日本のプロフェッショナル 日本の会計人|2019年10月号

Profile

蝦名 和広氏

Aimパートナーズ 総合会計事務所
社会保険労務士法人 Aimパートナーズ
行政書士法人 Aimパートナーズ
Aimパートナーズ 海事代理士事務所
株式会社 Aimパートナーズ
税理士 社会保険労務士 行政書士 海事代理士

蝦名 和広(えびな かずひろ)氏
1979年生まれ、北海道出身。北海学園大学経済学部卒。2002年、社会保険労務士試験合格、行政書士試験合格。大手会計事務所の社労士法人を経て、2003年11月、24歳で社労士・行政書士事務所を開業。2012年12月、税理士資格取得。2014年6月、税理士として会計事務所を併設。2019年、社労士と行政書士事務所を法人化。

複数の資格を保有するメリットは
「本当の意味でのオールラウンダーになれる」ことです。

税理士であり、社会保険労務士であり、行政書士であり、海事代理士。4つの資格を取得して活躍しているサムライがいる。北海道札幌市の蝦名和広氏だ。24歳で社会保険労務士・行政書士として独立開業してから、所長業のかたわら税理士資格を取得している。蝦名氏はなぜ独立開業後に、税理士をめざそうと考えたのだろう。社会保険労務士・行政書士事務所を運営しながらの税理士受験には、どのような苦労があったのだろう。開業16年目にしてまだ40歳。複数の資格保有で活躍する蝦名氏の生き様を追ってみた。

起業方法のひとつとして資格取得を選択

 学生時代、携帯電話販売のアルバイトをしていた蝦名和広氏は、そのアルバイトで儲かった経験から、就職するよりも起業したいと考えた。そして、コンビニエンスストアなどのフランチャイズに関する資料を集めて検討していた時、「自分は勉強が嫌いなわけでも苦手なわけでもないな」と、ふと気がついた。「それなら何か資格を取って起業したほうがいいんじゃないか」と考え、書店に行き、「比較的短期間に取得できて独立開業できる資格」を選択基準に、取得すべき資格を探した。その結果、ヒットしたのが社会保険労務士(以下、社労士)と行政書士だった。大学の授業でも法律系の勉強がとてもおもしろかったので、卒業後は就職せずにアルバイトをしながら社労士と行政書士資格の取得をめざすことにした。

 1年目は社労士試験のみを受けて不合格だったが、2年目には社労士と行政書士試験の両方に合格することができた。

「すぐに独立を考えたのですが、社労士になるには登録要件があり、それを満たすには最短でも7、8ヵ月はかかることがわかりました。それなら、その間どこかで実務経験を積もうと考えて、道内の大手会計事務所の社労士法人に入りました。そして、8ヵ月間実務を学んでから、2003年11月に社労士・行政書士として独立開業しました」

 24歳の若いサムライの誕生である。とはいえ、キャリアといえばそれまでのアルバイト経験と社労士法人での8ヵ月の実務経験しかなかった。もちろん顧問先はなく、ゼロから開拓しなければならない。若くて経験もなかった蝦名氏の開業当初は、苦労の連続だった。

「開業して半年間は、本当に職業選択を間違ったなと思うくらい、お客様もいないし、電話も鳴らないし、社長へのプレゼンテーションのチャンスをつかんでも緊張してうまくできないし…。でも、何もせずにいても仕方がないので飛び込み営業をかけたり、いろいろな人に声をかけてお願いしたり、集会などに参加してみたり。そうしているうちに、ぽつりぽつりとお客様になってくれる中小企業経営者が出てきました」

 開業翌年、2004年の年末にスタッフを1人雇い、顧問先は30社にまで増えた。少しずつ顧客の悩みがわかるようになり、解決の糸口が見え始めてきた時期である。

 業務内容は、社労士の1号・2号業務といわれる社会保険手続から就業規則、助成金申請サポートなど。労務相談といっても、まだ経営とはどういうことかがわからなかったので、法律上の回答はできてもコンサルティングにはほど遠く、手続き業務メインで収入を得ていた時代だ。行政書士業務としては許認可、会社設立を受けていた。

「お金をいただきながら勉強させてもらった感じです。依頼が来たらすぐ書店に飛んでいって、関係資料を全部買って必死に読み込んでからお客様のところに行きました」

 力不足であったとしても、一生懸命やろうという姿勢だけは誰にも負けなかった。その姿を見ていた中小企業経営者の中には、そのがんばりを認めて知人や友人を紹介し、応援してくれる人も出てきた。おかげで開業4年目には、建築系、IT企業、病院、ホテル、介護施設、パチンコ店と業種も様々に、顧問数70〜80社にまで増えて、経営も安定するようになった。

「当時はまだ28歳。苦労はいっぱいありました。顧問先に行くと、若いお兄ちゃんが来たなという目で見られて、箸にも棒にもかからないという扱いをよくされました」

 そんな状況でも、若手起業家や経営者が、若い蝦名氏を応援してくれて安定した基盤ができていったのである。

28歳の社労士・行政書士所長、税理士をめざす

 事務所が軌道に乗り始めた開業4年目。事務所はうまくいっていたが、蝦名氏はひとつの悩みを抱えていた。中小企業の労務相談やコンサルティングをしていると、必ずと言っていいほど「年末調整はどうしたらいいのか」、「税金対策はどうしたらいいのか」、「相続で悩んでいるが相談に乗ってくれないか」という税務の相談を受けるのだ。

「『税務の相談は資格がないので受けられません。提携税理士を紹介します』とお伝えしていました。でも、こんなにニーズがあるのなら、自分で税理士資格を持ったほうがいい。税理士資格があれば自分でお客様にもっとよいサービスが提供できると考えたんです」

 まだ28歳。失敗しても巻き返しはできる。ただ、ひとつ大きな問題がある。社労士・行政書士事務所の所長として動きながら税理士という難関資格を取らなければならないことだ。

「大変でも、決心したらやり遂げないと。税理士資格を取得するには受験勉強をしなければなりませんから、事務所にいられない時間も増えてしまいます。そこでまず仕事量を抑えてみました。受験期間は売上が落ちても仕方がないと思ったんです。当時、スタッフは10名弱。私が出向かなければならない案件は私が対応しましたが、あとはすべてスタッフに権限委譲して任せました。するとスタッフが奮起してくれて、なんと売上が伸びたんです。スタッフの協力がなければ税理士資格は取得できなかったですね」

 こうしてスタートした税理士受験は、まず2007年に1科目に合格。その後、2科目に合格して、2009〜2011年は大学院に通い、2012年12月に税理士試験を終えた。ただし、事務所経営と受験の両立は相当にきつかったようだ。

「勉強していてもお客様から電話が入れば対応しなければならないので、なかなか集中できない。今思い出してもしんどくなるほどきつかった。二度とやりたくないですね(笑)」

 2014年6月に税理士登録し、税理士事務所の看板も出した。受験期間中は落ちると覚悟していた事務所の売上が逆に伸びて、顧問数も100件を超え、スタッフが12、13名に増えていたことは何よりも大きな変化だった。

税理士の気持ちがわかる社労士

 税理士として開業すると、まず社労士・行政書士事務所の顧客から税務相談へと広がったり、新たに税務のお客様ができると、「社労士のほうも頼みたい」とシナジー効果が生まれた。

「お客様にとってはうれしいことですよね。すでに顧問税理士がいたとしても、税理士が2人になることでセカンドオピニオン的なサポートも受けられる。2人の税理士がいるだけで税務調査では税務署にとってプレッシャーになる。何より税理士資格を取ったことで、私は『税理士の気持ちがわかる社労士』になれたんです。社労士の側面から税務を見ることができるし、その逆も然り。税理士資格を取ってから仕事がガラッと変わりました」

 一般的に、税理士として開業し、労務関係も依頼されるので自分で社労士を取ってしまおうという人はいるだろう。しかし反対に、社労士として独立開業をして4年も経ってから、さらに税理士資格を取得しようというのは実に勇気のいる決断だ。それほど税理士試験は受験勉強に時間を要するし、合格までには相当な努力がいるからだ。それを受験しようと決断し、さらに事務所のトップとして運営をしながら勉強しようというのだから、蝦名氏の決断力と努力には圧倒される。

 結果的に税理士資格取得までには5年かかったが、事務所の売上は3倍、人員も倍に増え、その効果は絶大だったのである。

メイン業務は税務と労務

 税理士資格取得から5年。税務部門の人員も育ち、組織は総勢30名の陣容となった。税理士有資格者は2名、3科目合格者2名、社労士4名、行政書士4名。趣味で取得した一級小型船舶操縦士から転じて2016年に蝦名氏が取得した海事代理士については、スタッフも含めると3名になる。その他、CFPⓇ1名、宅地建物取引士3名と有資格者の層はかなり厚い。

「有資格者が多くなったので、人材のレベルの高さが自慢になりました。宅地建物取引士が多いのは、相続や税務相談を受ける延長線上でお客様が不動産を購入する際に、宅地建物取引士の知識が必要になってくるからです。3名いるので、失敗したら不動産屋でやっていくかなと冗談を言っています(笑)。 また今、ニセコでコンドミニアムを区分所有しているオーナーが管理組合を作るという話が出てきています。そうなると今度はマンション管理士や管理業務主任者の資格も必要になります。やはり税理士をやっているといろいろな業務が絡んでくる。私は知的好奇心が旺盛なので、そうした資格もぜひチャレンジしてみたいですね」

 現在、顧客数は350社。すべて紹介で広がっているという。札幌市を拠点に税務・労務相談、税務会計、労務監査、保険手続、記帳代行、給与計算、各種調査立会、助成金、会社設立のトータルサポートを実現している。とにかく経営全般を相談できる広範な守備範囲で経営者に安心を提供できるのが大きな強みだ。

 事務所のメイン業務はもちろん税務と労務。特に起業支援案件が多いのが特徴で、会社設立実績は現在の顧問先350社のうち100社以上、開業以来の起業相談は累計1,000件以上を数える。

「起業では、許認可も含め、会社設立後に必要な社会保険手続きをするのはもちろん、従業員の給与額や給与の締め日・支払日、労働時間といった労働条件も一緒に決めますし、融資相談や金融機関への取り次ぎ、事業計画書を練ってチェックし、同時に助成金で使えるものがあれば提案して書類を揃えるなど、会社設立後の一切合切をすべてやります」

 100点満点で当たり前、誰がやっても同じにならなければいけない登記や手続業務では差別化はしにくい。それが充分にわかっているからこそ、開業支援からすべてを行うことでお客様から選んでもらえる事務所をめざす。

「選んでもらえるのは、うちの事務所のスタッフのキャラクターがよいからかなと思っています。平均年齢30歳前後と若いスタッフを中心に、元気な人間が多い。私ひとりでは限界がありますが、スタッフが社長ときちんと向き合っているんです」

 中でも営業が得意なスタッフが複数いて、顧客先を訪問しては紹介先をもらってくることも。社長自らが紹介してくれる時もあれば、「こういう人いませんか」と積極的にアプローチすることもあるという。

士業のワンストップグループをめざす

 税理士・社労士・行政書士・海事代理士と、4つの士業で守備範囲を広げる蝦名事務所は、個人・法人のコンサルティングサービスからアウトソーシングまで、文字通りオールラウンドに攻めることができるのが最大の強みとなった。様々な士業がアライアンスでつながったワンストップサービスとは明らかに一線を画している。めざす先は「規模拡大」と蝦名氏は断言する。

「イメージは、士業のワンストップグループ。病院でいえば、『総合病院』をめざしています。売上規模は、2020年までに3億円が目標です。その規模になったら、スタッフ数も50名にしたい。そのために、『毎年128件増客』という数値目標を設定しました。たまたま数年前に128件という数値が出たので、そこが目標数値です。月10件ペースですが、週2件ペースで増やすことができるスタッフがいっぱいいるので、2019年は順調なペースでクリアできると思います。

 長期的な目標は『地域一番の事務所』になることです。若さを武器にいろいろな案件で声をかけてもらっているので、経験は少ない分、伸びしろがある。おかげさまで顧客数も増えて幅広い案件に対応しています」

 開業から16年という月日が流れ、今年40歳になった蝦名氏。規模拡大を掲げて、2019年6月には社労士法人Aimパートナーズと行政書士法人Aimパートナーズを立ち上げ、組織化を図った。こうして2つの法人と、税理士・海事代理士事務所、コンサルティング会社のグループとなった。社労士法人と行政書士法人は、すでに札幌市内に2店目の支店展開を模索中だ。

「ゆくゆくは税理士法人も立ち上げる方向です。ただ、パートナーは有資格者なら誰でもいいわけではありません。無限連帯責任なのでスタッフの納得がいく人物をパートナーとして迎えたい。そこはバランスを考えながら慎重にやっていきます。今、私と年齢の近い税理士のパートナーを探して、あちこち声をかけています」

 法人化に際して社名となったAimパートナーズの「Aim」とは「めざす」を意味する。もともとグループのコンサルティング会社は株式会社Aim.Listing(現在は、株式会社Aimパートナーズ)という名前で、その名の通り、上場をめざしていた時期もあった。

「最初は株式会社を大きくして上場しようと思ったのですが、士業でなければできないことがたくさんあり、そこまではいけませんでした。札幌証券取引所が創設したアンビシャス市場は『近い将来における本則市場へのステップアップを視野に入れた中小・中堅企業向けの育成市場』なので2億円の売上があれば上場できます。今でもチャンスがあればめざしたいと思っています」

 2018年には札幌市内の経営塾にも参加した。自分と同じ年齢で会社を上場させている人、これから上場させようという人もかなりいた。

「東証マザーズに見学に行って鐘の模型を鳴らした時、一緒に行った仲間の1人が『俺、去年鳴らしたよ。あれは3回鳴らすんだ』と言うのを聞いて、ものすごい差を感じました。同い年なのにすごいなと刺激を受けましたね。上場すれば優秀な人材は集まってくると思います。でも、士業は法律を遵守する立場にいるので株主の意向に沿ってばかりはいられません。会社としてできることは記帳代行や給与計算と限られていますので、有資格者として上場を考えるなら、『株式公開』が『株式後悔』にならないようにしなければなりませんね」

研修を充実させ新卒、中途を採用

 30名規模になると、組織作りのメソッドが必要になる。在籍するスタッフも未経験で入ってくる人が多いので、誰もが均質なサービスを提供できるようにマニュアル化を進め、実務研修をきっちりと実施することにした。そこで事務所内に教育研修委員会を設け、そこが中心となって研修企画のほか、オリジナルのトレーニングブックによる講座などの受講歴管理も行い、各人の進捗管理を徹底している。

「私の全体研修は毎月開催し、任意の勉強会も毎週開催しています。また2ヵ月に1回、外部講師を招いて講義をしていただくほか、他社見学会や道外での外部研修への出張参加もあります。

 規模拡大を進めるとともに、質・量ともに地域一番の事務所をめざしています。毎月行われる研修で全員が短期・中期・長期の目標を共有し、スタッフ一人ひとりのキャリアプランやライフプラン上の幸福増大と事務所の成長がリンクする。そんな将来像を描いています」

 採用の際に求める人物像を聞くと「第一印象は大事にしていますね。経営者に会う仕事なので、清潔感やさわやかさ、元気のよさを大切にしています」という。

 採用にあたっては、税理士の場合は科目合格数で見ると同時に、簡単な会話の中で知識量を確認するためのヒアリングを行う。ただし資格の有無は重視しておらず、未経験・無資格でも、若くて素直な人を採用する。

「税務部門、社労士部門、行政書士部門と、それぞれ部門別で募集しますが、どの部門でも何よりも大切なのは素直で打たれ強いこと。加えてコミュニケーション上手な人が理想ですね。新卒も採用していますが、状況に応じながら新卒と中途、両方を採用しています。中途に関しては、経営者の価値観を一緒になって追求できるかできないか、そこだけをフォーカスして見ています」

 若気の至りで20代の頃はワンマンにやり過ぎてスタッフが辞めたことがあった。その反省からスタッフとの距離を縮め、優しく接するようにしたら今度は規律がなくなって、5年前、5名のスタッフが一度に辞めるという痛い経験もした。マネジメントの難しさは身にしみている。

「中途半端な優しさで甘やかすのは人をダメにしてしまう。厳しいことを言ってあげるのも愛なんです。一生懸命やっている人間がバカを見るような事務所にだけは絶対にしてはいけません。だから今はやや厳しくやっています。わかってくれるスタッフはわかってくれるでしょう。そういう人たちが核になって、広がっていけばいいなと思う。常に試行錯誤しているので、来年はまた違うことを言っているかもしれませんが(笑)」

 士業としての「総合病院」をめざして、規模拡大を進める蝦名氏が、今まさに探しているのは司法書士だという。

「事務所内には、司法書士事務所の事務長を16年間務めてきた人物がいるので実務的には問題はないのですが、有資格者ではないんです。そこで今は司法書士3人と提携して仕事を進めていますが、賛同して一緒にやってくれる司法書士がいればと考えています。顧問先がすでに350社あるので、商業登記や不動産登記などの案件数でいったら司法書士一人分の仕事量はありますから」

真の「オールラウンダー」をめざして

 蝦名氏の事務所は繁忙期を除けばほぼ残業ゼロ。繁忙期は確定申告と年末調整時期の年に数ヵ月のみ。しかも、その時期でも残業時間は月平均20〜30時間しかなく、休日出勤も2018年度は一度もなかったという徹底ぶりだ。社労士として労働法規に精通しているからには、その理念と使命に則った労働環境を自分の事務所でも実現しなければならないと、蝦名氏は考える。

「人を雇わない社労士と税金を払わない税理士なんて、私は信用しません。身銭を切って人を雇い、従業員の労務管理を行って税金を払っていなければ、お客様の気持ちなんてわかりませんから。私自身も、平日は18時半に退社して土・日・祝日もきっちり休んでいます。事務所は19時には鍵を閉めますので、基本的に残業はありません。

 また、グループ30名規模の社労士法人は数えるぐらいしかないと思います。30名在籍している社労士法人がする労務アドバイスは全然違うんです。数名規模では出てこない問題も30名になったら出てきます。私たちの事務所のお客様は大きいところでは800〜1,000名規模ですが、大半は私たちの事務所と同じぐらいの規模のところが多い。すると同じ悩みや課題に直面しやすいので、すでに私たちの事務所で起きて解決したことが事例となり、アドバイスすることができます。

 そして、新しい取り組みは、まず事務所で取り入れて、実験して検証し、『これはいける』となってからお客様に提案します。例えば、給与の前倒し付与などの施策ですね。検証してよくなかったら、お客様には勧めません」

 2020年までに売上3億円という目標を掲げる蝦名氏に、税理士、社労士、行政書士、それぞれのやりがいについて聞いてみた。

「似ているようでいて、仕事のやりがいは全然違いますね。

 まず税理士のやりがいは、やはりお客様に信頼される点です。判例を研究して事例判断しなければならない難易度の高いご相談も多く、お客様と一緒に汗をかきながら問題解決に当たらなければなりませんので、信頼関係が大切です。さらに、これまでの先輩方が作り上げてくださった、お客様からの「税理士」という資格に対する絶大な信頼や高すぎるほどの期待もやりがいにつながっています。

 また、従業員と経営者の橋渡し的な役割を担うのが社労士ですが、経営者は経営者としての思いが強すぎて従業員とぶつかってしまうことがありますし、逆に従業員側がそうなる時もあります。社労士は、そうしたトラブルが起きないように未然に予防するお手伝いだと捉えています。就業規則もそうですし、社会保険関係の各種手続きなどをきちんと整えることもその一貫です。そして、組織作りに関わって、お客様である経営者が助成金を使って従業員にとってプラスになることをしてあげたり、会社がよくなったりするのを見られれば、それは社労士冥利に尽きる、とてもうれしいことです。

 そして、行政書士に関しては、会社設立をメインにしているので起業家に巡り会い、関われることが楽しいですね。起業家は目をきらきらさせて『こんなことをやりたいんです!』と言ってきます。話をしていてこちらが楽しくなってくるんです」

 複数資格を保有するメリットは、「本当の意味でのオールラウンダーになれる」ことと蝦名氏は話す。税理士、社労士、行政書士、海事代理士が複数いて同一組織体として機能するからこそ、質の高い真のワンストップサービスが実現できるし、多角的なアドバイスが可能になる。それこそ蝦名事務所の最大の強みだ。

「資格取得はマラソンで言えば、出場資格が抽選で当たったようなもの。出場権を得たということと、タイムをどうやって伸ばすかということは別次元の話です。でも、複数の資格を持っていれば、走れるコースがいっぱいあっていろいろな選択肢が出てきます。そのコースが重なっていることもあれば、複数の道を選ぶこともできる。あるいは専門特化してひとつのコースを深く掘り下げることもできるんです。士業の方は、1種類の資格しか持たない方も多いですが、私は税理士・社労士・行政書士・海事代理士資格を持っていたから、いろいろな専門性が広がっていきました。複数の資格を持つことで、ひとつの視点だけでなく、複眼的に、俯瞰的に見ることができる。それが業務の幅を広げてくれて、お客様の信頼にもつながっていることは、私たちの強みです。

 受験生にも、2つ以上の資格を取ることをお勧めします。税理士資格を取れば行政書士業務はできるのでプラス社労士、余力があれば中小企業診断士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、マンション管理士、宅地建物取引士など。資格は複数あったほうが絶対にいい」

 手続き業務がAIに取って代わられると言われる時代に対しても、蝦名氏はこう語っている。

「逆に今がチャンス。資格に対する不安があれば受験生も減って合格しやすいかもしれないじゃないですか。『絶対に今取っちゃえ!』と言いたいですね。私たちの仕事がなくなるなんてことはあり得ない。百歩譲ってなくなったとしても、資格があれば他の仕事ができますよ」

 AIやRPAが注目されている今だからこそ、若い方にはぜひ資格試験に合格してこの世界に入ってきてほしいと、蝦名氏は願っている。


[TACNEWS|日本の会計人|2019年10月号]

・事務所

北海道札幌市西区西野2条5丁目6-5  Aim.BLD

Tel:011-669-6064

URL: https://office-ebina.com/

合わせて読みたい

おススメ記事

「TACNEWS」に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。