人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第27回 Sansan株式会社
木下 眞由子氏
Sansan株式会社
人事部 中途採用Group 採用担当
新卒で化粧品会社に入社。代理店営業職に従事、結婚を機に人材キャリアアドバイザーに転職、その後は人材・人事アウトソーサーなど、人事系専門職として活躍。2016年に業務委託でSansanにジョインし、その後正社員雇用。採用から人事制度設計まで幅広く人事業務をこなすエキスパート。
印象的なCMでもお馴染みの法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」。読者の中には同社が開発する名刺アプリ「Eight」の利用者もいることだろう。名刺管理を起点としたビジネスプラットフォームとして活用するサービスを展開しているSansan株式会社では、どのような人財が活躍しているのか。人事部中途採用Group 採用担当の木下眞由子氏に、Sansanの採用活動と求める人物像、資格の捉え方についてうかがった。
ミッションは「出会いからイノベーションを生み出す」
──Sansan株式会社について教えてください。
木下 Sansanは「出会いからイノベーションを生み出す」をミッションに、名刺をデータ化しビジネスプラットフォームとして活用できるサービスを国内外で展開しています。具体的には、名刺データを企業で一元管理し、共有するプラットフォームとして活用する法人向けクラウド名刺管理サービスの「Sansan」、名刺アプリ「Eight」、そしてあらゆる請求書をオンライン受領・一元管理する「Bill One」というサービスも展開しています。
さらに新たな柱としてイベントテック事業の展開を始め、2020年10月に法人向けセミナー管理システム「Sansan Seminar Manager」を発表しました。新型コロナウイルスの影響もあり、企業セミナーがオンライン上でのウェビナー開催に移行する中、オフラインのセミナーは、従来型のアナログな運営方法では、開催すること自体が難しくなっています。こうした状況下においては、このシステムの特徴的な機能のひとつである、オフラインセミナー向けの無人受付システムが役立ちます。来場者が専用端末に自分の名刺をかざすだけで、Webでの申込登録情報と照合され受付が自動で完了しますので、開催者側の受付人員をゼロにでき、不要な接触も最小限になります。
──名刺を軸にしたデータベースの活用から、事業領域を拡大しているのですね。
木下 その意味では、すべてのサービスがミッションと紐づいています。忠実に1本の筋を通している点は、当社サービスのわかりやすさとこだわりになっています。
──新型コロナウイルスの影響で、セミナーだけでなく打ち合わせのオンライン化も進みました。対面での名刺交換の機会も減っているのではと思いますが、影響はいかがですか。
木下 新型コロナウイルスの影響を受けて、世の中に必要とされる機能として2020年6月に「オンライン名刺交換」をリリースしました。社内的にも「ピンチをチャンスに」の掛け声のもと、コロナ禍があったからこそ活路を見い出そうとしてきた部分がありますね。
中途採用をメインに新卒採用も増員
──採用計画について教えていただけますか。
木下 採用では中途採用がメインになっており、私は中途採用を担当しています。事業と組織の拡大に伴って中途採用数は年々倍増し、2016年の中途採用ではポジション数が20足らずだったところ、現在は60以上と約3倍に増えています。成長スピードに合わせて年間約200名を採用していますが、多い年は年間約250名を採用しました。中には1日あたり30〜40件の面接を行う日もあります。
──新卒採用はどのようになっていますか。
木下 これまでは中途採用がメインでしたが、近年は新卒採用にも注力しています。2020年4月は新卒約40名が入社し、オンラインで入社式と新入社員研修を実施しました。2022年の新卒採用に向けては、事業成長と市況感を勘案しながらさらに採用数を増やすことも検討しています。
──新型コロナウイルスの感染拡大による採用活動への影響を教えてください。
木下 当社では2020年3月以降の採用活動は基本オンラインで実施し、緊急事態宣言が解除されるまでの間は最終面接もオンラインで実施しました。
採用シーンにおいてもすべてオンライン対応できるので、私自身、クラウドサービスの素晴らしさを改めて実感しました。
──オンラインにした結果、採用に影響はありましたか。
木下 いわゆるコンバージョン(決定率)が下がったのであればやり方を再考しなければと思っていましたが、2020年1月からの数値を検証した結果、6月まで大きく変わることはありませんでした。そこで今は1次面接と2次面接はオンラインで実施し、最終面接は、採用候補者の方の意思を確認した上で来社していただくようにしています。
──オンラインでの面接で、判断しにくい点はありませんでしたか。
木下 従来のオフラインでの面接とそこまで大きな差は感じませんでしたね。強いて言えば、「最終面接で実際に会ってみたら思ったよりも身長が高かった!」ぐらいでしょうか(笑)。あとは、ツールに慣れるまでは、通信状態が不安定になった際などの戸惑いはありましたね。
それまで対面だった面接が突然オンラインになれば、誰もが「会ったほうがいいな」と感じると思います。でもそれは慣れの問題で、緊急事態宣言が発令されて在宅を余儀なくされたのであれば、その状況に順応して変化に対応していくしかありません。当社では、面接官からも特に大きなトラブルの報告やクレームはありませんでした。
入社後の出社とリモートワークについては、当社では有事の際にどう動くかのガイドラインに沿って動いています。まだまだアフターコロナとは言えない状況ですので、週の何日かは出社、残りはリモート、という形で勤務してもらっています。今後については、状況を見ながら判断をしていくことになります。
営業職を中心に幅広い年齢層で採用
──先ほどもご紹介いただきましたが、中途採用にはとても多くのポジションがありますね。
木下 大きく分けて、ビジネスサイドとエンジニアサイドの2つの職種区分に分けられますが、厳密にいうと「Sansan」の営業とエンジニア、そしてそれ以外の事業のビジネスサイドとエンジニアサイドに分かれています。拠点も含めてすべて本社で一括採用し、採用後に各部署へ配属になります。
──ビジネスサイドではどのような人材が求められていますか。
木下 当社は外から見ると大手で、組織体制がしっかり整っていて教育制度も万全だと思われることが増えてきたのですが、まだまだでき上がっていないベンチャーの要素が多分にある組織です。ですから、オーナーシップやリーダーシップなど、主体性を持って仕事に取り組み、自分が拾ったボールはすべて自分で投げ切るという風土があります。そこに重きを置いているのがビジネスサイドの特徴ですので、面接では、思考力、意思の強さ、柔軟性などを見ています。
──中途採用では、どのような方の応募が多いのですか。
木下 中途採用での選考はいわゆる筆記テストはなく、基本は面接のみになります。採用されるのは20代の若手しかいないのではというイメージもあるかもしれませんが、年齢で区切ることはしませんので、20代前半から時に60代の方まで、幅広い年齢層の方からご応募をいただきます。経理などのコーポレート部門やエンジニア部門などでは、専門的なスキルや技術があれば年齢に関わらず採用しています。
──中途採用の入社のタイミングは、どのように設定していますか。
木下 月初と月中の月2回、入社日を設けています。入社したら5日間は人事の研修を受けてもらい、当社のミッションやバリューズ(価値観)をしっかりと理解していただきます。その後は配属先で個々人のキャリアに沿ってOJTや研修を行っていきますが、「Sansan」の法人向け営業職だけは入社人数が多いので、「Sansan」の機能や価格を知り、実際にセールスをかけてアポイントを取るような実務直結の研修を約1ヵ月から2ヵ月実施します。新型コロナウイルスの影響で、実際の商談はオンラインだったり訪問だったりしていますが、以前よりオンライン商談が増えていますね。
事業成長を加速するための「社内制度」
──人事制度や福利厚生で特徴ある制度を教えてください。
木下 実は、当社には「福利厚生」はないのです。私たちは意図を込めて「社内制度」と呼んでいます。というのは、社員の幸せのために何かを補足するという目的での福利厚生ではなく、事業成長を加速するために「どのような制度があれば社員の生産性が向上するのか」をベースに社内制度を設計しているからです。ここに、社員のための福利厚生制度との違いがあります。
この社内制度の中の社内コミュニケーションを目的とした施策のひとつに「Know Me」という制度があります。他部署で働くメンバーが社内交流のために3人1組で食事をする場合に飲食費が補助される制度で、オンラインでの飲み会にも適用されるため、コロナ禍においても社内コミュニケーションを活性化できる施策となっています。
もうひとつ特徴的なのは「Jump!」という社内異動制度です。これは私が採用に際しての課題点を踏まえて設計した制度で、社内の求人に応募できるしくみを用意し、社員が今どのようなキャリアを考えているのかについてヒアリングする、包括的なキャリアアドバイス制度です。
他にも、育児中のメンバーが家庭の状況に左右されずに活躍できるよう、ベビーシッターや家事代行サービスにかかる費用補助を受けられる「KISS」という制度も用意しています。
──いわゆる「社員のため」を謳った補足的制度ではなく、あくまで事業の一環として、事業を加速させるための制度なのですね。そうした位置づけで考える企業は珍しいように思います。
木下 「福利厚生」ではなく「事業成長のための制度」として打ち出すというのは当初からのことで、ずっと変わっていません。労働基準法や健康保険制度、社会保険制度に関する制度については、当然、法定通りしっかりと制度化されていますが、そこに何をプラスすれば会社がより成長できるのかという視点を軸に、社内制度を設計しています。
実務に合致した資格取得を
──仕事上で必要になる資格はありますか。
木下 当社では、全社員が個人情報保護士認定試験を受けることを義務づけられています。プロダクトのセキュリティをどんなに強固にしたとしても、社員の意識が低ければ、情報漏えいにつながってしまいかねません。そこで、社員の意識づけと情報の取り扱いについて万全の知識を持って仕事に向き合ってもらう目的で、入社したら必ず受験していただいているのです。個人情報保護士認定試験に2回以内で合格しなければ昇給にも響いてくるので、必死で勉強していますね。
──受験にあたって何かフォローは行っていますか。
木下 会社からテキストを提供し、受験費用も会社で負担しています。あとは入社のタイミングで資格取得のためのツールを紹介したり、勉強方法についてのアドバイスをしたりしています。すべての社員が同じ苦労をしているので、わからないことがあれば職場でアドバイスしてもらえます。
──他に何か推奨している資格はありますか。
木下 特に「これを持っていたほうがいい」という資格はありません。資格はただ持っていればいいのではなく、実際に働いたこととのシナジー効果があってこそ、意味や価値が生まれると考えています。言い換えれば、きちんと実務に合致した資格を取得することが大事であって、その判断は個々人の裁量に委ねられています。
ただし今後、組織の成長に合わせて、社員のために学びを加速できる講座などを用意していきたいという話はしています。それが最終的に事業成長につながればと考えています。
──例えば応募者が履歴書の資格欄に「日商簿記検定2級」などと記載していた場合は、どのように評価されますか。
木下 正直に言えば、そこに書いてある資格そのものをダイレクトに評価することはありません。ただ、資格があることでその方がどのような勉強をしてきたのかといったバックグラウンドを見ることができるので、取得した資格があればぜひ書いていただきたいですね。経理や財務会計系専門職種であれば、どの程度のレベルなのかを資格欄でチェックしますし、そこに実務経験がともなっているかどうかまで、必ず見ています。
──弁護士や公認会計士などの有資格者は在籍していますか。
木下 法務部には弁護士有資格者がいますが、弁護士としてではなく一般の社員として在籍しています。採用において有資格者に絞って募集をしたのではなく、応募者の中に「事業会社の法務部門で働きたい」という弁護士資格を持った転職希望者がいた、ということです。経理部門では、以前、募集要件に公認会計士の有資格者であることを記載していたこともありましたので、今も社内には公認会計士が在籍しています。
──資格取得やスキルアップをめざして勉強中の方にメッセージをお願いします。
木下 若い頃は「何か資格を取ればいい会社に転職できる」「とにかく資格をたくさん持っていたほうが有利」と安易に考えがちです。けれども、私自身の人生を振り返ってみても、実務の経験があって初めてその資格の意味や意義がわかるし、資格を実務で活かしてこそ周りからの評価につながることを痛感しています。何でもいいからまず先に資格を取得してから転職や就職に臨むというやり方とは真逆のアプローチですが、仕事をしてみて実務を経験した上でさらにスキルアップするために資格を取りにいくというやり方のほうが、キャリアとしては意味があるし、より高い価値が生まれるのではないでしょうか。資格を取ろうと思ったら、一度は自分と向き合って、「自分自身がどう生きたいのか」「どんなキャリアをめざしていくのか」を考えていただければと思います。
[『 TACNEWS 』2021年2月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]
会社概要
社名 Sansan株式会社
設立 2007年6月11日
代表者 代表取締役社長 寺田 親弘
本社所在地 東京都渋谷区神宮前5-52-2 青山オーバルビル 13F
事業内容
クラウド名刺管理サービスの企画・開発・販売
従業員数
728名 ※2020年8月現在