人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第28回 株式会社ぐるなび
金 ソルヒョン氏(左)
株式会社ぐるなび 人事部 新卒採用担当
2013年、新卒で人材系コンサルティング会社入社。営業部、新規事業関連部署、企画部署を経験。企画部での採用経験を活かし、2018年2月、ぐるなびに転職。人事部にて中途採用と新卒育成を並行して担当し、現在は新卒採用・育成全般を担当。
瀧澤 栞氏(右)
株式会社ぐるなび 人事部 中途採用担当
2013年、新卒でITサービス会社入社。1年目から人事に配属となり4年間新卒採用を担当。2017年1月、ぐるなびに転職。2年間の新卒採用を経て2019年5月から中途採用をメインに、新入社員教育、社員教育等、人材育成に取り組む。
スマートフォンのアプリなどで飲食店を事前にチェックしてから来店する。今や当たり前ともいえるこの行動は、実は「ぐるなび」が作った新しいライフスタイルだ。そんな飲食店情報サイトのイメージが強い「ぐるなび」は今、飲食店の販促支援企業から経営サポート企業へと大きく変貌を遂げようとしている。株式会社ぐるなびの人材戦略と2020~2021年の採用、コロナ禍での対応についてうかがった。
経営サポート企業「ぐるなび」への進化
──株式会社ぐるなびとは、どのような会社なのかを教えてください。
金 ご存知の通り、ぐるなびは1996年から飲食店情報サイトを運営し、事前に情報を調べて飲食店に来店するという新しいライフスタイルを作った会社です。そこがルーツとなるため、「日本の食文化を守り育てる」という企業使命の元、外食産業を盛り上げるためのさまざまな事業を展開しています。最近では飲食店情報サイト「ぐるなび」だけでなく、訪日外国人向けサイトや旅先の情報をまとめたサイトなど、自社メディアでの情報発信をはじめ、飲食店の業務効率化支援、人材育成、採用支援、店舗開発、店舗改善などにも力を入れ、販促支援企業から経営サポート企業へと進化していくことをめざしています。さらに、時代の流れに合わせて、農林水産省と共にGo To Eatキャンペーン事業や、飲食店向け食材ECサイト「ぐるなびFOODMALL」も展開しています。
──新型コロナウイルスの影響を大きく受けた飲食店に、どのようなサービスを提供してきましたか。
金 緊急事態宣言が発令された2020年4月、5月は飲食店に直接出向いての営業活動ができなかったため、リモートや電話での商談を通した営業活動に加え、飲食店向けの助成金申請方法を動画で紹介するなどしていました。6月に入って緊急事態宣言が解除されたあとは、コロナ対策を徹底した上での店舗経営に向けた支援活動に力を入れており、その時々のニーズに合わせた最大限の支援をしています。今後も全国の飲食店のニーズに合わせて、当社のサービスをさらに進化させていきたいと考えています。
──2021年の新しい取り組みがあればお聞かせください。
金 「ぐるなびFOODMALL」をきっかけに、全国の飲食店や生産地をつなぐ受発注業務には本格的に参入していこうと検討しています。
また、オリンピック・パラリンピックが無事開催されれば、当社の訪日外国人向け情報サイト「LIVE JAPAN」のニーズもかなり増えてくると思いますので、そちらでもいろいろな取り組みができると考えています。
「日本の食文化を守り育てる」への共感
──新卒採用と中途採用についてお聞かせください。
瀧澤 当社は中途採用比率が高い傾向にあり、現在は約3対7の割合となっています。新卒採用は2002年4月からスタートし、現在は年間40名ほど採用しています。
──ぐるなびの求める人物像をお聞かせください。
金 新卒採用、中途採用のどちらにも共通しているのは「日本の食文化を守り育てる」という企業使命に共感し、外食産業や飲食店に貢献したいという思いがあるかどうかという点です。さらに新卒採用の場合は、自ら主体的に考え、周囲を巻き込みながら行動することができ、成長意欲や目標達成意欲が高い人材が当社にマッチすると考えています。というのも、当社の新卒採用は総合職と技術職の2つの職種で行っていますが、総合職の場合は飲食店に出向いてコンサルティング営業を行う営業職に就く可能性が一番高いためです。サイトに情報を掲載して終わりではなく、飲食店をよりよくするためには何ができるかを日々考えていく必要があるので、単に言われたことだけをやるのではなく、自ら考え、主体的に行動できるかどうかを見極めて採用しています。
瀧澤 中途採用に関しては、採用する部署が多岐にわたるため、営業系、企画系、エンジニア、管理系など、そのときに必要な職種によってさまざまな採用活動を行っています。新たなサービスのローンチや事業展開のためにスターティングメンバーとして採用するだけでなく、既存事業強化のためにメンバーを採用することもあるので、経験者の採用を基本として、これまでの経験と身につけたスキルを当社で活かしていただくことに重きを置いています。
間口の広い採用選考を実施
──2020年4月入社と2021年4月入社予定の新入社員は何名ですか。
金 2020年は総合職25名、技術職5名、合計30名の新入社員が入社しました。2021年は総合職27名、技術職15名、合計42名に内定を出しています。また当社では、少し変わった採用手法である「アラカルト採用」を行っており、こちらからも毎年1~2名が入社しています。
「アラカルト採用」は、学生の個性や経験に合わせて3つのコースを用意していて、「食アカデミアコース」は食に関連した研究や情報発信をしてきた方が対象となり、1次面接ではご自身の活動についてのプレゼンテーションを行っていただきます。「留学生コース」は日本に留学中の外国人留学生が対象となり、「宴会幹事コース」はサークルやゼミなどでの幹事をした経験が豊富な方にエントリーいただいています。「留学生コース」と「宴会幹事コース」の選考フローは通常選考と変わりませんが、特別な経験をした方々を対象としていますので、それらの経験を通して何を学んだかをお聞きしています。
──2020年4月の入社式や新入社員研修はどのように実施しましたか。
金 2020年の入社式は4月に行うことができず、2週間ほど延期してオンラインで実施しました。入社後の研修も4月はオンラインで実施し、その後は状況に応じて都度実施しています。
2021年度向けの採用活動は、活動の開始時期が早かった技術職に関してはほぼ対面で面接を実施することができましたが、総合職は選考のスタートとなる説明会の開催が2020年3月からだったので、その後のすべての選考がオンラインでの実施となりました。内定式も内定者の安全面を最大限に考慮し、本社と地方営業所4ヵ所を中継でつなぐ初めての試みになりました。今後は、可能な範囲で直接会える機会を作りたいと思っています。
──内定者研修はどのような流れで実施していますか。
金 例年は夏から年明けにかけて懇親会と内定者研修を複数回実施していましたが、2020年はコロナの影響で秋頃からのスタートとなり、オンラインで懇親会を実施しました。2021年1月には営業同行研修を予定していますが、当社は外食産業や飲食店を盛り上げるために事業展開している会社なので、営業担当者が実際現場でどのようなことをしているのかを自分の目で見ていただくため、技術職の方にも参加してもらいます。当日は、社会人として身につけるべきビジネスマナーについてお伝えする予定です。
さらに技術職については、指定された課題図書を読み、そこから得た内容について先輩社員の前で発表する場を設けています。内定時期だけで4~5回の研修機会を用意し、先輩社員と内定者間でいい関係性を構築しながら入社に向けての準備ができるよう手助けしています。
中途採用は現場ごとにリモート対応を工夫
──中途採用のオンライン面接で、見極めづらい点はありませんでしたか。
瀧澤 最初はオンライン面接の進め方や、どのような部分に気を使えばいいか戸惑う部分もありました。ただ、社内での会議も現在はほとんどオンラインになっているため、面接も自然と慣れてきたことを実感しています。
──中途入社の方は入社後に受ける研修はありますか。
瀧澤 毎月月初に中途入社者向けの導入研修を行い、2日間でぐるなびとはどのような会社であるかを伝えています。各部署のミッションや事業内容などを部署のトップが説明するほか、当社のルールや人事制度などについてお伝えし、当社で働く上での基本的な部分を理解していただいた上で現場に配属となります。
現場配属後の教育についてはそれぞれの現場にお任せしていますが、入社3日目からいきなりリモートワークというのはさすがに不安な方もいらっしゃいますので、部署ごとに工夫しながら、最初の1週間は出社していただき、マンツーマン指導を受けてからリモートワークに入るなどといったフォローをしています。
ぐるなびならではのプログラムで飲食店サポートスキルを習得
──その他にはどのような研修を用意していますか。
瀧澤 人材育成の研修は大きく分けて「会社指名型」と「自己啓発支援型」の2つとなっています。1つ目の会社指名型は、新入社員研修、新入社員フォロー研修、入社3年目のキャリア研修、中途導入研修、階層別研修、新任上司研修のように会社が参加者を指名し受講するものとなっています。また、管理職向けにプロジェクトマネジメントの手法や戦略的なコーチングなど、会社の状況を踏まえて毎年テーマを変えて研修を行っております。2つ目の自己啓発支援型は、社員であれば誰でも利用および参加ができる研修制度となっています。
──自己啓発支援にはどのようなものがありますか。
瀧澤 自己啓発支援は多数メニューがあります。例えばロジカルシンキングや組織マネジメントなど、様々なテーマを設定した希望者参加型の研修があります。その他、会社が提携している通信教育事業者の講座やeラーニングを受講すると、受講費用の一部を会社が補助する制度もあります。通信教育のラインナップとしては、ビジネススキル系や語学系、業務効率化などがメインですが、その他にフードアナリストや食育アドバイザーなど、当社らしい「食」に関する講座まで、幅広いプログラムを用意しています。コロナ禍の影響もあり、家で過ごす時間が増えたことで、2020年の制度利用者は2019年よりも大幅に増えましたね。
また英語学習の機会提供の一環として、語学スクールの入会金割引やレッスン割引、あるいは社内で実施するTOEIC® L&R IPテストを社員が1,000円で受けられる制度もあります。
その他、「越境学習奨励金制度」という制度もあります。自身のスキルアップのために、業務に関連する外部研修やセミナー等に参加した場合、会社が受講料の補助をするものです。
また、「ぐるなびビジネスカレッジ」という当社ならではのeラーニングシステムには、自己研鑽をしたい人を後押しするプログラムが多数あるので、これを活用してキャリアアップやスキルアップに臨む社員が多いですね。
──具体的にはどのようなプログラムでしょうか。
瀧澤 私たちのお客様である飲食店や外食産業の発展に貢献できるよう、eラーニングで外食産業と飲食店のサポートに必要な知識やスキルを習得する独自のプログラムです。1~5段階の難易度に分けたプログラムを用意し、各プログラム受講後に認定試験を実施して、合格者は次のステップに進むことができます。
本プログラムでは、日本の外食産業や食文化の歴史から食材に関する知識まで幅広く習得できます。お客様によりよい提案をするためには飲食店の方と同じレベル、あるいはそれ以上の知識を身につけなくてはいけませんので、店舗開業の知識や、損益計算の方法、チェーンストア理論等も学習内容に含まれ、本格的に経営にまで踏み込んでいけるレベルの知識を網羅しています。
スキルアップの第一歩は資格取得
──社内に有資格者は在籍していますか。
瀧澤 開発を担当するエンジニアなどは専門的な技術や知識が求められる職業のため、有資格者が多い部署です。その他の部署でも、業務に役立つ資格を保有しながら働いている社員もいます。
──履歴書の資格欄に簿記やTOEIC® L&R TESTの点数など何らかの記載があった場合、どのように評価していますか。
金 新卒採用においては資格の有無がそのまま合否に直結することはありません。ただ、技術職の場合、基本情報技術者などの関連資格を持っているとスキルの証明になるので、ひとつの判断材料として活用することはあります。
資格取得に関連して一番評価すべきなのは、資格そのものではなく、その資格を取得するに至るまでのプロセスだと思います。特に新卒採用の面接で変わった資格を取っている学生がいた場合は、なぜその資格を取得しようと思ったのか、今後どのように活用しようと思っているのかをお聞きしたいですね。
──最近のトピックがあればご紹介ください。
瀧澤 一番のトピックはオフィスのあり方が大きく変わった点です。当社は緊急事態宣言前からリモートワークを実施していた部署がありましたが、今では基本的にほとんどの社員がリモートで仕事をしています。コロナ禍の状況で出社を必要としない働き方にシフトしていて、最近では、オフィスは「仕事をするスペース」ではなく「コラボレイティブスペース」という位置付けに変化し、社員同士で価値を生み出す場所として活用しています。
──資格取得やキャリアアップをめざして勉強中の方にメッセージをお願いします。
金 特に大学生の皆さんへお伝えしたいのは、資格は取得することが目的になりがちですが、取得後にそこから得た知識を活用してこそ、意味があるものだということです。ただ先ほどお伝えした通り、取りたいと思う資格を選び、勉強に励み、受験し、合格するまでの一連のプロセスには価値があると思いますし、時間のある学生時代こそ資格にも、それ以外のことにもたくさんチャレンジしていただきたいと思っています。
瀧澤 ウィズコロナの時代に向けて、これからは個人にも時代に合わせた変化が求められるようになってくると考えています。自己研鑽する姿勢は、今まで以上にビジネスパーソンとしての価値を高めるために大事なスタンスになってくるでしょう。自己研鑽しよう、スキルアップしてみようと思ったものの、何から始めていいのかわからない、そんなときに目標となるのが資格取得だと思います。自分が何をしたらいいのか、どのような力をプラスしていけばいいのかわからなければ、まずは資格取得について調べて勉強してみるなど、そこから第一歩を踏み出してみてください。
[『 TACNEWS 』2021年3月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]
会社概要
社名 株式会社ぐるなび
設立 1989年10月2日(会社設立)
代表者 代表取締役社長 杉原 章郎
本社所在地 東京都千代田区有楽町1-2-2 東宝日比谷ビル6F
事業内容
パソコン・スマートフォン等による飲食店等の情報提供サービス、飲食店等の経営に関わる各種業務支援サービスの提供その他関連する事業
従業員数
単体1,622名 連結1,852名(2020年9月30日現在)