日本のプロフェッショナル 日本の社会保険労務士

竹内 浩(たけうち ひろし)
Profile

竹内 浩(たけうち ひろし)氏

社会保険労務士法人ミライズ 代表
特定社会保険労務士
人事労務コンサルタント

1973年、北海道函館市生まれ、東京都豊島区池袋育ち。1998年、立教大学経済学部経営学科卒業。2001年、社会保険労務士試験合格。2002年、美容化粧品メーカー入社、同年、社会保険労務士登録。2012年11月、東京・池袋にて社労士事務所ミライズ設立。2016年9月、社会保険労務士法人ミライズに組織変更、代表に就任。2016年9月、特定社会保険労務士登録。

社会保険労務士は資格に守られた王道ビジネス。
継続すれば必ずブレークポイントがきます。

 独立開業12年目。社会保険労務士(以下、社労士)の竹内浩氏は、社労士法人ミライズの代表だけでなく、経営コンサルティング会社、人材紹介業と、様々な顔を持つ。大切にしている軸は「日本のためになること」。大きなビジョンを掲げる竹内氏に、社労士受験、勤務時代、独立開業から今後のビジョンまでをうかがった。

武器を得るため社労士受験

 「今、アジアでのビジネスのプロフェッショナルの方と日本のよいものを海外に輸出するプロジェクトを進めています。また、外国人人材を日本の介護事業に紹介する人材紹介業も始めました。社労士業ではネットワークをどんどん広げ、並行していろいろな方と多角的に事業展開しています。社労士資格を活かして展開することに、ものすごくシナジー効果が現れます」

 目を輝かせてそう話し始めたのは社労士の竹内浩氏。竹内氏は東京都豊島区池袋の出身。立教大学経営学科卒業。生粋の都会っ子で「都内はすべてそろっているので、わざわざ外に出ていく理由もない」と、開業後の現在も都内で暮らしている。

 竹内氏が初めて挫折を味わったのは、新卒で就職したときのこと。

 「社会人になったら、営業スキルも何のスキルもなく、普通自動車免許しかないことに気づかされました。何か武器がないと自信が持てない。ただ何をめざしていいのか……」

 どうすべきかと悩んでいたとき、父から「社労士の勉強をしていた」ことを聞いた。

 「長い期間勉強するのは得意ではないので、社労士に1年間で合格しよう。2回目はない」と、退職して受験に専念。1年間アルバイトをしながら受験勉強を続け、一発合格を手にした。

 挫折をジャンピングボードに、竹内氏は28歳で社労士への道を踏みだした。

手にした「自由への切符」

 合格後、入社したのは美容・化粧品メーカー。倍率70倍の壁を突破しての入社だ。

 「会長が大学OBだったこと。そして、何より資格のパワー、社労士合格者であることは間違いなくアドバンテージでした」

 仕事は従業員400人の総務・人事周りすべて。新卒採用、中途採用、工場と研究所のマナー研修、営業研修、就業規則改定、人事評価、退職金制度設計、トラブルがあれば札幌へ、営業所ができれば金沢へ……と全国を飛び回った。入社後には社労士登録も行った。

 このまま勤務を続ければ課長、部長、役員とキャリアアップの道筋も見えてきた。幹部候補としての期待が高まる10年目、独立を考えた。

 「きっかけは友人の独立です。飲食業や不動産業などで成功している仲間がいきいきとしていて、『やりたいことをやっていると、あんなにいきいきできるんだ』と感じました。
 会社を支えるのか。外に出るのか。二択を迫られたとき、『せっかく社労士という自由への切符を手に入れたんだ。外に出て自分が何かを変えてやろう』と心に決めました」

 2012年11月、竹内氏は退職し、池袋に「社労士事務所ミライズ」を開いた。

資格に守られた王道ビジネス

 開業すると、真っ先に前職の会社が顧問契約をしてくれた。それをベースに当時、注目されていた助成金業務に着手。交流会や大学のOB会などに顔を出していくうちに、人的ネットワークから紹介が増えていった。

 仕事が増えても実務はすべて自分でこなさなければならない。馬車馬のように働き続けた開業当初、数値目標を立てる余裕すらなかった。数年経って知り合いの税理士から「3年計画を作りましょう」と勧められ、初めて今期目標を立てるようになった。

 開業から12年、一気に受託が増えた節目やターニングポイントは特にない。でも、やめてしまおうと思ったことは一度もない。

 「せっかく資格という自由への切符を手に入れたので、これを使い倒さないと」と、笑顔で話す。

 「継続していれば何とかなる。続けなければ、ビジネスの成功なんてありません。そもそも資格に守られた王道ビジネスじゃないですか。続けていればどこかにブレークポイントが絶対あります」

 業務は社会保険手続き、給与計算等の基幹業務であるBPO、そこから紐づいた就業規則、労務相談の案件が徐々に増加。障害年金の案件もかなり増えて、現在は基幹業務と障害年金の二軸で走る。顧問契約は大小含め約80社、大きな顧問先は従業員500人規模。その他、障害年金等のスポット案件も豊富だ。1人で始めた事務所は、12年間で中堅規模へと着実に階段を上っている。

社労士20名以上が在籍する法人に

 初めてスタッフを採用したのは開業3年目になるころ。そのときの女性スタッフは今でも在籍している。現在は雇用関係のあるスタッフ15名、うち社労士11名(竹内氏を除く)、業務委託の開業社労士8名。社労士以外のスタッフも、人事総務経験10年以上のスペシャリストがそろっている。

 有資格者比率が高い理由について、大型案件を受けやすくするためと竹内氏は話す。

 「クライアントはどうしても資格の有無で判断します。求められるレベルで判断すると、バリバリの実務経験者か社労士、もしくはその両方。両方ある人はレアなので、どちらか片方を要件にした結果、社労士が多くなりました」

 社労士資格を取得しているメリットを竹内氏はこう話す。

 「資格を取得すると、その資格に負けないように成長しよう、というマインドが生まれます。『国家資格を持っているんだから、がんばらなきゃ』と、きちんとした自分の軸ができるんです」

 20年以上採用面接をやってきた竹内氏は、資格を持っていない人にゴールや目的といった自分軸が定まらない人が多いと分析する。

 「資格を取得することによって、自分軸ができる。それだけでも資格取得はものすごく効果があります。しかも資格を持つと『資格は持っているけど、実務のことはわかりません』と言えなくなるんです。資格に自分をフィットさせようと、取得後も必死に勉強するようになります。自分を高めていく環境に身を置けば、劇的にレベルアップできるんです」

業務改善に向けシステム統一化を追求

 事務所内には、情報収集ツールだけでなく勤怠管理から手続き業務までクラウド系ツールがすべてそろっている。現在はIT、AIの様々なシステムツールを駆使して業務でのペーパーレスを実現しつつある。

 「業務管理もGoogleのサービスなどを使ってきましたが、今はそれだけでは足りなくなってRPA導入か、AIを組み合わせたシステムを実装できるかが課題になっています。最先端にいないと遅れてしまうので、私が様々な研究会を回り、常に最新の情報をキャッチアップしています」

 システムが一気通貫しておらず、別々のものを組み合わせる非効率。それが現在、どの業界でも大きな課題だ。

 「社労士向けシステムが乱立していますし、お客様のシステムが独自のものだったりもします。それをつなぎ合わせるには、私たちが先導していかないと、いつまで経ってもエラー&ミス、タイムロスがなくなりません。そこをどう解決していくかが課題です」

 システム会社と社労士が共同開発するか、適正なシステムに社労士のシステムをうまく組み合わせるか。生産性が上がり、クライアントに対しベストサービスを提供できるシステムを追求するのも竹内氏のミッションだ。

今後の課題は生産性アップ

 有資格者が多いミライズにとって、避けて通れない課題が人材確保だ。

 「事務所内は今、社会保険手続き・給与計算のBPOチーム10名、障害年金チーム5名の2チームに分けて任せています。BPO業務で社内的に生産性を上げるためには、それなりの人材を確保する必要があります。すると人数が膨れ上がってしまう。そこが今後の課題です。一人当たりの担当数を増やすために、IT、AIをうまく活用していくことが必須です」

 課題である人材について、竹内氏の採用基準は 「人となり」だと話す。

 「2025年はシステムや業界再編含め、いろいろな動きのある年になってくるので、変化に対応できる順応性と、新しいものにキャッチアップしていける柔軟性、パソコン・ITスキル、そして何より人とのコミュニケーション力が大切です。人間関係さえきちんとしていれば、仮にミスがあっても解約はありません。ビジネスマナーやお客様に対する適切な言葉遣い、相手とのフィット感。面接では、そういった点を見極めています」

 ヒューマンリソースを含め、今後の大きな課題は生産性アップにある。そのため数年かけて中小規模から中堅規模へとレベルアップしていきたいと、抱負を語る。

 「コンプライアンスも一般企業並に押し上げていかなければなりません。大企業との契約が増え、会社の個人情報、給与情報をすべてお預かりするため、セキュリティ関連にはかなり投資しました。それを証明するものとして、Pマークも取得しています。こうした取り組みもブランディングにつながりますよね。スタッフのレベルを上げるために、研修も頻繁に実施していきます」

ミライズグループとして士業をグループ化

 幅広くシナジー効果を求めていくなか、社労士法人としての目標はどこにあるのかを聞いてみた。

 「直近の目標は売上2億円。その先は3億円、従業員規模30人以上をめざしています。売上3億円となると社労士法人の0.0何%。そこまではいけると想定しています」

 遠大な目標のようでいて、竹内氏にはそれほど遠くない目標のようだ。

 竹内氏自身は、現在社労士よりコンサルティング業務に忙しい。

 「新しいシナジー効果をたくさん試しているので、普通の社労士法人とは異なる入口から依頼をもらえるようにしています。
 現在、コンサルティングで関わる会社はゼロベースの起業で、資金調達から人の採用、社会保険手続き関係もすべて受けています。士業が必要な場合も、社労士の私が要となり弁護士、税理士、公認会計士などの提携士業とワンストップサービスを提供しています。
 何しろ起業は急いでやることばかり。ワンストップサービスが最速だし、グループ化できれば仕事のクオリティも高くなる。今後はミライズグループとして、士業のグループ化をめざします」

 一方コンサルティング会社では、学生とのコラボやセカンドキャリアの起業家によるプロジェクト、外国人人材紹介が進行中だ。

 「学生や若者は何をしていいのかわからない人が多い。自分の仕事ややるべきことはわかっていても、いざ起業するとなると、どのように進めるのかわからないという人もたくさんいます。その人たちのために、どうしたら起業して最短の道で、なおかつ必要なリソースを実装できるのか。道が見えてくるとやるべき方向がわかるので、そういった部分をアドバイスしています。『何も考えてなかった私が12年間できたんだから、みんなもできるよ』とエールを送るんです(笑)」

 今後のテーマは、日本のよいものを外国人にもっと知ってもらうこと。

 「ニーズのある日本の食品、健康、美容関連。それを輸出するルートをしっかり作っていきたいですね。外貨を獲得することは日本のGDPを伸ばすことにもなります。キーワードは『若者のがんばりで日本のよいものを海外に輸出する』、『それにともなって中小企業が中堅企業になるサポートをしていく』。情報プラットフォーマーとして、タイミングに合った情報提供ができたらおもしろいと思うんですよね。
 士業の仕事だけにこだわると、関われる人の範囲が決まってしまいます。でも、こうした新しい仕事に手を伸ばしていくことで、若者たちとも関わりを持てるようになる。若者たちに社労士の姿を見せることで興味を持ってもらい、できれば私たち士業の業界に人材を増やしていきたいという思いもあります」

 自分がその足がかりになってもいいと、竹内氏は考えている。

社労士の可能性を広げるHRコンサルタント

 竹内氏は現在、米国系企業の労務顧問を受けている。そこではHR(ヒューマンリソース)コンサルタントと呼ばれ、労務関連に精通したスペシャリストと見なされる。HRコンサルタント的な活動ができていくと、より進化した社労士の活躍の場ができる。社労士の可能性はそこにあると、竹内氏は強調する。

 「現在、産官学で地方企業復興、人的交流、東京と地方のコラボレーションといった、地方創成への貢献がさかんですよね。あれも社労士ができるHRコンサルタントの仕事です。アイデアはいろいろあるので、HRコンサルタントの分野にものすごく可能性があるんじゃないかと思っています。社労士も新しい取り組みに挑戦し、チャンスを広げていかなければいけません」

 八面六臂の活躍には、士業というベースが成長の前提になる。竹内氏は士業のスキーム作りにも意欲を燃やす。

 「『個×個』でみんながんばっているけれど、それがうまく連結しない。士業はそういう状況が非常に多いんです。その人たちが有機的に連結して、一定のサービスを提供し、クライアントの生産性が上がっていくのがベストです」

 業界のために、そこを安定化させるシステムを作りたいと、竹内氏は語る。

切符を手にすれば、活かし方は無限大

 「私はひたすら続けてきただけなんですよ。でも、続けていると最新の情報が入ってくるし、それにともなってやりたいことが出てくる。優秀な人やおもしろい人がどんどん集まってくるんです」

 12年間をそう振り返る竹内氏。後輩社労士、社労士受験生には次のようにアドバイスする。

 「定型業務をしくみ化するのもひとつの進化形です。ただ、社労士が絶対にやらなければいけない業務かといえば、そうではなくあくまで自身の選択です。既存の業務だけがすべてではありませんし、社労士だからこうでなければいけないというルールはありません。いろいろな可能性があるし、いろいろな資格の活かし方があります。手続き業務一本という人、毎週セミナーに登壇する人、YouTuber社労士、人事マネジメントや人事評価に特化した人、企業内で活躍する人、交流会を主催する人……。活かし方は無限大です。ただし、それができるのは資格を持っているからこそ。まずは資格を手にしましょう」


[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2025年1月 ]

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