンゲージメント調査(従業員の仕事への積極性を測る調査)を実施しているのですが、その結果を月の読書量や購入費と適合させてすべての数字をチェックしてデータ化し、それを基に従業員全員に対して作戦会議指導をしています。私は株式投資の視点で多くの経営者を見てきましたので、自社の従業員に対しても「この目標を達成したいなら、おそらくこのままでは難しい。もっとこんな要素を付け加えたほうがいい」といったアドバイスができます。そうやって従業員全員に「市場価値」をつけるのです。

──「従業員全員に市場価値をつける」という育成方針はとても素晴らしいですね。

伊藤 ありがとうございます。このスタンスをさらに推し進めるために「経営塾」も始めました。若手コースと人材コースに分け、吉田が今まで実践してきた経営についての考えや、経営会議で実際に議論した意思決定などを話し、1年前の経営会議の課題をベースにディスカッションします。偶数月は私が金融や株価、会計について話します。「なぜいま円安なのか」といったトピックを取り上げることで、普段の担当業務の中では得られない知識がついて、それが市場価値につながるのです。

──常に学んでいける体制を作られているのですね。

伊藤 「研修」を「学びを通じて成長する機会」と考えれば、入社してから会社をやめるまでが「研修期間」です。会社をやめたときにその人の市場価値が思っていた以上に上がっていたら最高ですよね。そうした成長を狙っています。

──福利厚生面で、伊藤さんが新しく作られた制度をご紹介いただけますか。

伊藤 制度改革のひとつとして「リファラルミール制度」を作りました。リファラル採用を目的として食事をする際に、上限5,000円まで費用を補助する制度ですが、友人と久しぶりに会って食事するために使ってもかまいませんし、必ずしも有益な情報を持ち帰ってこなくてもいい。転職する気のない人との食事をするケースがあったとしても、それ以外で「すごく営業に強い友人が仕事を探しているんだけど、紹介しようか」という事案があったら、とてもラッキーですし、そうした情報にはお金を払う価値があります。これも2021年下期から始めた制度で、友人とのネットワークが広がったことで実際に採用に結びつく事案が増え、前期も4名をリファラルミール経由で採用できました。
 友人がいるから応募者はがんばれるし、何かあったらすぐ友人に相談できる安心感がある。会社側としても従業員の友人ならカルチャーもしっかり伝わっているので信用できる。いいことづくめです。

資格を取得することで自分に起きる「変化」を意識する

──新卒採用では学生時代に取得した資格をどのように評価しますか。

伊藤 単純に「資格を持っている」というだけではアピール力は弱いです。取得後のことまで語れることが大事ですね。例えば簿記検定2級を取得して、インターンで経理の仕事をしたとなれば、採用面接の際に応募者は「簿記を取ったから楽勝かと思っていたら、インターンはとても厳しかったです。実務と資格取得にこんなにギャップがあるとは思いませんでした」などとストーリーを語れます。応募者がどれだけのことを乗り越えたか、どれだけがんばったかがわかれば、企業側も採用したくなりますよね。また、資格名が採用側の目に留まるような書き方をするのも戦略のひとつです。持っている資格をフックに面接で自分のストーリーを語れれば、評価につながるのではないでしょうか。

──資格取得やスキルアップをめざしている読者にメッセージをお願いします。

伊藤 人間は、5歳から20歳までの15年間と、20歳から80歳までの60年間の累積体感スピードが同じだと言われます。20歳の時点で、物理的な時間はまだ60年間残っていても、体感スピード的にはすでに人生は残り半分。ですからビジネスパーソンにとってスピード感はすごく大事です。だからこそ、やってみて変える、変えてみてまい進する、ダメだったらやり方を変える、それでもダメならさらにやり方を変える。そうやってやり方を更新し続けていかないと、絶対に設定したゴールには間に合いません。私は常に「いっそやり方を変えるんだよ」「いつ変えるのか」「その『いつ』の期限を決めて」とかなり強く言っています。そうしなければタスクはなかなか達成できないものです。
 資格についても、ただ取得するだけではなく、その資格を取得すると自分にどんな変化が起きるのかを真剣に考えてください。それが明確になれば、「資格を取得していない自分」とのギャップがわかり、そのギャップを埋めるために、先輩にアドバイスをもらいに行く、講師の方の話を聞くなど、いくらでも打つ手が出てきます。自分の生き方は自分で設計できる人になってほしいです。がんばってください。

[『TACNEWS 』2023年1月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要

社名     株式会社クラウドワークス
設立     2011年11月11日
代表者    代表取締役社長 CEO 吉田浩一郎
本社所在地  東京都渋谷区恵比寿4-20-3 恵比寿ガーデンプレイスタワー6階

事業内容

クラウドソーシング「クラウドワークス」を中心としたインターネットサービスの運営

従業員数

234名(2021年9月末時点)

URL

コーポレートサイト https://crowdworks.co.jp
サービスサイト   https://crowdworks.jp

おススメ記事

「TACNEWS」に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。