日本のプロフェッショナル 日本の会計人
福佐 英士(ふくさ えいじ)氏
さくら税理士法人
所長 税理士
東京都立立川高等学校・東京学芸大学教育学部卒業。都内の税理士事務所、公認会計士事務所にて税務会計業務全般に従事。27歳から資格の学校TAC税理士講座の講師を務める。2002年、税理士試験合格。2003年、税理士登録をし、福佐税務会計事務所を開設。2010年、法人化しさくら税理士法人に名称変更、代表税理士に就任。
やりたかったのは「心から感謝される仕事」。
そのまま事務所のモットーになりました。
税理士の福佐英士氏は、27歳からTAC税理士講座で簿記論、所得税法、消費税法を教えていた。40歳直前までの13年間、独立開業後も非常勤講師として教壇に立ち続けてきた。TACの先輩であり長年講師を務めてきた福佐氏は、どのような経緯で税理士をめざしたのか。福佐氏の税理士としての軌跡を追ってみた。
講師と受験、二足のわらじ
東京都羽村市で幼少期を過ごした福佐英士氏。東京都立立川高等学校を卒業後、教師をめざして東京学芸大学教育学部に進学した。
「会社員の家庭に生まれたので、税理士という職業自体まったく知らずに育ちました。それが学生時代も終盤に差しかかり、将来について考え始めたとき、仲のよい友人の知り合いが開業税理士だと聞いたんです。それが税理士を知ったきっかけでした」
すぐに書店で「税理士」について調べてみると、独立開業ができる士業で、税務会計や経営面で中小企業をサポートする仕事とある。「人に感謝されること」がしたかった福佐氏にとって、まさにぴったりの職業だった。
「思い立ったらすぐ行動するタイプなので、早速、簿記の勉強を始めました。東京学芸大学は先生になるための大学。友人のほとんどが教師をめざしています。そのような中、私はただひとり、大学図書館で静かに電卓を叩いていたんです(笑)」
実はテニスが大好きな福佐氏は高校、大学はテニスに注力。浪人時代から、税理士受験生時代にかけての7年間、アルバイトでテニスのインストラクターを務めていた。一度はテニスのコーチで生きていこうと思った時期もあったが、税理士を知ってからは「税理士一択」になった。
「受験勉強を始めてから、各科目の合格率が10%前後と知りました。不合格になった人は同じ科目を再度受験するので、合格レベルはかなり高い。それまであまり勉強してこなかった私も、税理士試験は必死に勉強しました」
過去にないほど集中した結果、福佐氏は大学を卒業した年に簿記論に合格。その後は、専門学校でアルバイト講師をしながら受験勉強を続けた。
「アルバイトの2年間で財務諸表論と消費税法に合格後、2年間会計事務所に勤めてから、TAC税理士講座の講師になりました」
TACで最初に教えたのは消費税法。途中から簿記論、所得税法を担当した。講師業を続けながら税理士試験に合格したのは2002年のことだ。
「受験期間は都合10年。間に受けなかった年が4、5年あり、実際に受験したのは5、6回です。講師を務めながらの受験勉強はなかなか大変でした。一番勉強しなければならない直前期は、講師が一番忙しくなる時期。結果的に受験できない年が何回もありました」
途中から非常勤講師となったので、そこからは平行して会計事務所にパートとして勤務。そこで実務要件を満たしていたので、合格後、すぐに税理士登録を行った。
顧問先ゼロでのスタート
もともと独立志向の強かった福佐氏は、合格後すぐに独立を考えた。
「パートとしてお世話になっていた事務所の所長は公認会計士だったので、会計・税務など記帳から月次、決算まで、さらにお客様対応やコンサルティングまで、すべて私に任せてくれました。それはものすごく勉強になりましたね」
すでに実務には自信を持っていた福佐氏は、合格した翌年、2003年に福佐税務会計事務所の看板を掲げた。
「とはいえ顧問先はゼロです。税理士としてやることは何もありません。ただ、TACの非常勤講師を続けていたので、生活に困ることはありませんでした」
そんな中、知人の紹介で待望のお客様第1号を獲得した。
「もうその1社のためにとことん仕事をさせていただいて。かなり勉強させてもらいました」
こうして福佐税務会計事務所はスタートを切ることができた。
お客様に心から感謝されるサービスを!!
「テニスのコーチ時代も、TACの講師時代も、常に生徒に一生懸命向き合い、生徒のためにがんばって、感謝されることに喜びを感じていました。税理士になってからも感謝されるサービスをしたい一心で、がんばってきました」
思いを語る福佐氏が開業からずっと貫いてきたモットー。それは「お客様に心から感謝されるサービスを!!」。この言葉通り、所長である福佐氏は今でもたくさんの顧問先を訪問している。
「私は、お客様訪問が大好きなんです。だから、いまだに多くのお客様と打ち合わせをしています。1日に平均4件以上はお客様訪問をしていますし、すべてのお客様に年1回はお会いしたいと思っています」
会計事務所によっては「所長先生がまったく来てくれないで、担当スタッフ任せ」「土日は休み。しかも事務所の営業時間外は打ち合わせできない」「決算対策もしないで納付期限ぎりぎりに納税額を連絡してくる」といったクレームがある。
「そのような会計事務所のマイナスイメージを払拭して、お客様第一主義のサービスをしよう!」を貫いているのが福佐氏だ。
担当者は、打ち合わせ時に必ずオリジナル試算表を持参。損益状況や課題の洗い出しをしていく。決算対策では早めに決算を予想し、迅速に節税案を提示。納税予想額も早めに伝えて、常に資金繰り面に配慮する。難解な会計税務をわかりやすく、かつ明確にお客様に指導する。相談内容で担当スタッフが対応できなければ、提携先の社外専門家に依頼するルートも用意。ここまで徹底している点が、お客様第一主義につながっている。
特化しない街の会計事務所を標榜
「街の会計事務所として、地域の中小企業零細企業、個人企業に感謝されるために、特化した業務は持たずに、ストライクゾーンを広くしてやっていきたい。そのような方向性で事務所を運営してきました」
顧問先の構成も業種の偏りもなく、満遍なく幅広い業種に顧客が広がっているのも、福佐氏の考える「幅広く対応する街の会計事務所」という思いの現れだ。
「それでも多いのは、IT系企業、建築業、小売業、そして医業。医業は個人のクリニックメインで特に歯科医が多い。やはり同業者からの口コミや紹介で広がっているので、同業の横の広がりが特徴です」
顧問先は基本的に豊島区、練馬区、板橋区の事務所周辺エリアが多いが、ときには九州、名古屋、大阪、福井、岩手からも依頼が飛び込んでくる。
新規開業よりも税理士変更のケースで依頼される顧問先が多い点も、事務所の特徴となっている。
池袋移転で規模拡大
福佐氏の開業当時からの営業方法は、とにかく人に会うこと。多くの友人や知人に会うように心がけてきた。顧問先とも毎日会っている。
「最初の1、2年は紹介業者に助けられましたが、それ以降はすべて口コミで広がりました。現在では約8割以上が紹介、残りの約2割がWebサイトからの集客です」
分析すれば、やはり徹底したお客様第一主義によって、口コミで次の顧客へとつながっている。現在の顧問数は500件超。毎年順調に伸びてきた中で、特に大きく増えたのは4年前。事務所を江古田から池袋に移転して以降だ。
「池袋に移転した大きな理由は、人を採用しやすくするためです。駅としては3つですが、移転してみたらスタッフの応募数も、お客様の問い合わせも非常に増えたんです」
江古田で年間十数件増えていた顧問先は、池袋に来てから年間60件以上に。池袋にきた当時は12名だったスタッフは、4年で倍以上に増えている。
現在は、税理士有資格者5名を含む総勢27名に成長。その中に税理士をめざして勉強中のスタッフが7名いる。TAC池袋校がすぐ近くにあるので、定時退社でも十分に講義に間に合う。飲み会のときなどは「どうやったら効率的に勉強できるのか」「自分はこうして成績を伸ばした」といった話を、元TAC講師の顔でスタッフにすることもある。入社後に官報合格したスタッフはまだいないが、すでに4科目合格が2名。今後の活躍に期待できそうだ。
課題は新規スタッフ採用
池袋移転で好転したとはいえ、事務所の運営で一番悩まされてきたのは「採用」だと福佐氏は話す。
「昔は募集を出せばすぐに10~20人の応募がありました。事務所を池袋に移して、移転前より応募は増えましたが、やはり一番の課題は人の採用ですね」
現在も常にスタッフ募集を行い、エージェントにも紹介を依頼している。これも顧問数が増え、事務所が大きく伸びているからこその悩みと言える。
人材採用の際の基準は「気配りができそうな人」。お客様第一主義を貫いているので、お客様や仲間のスタッフに対して気配りができる人を採用したいと考えている。
「資格の有無よりも、会計事務所勤務経験を重視します。でも、人柄重視なので、いい人であれば未経験者でも採用します」
採用での課題はあるが、採用したスタッフが辞めて困った経験はほとんどないと福佐氏は言う。離職率が低い理由を次のように話してくれた。
「まずスタッフの話によく耳を傾けるようにしています。また、待遇や労働環境面で働きやすさに気を配っています」
パート社員も担当者として活躍
さくら税理士法人では事務所内をいくつかのチームに分け、1人あたり顧問先20~25社の担当制にしている。大きな特徴として、担当スタッフが顧問先の会計・税務から、あらゆる相談に対して一気通貫で担当する点が挙げられる。
「会計事務所はお客様担当が顧客とコミュニケーションを取り、資料は内勤が入力するのが一般的です。うちはすべて担当がやります。しかもパート社員も担当として、顧客対応から会計税務まですべてを担当してもらいます」
パートも正社員と同じように担当を持つ。しかも月次決算から決算予測、決算・申告、節税対策まですべて行う。これがさくら税理士法人の大きな戦力となっている。
「先輩たちが優しく教えてくれるので、簡単なところからすべてのプロセスを経験できます。だからパートでも長く務めていれば、ものすごく実力がつく。担当する顧問数に応じて収入も上がるので、やりがいも感じられます。だから辞めないで続けてくれるのだと考えています」
それまで入力作業しかやらせてもらえなかった人が面接に来たとき、「うちはパートにもすべて教えるし、最初から最後まですべてやってもらいますよ」と話すと、ぜひやりたいという人がほとんどだという。
スタッフは30代と40代を中心に、20代、50代も在籍しており、パートも含めての男女比は若干女性が多い。
「パートは週4日以上勤務が条件です。なぜならパートでも顧問先を持ちますので、週2、3日では、顧問先から連絡があったときに『今日もいません』『明日もいません』になってしまいかねないからです。子育てが一段落して週4日以上勤務できる、またやりがいと責任を持って仕事したいと考えている積極的なスタッフが活躍しています。中には週5日来てくれている人もいて、とても助かっています」
正社員は週5日、9~18時の勤務時間の拘束があるため、あえてパートを選ぶスタッフもいるという。働き方の多様性を選択できるのも、さくら税理士法人スタイルだ。
目標は50人規模、顧問先1,000件
スタッフには年1回の契約更新時に、福佐氏の思いや今後の方向性、最近起きた問題点とその対応方法などを1対1で話す。
「基本的には『中小企業の社長から感謝される仕事だからとてもやりがいがあるんだよ』『事務所都合ではなくて、お客様を中心に物事は判断するんだよ』といった心がけの部分を再確認するために話をします」
事務所の規模や顧問数について今後の方向性は「今は30人弱ですが、このペースで顧問先とスタッフが増えてくれれば、50人規模までいけると思います。特に期限を設定しているわけではありませんが、今のペースでいけば顧問数も少なく見積もって年間50件、10年で500件。1,000件ぐらいまでいけるかもしれません」
とはいえ顧問数が増え続けている現状を考えると、「すべてのお客様に年1回お会いするのはちょっと難しくなってきてますね…」と、福佐氏は寂しそうにつぶやいた。
「ただ、可能な限り努力を続けます」
やりがいは中小企業経営者に感謝されること
福佐氏が税理士という職業を選んでよかったと思う点について尋ねてみた。
「何といっても一番は中小企業の社長と接することができる点。情熱的な方やおもしろい方、強烈な個性の方が多い。そのような方と応対できるのは、ものすごいやりがいがありますし、感謝されているのを実感すると、この仕事を選んでよかったなと心の底から思います」
そして、これから税理士として独立開業しても、やっていけるだけの余地は十分にあると強調する。
「いただいた仕事をきちんとこなす。難しいことをするのではなく、きちんとお客様と向き合い、お客様のほうを向いて、誠実に仕事をしていけば、必ず顧客は増えていきます。税理士はお客様に感謝される、やりがいのある仕事です。いま目指している人には、ぜひがんばって合格してほしいですね。
ただし、単に記帳をするだけ、申告書を作るだけでは、AIに取って代わられてしまうかもしれません。社長と気持ちの部分で接して、かゆいところに手が届くサービス、コンサルティングをきちんとお届けしていれば、たとえAIの時代になっても生き残れる。そのためにも、必ず定期的にお客様と顔合わせをするんです」
実務家の先輩からの、とても含蓄のある言葉だ。最後に受験生へのアドバイスをいただいた。
「講師をやめて15年以上経つので昔の記憶ではあるのですが、やはりTACは受講生思いの講師が多いし、実務経験豊かな講師が多い。教材を作るのも講師陣がみんなで必死に話し合って作っていました。その場にいたので、テキストがしっかりできているということは私が一番よく知っています。実務の話も聞けるし、カリキュラムもしっかりしているので、短期合格にTACは最適な学校です」
[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2024年11月 ]