日本のプロフェッショナル 日本の社会保険労務士
鈴木 健市(すずき けんいち)氏
社会保険労務士法人Next Partners 代表社員
特定社会保険労務士 医療労務コンサルタント
1977生まれ、東京都武蔵村山市出身。青山学院大学経済学部卒業。新卒でIT関連企業に8年間勤務、システム移行業務に携わる。2007年11月、社会保険労務士試験合格。2008年10月、社会保険労務士登録。2009年1月、社会保険労務士事務所鈴木健市事務所を設立。2010年4月、特定社会保険労務士資格登録。2022年7月、たちかわ共同人事労務コンサルティングに名称変更。2017年1月、事務所を法人化し、社会保険労務士法人Next Partnersとなる。
医療に特化することで、社労士としてのポジションを確立。
実務での生成AIの活用は、社労士にとって不可欠な時代です。
社会保険労務士の鈴木健市氏は、東京都立川市を拠点に、医療に特化した社会保険労務士法人Next Partnersを運営している。医療に特化したのは、日々、診療と経営に追われる院長に代わって、労務面からサポートしたいという思いから。鈴木氏の経歴と資格取得の経緯、独立開業後の歩み、そして、現在30件以上の医療機関を顧問先に持つ組織に成長できた理由について、詳しくうかがった。
限りある人生、やりたいことをやったほうがいい
社会保険労務士(以下、社労士)の鈴木健市氏には年1~2回、必ず出かける土地がある。それは母親の故郷である島根県の離島、隠岐島だ。子どもの頃、夏休みになると羽田空港から米子空港に飛び、さらに境港から船に乗って、祖父母の家に行くのが楽しみだった。親戚の子どもたちが集まって、祖父が漕ぐ小型船で湾の磯部に出かけ、海辺で火をおこす。大人たちが素潜りでとってきたサザエ、アワビ、ムラサキウニで、サザエご飯やつぼ焼き、焼きウニを食べたりした。その思い出は今も鮮明に残っているという。そんな鈴木氏の経歴から見ていこう。
鈴木氏は青山学院大学経済学部に進学し、卒業後は新卒でIT関連企業に就職。8年間、システムエンジニア(SE)として造船会社や病院などに常駐し、基幹システム移行業務に携わった。といっても学生時代は特にシステムの勉強をしていたわけではないし、ましてや資格の勉強もしていなかった。
「理系ではありませんでしたが、就職活動をした当時はIT系企業の成長が著しかったので、文系の自分でもチャレンジできるのではと思っての選択でした。仕事は基幹システムの移行業務で、旧システムから新システムに移行する際のテストデータを何万件も作ったり、外国人が作ったプログラムをチェックしたりしていましたね。おかげでパソコンスキルが磨かれて、Excelのマクロプログラムなどは今の仕事に活用できています」
SEとして働きながら感じていたのは、作業中心の仕事はできて当たり前、できなければ注意されるという現実。加えてつらかったのは、ラッシュアワーの電車通勤だった。
「例えば飲食店の料理長なら、自分が作った料理でお客様が目の前で喜んでくれるじゃないですか。私も自分の作ったもので人を喜ばせたいと思いました」
そんなことを考えていたとき、たまたま知人が始めたのが社労士試験の勉強だった。
「労働者の1人として、受験科目の1つである労働基準法に興味を持ったんです。また、2002年に他界した父が脱サラして自営業を営んでいたのを側で見ていたこともあって、自分もいつか脱サラして父のような働き方がしたいなという思いもありました。限りある人生、やりたいことをやったほうがいいなと社労士の受験を決めたんです。
1回目の受験では一番興味があった労働基準法にばかり時間を割いて失敗。2回目は過去の問題を解いて講義内容と試験内容をひもづけることで攻略しました。2回目の本試験は肌感覚で受かったなとわかりましたね」
こうして2007年に社労士試験に合格。2008年10月に社労士登録を済ませると、同年12月にはIT関連企業を退職。翌2009年1月には東京都立川市で「社会保険労務士 鈴木健市事務所」を立ち上げた。
助成金の仕事から実務をスタート
社労士登録をして開業するには、2年以上の実務経験が必要だ。実務経験が2年に満たない場合は、社会保険労務士連合会が実施する「事務指定講習(労働社会保険諸法令関係事務指定講習)」を受けなければならない。IT系企業勤務の鈴木氏には当然社労士の実務経験がなかった。そこで2008年に事務指定講習を受けて、同年10月に社労士登録を果たした。そして、登録後の同年12月でIT系企業を退職し、翌2009年1月に独立開業している。
「講習を受けてから退職したのは、社内の人事総務系規定を利用すれば、社労士を取得したときに報償金が出るからです。報償金を使って40万円で開業塾に通い、経営のノウハウを学びました」
いざ開業塾を受講したところ「独立してしまいなさい。わからなければ行政に聞けばいい」の講師の言葉がはずみになって心が決まった。リーマンショック直後だったが「社労士は景気の波に左右されない。景気が悪ければ助成金という制度を国が作り出すので、食べていけなくなることはない」と教わったので、「それもそうだな」と開業することにした。
開業にあたっては、もちろん不安しかなかった。不安な心を支えてくれたのは、開業塾で知り合った同期や先輩の社労士だった。最初に言われたのが「新人の社労士は助成金の仕事がおすすめだよ」というアドバイスだった。
こうして立川市の自宅兼事務所で、インターネット版タウンページで立川市近辺の企業情報を収集して、自宅のFAXから助成金のDMを送信したり、電話営業をかけたりした。その中で最初にお客様になってくれたのは、母の実家がある島根県の縁だった。
「米子市出身の社長に『毎年実家のある隠岐島に行っています』とメールを送ったら、丁寧に返信をくださって、当時の雇用調整助成金申請をやらせてもらいました。それが人生最初の社労士の仕事でした。IT系企業で得たスキルを使って、業務は最初から自動化しており、当時はExcelでいろいろな申請書類を作っていました。そのため雇用調整助成金申請も、社長に『このExcelフォームに入力してください』とお願いして、入力が終わったらすぐにでき上がりました。簡単なのにこんなにもらっていいのかな、というくらいの報酬をいただけました。助成金の仕事はものすごくコストパフォーマンスが高かったですね」
とはいえ売上は決して多くなく、順風満帆なスタートではなかった。母親からも200万円ほど援助してもらい、少しずつ売上を伸ばして、2016年には1,800万円を売り上げるまでになった。そして開業から8年後の2017年1月。事務所を移転して「社会保険労務士法人Next Partners」として法人化を果たし、現在では医療機関OBを含むスタッフ2名を採用している。
医療特化と職員面談サービスを展開
開業当初、お客様の業種についても、自分の経験を活かしてIT分野に絞ろうと考えた。しかし立川市という立地を振り返ると、業種特化にこだわるメリットはあまりないと考えた。そこでまずは、弁護士や税理士などの士業からの紹介で、顧問契約を広げていく方向でスタートした。しかし、紹介してもらえることはありがたいと思う一方、紹介してくれた士業とお客様との関係が、鈴木氏とお客様との関係に影響を及ぼすケースが発生することもあった。それまでのように紹介に感謝しているだけでは、次の売上につながっていかないと考えた鈴木氏は、悩んだ末に2年間、経営コンサルティングを受けることにした。
「担当してくれたコンサルタントはスキルがとても高く、私との相性もよかったので、非常に意義のある解決策を提供してくれました。士業は商品が目に見えないのが一番のネックになります。まず私の商品を可視化する提案をしてもらい、それをベースにサービスを構築できたことが、事務所としての1つの転機につながったと個人的には思っています」
そのとき商品化したのが、今の軸となっている“職員面談”だ。実は2020年、異業種交流会であるクリニックの院長と知り合ったことがきっかけで、鈴木氏は医療に特化する方向に舵を切った。開業当時からどこかで業種特化は必要だろうと考えていたが、それをようやく実感できたのがそのときだった。こうして“医療専門”で“職員面談”に強みを持つ現在のNext Partnersのスタイルができ上がったのだ。
クリニックで職員が院長の思うように働いてくれない最大の要因は、院長の説明不足と職員とのコミュニケーション不足で、お互いの意思疎通が図れていないことにあると鈴木氏は話す。院長は医療の専門家であっても、経営のプロや管理職ではないからだ。そこで、鈴木氏たちが院長に代わり、定期的に職員面談を実施して、適切なフィードバックを行うサービスを商品として提供することにした。
「クリニックは患者側から見ればスマートにやっているように見えても、内部の実態としては院長と職員の意思疎通がうまくいっていないことも多々あります。中には労働条件について、きちんと説明できていないというケースもあるんです。『先生は医療に関しては専門家だけど、それ以外は私たち職員のほうが詳しいんじゃないか』と不信に思われてしまうことも。そこに私たち労働法の専門家が第三者として介入することで、両者の関係性を改善していきます」
ある意味では鈴木氏が職員の不満の受け皿になっている面もあるが、きちんと話を聞き、法律に基づいた正しい情報を伝えることで誤解も解け、円滑なコミュニケーションが取れるようになるそうだ。
「よくあるのは『以前勤めていたクリニックはこんな福利厚生があったのにここにはない。それっておかしくないですか』という話です。そこで『私たちはいろいろなクリニックを見ていますが、その制度が備わっていないのはめずらしくありません。逆に、今あなたが勤めているクリニックにあるこちらの福利厚生は、他ではあまり見ないものなんですよ』と説明すると納得してくれます。院長みずから言うと角が立つことでも、社労士が間に入って話すことで軋轢なく納得してもらえる。効果的で満足度の高いサービスです」
現在、この職員面談サービスに注力する鈴木氏。こうしたクリニックの内情に切り込んだ手厚いサポートが差別化のポイントだと考えている。
「まず、面談対象者一人ひとりについて、最近の様子などを院長にGoogleフォームからレビューしてもらいます。具体的には、最近よかった行動や努力していたことを3つ挙げてもらい、一方で改善してほしいポイントを1つ挙げてもらうんです。その情報をもとに私たちが職員面談をして、『院長がこんな評価をしていました。最近こんなことをがんばっていたようですね』と2、3つ伝えてから、『ただ、ちょっと遅刻が多いようなので、明日から気をつけてくださいね』と改善点を伝えます。すると『院長は自分のことをちゃんと見てくれているんだ』と感じ、指摘された点も前向きに受け取ってくれるのです。
今では社労士の知識だけでなく経営心理学も学び、心理学的観点からもアドバイスできるようになっています」
このソフトランディングな解決方法で社労士がサポートすることで、クリニック内の風通しが見違えるようによくなると、鈴木氏は胸を張る。
医療特化と職員面談サービスを展開するようになって、コロナ禍以降は紹介だけではなく自分たちでお客様を獲得していこうという流れも出てきた。
現在では顧問先の約3割がクリニックで、Next Partnersの社名のショルダーフレーズには「医療専門・人事労務ネット」と載せられている。クリニックの人事労務トラブル予防から改善提案から運用までを実行サポート。そして現場に入り、従業員に対して職員面談や産休・育休など、各種休業の相談対応をするなど、開業サポートからスタッフ採用までワンストップで対応できる。Next Partnersの進む道が固まったのである。
電子掲示板で産休・育休手続き
Next Partnersが今もう1つ注力している商品に、産休・育休の相談対応がある。
「2022年4月~2023年4月の間に、育児・介護休業法の改正は3段階で施行され、次々と新しいルールに変わるので、お客様だけでは対応できないケースが出てきます。そこで一般的に社労士事務所で顧問契約に含めて提供される、出産・育児に関する手続きサポートを切り出し、クリニックの院長、社労士法人、および育児休業に入るスタッフの三者が一緒に手続きを進めるというサービスを提供し始めました。具体的には、三者だけが入れる電子掲示板のようなものを作成して、書類のやり取りなどの手続きをすべてその上で行うというしくみを整えたのです。紙の書類のやり取りだとタイムラグが生じますが、この機能を使えばスマートフォンのアプリで簡単かつスピーディーに対応できます。例えば、母子手帳の画像を掲示板にアップロードしてもらうとリアルタイムで閲覧できますし、電子申請で育児休業給付金の手続きをすれば、毎月本人の口座に給付金が振り込まれます。そこをリアルタイムで私たちがサポートしますし、不安なことがあれば掲示板に書き込むとNext Partnersの担当者がすぐに回答するので、院長は必要に応じて掲示板をのぞきに来るだけでいいわけです」
このプランを月額約1万円のオプションとして顧問先に提案して1年半。今ではほぼ全社がこのサービスを利用している。院長からしてみても自分が手を煩わすことがないし、職員は不満を抱えずにすむし、Next Partnersとしても安定的に売上が確保できる、三方よしのしくみだ。
企業型確定拠出年金の導入サービス
開業15年目。現在30件以上のクリニックと顧問契約をしている鈴木氏は、医療に特化した結果、様々な事例を持つようになったことが強みだと分析している。そんな中、次の一手については、ここ1年ほど悩んでいるという。
「職員面談によってある程度までは改善できるのですが、その場しのぎで終わらせないためには、次の手が必要です。例えば、職員が成長できるような評価制度に改良する、他の制度を作るなど、いろいろな選択があると思いますが、どの方向性でいくか今はまだ漠然としています。次へのステップを構築することが今後の課題です。
最近開業される20~30代の若いドクターは、医業はサービス業だという感覚を持っています。以前とはだいぶ変わってきているので、私たち社労士側との対応も今までとは変わってきます。求められるものが変わってくるでしょうから、士業もそれに対応できるよう営業スキルを磨いていかないといけません」
職員面談を柱に医療系を軸にする一方で、2023年からは企業型確定拠出年金の導入サービスもスタートした。
「企業型確定拠出年金(企業型DC)は、今では一人社長でも入れる制度に落とし込まれています。経営者側と従業員側の両者で、節税や社会保険料の軽減、資産形成などにつながり、お互いにメリットがある制度です。
さらに、数年前から学校の授業でお金の教育を扱うようになっていて、その世代の高校生がもうすぐ社会に出てきます。そうなれば、自分で資産形成できる会社であることがアピールポイントの1つになり、応募者の獲得に有利に働くでしょう。
制度導入のためには就業規則を改変しなければならないので、社労士の知識が求められます。2023年7月、まずは自分たちから企業型確定拠出年金を導入し、そのあとお客様2社に導入しました。
事務所の売上の観点から、2024年は企業型確定拠出年金と産休・育休プランのサービスを軸に進めていきたいと考えています。職員面談は工程数も多く手がかかるので、オプションとして用意しておいて、相談があればいつでも対応していきます」
今の時代の社労士業務に生成AIは不可欠
成長を続ける社労士法人Next Partnersの目下の課題は人材確保だ。現在の成長曲線に乗せていくために、10人の組織にしたいと鈴木氏は考えている。スタッフだけでなく、法人の存続のために、社労士有資格者にもどんどん門を叩いてほしいと話す。
「社労士の資格はドアノックツールです。企業の玄関は開けられますが、それは1つの信用にしかなりません。そこから先をどうするか。資格はもちろん大事ですが、自分の経験やノウハウを活かして新しく開拓していく必要があります。私のように前職の経験を活かすという切り口ももちろんあります」
鈴木氏が前職で培ったITスキルは営業活動だけでなく、先に話したように申請書作成の自動化など、社労士の実務面でも幅広く活かされている。
「ITが好きなので、ITを実務に活かす取り組みは、ずっと行っています。ただ、ITは次々と新たなツールが出てくるので、キャッチアップしていくのは大変な面もあります。ここ3~4年はRPA(Robotic Process Automation:パソコンで行っている事務作業の自動化)に夢中になって、実際にロボットを作ってきました。例えば、資格取得手続きで公文書データをダウンロードして、その名称変更をRPAで自動的に行い、先ほどお話しした掲示板の共有フォルダに自動でアップロードすることも実現しました。ただRPAのシステムを維持するのに結構なコスト負担が必要になるので、今は止めていますが…」
RPAだけでなく、生成AIにも鈴木氏は着目し、すでに実務で活用している。
「2023年に着目したのがChatGPTの裏で動いているPython言語です。調べたら給与計算のチェックプログラムを無料で簡単に作れそうなので、生産性を上げる意味でこれから取り掛かろうと思っています」
「今や、社労士業務において生成AIは不可欠です」と鈴木氏は話す。就業規則改定を依頼されてクリニックの就業規則を預かると、明らかに院長が手直しした箇条書きの文言が入っていることも。それをまた条文形式に戻す作業はかなり骨が折れる。しかし生成AIなら、それをコピーして個人情報など個人を特定できるものを外した上で貼り付け、「条文形式に修正」と指示するだけで約8割の精度ででき上がる。あとは専門家がチェックをすればいい。自分で打ち替える入力作業がいらないため、はるかに効率的だ。
「労働相談でも生成AIを活用しています。個人情報を外した上で貼り付けて、『相談に回答して』と入れるとパッとでき上がってきます。信憑性の問題で使えない面はありましたが、回答の根拠とするURLを一緒に表示してくれる生成AIもあります。そこには厚生労働省が一般向けにわかりやすくまとめたサイトが載っているなどして、参考となるページを探す意味でも意外と使えます。また、労働相談は正確に答えようとすると文章量が多くなる傾向があるので、生成AIに貼り付けて要約してもらうと、本当にポイントだけに絞ったものになります。お客様とやり取りをするチャットツールに最適な文章量にまとめられるんです。労働相談に対して自分で調べて回答するには工数がかかりますし、精度も上げなければなりません。生成AIを使うことで工数を減らし、かつ内容の濃いものをフィードバックできるとなると、今の時代の社労士業務に生成AIは不可欠ですね」
相談業務では本当に知らないことにあたりをつけるときも、生成AIを使うという鈴木氏。社労士業務は本当に変わってきている。ただし、最終チェックだけは、知識がある専門家、社労士がやらなければ責任ある回答にはならない。
「そう考えれば、職員面談のような対人に対してのサービスを手厚くしていくことが、重要だなと思いますね。手間をかけること。やはりそこに着地するんです」
生成AIとうまくつき合い効率化を図りながら、人でなければできない部分は人の手を入れて差別化を図る。これこそが鈴木氏の真骨頂である。
変化できる人間が一番強い
今後について鈴木氏に聞いてみると、先輩や他の社労士事務所から一緒にならないかという誘いもあるようで、いろいろな選択肢が広がっているという。
「お話をいただけるのはありがたいことです。ただ、誰かと組んで仕事をするのも一長一短ありますから、きちんと考えたいと思っています。1人でコツコツやるよりも誰かと組んでやったほうが早いこともあるし、極端な話、一度一緒にやってみて、うまくいかなければもとに戻る選択肢もあります。いろいろな選択肢がある中でどれがベストかは慎重に判断していきます」
社労士試験合格後、実務経験なしですぐに独立した鈴木氏だが、独立は自分に合っていたと考えているようだ。
「士業はみんな同じだと思いますが、どこまで実務経験を積めば開業に適したスキルが身につくのかは、多分判断できないと思います。人によっては、今いる場所が居心地よくて独立開業を選択しないという話もよく聞きます。私の場合、ラッシュアワーの電車に乗りたくなかったし、上司から理不尽なことを言われるのも嫌でした。それなら自分で判断して、失敗したら自分の責任、成功したら、やっぱり自分のおかげと思えるスタンスでいたい。私の場合、そういった考え方が独立開業に合っていたんだと思っています」
こうした言葉を聞くと思い切りがいいようにも思えるが、実際はそうでもないという。
「私の場合はもともと慎重派で石橋を叩いて、叩き割って渡らないタイプなんです。でもそれは後天的にでも変わらないとダメだと思いました。今では変化できる人間が一番強いと思います。士業に関係なく、いろいろなものを吸収していく力、環境に適応していく力がないと、5年、10年と生き残っていけないと思います。私自身もしっかりと変化して生き残っていけるように努力を続けていきます。
社労士の受験勉強をしているとき、暗記が苦手という自覚がありました。社労士の試験はかなりのボリュームでしたが、なんとかなると思って勉強した結果、合格できました。自分を信じてその気になればできる。それまで何も自分に実績がなくても、社労士に合格することが自信になって、自分を変えるきっかけになると思います」
合格することで、自身が変わることができる。その日をめざしてがんばってほしいと鈴木氏は締めくくった。
[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2024年4月 ]