特集 「資格×YouTube」でチャンネル登録者数9万人の士業
棚田 健大郎(たなだ けんたろう)氏
株式会社棚田リーガルホールディングスグループ CEO
宅地建物取引士・行政書士
1981年生まれ、長野県出身。専門学校卒業後、アルバイトなどを経て大手人材派遣会社に入社。取引先の株式会社エイブルへ出向中にヘッドハンティングされ同社の正社員に。退社後にコンサルティング会社を設立。働きながら資格取得をめざす中で編み出した独自の勉強方法を実践し、3年間で9資格に合格。不動産業に関わりながら2019年からYouTubeでの配信を始め、チャンネル登録者数は9万人以上。
著書: 『大量に覚えて絶対忘れない「紙1枚」勉強法』(ダイヤモンド社)
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「資格の取得」を、自分の得意分野を見える化するため・自分の知識を専門特化するためだけに使うのはもったいない。取得した資格を、自分が得意とする別のスキルと組み合わせることで独自のフィールドを築き、他の追随を許さない活躍をしているのは、宅地建物取引士・行政書士の棚田健大郎氏だ。「資格」を軸にYouTubeチャンネルを開設して3年目の2022年現在、チャンネル登録者数は9万人を突破し、「不動産業界YouTuber」として著書も出した。活躍のルーツは、働きながら3年間で9資格に合格したこと。どのようにして多くの資格に合格し、現在のキャリアスタイルにたどり着いたのか。独特のポリシーを貫く棚田氏に、自身のキャリアと今後についてうかがった。
ステータス作りのための資格取得
──現在、不動産系YouTuberとして日々情報発信をしていらっしゃる棚田さん。これまでのキャリアをお聞かせください。
棚田 学生時代はゲームクリエイターをめざして長野県から上京し、専門学校で学びました。大手ゲームメーカーでの就職を希望していましたが夢を叶えることはできず、卒業後はアルバイトを含め、履歴書に書ききれないくらい様々な種類の仕事をして、最終的には人材派遣会社の営業職に正社員として就職しました。担当の不動産会社大手・エイブルに人材を派遣する仕事だったのですが、なかなか派遣先に人材が定着してくれなかったため、原因を探るべく、私自身がエイブルに出向することになりました。出向先はエイブルの中で最も忙しい営業の部署。3ヵ月間限定の出向の予定でしたが、それなりに契約が取れたこともあり、「もう少しここで働いてみよう」とずるずる居続け、気がつけば3年が過ぎました。結果的にはヘッドハンティングされてエイブルに入社。正式に社員となったことでさらに本気で営業したら、当時約3千名いた社員の中で、仲介手数料の売上全国トップセールスを記録したのです。
その仕事ぶりを買われ、最後はプレイングマネージャーとして、自ら契約を取りながら部下の売上も管理する立場になりました。とはいえ、部下のことより自分が契約を取るほうを優先していましたし、相手が上司であっても「違う」と思ったことにはノーと言う。人の言うことを聞かず、自分のやり方でどんどん契約を取っていたので、売上面で会社への貢献度は高かったですが、上司にとっては扱いにくい存在だったと思います。
──エイブルを退職されたのはなぜですか。
棚田 当時の不動産業は土日休みがなかったからです。会社が嫌になったわけではなく、ごくシンプルに「将来子どもが生まれたら、日曜日は子どものために時間を使いたい」と考え、退職を決めました。
──退職後はどのような仕事をされたのですか。
棚田 それまでの経験を活かして不動産コンサルティングをやりながら、自宅で原稿を書く仕事を始めました。最初はブログのまとめ記事の執筆でしたので原稿料がものすごく安価で、文字量は多いのに報酬はほんの数千円程度からのスタートでした。そこから徐々に仕事が増えているときに、資格を取ろうと思い立ったのです。
──なぜ資格取得に目が向いたのでしょうか。
棚田 エイブルに勤務していた頃は、「大手不動産会社の社員」という社会的信用があったからこそお客様は会ってくれたし契約もしてくれました。でも当時は、自分個人の実力そのものが信用されているのだと誤解していましたね。
会社をやめると、会社の知名度などは一切使えなくなります。自分でステータスを取得しようと思ったときに一番手っ取り早いのは資格だと考えました。「前職の大手企業で営業成績1位でした」と言うより、何か資格を取得して自分の肩書にするほうがよほど説得力があります。それに気がつき、まず1年間、独学で宅地建物取引士(以下、宅建士)を勉強しました。
「大量記憶法」で3年間に9資格合格
──独学で勉強したのは仕事との両立が難しかったからですか。
棚田 通学する時間が取れなかったこともありますし、市販テキストが充実しているので、普通に勉強すれば十分合格を狙えるのではと思ったのです。しかし結果はあと一歩足りず不合格。そこから自分に合った勉強方法を模索し始めました。
──どのような勉強方法を編み出したのですか。
棚田 「記憶した内容をいかに頭の中にとどめておくか」を重視する勉強方法です。参考書を読んだり過去の試験問題に取り組んだりすれば、必要な知識を理解し覚えることができるとわかりました。でも何ヵ月も勉強を続けていると、せっかく覚えた項目も徐々に抜け落ちてしまうのです。体感では、1から100まで覚えるとすると、50ぐらいまで覚え終えた頃には最初の1を忘れてしまうイメージですね。それで心が折れてしまうのです。
ではどうしたらいいのかと模索する中で「記憶の保存方法にヒントがあるはず」と気づき、いろいろな人の本を読みました。でも、大学教授のような頭のいい方が考える勉強方法は少し難しすぎる。そこで別な角度から調べてみたところ、落語家・立川談笑さんの大量記憶術の動画を見つけたのです。落語家の中には勉強が苦手な方もいるはずです。それなのに、皆さん長い噺(はなし)を何種類も覚えていらっしゃいます。談笑さんの動画を見たとき、「これは資格の勉強に応用できる!」と気がつきました。そうして編み出したのが「大量記憶法」です。
──具体的にどのような記憶法でしょうか。
棚田 簡単に言うと、「勉強したことを、忘れる一歩前に思い出すこと」。それを計画的に実践する方法で、「思い出す項目」と「思い出す周期」を計画表で管理するものです。これによって、ボリュームの多い内容でもしっかり記憶が定着するようになりました。そこから改めて資格試験に挑戦して、3年間で9資格に合格できたのです。
──どのような資格を取得されましたか。
棚田 宅建士試験に落ちた翌2012年は、10月に宅建士、11月にマンション管理士、12月に管理業務主任者の3資格。翌2013年は、5月に2級ファイナンシャル・プランニング技能士(以下、FP2級)、6月にビジネス実務法務検定試験®、11月に行政書士の3資格。さらに翌2014年は、賃貸不動産経営管理士、シニアライフ相続アドバイザー、敷金診断士と、1年に3資格ずつ合格しています。
──1年に一度しか受験のチャンスがない資格もある中で、同じ年に複数の資格を取ろうと思ったのはなぜですか。
棚田 最初は宅建士だけを勉強していたのですが、前職に関連する不動産系資格を調べたら、「マンション管理士」「管理業務主任者」「不動産鑑定士」とありました。不動産鑑定士は難易度が高いので別としても、マンション管理士と管理業務主任者は、民法の科目が宅建士と共通することがわかりました。一般的にはまず宅建士試験に合格してから、翌年マンション管理士と管理業務主任者を取ろうと考えます。しかしこの場合、せっかく宅建士受験で覚えた民法の知識を、さらにもう1年間記憶していなくてはなりません。私は「忘れる」ことがどんなに恐ろしいかよくわかっているので、覚えた知識を少しでも早く利用するほうが効率的だと考え、同じ年に3資格にチャレンジしました。またマンション管理士と管理業務主任者は、かなりの分野で出題範囲が重複しています。これは別の年に受験したらもったいない、同時に受けるべきだと思いました。
本命だけは絶対合格!
──内容が重複する複数資格を並行して学習するというのは、メリットがある一方で、どれも失敗するリスクもあるように思います。どのように回避しましたか。
棚田 同時受験で大切なのは「本命を決めて、それだけは絶対に合格する」と決めることです。複数資格にチャレンジするからといって、絶対に時間配分を等分にしてはいけません。優先順位を決め、まず宅建士取得は絶対と決めて、宅建士試験が終わった瞬間からマンション管理士の学習を、そしてマンション管理士試験が終わった直後から管理業務主任者の学習を始める。そうやって、今やるべき範囲の勉強だけをやるのです。
──本命を中心に勉強するのですね。
棚田 その通りです。翌年も、前年の経験で複数同時受験が非常に有効だとわかったので、FP2級、ビジネス実務法務検定試験®、行政書士と、3資格同時受験にしました。もちろん民法が共通科目だったということはありましたが、それ以上に「試験慣れ」するというメリットが大きかったです。本試験は誰でも緊張します。でも、年3回も受験していると緊張しなくなるんです。試験会場で「みんなは緊張しているのに自分は緊張していない」という精神的優位性も感じられるので、多少のことでは動じなくなります。
また行政書士試験に合格するには「一般知識」の科目で合格基準点を満たす必要がありますが、FPやビジネス実務法務検定試験®の知識がこの「一般知識」の得点にもつながるはずと思ったので、一緒に勉強しようと考えました。
──行政書士資格を取ろうと思ったのは、実務に繋げるためですか。
棚田 正直なところ、実務をやることを前提に取ったわけではありません。ただ、宅建士に加え行政書士資格も持っていれば、さらに説得力が出ると考えたのです。
──3年目にもさらに3つの資格を取った理由を教えてください。
棚田 3年目に入る頃には、常に何か勉強している状態が当たり前になっていました。ここで勉強をやめてしまうともう1回エンジンをかけるのは相当大変だろうと思いましたので、学習習慣がついているうちに取れるものは取ってしまおうと、賃貸不動産経営管理士、シニアライフ相続アドバイザー、敷金診断士を取りました。賃貸不動産経営管理士を選んだのは、その当時、今後絶対に国家資格になるだろうと予想していたからで、敷金診断士とシニアライフ相続アドバイザーはそこまでハイレベルではないし、日程的にも無理なく狙えそうだったので選びました。実際、賃貸不動産経営管理士はその後国家資格になりましたので、ベストな選択だったと思います。
家族の協力への感謝を忘れない
──4年目の資格取得は考えませんでしたか。
棚田 実は司法書士の勉強も始めていたのですが、9資格を取得してから宅建士、弁護士、税理士、司法書士など士業事務所Webサイトの原稿執筆依頼が一気に増えたので、これ以上は必要ないと思い、やめました。行政書士を取得した段階で充分仕事につながったので、もう無理はしなくていいだろうという判断です。
──受験勉強中も、原稿執筆や不動産コンサルティングの仕事は並行してやっていたのですか。
棚田 もちろんです。また当時すでに結婚していて、行政書士試験合格後は子どもも生まれました。そうした状況下での受験生活でしたね。
ここがひとつのポイントですが、学生が勉強するのと社会人が勉強するのとではまったく意味が違います。学生は勉強することが仕事ですから、いくらでも家族が勉強時間を提供してくれます。しかし社会人の場合は働くことが最優先事項ですから、自由に勉強できるわけはありません。それなのに社会人になって資格取得を考えると、家族が協力してくれると思ってしまい、休日も1日中勉強していることが「当たり前」になりがちです。社会人の勉強は、「やらなければいけないこと」ではなく「やりたくてやること」ですから、家族が協力してくれて当たり前と思っていると、家庭環境は絶対に悪くなります。
──勉強していることを免罪符と勘違いしてしまうのですね。
棚田 はい。ましてや子どもがいる場合は、勉強時間を優先して子どもと遊ぶ時間が減ってしまったらかわいそうですよね。また、勉強中に子どもが騒ぐことに怒ってしまうこともあるかもしれませんが、子どもが騒ぐのは当たり前。その状況でも集中できるくらいでなければ、家族に負荷をかけてしまうことになるので受験はやめたほうがいいと思います。
受験をするなら、今自分が送っている生活スタイルの中で、空いている時間や並行してできるところに勉強を組み込ませるしかありません。私も途中でこれが大事だと気づき、実践するようになりました。
──資格取得によって、不動産コンサルティングへの取り組み方に変化はありましたか。
棚田 取り組み方に変化はありませんが、資格の知識が実務知識とリンクするのを感じますね。例えば契約書を見たときに、法律的知識と実務の知見を踏まえた上で、どのようなリスクが考えられるかがわかるので、平和的に解決する落としどころに収めることもできます。知識と実務経験がうまく融合して仕事に活かせているわけです。
また、直接実務に携わらなくても、資格取得で得た知識と自分が仕事で培ってきたスキルを組み合わせ、プラスアルファでできることを模索するのは大事だと思います。私の場合、宅建士と行政書士でYouTubeを始めましたが、「不動産業界YouTuber」というニッチな世界だけでの一点突破を狙っています。そこで1位になれれば十分だと考えています。
1年で登録者数7.4万人超え
──なぜYouTubeチャンネルを開設しようと思ったのですか。
棚田 勉強が苦手な私でも9資格に合格することができたので、そのやり方には再現性があると考えました。受験当時から、いつか自分の勉強方法を発信したいと思っていて、「大量記憶法」の計画表や学習記録などはすべて保管していたのです。これを本にまとめたのが、2022年2月に発刊した『大量に覚えて絶対忘れない「紙1枚」勉強法』(ダイヤモンド社)ですね。
もともとはブログで情報発信をしていたのですが、YouTubeが盛り上がってきている状況を肌で感じ、これからは動画の時代になる、早く参入しないと乗り遅れてしまう、やるなら今だと思い、動画編集などの知識もまったくない中、2019年にYouTubeチャンネル『棚田行政書士の不動産大学』をスタートしました。宅建士をテーマにした理由は、私自身の不動産業界での経験に絡めて話せる上に、宅建士受験者は年間約20万人いるので、一定のニーズもあるはずだと判断したからです。結果、「宅建勉強法」というニッチなテーマにも関わらず、わずか1年でチャンネル登録者数が7.4万人になりました。
──ニーズがあるという読みはしっかり当たったのですね。
棚田 そうですね。資格の勉強方法や不動産業界の裏事情などについてはメインチャンネル『棚田行政書士の不動産大学』で毎日配信して3年目になりました。また、不動産業界専門の転職支援サービス・宅建JobエージェントのYouTube『宅建Jobチャンネル』のメインMCも担当し、1日おきに出ています。2022年1月には『【不動産大学2nd】 賃貸不動産経営管理士部by棚田行政書士』というサブチャンネルも開設しました。登録者数はメインがもう少しで10万人、サブも先日1万人を超えました。
──サブチャンネルのテーマを賃貸不動産経営管理士にしたのは、この資格が国家資格になったからですか。
棚田 その通りです。2021年は賃貸不動産経営管理士が国家資格になると発表された影響もあってか、受験者数が大幅に増えました。そうした「世の中での注目度」も情報発信する際にはとても重要です。賃貸不動産経営管理士は宅建士と業務内容がリンクしているので話題もつなげていけるし、実務の話もできるので、私のサブチャンネルとしてはぴったりのテーマです。
「真似上手」な人は上達が早い
──動画制作の際はどのようなことに気をつけていますか。
棚田 手間を惜しまず、細かな部分まで注意を払うようにしていますね。皆さん、テレビ番組を観るときは、基本的にずっと同じチャンネルをつけっぱなしにしているのではないでしょうか。でもYouTubeの場合は、少しでもつまらないと感じたらすぐに次の動画に移ると思います。だから知名度がない配信者の場合は、とにかく動画を観てもらうための工夫、特に「テンポ」がすごく重要になります。編集テンポを速く、喋りのテンポを速くすることで、別のチャンネルに移るスキをなくすようにしていますね。
私は資格試験の勉強をしていたとき、自分で条文などを読み上げて録音し、それを倍速で繰り返し聴いて覚えました。これと同じイメージで、「1回のじっくり聴き」よりも、「2回、3回の繰り返し聴き」で頭に知識を浸透させるイメージで動画を作っています。
──そうした工夫が登録者の増加につながっているのですね。
棚田 気をつけるべきポイントはしっかり押さえるようにしていますね。実はYouTubeの視聴者は、冒頭10秒で別のチャンネルに移ってしまう人がものすごく多いのです。そして、いくら再生回数が10万回でも、大半の人が最初の10秒で別のチャンネルに移ってしまうような動画は、いい動画とは言えません。どれだけの視聴者がその動画を見続けたかを示す数字を「動画視聴維持率」と言いますが、動画終了時付近の平均値はYouTube全体では3割弱のところ、私のチャンネルでは約7割と、非常に高いです。
──知識がない状態で動画配信をスタートしたとのことですが、そうしたノウハウや技術はどのように身につけたのですか。
棚田 営業職の頃から心掛けていることですが、うまくやっている人が実行していることを全部真似しています。いいとこ取りをして吸収して、自分のものにしていく。この方法を動画配信にも使っていますね。
よく「やり方を教えてください」と言われるのですが、「うまいやり方」とは、人に教わるものではなくて、自分で生み出さないといけないのです。エイブルにいたときも、周囲に営業上手な人がたくさんいました。売上規模の大きい支店にいたので、そういう人たちからどんどんいいところを盗んで自分なりにアレンジし、営業成績を上げました。教えてもらうのではなく、まず真似るところから始めたのです。真似するのが上手な人は絶対に上達が早いと思います。
私は動画編集も含めすべて独学ですが、とにかく毎日手を動かしていれば、教わらなくてもできるようになります。企画、台本作成、撮影、編集、サムネイル制作とすべて自分で行い、毎日必ず18時に公開しています。やりたいことがあるときは、「やり方を全部マスターしてから」ではなく、まずはやってみることです。もちろん教えてくれる人が周りにいれば聞くのは全然構いませんが、「やる」というアクションの部分を皆さん惜しむので、まずそこに取り組んでみるのがいいと思います。
──成功の要因は「真似する」「毎日やる」「まずやってみる」ところにあるのですね。今後、配信のトレンドはどのような方向に進むとお考えですか。
棚田 現代人は忙しいので、もう「耳」しか空いていないと言われています。ですから私も音声プラットフォーム『Voicy(ボイシー)』で『YouTube不動産大学ラジオ版』というチャンネルを作って、不定期ですが音声配信しています。SNSも適宜活用していて、YouTubeの台本をブログに公開したタイミングでTwitterを更新したり、Instagramで暗記項目の「覚え歌」を公開したりと、いろいろやっています。
「リスク分散」と「場所にとらわれない仕事」
──不動産コンサルティングに各種オンラインでの情報発信に書籍の執筆に、多方面で活躍されていますね。
棚田 現時点で私にとって優先すべきはYouTubeです。YouTubeには2つの使い方があって、1つはYouTubeで知名度を上げることによって本業の収入を増やす方法。もう1つは、YouTubeから派生する出版やスポンサー契約に力を入れる方法です。私は後者で2022年2月に本を1冊出しましたが、2023年にももう1冊出す準備をしています。
こういう話をすると、もっと本腰を入れればさらに稼げるのではないかと言う人もいますが、私は「稼ぐ」ことよりも、「時間を自由に使えること」を大事にしたいと考えています。忙しくても、「自分のコントロールが利く状態」でいたいのです。たくさん稼ぎたいのなら、人を雇ってオファーされる仕事をすべて受ければ叶うでしょう。でも、人を雇うにはいろいろな設備投資も必要になりますし、万が一仕事が止まった場合も、継続的に人件費がかかり続けます。そのリスクは絶対に負いたくないと思っています。
──するとどのような方向性になるのでしょうか。
棚田 めざすのは「長期安定低空飛行」。緩やかな角度で毎年少しずつ上がっていくイメージですね。ある程度の場所まで上がったら、そこから先にはこだわらないというか、無理してまではその上をめざしません。ですから基本は自分ひとりでできる範囲で、必要なときに一部外注する程度の範囲に留めるようにしています。若い実業家の場合は売上億単位をめざしたりもすると思いますが、私は人生の成功をそこには求めていません。
──3~5年後の姿はどのように思い描いていますか。
棚田 リスク分散は常にしているので、YouTube専業になる予定はありません。できる限り場所にこだわらない仕事に限定していきたいですね。コロナ禍以降テレワークが普及しましたが、私は以前からオンラインツールを使って仕事をしていました。「どこかに行かないとできない仕事」は、それだけで時間的コストがかかっていますよね。YouTubeや本の執筆のように、どこでもできる仕事、場所を選ばない仕事を増やしていけば、いつでも好きな場所で仕事ができます。拘束時間が長い仕事をできるだけ排除していき、そうでない仕事で売上が上がるようなしくみを作っていく方向です。
モチベーションは「上がらない」
──改めて、資格受験で心がけるべきことはありますか。
棚田 社会人の場合はとにかく「家族に負担をかけないこと」ですね。それが最終的には自分に負担をかけないことになってくると思います。あとは学生の方も含めて、モチベーションを下げないことです。
「資格を取得しよう」と勉強を始めた瞬間がモチベーションのピークです。あとは下がるだけで上がらないのです。基本的に勉強は楽しいことではないし、大変なことが多いです。だから「思い立った瞬間がモチベーションのピーク」ということを意識して、その後は試験当日に向かって、緩やかに下がっていくスピードをいかに阻止するか、モチベーションを下げないためにどうすべきかを考えましょう。
私は現在YouTubeに注力する中で、自分のモチベーションを下げないためのひとつの方法として、「毎日配信すること」を目標にしています。休むとどうしてもモチベーションが下がるし気持ちが離れてしまうので、「毎日」続けるようにしているのです。試験勉強においても、毎日続けられるしくみ作りを意識することで、モチベーション維持ができるのではないでしょうか。
──最後に、キャリアを模索中の方や資格取得をめざしている方にメッセージをお願いします。
棚田 もともと持っている自分のスキルを、どう資格と掛け合わせるか。これを考えることが重要です。言い換えれば、自分のスキルを最大限最大化してくれるのが資格の効果でもあります。ぜひがんばってください。
[『TACNEWS』 2022年7月号|特集]