人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第12回 さくらインターネット株式会社

Profile

矢部 真理子氏

さくらインターネット株式会社
管理本部 人事部 マネージャー

前職では約7年間、様々な業態・職種の新卒・中途採用の企画から運用業務まで携わる。2012年に採用担当としてさくらインターネット株式会社に入社し、年間100名のエンジニア採用を中心に採用広報にも携わる。次世代のIT人材の育成と機会創出のため、子供向けプログラミング教室「Kids Venture」の運営委員としても活動。2018年7月からは人事部マネージャーとして、人・組織で事業に貢献するための人事業務全般に従事。

 

 さくらインターネット株式会社は、日本のインターネット創成期からデータセンター事業を展開してきた。“「やりたいこと」を「できる」に変える”という理念のもと、社内でもその理念に沿った働き方改革を推進している。  新卒・中途採用から、働き方改革についてまで、人事部マネージャーの矢部真理子氏にうかがった。

求めるのは「やりたいこと」のために自律して動ける人

──さくらインターネット株式会社についてご紹介ください。

矢部 さくらインターネットは、インターネットのインフラサービスを提供する会社です。日本のインターネット創成期からデータセンター事業を展開し、回線容量は国内事業者では最大級です。お客様のサーバを当社データセンターでお預かりする「ハウジングサービス」から、当社所有のサーバをインターネット経由でご利用いただく「ホスティングサービス」、最近ではIoTプラットフォームサービスなど、時代に合ったお客様のニーズに対応する幅広いサービスを提供しています。
 インターネットのインフラサービスは表舞台に出ることがないので、なかなか一般の方はご存知ないかもしれませんが、お客様には大手インターネット通販会社などが名を連ね、その成長を縁の下で支える会社として成長してきました。

──人員構成としてはエンジニアの方が中心の会社でしょうか。

矢部 総勢474名中、約7割がエンジニア、約3割が営業・カスタマーサポートと管理部門になっています。これまではエンジニア中心でしたが、改めて「カスタマーサクセス」をビジョンのひとつに掲げるようになり、お客様の成功を叶えられる企業をめざして、お客様の対応をする営業やカスタマーサポート、お客様の技術的支援をするテクニカルサポートの人員を増やし始めています。

──採用活動について教えてください。

矢部 これまでは中途採用が中心で、全社員の約9割が中途入社の社員です。中途採用では年間70〜100名を採用しております。一方で新卒採用はエンジニア5〜10名、営業・カスタマーサポート5〜10名を目標に採用活動を行い、2019年度は8名の新入社員を迎えることができました。
 経営チームからは、新卒を採用し育てられる会社にしていきたいというオーダーがあります。今後は体制を整え段階を踏みながら新卒採用の人数を増やしていきたいと考えています。

──今までは中途採用が中心だったのですね。中途採用はどのような方法で行っていますか。

矢部  中途採用のうち7割がエンジニアです。人材紹介、Webサイトなどいろいろな媒体とリファラル(社員紹介)採用を行っています。2018年度は中途採用のエンジニアのうち約3割がリファラル採用でした。中途採用の場合、注力している事業やサービスによって職種や採用人数は変動があります。
 中途採用の選考方法は、一次面接通過後に性格診断テストを受けてもらい、最終面接という流れです。内定を出すまでの選考はスピーディーに行っており、早ければ応募から内定まで2週間ほどで内定提示をすることもあります。

──新卒・中途採用を問わず、求める人物像について教えてください。

矢部 当社の企業理念は、“「やりたいこと」を「できる」に変える”ですので、この理念に共感し、自身も「やりたいこと」を持っている方を求めています。「やりたいこと」というのは、未来の自分や夢を明確に描けるかどうかや、大切にしている価値観をお持ちかどうかといったことも含めて指しています。役職に関係なく、お客様や仲間や自身の「やりたいこと」のために行動し、対話し、人と人を繋ぎながら、影響力を発揮し、「できる」に変えていける方がいいですね。また当社ではチームで協働することを大切にしていて、チームの中で「自律」して動ける方を求めていますので、リーダーシップとフォロワーシップ、どちらも重視しています。

自社スカウト形式によるエンジニア採用

──新卒採用のプロセスについて教えてください。

矢部 エンジニアの採用ではユニークな試みをしていて、インターネット媒体などは使わずに、学校の部活や、プログラミングコンテスト、起業家系イベントに採用担当が参加し、参加学生に個別にコンタクトを取る自社スカウト形式をとっています。対象とする学年はバラバラで、新卒の対象ではない方、例えばまだ高校生の方も含めてコンタクトを取り、一緒に歩んでいく試みで、場合によっては6年間もフォローすることがあります。
 こうした採用方法をとっているのは、「やりたいこと」をやるために、自ら外に出て、自発的にものごとに取り組み、自ら勉強している人財を採用していきたいという考えからです。
 また、当社は代表の田中が学生時代に世の中のインターネットのインフラのコストを下げたいと学生起業した会社です。その意味では、仮に入社に至らなくても、将来起業したり、インターネット業界を引っ張っていく存在になったりする可能性の高い学生へのフォローをしたいとの思いから活動をしている側面もあります。実際に、5年間フォローした学生が他社に就職し、エンジニアとして当社のサービスを利用いただくといったケースもあります。私たちは、お客様のビジネスの成功により社会がよりよくなることで、収益をあげている会社です。ですから採用担当も、目先の採用目標は大切ではありますが、視野を広げて活動を行うようにしています。

──プロスポーツ選手のスカウトに似た採用方法ですね。

矢部 そうですね。高校・大学時代から当社でアルバイトやインターンシップを経験し、会社の風土・文化などを理解していただく工夫もしています。
 採用方法としてはユニークですが、みな当社のビジョンに共感し、「やりたいこと」を持ち、とても優秀です。入社後は大いに活躍してくれています。2014年10月に新卒入社し、わずか2年で25歳の若さで執行役員になったエンジニアもいます。

──エンジニア以外の新卒採用はどのような方法になりますか。

矢部 当社は情報系の学生や、エンジニアを志望する学生には知名度の高い会社ですが、文系の学生や、営業・カスタマーサポートを志望する学生には、あまり知られていません。そこで、まず認知してもらうところから始めようということで、いろいろな媒体に出稿したり、学内説明会に参加したりしています。
 そして、インターンシップに参加してもらって、社内の様子や雰囲気を知ってもらうこと、営業・カスタマーサポートの仕事を体験してもらうことから始めています。

──それぞれの職種の面接はどのように行いますか。

矢部 エンジニアは面接が2回です。一次面接がリーダークラスのエンジニアによる面接、最終面接は部門長クラスのエンジニアと人事部の面接になります。エンジニアの選考基準は、技術よりポテンシャル重視です。どういうことかといいますと、「技術は目的を叶えるための手段である」という考えがベースになっています。人生100年時代で生き残るエンジニア像を考えると、目先の技術に固執するのではなく、「なぜやるのか」という目的を考え、その目的を叶えるための技術習得をしているかどうかという点が大切です。
 営業・カスタマーサポートも面接は2回です。一次面接が若手社員による面接、最終面接は役員と部長と人事部の面接になります。営業系では、当社のビジョンに共感しているかどうか、インターネットを通じて社会をよくしていきたいかどうかをじっくり聞くようにしています。役員自身が採用に責任をもち、きちんと対話したいとのことで面接に臨んでいます。

新卒は半年に1回の1on1面談でフォロー

──新卒者の場合、内定後に研修などはありますか。

矢部 営業・カスタマーサポートの内定者には、ITパスポートは早めに取得するよう奨めています。10月の内定式当日は内定式後に、内定者同士で価値観を共有するワークショップを実施しています。入社直前の3月末には社員全員が集まる社員総会に参加してもらい、会社のビジョンや来期の方針を社員と一緒に聞いて4月の入社式を迎えます。

──新入社員研修について教えてください。

矢部 2ヵ月間はエンジニアも営業・カスタマーサポートも全員一緒に、人事部所属になります。人事部では、会社の概要や組織、ビジネスマナーやビジネススキルを伝えています。また、「カスタマーサクセス」を掲げていますので、エンジニアも研修期間中はお客様先にうかがい、お客様のニーズを知る体験をすることを大切にしています。
 そして研修期間中には、TOEIC® L&R TESTを受験していただきます。特にスコア目標は定めていませんが、TOEIC® L&R TESTの点数が高ければ海外研修やシリコンバレー研修に行けるチャンスがめぐってくることもあります。実際に2018年には新卒入社のエンジニ2名(入社1年目と2年目)が、3週間のシリコンバレー研修で名だたる海外企業を見学してきました。

──新入社員研修以降に集合研修はありますか。

矢部 現在は集合研修はありませんが、人事部が入社から3年間、新卒社員と半年に1回1on1面談を行い、現在の状況や今後のキャリアについて話をする時間を設けております。1on1面談では、半年間の振り返りや、今後のキャリア、やりたいことの話などをしており、新入社員が自律して動けるようフォローをしています。
 それ以外に、会計、法律、財務、人事などの基礎的研修をパッケージ化していたり、ロジカルシンキング、マーケティング、コミュニケーションなど外部の様々な研修制度を利用できるしくみも整えています。また、CCNA(Cisco Certified Network Associate)など、実務上の必要から研修を受けたいものがあれば、上長に相談した上で受講が可能です。

ユニークな働き方改革で「HRアワード」入賞

──働き方改革も積極的に進められているそうですね。

矢部 会社側が働きやすい環境を提供し、その中で社員と会社が一緒に「働きがい」を感じられるようにしたいとの思いから働き方改革を行いました。
 働き方の多様性を尊重できるように様々な取り組みを行っていて、その考え方を総称して「さぶりこ(Sakura Business and Life Co-Creation)」と呼んでいます。会社に縛られない広いキャリアを形成(Business)しながらプライベートも充実させ(Life)、その両方で得た知識や経験をもって共創(Co-Creation)へつなげるという意味で、2017年には日本の人事部「HRアワード」(人事・人材開発・労務管理などの分野におけるイノベーターを表彰する、表彰制度)に入賞しました。採用にも効果があり、リファラルからの入社比率が2015年度は6%でしたが2017年度には44%に上がりました。

──具体的な事例を挙げて「さぶりこ」をご紹介ください。

矢部 最も大きな効果は平均残業時間です。導入前も月平均10時間と、IT企業にしては少ないほうでしたが、制度を整えてから月平均残業時間が7時間を切りました。IT系企業としてはとても少ないと思います。当社では月のみなし残業時間が20時間分給与に含まれていますが、ほとんどの社員が7時間残業なので、実際に働いた分よりも多く所得を得ていることになります。
 さらに、業務を早く終えたら定時の30分前に退社してもよいという「さぶりこショート30」という制度があります。本来の定時は18時30分ですが、18時の時点で定時勤務したことにする制度です。効率的に仕事を進めて18時までに仕事を終えれば帰ってOKなので、この制度を活用している社員もいます。

──決められた時間いっぱいまで働かなくても、やるべき仕事を効率的に終えれば、きちんとお給料を出すということですね。

矢部 そうですね。短い時間で効率よく働いてほしいと考えている背景には、パラレルキャリア制度を取り入れていることもあります。社外での学びは社内でも生きてくるはずなので、業務を越えて学びを得てほしいということです。パラレルキャリア制度では、いわゆる「副業」のほか、TACのような受験指導校やビジネススクールの利用、NPOヘの参加なども含めて推奨しています。

──その他、福利厚生でユニークな制度はありますか。

矢部 2019年3月まで「さぶりこ」の一環としてあったのが、Xターン(クロスターン)という制度です。東京から大阪・福岡・北海道の石狩と他拠点への自由な転勤を認め、転居などのための引越しなどの経費として100万円を支給するものです。当社の本社は大阪であること、またIT企業なのでどこででも働ける前提であることの認識を広げていきたい思いから、制度を導入しました。中途採用の応募者と社員全員が対象で、これまで6人から応募がありました。  男性の育休取得率も55.56%ととても高いのが特徴です。管理職から一般社員まで幅広く育休を取っていて、男性の育休取得を後押しし、休むことを称賛する風土ができました。もちろん女性の育休取得率は100%です。
 連続有給手当というユニークな制度もあって、これは有給で連続2日以上休むと1日につき5千円が支給されるというものです。5日間連続まで休めるので、最大で2万5千円もらえるお得感満載の制度です。土日を含めれば最大9日間休めますが、制度を利用するには1週間前までに申請しなければならないので、業務を整理しないと計画的に休めません。こうして業務を整理することによって自分の業務が「見える化」されたり「マニュアル化」が進んだりと、日常業務でいろいろとプラスの効果が出ています。

資格を取ったプロセスを重視

──資格に関して、奨励制度や推奨資格はありますか。

矢部 基本情報技術者とITパスポートに関しては、新卒のエンジニアは入社時に取得済みの場合が多いです。また先ほどお話ししたように、ITパスポートはエンジニア以外の営業・カスタマーサポート、管理系、すべての社員に推奨しています。受験料は合格した場合に会社から支給されます。他に推奨している資格は特にありませんが、社内には日商簿記検定1級、行政書士、社会保険労務士の資格を持っている者もいます。
 先日、自己研鑽で行政書士試験に合格したエンジニアがいたのですが、自分から手を挙げて法務部に異動願を出し、法務部に異動になりました。目的があって自分で資格取得した方は、社内で柔軟に異動できるように配慮しています。

──最後に、資格取得をめざす方々に向けてメッセージをお願いします。

矢部 新卒社員が学生時代に取得した資格については、資格を取ったという事実ではなく、資格を取ろうと思ったプロセス、なぜ取ろうと思ったのかの理由を面接ではじっくりお聞きするようにしています。おそらくそこには動機があったはずなので、その動機と、目的に向かってどのように学び、周囲に協力を仰がなければならないときはどのようにコミュニケーションを取ってきたのかなど、目標の実現までのプロセスを重視しているからです。
 資格は、すぐに役に立たなかったとしても、取得までのプロセスで得た経験も含め、将来必ず何かにつながります。ですから、諦めずに最後までがんばっていただきたいと思います。

[『TACNEWS』 2019年8月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要

社名    さくらインターネット株式会社
設立    1999年8月17日 (サービス開始:1996年12月23日)
代表者   代表取締役社長 田中 邦裕
本社    大阪府大阪市北区大深町4-20 グランフロント大阪タワーA 35F
東京支社  東京都新宿区西新宿7-20-1 住友不動産西新宿ビル 33F

事業内容

大阪、東京、北海道の3都市に5つのデータセンターを自社運営し、インターネットインフラを提供

従業員数

単体474名 (2019年3月末)

URL: https://www.sakura.ad.jp/

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