人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第40回 株式会社ドン・キホーテ(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスグループ)
古谷 真美子氏
株式会社ドン・キホーテ( パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスグループ(PPIH))
人財本部リクルーティングマネジメント部
新卒採用課 責任者
2012年、新卒で株式会社ドン・キホーテ入社。6年間、東京・埼玉の店舗勤務を経験し、2018年9月、 人財本部リクルーティングマネジメント部に異動。新卒採用に手腕を振るい、2021年10月、新卒採用課責任者となって現在に至る。
1989年のドン・キホーテ1号店出店以来、32期連続増収増益を重ねてきたパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスグループ(PPIH)。メイン事業のドン・キホーテは、知らない人はいないほど有名なディスカウントストアだ。ディスカウント事業で長年快進撃を続けてきた裏には、強い「変化対応力」と「顧客最優先主義」を貫く、揺るぎない企業理念がある。そんなドン・キホーテではどのような人材が活躍しているのか。人財本部リクルーティングマネジメント部新卒採用 課責任者の古谷真美子氏にうかがった。
コンセプトは「便利さ、安さ、楽しさ」
──株式会社ドン・キホーテについてご紹介ください。
古谷 私たちドン・キホーテは、ターゲットや売り場面積、取り扱いアイテム数に応じた多彩な店舗形態を展開しているパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスグループ(PPIH)の中核業態です。PPIHは「顧客最優先主義」を企業理念に、便利さ(CV:コンビニエンス)、安さ(D:ディスカウント)、楽しさ(A:アミューズメント)を提供する独自の店舗コンセプト「CV+D+A」に基づいた店舗運営と商品施策によって、「必要なものを必要なときに買う」だけでなく、ワクワク・ドキドキしながらお買い物を楽しめる「時間消費型店舗」のビジネスモデルを築き上げてきました。
店舗形態として「ドン・キホーテ」「MEGAドン・キホーテ」「ピカソ」「アピタ」「ピアゴ」といった多彩なフォーマットで全国に展開しています。2019年1月にはユニーグループを仲間に迎え、総合スーパー「アピタ」「ピアゴ」を業態転換した「ドン・キホーテUNY」「MEGAドン・キホーテUNY」の展開も始めました。また、海外事業にも取り組んでおり、グループの海外店舗出店を加速させています。
消費社会が進化して「どこでも、いつでも、同価格で、モノが買える時代」です。消費者がどの店、どの企業でモノを買ってもいい環境の中で、ドン・キホーテは便利さだけでも安さだけでもない、アミューズメント性でオンリーワン業態であることで差別化を図っています。目的の商品を買うだけでなく、店舗で楽しい時間を過ごし、気がついたら買おうと思っていたモノ以外の商品も買ってしまっていた。この体験がドン・キホーテのストアコンセプトです。
──現在注力しているトピックがあればお聞かせください。
古谷 お客様のワクワク・ドキドキを追求するためにプライベートブランド(PB)「情熱価格」をこれまでの「自社の所有物としてのPB」から「お客様と一緒に創り上げるPB」へと生まれ変わらせるために「ピープルブランド宣言」を発しました。そこで、お客様と一緒にピープルブランドを創るためのコミュニティサイト「ダメ出しの殿堂 ドン・キホーテ―情熱的改善要求―」を立ち上げ、商品に対するお客様の率直なダメ出し投稿を商品開発や改善に活かすことで、さらに「最驚(さいきょう)の商品」を生み続けることをめざしています。
また、このような商品のラインナップへのこだわりだけでなく、流通体制の整備も行い、国内外の物流通網の最適な体制構築もさらに推し進めていきます。加えて輸出事業で起きている現状を官公庁や自治体とも共有し、煩雑な輸出入業務の簡素化の推進にも注力していきます。
求めるのは「時代の変化に柔軟に対応できる人材」
──求める人物像について教えてください。
古谷 求める人物像としては、「主体性を持って行動できる人」、「変化を楽しみながら、挑戦し続けられる人」、「失敗から学び、自己の発展へ繋げられる人」の3つがあります。
1つ目の「主体性を持って行動できる人」については、まず当社の社風の1つに「権限委譲」があります。本来であれば本部が持つ権限を、店舗と店舗現場に委譲しているのですが、権限委譲するということは、一従業員に大きな権限を与えることになります。つまり自由に好きなようにできる反面、目の前の仕事を自身のことと捉え、主体的に行動することが求められます。権限委譲されたら、「上司に言われたから」ではなく「自分はこう考えるからこれをやりたい」と、主体性を持って行動していただきたいと考えています。
2つ目の「変化を楽しみながら、挑戦し続けられる人」については、商店街が栄える交流の時代から百貨店・総合スーパー(GMS)が栄える時代を経て、今、値段に特化したディスカウント事業やeコマースが台頭してきているように、時代はどんどん変化し続けています。その中でドン・キホーテが32期連続増収増益で成長し続けられたのは、時代の変化に合わせて変化し続けてきたからだと捉えています。同じやり方をずっと突き詰めていくのではなく、何か新しいことをするために今までのやり方を変えていく。私たちはそれを「創造的破壊」と呼んでいます。これを大切にしている企業なので、私たち従業員一人ひとりも、変化に柔軟に対応しつつ自分自身も変化していくことが必要です。変化に対して不安な気持ちを持つよりも、「変化することで何か違った自分に出会える」「自分の知らなかった才能や出会いが生まれる」、そんな風に変化を楽しんでいただけたらと思っています。
3つ目の「失敗から学び、自己の発展へ繋げられる人」については、2つ目の「変化しながら挑戦し続けてほしい」という思いを受け、「失敗こそ経験として糧になる」と考える企業風土が挙げられます。ドン・キホーテは企業としてもずっと走り続け成長し続けているので、失敗をおそれて挑戦しない人よりも、失敗したときにどうすれば次は成功につながるのかを考え、自分の発展と成長につなげていける人材を求めています。
人物重視で履歴書を完全撤廃
──2022年と2023年(見込み)の新卒採用計画をお聞かせください。
古谷 新卒採用に関しては、2022年4月入社は300名弱、2023年も同数程度を採用する計画です。例年約300名の採用を行いますが、社会情勢や事業戦略、人員調整、社会的動向を踏まえて最適人数を決定しています。
──新卒採用の選考フローでの特徴を教えてください。
古谷 当社の採用選考は人物重視なので、履歴書は完全に撤廃しています。書類選考は行わず、可能な限りひとりずつお会いして、個性、意欲、未来に向けた意思を確認しています。「評価する人/される人」という立場ではなく、ひとりの人間同士、真正面から向き合いたいのです。ただ面接時間は学生側と面接官の調整の都合上、話せるのはひとり30分が限界です。たった30分ではその方の人となりについてお互い共有しきれませんので、エントリーシートの中に今までの経験やどこに強みを感じているかといった部分を書いていただき、それについて面接官が掘り下げていきます。
加えて社員と話す場を設けたイベントを実施したり、最終面接に向けた準備や改めて自分の描くキャリアを考えたりする場も設けています。
──ということは、応募者全員と面接をするのですか。
古谷 基本的に全員面接に進んでいただきます。1回目は採用担当との面接で、2回目の最終面接はエリア責任者との面接になります。
──お店のファンだからという理由で応募される方も多いのではないでしょうか。
古谷 応募者の9割がドン・キホーテを利用したことがあって、中でも「よく行きます」という応募者が圧倒的に多いです。特に最近はもともとドン・キホーテが好きなユーザーが応募してくる傾向が強いですね。新卒採用に応募するのはまだ社会で働いたことがない学生の方々なので、「知っている企業にエントリーする」というケースが多いようです。当社の店舗の認知度の高さに加え、大学によっては授業の中で当社の独自の販売方法や経営手法を取り上げてくださるところもあることから、「授業で習ったから」という理由でセミナーに来てくれる学生もいます。気軽にエントリーしてもらえて、さらにセミナーで直接話を聞いて興味が湧いたということで選考に進む方が多いのはうれしい限りです。
──中途採用では年間何名の採用を計画していますか。
古谷 中途採用については、2021年6月期の国内グループ全体の新規採用人数は624名となっています。これにはグループ内の転籍を除いて、非正規から正社員への登用を含めています。このように中途採用は毎年数百名規模で実施していて、今後も新規出店計画を予定しているため、中途採用は継続して行っていく計画です。
2022年入社式と新入社員研修の実施方法
──コロナ禍での採用選考について、2022年4月入社者の面接はどのように実施されましたか。
古谷 2022年入社の面接はすべてオンラインで実施しました。2023年採用では何度か合同説明会や学校説明会を対面で実施したことはあります。面接も対面を試みましたが、その都度まん延防止等重点措置が実施されたため、オンラインで行いました。
──内定者フォローはどのように実施していますか。
古谷 1対1の内定者面談をオンラインで実施し、入社前に抱えている悩みや不安に寄り添う場や機会を設けています。オンラインだからこそ回数を増やして実施できたと思いますね。一方で、オンラインでは入社後のイメージがつかみにくいので、内定者アルバイトとして自宅近くの店舗で実際にアルバイトをしながら、入社までの期間にレジ打ちや商品の場所などを覚えていただく機会を設けています。近くに店舗がない内定者には、オンラインゲーム化して仕事を疑似体験できるイベントなどを用意しました。この方法により仕事を「ワーク」ではなくて「ゲーム」として楽しんでもらいながら体験していただきたいと考えています。
──入社前にeラーニングなどでの課題は設定していますか。
古谷 特に課題は出していません。一度働き始めると、どうしても消費者目線が薄れて売り手側目線が強くなってしまいます。内定者は社内で最も消費者目線を持っている人材なので、それを持ったまま入社していただきたいですね。入社後、その視点を活かして、何らかの戦略に役立ててもらいたいと思っています。
──2022年4月の入社式や新入社員研修はどのように実施されますか。
古谷 入社式に関しては、本社と各店舗をオンラインでつないで実施する予定です。その後は1~3日間の導入研修を経て、店舗で3ヵ月間OJTとして基礎業務を習得できる新入社員研修に入ります。ここで新入社員は各店舗の売り場責任者の下につき、手取り足取り教えてもらいます。この3ヵ月間は朝夜30分間、その日の課題や1日の振り返り、次回への改善策など、研修チームとのWeb面談を実施します。さらに、個々人のスキルはWebではなかなか推し量れないので社内のスキルチェックシステムを使って「何ができて、何ができていないのか」を踏まえた上で、セオリー動画などで自己学習していただきます。こうして「できること」「できないこと」を明確化して、苦手な部分を潰していきます。
その後も定点的な研修を行い、グループワークやWeb座談会などを実施します。これらはすべて基礎業務力を標準化し、ひとりでも多くのプロフェッショナルを輩出することを目的としています。
──入社半年後や1年後の振り返り研修はありますか。
古谷 当社の場合、入社して3ヵ月~半年で昇格する方もいて、置かれた立場や求められる役割などが人によって異なってくることもあるため、その後の全体研修的なものは実施していません。
100名の女性店長輩出をめざす研修も
──ドン・キホーテらしいユニークな研修などありましたら、教えてください。
古谷 「キヅキスキルアップセミナー」という、毎回様々なテーマに沿った社内の講師を集め、Webで講義を行うセミナーを実施しています。他にもユニークな研修に、女性のキャリア支援の一環として女性店長100名の輩出をめざす研修プロジェクト「RISE!100」があります。これは毎週決められた曜日に全国の女性研修希望者をWebでつなぎ、店長になるための知識やポイントを講師から学ぶ研修です。2021年から実施していて、現在までに9名の女性店長が誕生しています。現在2期目の準備を進めている段階で、タイトル通り100名の女性店長輩出をめざしていきます。
──人事制度や福利厚生でぜひ知ってほしいという制度があれば教えてください。
古谷 敷地面積を必要とするので大型店舗に限られてしまいますが、グループの従業員が利用できる事業所内保育所「ドンキッズ」を店舗のバックスペースに設けています。お子さんのいる従業員は仕事中はそこにお子さんを預けて、シフト終了後は一緒に帰宅できます。こうした保育施設の他に、企業型の保育施設と提携して当社の従業員が優先的に利用できるようになっています。
──保育施設があるということは、女性従業員は結婚・出産を経て仕事に戻ってこられる方が多いのですね。
古谷 そうですね。当社で働いている従業員は、アルバイトを含め全体の7割が女性で、圧倒的に主婦が多い傾向があります。ですからお子さんを育てながら働くことに関する制度を導入するのは、会社として当然のことだと思っています。
資格取得後のビジョンまで想像してほしい
──新卒応募者がエントリーシートなどに何らかの資格を持っていると明記してきた場合、どのように評価しますか。
古谷 ドン・キホーテの店舗でのリテール採用に関しては、新卒・中途ともに選考時点での必須資格はありません。ただし資格を持っているということは、少なからずその分野において知識があるということですし、持っている資格の内容次第では即戦力になる人材である可能性がゼロではないと思っています。当社の場合はグループ内に幅広い事業体や部署がありますので、何か特殊な業種に突出した資格を持っている人に関しては、どの配属先がキャリア上ベストなのかを柔軟に見極めて配属します。
また、例えば海外に行きたいから語学力関連の資格、医薬品販売をやりたいから登録販売士の資格の取得をめざすなど、今後のキャリアを広げるために資格の勉強をしている人は社内に大勢います。自身のキャリアのために必要な資格があれば積極的に取得していただきたいですし、資格取得支援の福利厚生も用意していますので、入社後はぜひ利用していただきたいですね。
──資格取得に向けて、あるいはキャリアアップのために勉強中の方々に向けてメッセージをお願いします。
古谷 ただ単に資格取得を目的とするのではなくて、その資格を身につけてどうなりたいか、どのようなキャリアを描いていきたいかなど、その先のビジョンまで想像していただきたいと思います。ときに苦難もあるかと思いますが、将来の「なりたい自分」に近づくために、今できることを精一杯がんばってください。
[『TACNEWS 』2022年5月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]
ドン・キホーテ中目黒本店と本社外観
会社概要
社名 株式会社ドン・キホーテ
設立 2013年(平成25年)8月14日 (旧ドン・キホーテ設立 1980年(昭和55年)9月5日)
代表者 代表取締役社長 吉田 直樹
本社所在地 東京都目黒区青葉台2-19-10
事業内容
総合ディスカウント事業
従業員数
16,838名(正社員のみ 2021年6月期連結)
3,033名(正社員+契約社員、2021年6月期/ドン・キホーテ単体)
26,604名(正社員、メイト、契約含む、2021年6月期/ドン・キホーテ単体)