日本のプロフェッショナル 日本の会計人|2019年9月号
森下 浩氏
税理士法人アンビシャス・パートナーズ
代表社員 税理士
森下 浩(もりした ひろし)
1975年11月生まれ、北海道札幌市出身。北海道大学農学部卒、北海道大学大学院農学研究科修了。2000年4月、農林漁業金融公庫(現:日本政策金融公庫)入庫。北海道支店在籍中に細川拡厚税理士事務所(北斗市)に出向。2010年3月、日本政策金融公庫退職。同年4月、遠藤税務会計事務所(札幌市)に就職。2011年、税理士試験5科目合格。2012年2月、税理士登録。同年3月、遠藤税務会計事務所退職。同年4月、森下浩税理士事務所開業。2014年10月、ラ・ファーム農業会計パートナーズ株式会社設立(現:ラ・ファーム農業経営パートナーズ)。2015年10月、税理士法人アンビシャス・パートナーズ設立。
北海道農業の発展のために全力を尽くしたい。
その思いから農業専門の税理士の道が拓けました。
相続専門、医業専門と専門特化を謳う税理士法人は多い。特化することで、より深くノウハウが蓄積されるし、スキルが磨かれるメリットは大きい。そんな中、農業に特化した税理士法人を探してみると意外に少ないことに気がつく。果たして、農業特化型とはどのような税理士法人だろう。今回は北海道札幌市の税理士法人アンビシャス・パートナーズを率いる代表税理士・森下浩氏に、農業専門の税理士になった経緯から、その展開方法、将来の展望についてうかがった。
農家の役に立ちたい
森下浩氏は北海道・旭川生まれ。物心ついてすぐ札幌に引っ越したので「札幌出身」を名乗っている。「生まれも育ちも北海道」の森下氏が農業に興味を持つようになったのは、北海道の大自然と両親の育て方が大きく影響している。
「小さい頃からキャンプに連れていってもらったり、父が釣ってきた魚を食べたりしていたので、北海道の食や自然が大好きでした。そんな環境で育ったので、食への関心が深くなり、自ずと北海道大学農学部で農業を学ぼうと思いました。明確にこれがやりたいというものはなかったんですが、何か農業に関係する仕事に就きたいと考えていました」
北海道大学農学部に進学した森下氏は、植物ウイルスの研究を始める。大学3、4年生の時は、バイオテクノロジーの研究のため実験室にこもる日々。その時に感じたのは、やはり農業の現場に出てみたいという思いだった。そこで北海道大学大学院に進学し、今度は飼料作物(家畜に与える餌)の研究をするようになった。また、研究の一環として、実際に畑に出て作物の管理も経験した。こうした経験から、森下氏はふと考えた。
「自分の研究は、実際に農家の役に立っているのだろうか。何か現場から遠い感じがする…。研究職ではなくて、農家に直接役に立っていると実感できる仕事がしたい」
そう思っていた時、就職活動中に農林漁業金融公庫(現:日本政策金融公庫。以下、公庫)について知った。公庫では農家の現場を回って話を聞き、現地で会議を開いて融資計画を立て、実際に融資をするという。「これは農家の役に立ちそうだな」と、森下氏は公庫に入ろうと決めた。
公庫に入って実際に農家を回ってみると、確かに農家のためになる仕事だと実感することが多かった。ただ、職員として話を聞けば聞くほど「経営相談する相手がいない」、「税金のことがわからなくて不安」、「借入金が多くて息子に継がせられない」などといった融資以外の相談も多く受けるようになった。「ひとりの専門家として悩みを聞いたり、相談に乗ったりして農業を支えたいな」と思うようになったのはこの時だ。
「それが税理士になろうと考えた最初でした」
公庫では京都、大阪、名古屋、札幌と次々に転勤。通算10年勤務した公庫は、「学んでこい」と農林水産省や民間銀行へと出向をさせてくれる職場でもあった。森下氏は、幸運にも札幌支店勤務の時、公庫OBで税理士として独立した方の税理士事務所に1年間出向する経験を得ている。
「一度、その方の話を聞きたいと思っていたところ、出向が決まったので運命を感じましたね。それまでは税理士試験の勉強をしていることを隠していたんですが、『自分は税理士試験の勉強をしている。税理士の知識を公庫業務に役立てたい』と熱い思いをレポートに書いて提出して、4名の応募者の中から選ばれました」
1年間の出向で税理士実務を経験したあと、再び札幌支店に戻った森下氏は、税理士としての独立を視野に入れながらも「公庫に恩返し」もしなければと考えていた。当時、税理士とのパイプがまったくなかった公庫(農林水産事業)では、融資の手続きをするのは農協(農業協同組合)窓口が中心。そこで、公庫が創設した農業経営アドバイザーの資格を取得し、税理士事務所勤務の経験者として税理士とのパイプづくりに努めた。さらに、札幌支店の農業融資を担当することで、農家だけでなく農協や食品メーカーなどの幅広い人脈を作ることができたのである。こうして2年後、農業専門に舵を切ろうとしていた税理士事務所に「農業専門家」として入所。農業の主担当として、事務所内の農業特別プロジェクトを推進した。
さて、受験勉強のほうはどうかと言うと、公言せずに公庫で勉強している間に財務諸表論、出向先の税理士事務所にいる間に法人税法に合格。公庫を辞める直前に簿記論と消費税法に合格して、4科目合格の状態で転職した。
「転職した当時、まだ資格はなかったのですが、新規の農家を開拓しに行ったり、消費者と農業者の交流会では『農業専門の税理士をめざしています!』と名刺をたくさん配ったりしていました」
転職1年目は所得税法で不合格となったが、2年目に受験科目を変え、住民税に合格。翌2012年3月にはお世話になった事務所を退職する。
急いで独立に至った経緯を、森下氏は次のように話している。
「実は農業関係の税務は、すごく手間がかかるんです。まず、パソコンや書類整理に不慣れなお客様が多いのです。それに、どのお客様も遠いので移動に時間がかかる。自分が農業専門でやるには軌道に乗るまで時間がかかってしまいます。そうなるとお世話になっている事務所にも迷惑をかけるので、それなら自分が農業専門で独立してやっていこうと思ったのです」
こうして2012年4月、農業専門の税理士として独立開業に踏み切った。
農業マーケットは「ブルーオーシャン」
北海道農業の発展に貢献するという志を実現するべく、森下氏は事務所をスタートした。報酬がそれほど高くないという農業専門で、森下氏はどのように軌道に乗せていったのだろう。
森下氏の戦略は、まずエリアのキーマンを押さえ、そこを起爆剤として爆発的に増やすという戦略だ。最初は、札幌の事務所から車で1時間のところにある農家がキーマンとなってくれた。
「その次は旭川の新しい地域で、そこもキーマンの農家1軒から5軒に広がり、さらにその先の士別でも次々と紹介がきて、十勝でもキーマンがいてと、どんどん広がっていきました。キーマンは、規模が大きい農家とは限らなくて、その地域のリーダー的役割の人だったり、何かと相談事の集まる存在の人だったりします。元気でバイタリティがあって、いろいろとつながりがある若い人もいますね。地元の農家は、同じ作物の部会や青年部といったコミュニティを作って、結構飲み会などをするんですが、そのコミュニティの1人が私のお客様になると、『税理士に頼んだらしいな。ちょっと俺にも話をさせてくれないか』と紹介が広がるんです」
意外なことに、農家は税理士を入れずに自分で確定申告をすることが多いそうだ。地元の農協が申告会を開いたり、農民連盟や農民協議会といった地域農業者の詳しい人たちが集まって税務の団体を作り、農家を支援して申告するケースが多いからだ。
「そういう意味では、農業はまだまだ税理士の市場としてブルーオーシャンです。けれども一方では、農業を軌道に乗せるまでは手間がかかるし、立地的には遠いし、報酬はそれほど高くない。かつ農業の世界は、税務以外のことも独特なのでわかりにくい。例えば、子牛のことを北海道では『とく』と言ったり、面積のことは『反』と言ったり、言葉がわからないとピンとこないんです。また、どれくらいの耕作面積でどれくらいの売上が見込めそうかという予測も、経験がないとなかなかわからない。だから、農業に興味を持つ税理士は多いけれど、撤退する人も多い。最近では『うちは農業関係はやらないから』と、他の税理士から仕事が回ってくることも多いですね」
農業専門を謳う税理士として、北海道税理士会では業務対策部農業小委員会の委員長を4年歴任することになった。税理士向けの研修講師も務め、どんどん知名度が上がっていったのである。
「税理士の域を超えているね」
森下浩税理士事務所を開業して3年目。事務所を法人化して税理士法人アンビシャス・パートナーズに組織変更した。
きっかけは、農林水産省の委託を受けた公益財団法人北海道中小企業総合支援センターで6次産業化を推進する5人の企画推進員のうちの1人に選ばれたことにある。「6次産業化とは、生産だけでなく加工や流通・販売まで取り組むことで、6次は1次産業(生産)×2次産業(加工)×3次産業(流通・販売)の数字のかけ算を意味します。」所得の向上と雇用の確保を促すために、道内の農林漁業者の相談に応じて6次産業化への取り組みや新商品開発・販路拡大などのアドバイスをするなど、総合化事業計画を支援する。森下氏ら5人の企画推進員は、情報提供や個別相談対応のために、地区割りでシフトを組み専門家として派遣される。
もうひとつ、経済産業省系の予算で始まった「北海道よろず支援拠点」がある。まさに経営のよろず相談を受けるために民間の専門家を相談員として起用している事業で、これも6次産業化と同じ北海道中小企業総合支援センターが受託している。
「それまでは法人化したいと思っていても、見込みがなかったんです。それが、6次産業化の企画推進員となり、よろず支援拠点の専門家とも交流ができ、大きく人脈が広がりました。そこで知り合った吉田聡(税理士・中小企業診断士)と『何か一緒にやりたいね』となって、とんとん拍子で法人化の話が進みました」
こうして2015年10月、税理士法人アンビシャス・パートナーズは船出をした。
公庫時代から農業専門で培ってきた知識と経験、そしてネットワークをフル活用。農業分野の税務会計や経営分析、経営改善といった業務はもちろん、融資・補助金等の知識や情報を集約した質の高いサービス提供は、またたくまに道内に広がった。農業・食品関連産業や金融機関、行政機関、他士業の専門家との幅広いネットワークであらゆる角度からトータルサポートをする。「やりたいことが実現した」瞬間である。
さて、ひと口に農業と言っても幅広い。アンビシャス・パートナーズの顧客は米農家と畑作農家が多く、酪農や肉用牛は比較的少なめだという。そして、農業と他業種の割合はおおよそ8:2。総数110の顧客のうち約8割が農家で、平均月1件ペースで増えている。残り約2割の他業種には不動産関係もあれば建設会社、カーディーラーも。こうした他業種の中では今、農業への新規参入という新しいムーブメントがあるという。最近、余市などにあるワイナリーへの新規参入が増えてきた。
「個人で参入してくる方もいれば、大企業がワイナリー事業に参入してくるところも増えています。今どんどんワイナリーができているので、葡萄が足りず葡萄の取り合い合戦のような状況です」
2019年7月にオープンしたワイナリーは母体企業が年商150億円の広告代理店だ。地方創生として地域を活性化したいと乗り出した。他にも北海道を中心に展開している焼き肉屋チェーン店が、肉用牛を育てるという目的で農業に参入するケースもある。建設会社からは重機を使って農業を始めたいという依頼もきている。純粋な農家だけでなく、新たなスタイルで農業に参入してくる異業種の数は増えている。特筆すべきなのは、6次産業化、つまり事業の総合化の動きの中で川下から川上へ、逆に川上から川下に参入してくるところがあることだ。
森下氏が6次産業化の専門家派遣制度を活用し、経営課題に取り組んだひとつの事例がある。肉用牛農家が創った農家レストランが2018年にオープンし、自社の牛肉を使ったメニューを提供した。ただ、農家の作るメニューにはどうしても素人感があった。そこで森下氏は、6次産業化プランナーに登録している著名なシェフを同行し、4時間指導をしてもらった。
「指導してもらったらハンバーグがとてもおいしくなりました。強烈なインパクトでしたね。付け合わせのアスパラガスも、それまでは普通に焼いて出していたのですが、指導どおりに調理をすると、全然違った食感になったんです。お客様からは『すごくおいしくなったね』とうれしいリアクションをいただきました。この指導料は国からの補助金です。私は、そこまでやるんです」
そんな踏み込んだ指導を見た人から「税理士の域を超えているね」と言われることも。「それって、うれしいですよね」と森下氏はとびっきりの笑顔を見せた。
6次産業化を推進する中で、農業生産法人への移行についても多く相談を受ける。農林水産省は2014年に15,300法人だった農業生産法人を2023年には50,000法人まで増やす目標を掲げている。実は農業生産法人を作るのは一般事業会社の法人化とはまったく異なるという。法人化に際しては、資産の動かし方に工夫が必要になり、「やり方を知らないで法人化してしまうと、大きな損をする」と森下氏は指摘する。
「法人化したら有利なのか不利なのか、悶々としている農家が多い。いろいろな情報が入るのでどれが正しいのかわからないと相談にこられます。そこで私たちは、法人化する前後で税金がどう違うのか、所得税や法人税、住民税まで比較し、さらに雇用人数が多い農家の場合は社会保険料もかなりの負担になるのでそれも合わせてシミュレーションしてレポートしています」
こうした戦略を打ち出せるのは農業専門にやっている森下氏ならではのことだ。
「子連れ出勤」と「キャンピングカー」
開業は、JR新札幌駅近くの居住用マンションの一室で1人でのスタート。すぐに、大学の後輩で会計事務所経験がある税理士試験1科目合格者の女性を採用することにした。ちょうど子どもを出産して休職中だったので、「ぜひうちにきて!子連れ出勤でいいから」とお願いした。それがその後に事務所の大きな特徴となる「子連れ出勤」につながった。
「子どもって、じっとしていられないんですよね。部屋で遊んでいても30分といられない。すぐ脱走してきて、コピー機からお客様に渡す資料を運んできてくれたりする。よだれがベローッとついていたりするんですけど、『ありがとう』って受け取って、もう1回印刷するんです(笑)」
そんな楽しい苦労はあるものの、結婚や出産で家庭に入ってしまった優秀な人材を仕事に復帰させる大きな契機になったことは間違いない。「子連れ出勤」と「テレワーク」で即戦力のメンバーを揃える。これで事務所内の仕事が効率よく回せるようになったのである。同時に、働くママたちに「安心・安全な食を提供する農業を支える仕事」に就いてもらえることは、大きな魅力として事務所の特徴となった。
もうひとつ、アンビシャス・パートナーズには北海道ならではの特徴がある。キャンピングカーを移動事務所にしているのだ。お客様には遠隔地の農家もあるため、年に1度はキャンピングカーで訪問したり、客先の牧場で搾乳体験や食育イベントを企画して農業の楽しさや食の大切さをPRしている。
2019年3月に帯広で税務調査をした時もキャンピングカーで出かけ、調査が終わったあとは地元の温泉に入り、道の駅の駐車場でひと仕事してから寝た。
「『宿泊費を請求してくださいね』とお客様に言われるんですけど悪い気がして。実費は請求できる契約なんですけど、『キャンピングカーで来てるからいいですよ』と言っています。お客様にとってもメリットがあるし、3日間税務調査を楽しむことができる(笑)。私は趣味がランニングなので、調査が終わったらランニングウェアに着替えて、走って、温泉に入って、美味しいものを食べてって、いいですよね」
展開するエリアは、札幌近辺だけでなく旭川、士別、十勝と広く網羅しているが、移動はどのようにしているのだろう。
「旭川までは車で2時間、士別まで行くとだいたい片道2時間から2時間半です。十勝も高速で2時間半ぐらいですね。今のところそこから先はちょっと厳しいかな。往復だけでも4時間かかってしまうので、実際は泊まりで行くことも多いです。だからこそ行く時には集中的にそのエリアを回ります」
現在、着実にお客様が増えているアンビシャス・パートナーズ。今後は北海道全域をカバーし、将来的には道外へと進出したいと森下氏は抱負を語る。
「北海道全域をカバーするための方法として、いろいろ選択肢を考えています。ひとつは、札幌に事務所を構えて出張ベースで行く方法。もうひとつは、オーソドックスに税理士法人の支店を作る方法。さらにもうひとつはイレギュラーな方法として、アンビシャスグループ内のラ・ファーム農業経営パートナーズ株式会社を農業専門の会計法人としてフランチャイズ化し、地元の税理士と連携していく方法です」
将来を見据え、森下氏がもうひとつ打ち出している戦略がある。税理士法人のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)化だ。RPAによってデータを自動入力し、月次決算も自動で作成。さらに監査もAI化してしまう。そうすることで劇的に処理スピードが速くなるという。
「資料の回収やお客様対応は人間でなければできません。最後の試算表と経営助言も人間がやります。でも、その他の部分はほぼ自動化できる。2019年はそこに力を入れて研究しています。できれば来年にはそれを展開していきたいと考えています。
農業者団体には200〜300軒、多いところでは400〜500軒の農家がいます。それを丸ごと面倒をみてくれないかという相談もくるので、自動化しなければパンクしてしまう。逆に自動化できれば、何百軒もの農家の集まりにも対応できるようになるんです」
全道展開を視野に入れているため、事務所の立地はJR新札幌駅から車で5分程度の国道12号線沿いにした。札幌の街中に事務所を構えると、街を出るだけで30〜60分、ましてや冬道では大渋滞に合うからだ。
「この立地なら新札幌駅も近く、高速道路にもすぐ乗れます。ただ難点は、よい人材が集まりにくい点ですね。そこで今考えているのは、札幌の街中に農業会計の集中処理センターを作って、そこで大量に処理することです。街中にあればよい人材が確保できる。これもいろいろある選択肢のひとつです。RPAだけでなく、ここ1、2年で今後の展開をどうするか決めるつもりです。しくみができたら一気にお客様を増やすことができます。わくわくしちゃいますね」
2017年から森下氏は農協担当職員対象の農業融資研修を行うようになった。北海道だけでなく昨年は全国24ヵ所を前泊含めて各3日間、合計72日間研修で回った。
「公庫に10年間勤めていたので農業融資の審査する側のことも知っていますし、税理士になって融資を受ける農家のこともわかるようになりました。両方やってみてわかったことを研修の講座の中にかなり折り込んでいます。農業融資をやったことがある税理士なんて、おそらく全国でも自分以外には数人しかいないですね」
新卒採用で新たなフェーズへ
2019年4月、アンビシャス・パートナーズには新卒2名が入社した。今後は、新卒を採用して生え抜きを育てる方向と、中途採用の両面を考えていく。
「2年前、新卒1名と中途1名、パート1名を雇いました。新卒が組織を強くすると考えて、本格的に新卒採用をやろうと決めました。すべて職員主体で採用活動をしてみたら、就職フェアの説明会から事務所見学まで見事にやってのけてくれました。新卒採用を担当してもらうことで、職員自身もうちの事務所のよいところを再確認できるので、その意味でもよかったなと実感しています。そして入ってきたら今度はきちんと教育していかなければならないので、教育環境を整備していくことが、2019年のテーマのひとつになりました。研修内容も充実させていきます。
中途採用では、私の農業融資研修を受けた方が入ってきます。まさに農業金融のアドバイスができる人材なので今後が楽しみです」
法人化の年、アンビシャス・パートナーズは、第3回会計事務所甲子園で優勝を果たした。当時、働くママ8名を含む総勢11名の事務所は質の高い農業経営相談で認められたのである。その時に謳っていた「北海道農業の発展に貢献したい」というフロンティアスピリットは、新卒教育でも受け継がれていく。
事務所の看板であるキャンピングカーでも新たな企画が生まれている。現在所有している2台目のキャンピングカーを、使用していない間はレンタカー会社に預けるというシェアリングビジネスを始めたのだ。森下氏はそのビジネス仲間とキャンプの先進国アメリカに渡り、オートキャンプ場を視察もしてきた。
「RVパークというキャンプ場は、上下水道も電気も完備で車に接続できますから、シャワーもトイレも使い放題なんです。日本はせいぜい道の駅に泊まれる程度で、キャンピングカーのトイレもどんどん溜まってしまいますし、水のタンクも限界があります。そこでアメリカのこのRVパークを北海道に普及できたらいいなと考えているんです。
また、キャンピングカーのレンタルはインバウンド旅行者のお客様にとても人気があります。彼らはありきたりなところには泊まりたくない。そこで夕日のきれいなワイナリーの駐車場を『あなただけの貸し切りにします。夕日を見ながらワインをどうぞ』と言うと、1泊5万円でも喜んで泊まってくれる。あるいは星のきれいな畑のど真ん中で星を眺めながら静かな夜を過ごす。外国人にはたまらないんですね。農家は駐車場を貸すだけで、あとはレンタカー会社がすべてやるし、ワインも売れるというwin-win企画です。
これからも北海道の農・食・自然・観光をすべて融合して、いろいろ展開ができたらいいですね」
自身も働きながら苦労して資格を取得した経験から、税理士をめざして勉強中の受験生には次のようなメッセージを贈ってくれた。
「私は、農業専門の税理士になって農家の役に立つというイメージがあったから辛い勉強も乗り越えることができたと思います。思考の中に未来がある。そのイメージは思い続けると現実になります。明るい未来は確実に待っています。よいイメージを持ってがんばってください」
「Boys, be ambitious!」
まさに、北海道の大地が育んだ名言である。
[TACNEWS|日本の会計人|2019年9月号]
税理士法人アンビシャス・パートナーズ
森下 浩氏
・保有資格
税理士、日本政策金融公庫 農業経営アドバイザー、AFP認定者/2級FP技能士、北海道フードマイスター、日本野菜ソムリエ協会認定ジュニア野菜ソムリエ
・事務所
北海道札幌市厚別区厚別東四条四丁目9-1
Tel. 011-398-4736