日本のプロフェッショナル 日本の会計人|2021年5月号
清水 昭紀氏
あすなろグループ 税理士法人あすなろ
代表社員 税理士
清水 昭紀(しみず あきのり)氏
1980年9月2日生まれ、東京都・神奈川県育ち。2005年、東京大学文学部社会学専修過程卒業。同年、インターネット広告のベンチャー企業に就職。2010年10月より税理士受験に専念。2012年8月、税理士法人あすなろ会計に入所。2014年、税理士試験合格。2016年1月、税理士登録。同年3月、税理士法人あすなろの設立にともない社員税理士となる。同年9月より、代表社員税理士就任。
天職である税理士として、スタッフ、お客様の幸せのために、
「出社するのが楽しい」と思える職場を作っていきます。
40歳という若さで税理士法人あすなろの代表社員を務める税理士の清水昭紀氏だが、この立場は自らが望んでめざしたものではなく、創業者の逝去など様々な要素が絡まりあって至ったものだったという。清水氏はどんな歩みを経て税理士をめざすことを決心したのか、そしてどのような思いで代表社員になり、今どんな未来を思い描いているのだろうか。詳しくお話をうかがった。
浪人時代の反動でサークル活動に没頭
現在、税理士法人あすなろの代表社員を務める税理士の清水昭紀氏は、1980年生まれの40歳。若くして税理士法人のトップの座に就いているが、自らが強く望んでここまでたどり着いたわけではないのだという。まずは清水氏の歩みから振り返ってみよう。
「父が国家公務員だったため、小さい頃に何度か転勤にともなう引越しを経験しました。2人いる姉は小学校を3度転校したと聞きますが、私が小学生の頃には父親が転勤をしなくて済むようになりましたので、転校の心配はなくなりました。その後は中学受験をして筑波大学附属駒場中学校・高等学校に進みました」
中学校ではバスケットボール、高校時代はテニスと陸上を部活で行っており、スポーツ選手になりたいと思ったこともあるという。
「生徒の半分以上が東京大学に合格する進学校で、医師をめざす人は別ですが、目標が明確ではない学生は東大をめざすという風土があり、私も一浪して東京大学に進学しました。」
大学入学後は、勉強漬けの浪人時代の反動で、定期的に仲間とコントライブを行うなど、落語研究会と演劇サークルの活動に没頭した。その結果留年してしまい、大学へは5年間通うことになったという。
「やりたい仕事」を模索した20代
大学卒業後、清水氏が新卒で入社したのはインターネット広告を扱うベンチャー企業だった。
「ちょうど就職活動の頃から『ベンチャー企業』という言葉をよく聞くようになりました。私も興味がありましたので、あるベンチャー企業の就職説明会に参加してみたところ、社長の人を惹きつけ、巻き込むことができる求心力やカリスマ性に惹かれ、そのまま面接を受けることになりました。自分が落語研究会や演劇サークルで舞台に立っていた経験を話したら、『歌って踊れる営業になれるんじゃない』と言われて、自分が求めていたのはそういうことかもしれない、もっと自分を輝かせられるようになりたいと。そんな社長の言葉やベンチャー企業の冒険心ある社風に惹かれて入社しました」
「これからはインターネットだ」との声が上がり、段々とネット広告が注目を集めるようになった時代に、清水氏はその渦中に身を投じた。
「初対面の方の心を開かせるような力は、同期の営業に比べると劣っていたと思います。私はどちらかといえば知識営業です。多くの知識を身につけて、この人は詳しいから信頼できると感じてもらい、関係を築いていくスタイルですね。『この媒体を使用したことで同業他社でも効果が出ました』などとお客様のためになる提案をして、受注していました。着実に売上を上げていましたが、同期のような大型受注は取れませんでした」
この会社に5年半在籍した清水氏だが、次々に入社してくる後輩たちを見ていて感じることがあった。
「学生時代からインターネットが当たり前にある環境で生きてきた後輩たちは、インターネットを使って『こういうことができます』『みんなに喜んでもらえます』と新しいサービスを次々に提案していきます。そんな後輩が高成績を上げて出世していく姿を見たとき、私はこのままでいいのだろうかと思うようになりました。また、会社の売上や利益を上げるためだけではなく、お客様にとって一番いい商品を提案するお客様ファーストの営業をしたいという思いもあり、自分の仕事について少し引っ掛かりを感じていた時期でしたね」
清水氏はそんな自分を次のようにも分析していた。
「社会人になってからも、仲間と年1回、コントライブを開催していました。20代のうちは、お笑いの舞台に立ち続けたいと思う自分もいて、週末には仲間とコントの練習をしていました。本気で仕事に打ち込めていない部分もあったのかもしれませんね」
30歳で出会った天職
30歳になった頃、清水氏は「60歳になったとき、自分は何をしているんだろう」と考えるようになった。そして学生時代からの自分を振り返ると、「受験勉強が得意」ということが最初に思い浮かんだ。
「お客様のためになること、利益になることをしていきたいという熱い思いは持っていました。得意な受験勉強を活かして国家資格を取得し、お客様のために情熱を持って仕事をすれば、お客様に喜んでもらえていい循環が生まれる。そうしていけばきっと自分にとってもいい人生になるのではないかと思い至ったのです」
では、勉強する資格はどのように選択したのだろうか。
「最初はいくつか選択肢がありました。まず弁護士は法科大学院の説明会に行ったものの、30歳を過ぎてから大学院を受験し、さらに修了後に司法試験を受けるのは時間的にハードルが高いだろうと。姉からは『昭紀は口ゲンカが苦手だから向いていないよ』とも言われましたね(笑)。
次に考えたのが公認会計士でしたが、監査法人がリーマンショック直後でリストラも行われているような時期で、実際に勤めている友人に聞くと『リストラもあるし、事業会社への出向もありそうだ』と。そう聞いてしまうと、すぐに決断はできませんでしたね。
さてどうしようかというときに、税理士の友人に話を聞いてみたら『法人・個人と様々な仕事ができる税理士は、お客様の数が多いから、ご飯を食べるのに困ることはない』と勧められました。自分は学生時代から数字に強いし、向いているかもしれないと思ったこともあり、このときに税理士をめざすことを決心しました」
生涯の仕事をあらためて考え、国家資格である税理士を取得すると決断した清水氏は、受験勉強に集中するために会社を退職することを決意。憧れがあったお笑いについても、プロになるにはやはり相当な才能が必要な世界だろうと諦めがついたという。
こうして清水氏は2010年10月からTACに通い始めた。勉強の場としてTACを選んだ理由を聞いてみると、「相談した友人に勧められました。公認会計士や税理士になっている仲間はみんなTAC出身でしたから、自分も同じ環境で勉強をしようと思いました」と語ってくれた。
幸いなことに、家族も早く資格を取れるようにと応援してくれたため、清水氏は実家に戻り受験に専念することができた。
「TACの講師の方たちは、質問に行くと期待していた以上に熱心に教えてくれました。実務の話を聞かせてもらうこともあり、自分がめざしている税理士という職業は素晴らしいとあらためて思うことができました。自分も早く同じ資格を取得して、社会に貢献できる会計人になりたいとモチベーションも高まりましたね」
こうして清水氏は1度目の受験で簿記論、財務諸表論、消費税法の3科目に見事合格。2年目は相続税法と法人税法の残り2科目を受験した。
未来会計から始めた税理士実務
2012年8月、2度目の受験を終えたばかりの清水氏の姿はTAC合同就職説明会の会場にあった。そこで出会ったのが現在代表社員を務める税理士法人の前身、税理士法人あすなろ会計だった。
「就職説明会のブースでいろいろとお話を聞いた上で、面接をしてもらうことになりました。『お客様にいいものだけを売りたい、お客様を第一に考えて仕事をしたい』という思いを話したところ、事務所の創業者であり当時の所長の和田谷から『お客様にとって価値あることをしたいという思いは、会計人にとってぴったりだ』と言われたのです。お客様のために全力を尽くすことができる税理士はやはり自分の天職だと感じましたし、いい事務所を見つけたなと思いましたね」
この面接で、清水氏は等身大の自分について、学生時代から前職時代の悩みまで包み隠さずにとうとうと話した。そんな清水氏に所長の和田谷氏は「自分探しが終わっているなら、君を雇おう。でも3年間はやめるな」と告げた。清水氏は「バリバリ仕事をして、仮に不合格科目があっても働きながら取得します」と返事をした。
面接を終えた清水氏は実家に帰宅すると「就職先が決まった」と家族に報告したという。実際に内定の連絡が来たのは、その日の夕方のことだった。
後日、清水氏も知ることになるのだが、面接の席で「君を雇う」と即決したのは前代未聞だったのだという。和田谷氏には、清水氏がきっといい税理士になるだろうという確信があったのかもしれない。
こうして晴れて2012年8月にあすなろ会計の一員となった清水氏。前職との違いはどうだったのだろうか。
「あすなろ会計は『ゆりかごから墓場まで』というスタンスで、お客様とおつき合いをしています。これはインターネット広告会社にはないものです。真正直にお客様に向き合っていると言い換えてもいいでしょう。例えば、お客様が保険会社から保険を勧められて迷っているときに、仮に相手の意に反していても、帳簿を見た上でお客様にとって必要ないものだと思ったなら『今は入らないほうがいいと思います』と正直に伝えるのがあすなろ会計のスタンスです。一時的に気まずい思いをするかもしれませんが、長いおつき合いが前提にあるからこそ、本当にお客様のことを第一に考えた提案ができるのです。
前職時代からお客様にとって本当にいいアドバイスをしたいという思いがありましたので、自分の中で、仕事をする上での理想のスタンスと、実際の仕事にギャップがなくなったというか、もやもやが解消されました。いろいろと思い悩みながら受験をして転職しましたが、あすなろ会計に来てようやく自分の居場所が見つかったと感じましたね」
実際に働いてみて、税理士という職業が本当に自分に向いている天職であると実感できたようだ。そんな清水氏だが、入所後はどのような業務を担当していたのだろうか。
「あすなろグループの中には株式会社未来会計アスナロという会社があり、そこではMAS(Management Advisory Service)監査を行っています。私が入所する1年ほど前から、あすなろグループではMAS監査の取り組みを開始していました。通常、会計事務所が行っている会計は過去会計で、過去の会計に対して正しいと確定させる業務を行っていますが、MAS監査は異なります。MAS監査はお客様の側に踏み込んで、社長が今頭の中で想像している未来図を会計帳票に落とし込み、予算と実績のモニタリングを行い、社長と同じ目線でのアドバイス、サポートを行い伴走するものです。予算と実績のズレを把握したら、社長と経営幹部の方たちと経営会議を行います」
その後、MAS監査に専念するために清水氏は未来会計アスナロに出向した。MAS監査に専念することは、身をもって経営者と接すること、そして会社全体を俯瞰して見る目を養うことで、自らを高めていくことにもつながった。清水氏は面接で宣言した通り、バリバリ仕事をしながら受験勉強にも励み、2013年には残り1科目となっていた法人税法で官報合格を果たすことができた。
創業者の死を乗り越えて
ここで今日まで続くあすなろグループの歩みを振り返っておきたい。1975年に税理士の和田谷純氏が創業した和田谷会計が基礎となり、2009年に事務所内独立をしていた税理士の村上宣子氏の村上会計と合併する形で、税理士法人あすなろ会計は生まれた。ところが2014年8月に和田谷氏が、同年12月に村上氏が相次いで亡くなる。税理士不在というピンチを、旧知の税理士、中島正喜氏に協力を仰ぎ、中島正喜税理士事務所を設立してもらい、あすなろ会計のスタッフと顧客基盤を引き継いでもらうことで乗り越えた。そして2016年3月に中島氏が代表社員、税理士登録を果たした清水氏が社員税理士となる形で、税理士法人あすなろを設立。同年9月より清水氏も代表社員となった。2017年11月に中島氏が退任し、翌2018年2月に江岡恵子氏が社員税理士に就任。現在は清水氏と江岡氏の他に2名税理士が所属している。
代表社員が相次いで亡くなるという2014年の非常事態。一時的とはいえトップが不在となる状況に際して、不安から離れていくお客様や、退所してしまうスタッフがいてもおかしくない状況にあったことは想像に難くない。清水氏たちはどのようにこの苦境を乗り越えたのだろうか。
「8月に和田谷が亡くなり、続いて12月に村上も亡くなったことで、税理士法人としては一度途切れてしまいましたが、スタッフと顧客基盤を中島に引き継いでもらうことで、お客様を守ることができました。名物所長はいなくなりましたが、長年勤務しているスタッフが大勢いましたので、お客様とのコミュニケーションが途切れたり、業務が滞ったりという事態にはなりませんでしたし、実際離れてしまうお客様はありがたいことにほとんどいらっしゃいませんでした。
スタッフも不安だったと思いますが、創業以来、和田谷と共に事務所を支えてきてくれたスタッフの背中を見て、自分たちもがんばらなくてはと強い気持ちを持てたのか、これを機に退所したスタッフはいませんでした。和田谷が亡くなったあと、村上自身もがんを患っていたにも関わらず、毎日出社して最期まで事務所を引っ張ってくれた。ふたりが生涯を捧げた事務所とその思いを継いでいかなければならないと、スタッフみんなが感じていたのだと思います。
まだ税理士という肩書を持っただけのよちよち歩きの私を、ふたりはあたたかく見守って育ててくれました。育ててもらった恩返しとして私にできるのは、その思いを引き継ぎ、顧客基盤や育んできた風土を存続させること。そして、組織として継続的に発展させ、次の世代にバトンタッチしていくこと。これが実現できるように、もっと経験を積んで成長しなければいけないよねと、みんなと話しています」
2016年3月に中島氏が代表社員、清水氏が社員税理士となって、税理士法人あすなろが設立されたが、このことについて清水氏はどう思っていたのだろうか。
「まず税理士法人から一度は個人事務所になったことで不安を感じるお客様もいらっしゃいましたし、自分たちも税理士法人であることが当たり前と思っていましたので、自然と税理士法人を再度設立するという考えに至りました。
しかし、税理士法人の社員には税理士登録者しかなることができません。そのとき、税理士登録していたのは中島以外には私しかいませんでしたので、自然に社員税理士になったという経緯でした。とはいえ、入所5年目、税理士登録もしたてですから、経験も知識も足りておらず、子どもが大人の服を着ているようなものです。身の丈に合わない位置に立っている感覚があり、実務面も経営面も不慣れなことの連続でした」
そんな清水氏を支えてくれたのはスタッフ一人ひとりのがんばりだった。自分たちががんばって成長し、お客様を守っていくのだという強い自覚を持って業務に取り組む日々の中で、仲間への理解や信頼がより強くなっていったという。
「今では困ったことや悩みがあればみんなと相談し合えるという安心感があり、所内の決定事項についても相談して決定しているので、代表社員だからといって、自分ひとりで抱え込む必要がなく、本当にみんなに支えられていると感じています」
税務調査の立ち合いについても、周囲からアドバイスをもらったり、税理士試験の知識が思いがけず役に立ったりと、様々な経験を積むことで少しずつ度胸もついてきたという。
ワンストップでサービスを提供できる事務所
現在、税理士法人あすなろは正社員30名、パートタイマー10名の40名体制となり、うち税理士有資格者は4名で社会保険労務士事務所も併設している。顧問先数は約400件で幅広い業種にわたっているが、そのうちの3割近くを医科・歯科が占めていることも特徴といえよう。業務の状況について清水氏にうかがってみた。
「1975年の設立以来、45年以上もお客様と関係を築いてきた、歴史ある事務所ですので、会計・税務の専門家として月次報告や決算監査を通じて、個人や法人のお客様の経営をサポートするという会計事務所の伝統的な業務がベースになっています。
さらに税理士資格に付随する行政書士業務はもちろんのこと、社会保険労務士事務所を併設していますので、税務会計に加え、社会保険手続きの代行や労務顧問、提携司法書士を紹介しての登記業務など、中小企業に対してワンストップでサービスを提供できる事務所でありたいと考えています」
希望されるお客様に対しては入力代行や経理代行業務も提供している。さらに若手スタッフを中心にクラウド会計に精通しているメンバーが増えてきているので、バックオフィス全般のアウトソーシングといったBPO分野も強化しているそうだ。
実際、集客に関してはお客様からの紹介がほとんどだったが、ここ最近ではクラウド会計を希望する問い合わせが増えており、新たな顧客開拓の柱になりつつあるという。
「所内体制もITインフラを整備・活用して業務効率化をさらに進めていく考えです。この前、クラウド会計のサービスを提供している会社が作成するYouTube動画内で、確定申告の方法を解説する企画に参加したのですが、自分たちのお客様だけに限らず、世の中に有益な情報を広く発信していく動きが浸透し始めていることも実感していますね。加えて、世間のニーズに沿っていくという意味でも、クラウド会計やITを駆使して、お客様の社内業務の効率化、会計・税務業務の効率化の提案にも積極的に取り組んでいくべきだと思っています」
清水氏が入所早々に担当したMAS監査も事務所としては10年以上の歴史を持つ事業となっており、今後も蓄積してきたノウハウを活かしながら、経営計画の立案や、予算と比較しての実績数値のモニタリング、経営会議への参加まで行う経営サポート業務も行っていく予定だという。
また、所内に業務歴10年以上のスタッフが増えてきたことから複数の委員会を立ち上げ、お客様からの相続の事前相談などに対しても、専門チームで対応できる体制を築きつつある。長い歴史の中で経験とノウハウを積み上げ、艱難辛苦を乗り越えてきたあすなろグループは、ますます強いチームになっているようだが、世界的に大きなダメージを与えた新型コロナウイルス感染症の拡大は、あすなろグループにどのように影響したのだろうか。
「従来は巡回監査や来所していただく対面での監査・税務相談を基本的なスタイルとしてきましたが、コロナ禍においてはオンラインミーティングでの監査・税務相談の機会も増えています。お客様とのコミュニケーションの取り方は柔軟に対応し、変化していくものと考えていますね。
働き方としても、一部で在宅ワークを取り入れるようになりました。アフターコロナにおいても、介護や育児といった場面で在宅ワークも取り入れながら、みんなが望む働き方で仕事を続けられる職場でありたいと考えています」
がんばった経験は将来の自分へのプレゼント
清水氏はスタッフ50名体制、顧客数500社をめざしてリクルート活動も行っているという。どのような人材を求めているのだろうか。
「これからは、AIやITを活用しながらお客様の経営に役立つサービスを提供していきたいと考えていますが、AIやITを使うのは人間であり、人と関わっていくという本質は変わらないと思いますので、人と接することに前向きで、人の役に立てることを喜ぶ、人に寄り添う仕事を選びたいという方と一緒に働きたいと考えています。うちの場合、他業種から転職してくる人が多いため、資格の有無や税理士試験の科目合格にはこだわりません。所内でも働きながら受験している方は大勢いますし、うちに転職してから10年かけて5科目合格を見事に果たしたスタッフもいます。ただ、講義がある日の定時退社や本試験前に休暇が取れるような配慮はしていますが、大手事務所のような受験支援制度、試験休暇制度はないため、受験中の方に対してはちょっとアピールポイントが足りないのかもしれません。とはいえその背景には資格の有無に関係なく、仕事をきちんとやることこそが、全員がやるべきことだという事務所の理念があります。人柄重視の採用なので、思いが合致する方はぜひ応募いただきたいですね」
今後の展望について清水氏はどう考えているのだろうか。
「数字でいうとスタッフ50名体制、顧客数500社がひとつの目安になると思います。そして先ほどもお話したようにワンストップで中小企業経営者の方にご満足いただけるサービスを展開していきたいと考えています。お客様の中には成長して会社上場が視野に入る会社もありますから、そんなお客様たちと一緒に成長して、上場後もずっと一緒に歩んでいけるようにしていきたいですね。」
また清水氏は、職場環境についてワーク・ライフ・バランスが重要だと考えている。それを重視して入所してくる若手スタッフも多いので、望む働き方ができる環境整備に努めている。
「女性の方にも活躍していただける職場だと思います。実際、社員税理士は女性ですし、産前産後・育児休業のあと、ほとんどの方は職場復帰してくれていて、ここ2〜3年は誰も退職していません。
職場は、人生の限りある大事な時間の中でかなりの部分を過ごすことになる場所です。みんながいつか死を迎えるときに決して後悔しないような、うちに勤めてよかったと思える職場でありたいと思います。仕事ですので苦しいこともありますが、理想をいえば、毎朝起きたときに『出社するのが楽しい』と思える職場にしたいのです」
そう語る清水氏から、最後に受験生へのアドバイスをいただいた。
「私は大学受験で現役合格できず、1年間の浪人生活を送りましたが、そのとき勉強は基本が一番大事だと痛感しました。税理士受験についても基本を大事にするという心構えで『なぜ?』『どうして?』と思ったことはできるだけ自分で考えてから、講師の方に質問をしていました。TACの教材『理論マスター』の、会計・税務処理の根拠になっている条文をよく読み込むことも意識しましたね。勉強できる時間は限られていますから、焦ることも大事ですが、落ち着いて考えて理解に努めることも同じくらい大事です。
がんばった経験は将来の自分へのプレゼントになります。お体に気をつけてがんばってください」
[『TACNEWS』日本の会計人|2021年5月号]