特集 「人」の領域から企業経営を支える

井上 幹康氏
Profile

三澤 髙(みさわ たかし)氏

三澤経営労務事務所所長
特定社会保険労務士・中小企業診断士

大学卒業後、IT企業で15年間コンサルタント・エンジニアとして勤務。在職中の2010年に社会保険労務士資格を取得。IT企業退職後、2016年に中小企業診断士資格取得。公益財団法人日本生産性本部、社会保険労務士事務所で実務経験を積み、「三澤経営労務事務所」を開業する。社会保険労務士・中小企業診断士のダブルライセンスを活かし、コンプライアンスを遵守しつつ継続的発展に向けた各種制度設計や規程作成を行う、「経営に直結する人事労務コンサルティング」を得意とする。

 幼少時代から大学まで一貫してプロサッカー選手をめざし続けていた三澤髙さん。23歳でキャリアの方向性を変えることを決意したが、サッカーに集中した時間は決して無駄ではなく、知識のつけ方や鍛錬の積み上げ方はどの世界でも同じだと語る。IT企業で働きながら社会保険労務士資格を取得、15年勤めた会社を退職して中小企業診断士資格も取得した三澤さんは、社労士事務所で経験を積んだのち独立開業。コロナ禍においてのスタートでも着実に業績を重ね続ける三澤さんに、仕事のやりがいと社会保険労務士・中小企業診断士というダブルライセンスが生み出すシナジー効果についてうかがった。

サッカーひと筋からのキャリアチェンジ

──ダブルライセンスを手に、ご自身の事務所を開業された三澤さんですが、中学・高校・大学はずっとサッカーをされていたそうですね。

三澤 サッカーを始めたのは幼稚園の頃でした。中学時代にはブラジルへ短期留学をしましたし、高校は横浜FCのキング・カズこと三浦知良選手の母校、静岡学園高等学校へ進学しました。

──高校では全国高等学校サッカー選手権大会優勝。大学も体育会サッカー部とサッカーひと筋ですが、当時はどのようなキャリアプランをお持ちでしたか。

三澤 小学生の頃からずっとプロサッカー選手になりたいと思っていました。当時はプロになる自信があったため、親にも「プロをめざしたい」と頼んで認めてもらいました。大学はスポーツ推薦で経済学部に進学しましたが、サッカーばかりしていましたね。ただ、プロのセレクションを何チームか受けたのですが通りませんでした。周囲の友人たちが就職を決めていく中、焦っている私に両親がもう一度ブラジルへのサッカー留学費用を援助すると言ってくれたのですが、気持ちが続かず就職することにしました。挑戦を支えてくれた両親には本当に感謝しています。

──23歳でプロを断念し、IT企業の株式会社コサウェルに就職されていますが、就職活動はどのように進めたのでしょうか。

三澤 父の紹介です。「息子はサッカーひと筋の生き方をしてきたので学問的知識は少ないが熱意はある」と、知人の会社に紹介してくれました。当時のIT業界はまだ今のように花形業種ではありませんでしたが、新しい世界に飛び込むという意味では、ITの世界は将来性があっていい分野だと思いました。社長・副社長とお会いしたところ私の生き方に共感してくれ、「始めはわからないことばかりだろうけれど一緒に会社を大きくしていこう」と言ってくださったので、入社を決めました。

──IT企業でどのような仕事をしたのですか。

三澤 ソフトウェアやシステムの開発です。扱ったのは金融系のシステムなどが多く、その他に生産管理システムなどもやりました。それまで本当にサッカーしかしてこなかったので、最初の頃は「フォルダ」が何かも分からないほどでしたね。パソコンを渡されても立ち上げ方すら知らない。他の同僚たちは勉強してきている人が多くてITの知識もそれなりにあるし、ビジネス対応もベースができている。その差は圧倒的にありましたね。

 でも、そこは何の世界でも同じで、基本から積み上げていけばいつかは追いつけます。サッカーをやってきて、一応の成功体験を持っていたのは大きかったと思います。チームや組織への入り込み方とか、知識やスキルの身につけ方、メンタル面も含めた鍛錬の積み上げ方というのは、どのような世界でも共通する部分があると思います。定めた目標に向かって集中する力は持っていて、それは今の士業の仕事でも役立っています。

企業経営に関わるため社会保険労務士をめざす

──OJTで仕事を覚え、ITコンサルタント、SEとして働けるようになったところで資格取得をめざしたのはなぜですか。

三澤 就職して3、4年目の頃です。お客様の課題をコンサルタントやエンジニアとして解決していく中で、このまま専門領域を極めるのもいいかもしれないけれど、せっかくならもっと企業経営に関与する仕事をめざしたいと思ったのです。そのためには社会保険労務士(以下、社労士)や税理士など「士業」の切り口がいいと考えました。ちょうど知人に社労士の方がいたので話を聞いてみると、「これからは『人』が企業の中で重要になってくる」と言うので、自分も労働者だし、人事労務を勉強するのはおもしろいかもしれないと、さらに社労士への思いを強くしました。当時はまだ社労士として仕事をしようと思っていたわけではなく、ただ純粋に社内でのポジションアップを狙うといったような漠然とした成長意欲だけだったように思います。

 そうしてTACの通信講座を申し込んだのですが、自宅での学習ではなかなかペースも作れず、結局届いた教材だけが箱から出されることなく溜まっていくような状態。けれど、無理だからもうやめようと思っていた頃、たまたまTACの小磯先生のセミナーがあって聴きに行ったのが転機になりました。セミナーが終わったあと先生にそれまでの学習状況の話をして「もうやめようと思う」と話したら、「あなたは合格できるよ」と言われたのです。がんばってごらん、この世界はおもしろいよと。それでもう1年だけ勉強を続けることにしました。ひとりではペースが作れないので、今度は教室で講義を受けようと思い、試しにTACの宮島先生の体験講義を受けてみたら、生講義の臨場感と説明のわかりやすさにいっぺんに引き込まれましたね。そして新宿校へ通い、そのまま一気に合格を手にすることができました。

──目標が定まると集中するタイプなのですね。働きながらどのように勉強しましたか。

三澤 朝の出勤前と昼休み、通勤時間を勉強にあてました。会社が終わったら新宿校へ行って、一番前の席で受講していました。勉強はおもしろかったですね。今でも宮島先生とは連絡を取り合っていて、仕事のアドバイスをいただいたりしています。

──2010年に社労士試験に合格されたあとも、5年間は会社員を続けていますね。

三澤 その頃はプロジェクトリーダー的な仕事を任され、社内での仕事をおもしろく感じていたのです。段々と時代も変わって、ITの存在が社会的にもフォーカスされるようになっていました。企業や自治体も当たり前にホームページを持つようになっていましたし、SEという名称も一般化してきた頃でしたから、社労士の資格は取ったけれど、当時の私の中ではITコンサルタントやエンジニアの比重のほうが高かったのです。ITコンサルタントの実績を積んで、いずれは役員となり社内の人事担当部署などを兼務しながら、「人」というファクターから会社全体を見ていけたら…というようなことを漠然と考えていました。

 でも30代になり視野も広がっていく中で、再び企業経営そのものに関わりたいという気持ちが次第に強くなりました。社労士の資格を取ってからは、社労士仲間や士業の交流会などで色々な人と交流していましたし、大学のサッカー部の仲間が起業していたのも刺激になりましたね。もっと自分の幅を広げたい、人事のことだけでなく幅広い知識を得たいと考えるようになったのです。起業などはまだ考えてはいなかったのですが、学ぶことが楽しく、何か勉強したいなと思いましたね。学生時代に勉強しなかった反動かもしれません(笑)。そこでTACのパンフレットを見て、中小企業診断士(以下、診断士)の勉強をしようと決めました。社内の経営管理部に尊敬する先輩がいて、その方が診断士資格を持っていたというのも理由のひとつでした。少しでも憧れの先輩に近づきたいといったような思いでしょうか。

──そこからいずれは役員にと思っていた会社を退職したのはなぜですか。

三澤 診断士の勉強を進めていくうちに、経営に関するコンサルタントとして生きていきたいという気持ちが強まったからです。IT企業の中ではIT技術者としての働きに需要があって、経営のコンサルティングは自分には求められていなかったので、それならば場所を変えようと思いました。15年勤めてITの世界で自分がやるべきことはやり切ったし後悔はないと思えたので、次のステージに進むために退職しましたが、当時の経営者の方とは今も連絡を取っています。社員をとても大切にする会社で、採用したからには生涯パートナーとして歩んでいこうという経営スタイルでした。IT業界は社員同士の関係がさっぱりした企業も多い中、OB会を作ったり、イベントをしたり、家族見学会を開いて家族も大切にしたりするような会社でキャリアをスタートできたのは幸運だったと思います。会社員時代に得た「人を大切にする姿勢」は、今の自分の士業スタイルのベースになっていると思います。

初心に戻ってリスタート

──2016年に診断士登録されたあと、社労士事務所に入られましたが、どのような経緯で入所したのでしょうか。

三澤 知人のコンサルタントに紹介されたのです。面談へ行ったところ、代表から「事務所の組織を確立したい」というお話を聞きました。私は社労士と診断士の資格を持ち、前職は会社でプロジェクトの推進等を担当してきましたから、組織づくりには自信がありました。そこで、組織づくりに参画しながら社労士の実務もやらせてもらうという形で、入所することになりました。

──社労士として働き始めていかがでしたか。

三澤 まったく通用しないなと感じてショックを受けましたね。社労士試験を突破するだけの受験勉強ベースの知識はあっても、実務経験ゼロの自分は現場ではまったく通用しませんでした。お客様の経営者から相談を受けても答えられないし、社会保険手続きひとつとっても先輩が30分ほどでできることが半日かかる。先輩なら1、2時間で相談の回答を書き上げるのに私は1日もかかって、書いたものを見せれば赤入れで真っ赤。結局、先輩が作って出すということの繰り返しでした。先輩の中には社労士資格を持っていない方もいたので、「資格を持っているのにできないのか」と言われることもありましたね。私もすでにいい年齢でしたし、15年も社会を経験していて何もできない苦しさがありましたね。

──どのようにして克服したのですか。

三澤 有資格者であるというプライドはいったん捨てて、もう一度新人時代へ戻ろうと思い直しました。事実、社労士実務については新人レベルですから、もう一度、大学を卒業して社会人として働き始めた頃の気持ちに戻って、資格の有無は関係なしに基礎から取り組みました。お手伝いでも何でも、調べごとやメモ取りもやりましたね。仕事に自信がついてきたのは3年目頃だったでしょうか。色々な案件をやらせていただく中で、段々とスキルが積み上がっていき、手ごたえを感じるようになりましたね。

──どのような所にやりがいを感じていますか。

三澤 例えば、自分の会社が買収されて譲渡されるという状況で、気持ちが落ち込んだ経営者の方と面談することがあります。我々は労務環境の移行のお手伝いをするわけですが、何度も打ち合わせを重ねるうちに、経営者の方の意識が変化していくのです。「経営権は先方へ移ってしまうけれど事業は継続するのだから、これからはひとりの経営者として従業員と一緒にやっていこうと思う」と前向きな言葉を言われたりすると、その経営者の方の今後が明るくなるお手伝いができたと感じ、うれしく、とてもやりがいがあります。中小企業の後継者不足問題によってM&Aは今後多くなっていくと考えられますから、社労士の仕事は重要だと思います。それにプラスして診断士でもある自分は、法律(社労士)と経営(診断士)の2つの視点から、企業が持続的に発展できるような人事労務アドバイスが可能です。そうして相談に乗り、社員のモチベーションが上がって職場環境が安定したとか、定着率が上がったとか、そんなお話が聞けると、やってよかったと思いますね。

経営者と対峙できる存在へ

──独立を考えるようになったきっかけは何でしたか。

三澤 お客様のご相談に乗るうちに、自分が雇用されて守られた立場にいることが失礼というか、真の意味で相手に向き合えていないのではないかと感じる瞬間があったからです。目の前で相談してくれている社長や経営者は様々なものを背負い、絶えずプレッシャーの中で経営に携わっています。ならば自分も同じ土俵で、同じ緊張感を持って向かい合うべきではないかと考えたのです。私は今までたくさんの尊敬する指導者や経営者と出会ってきましたが、お会いした中で尊敬できない方はひとりもいません。誰でも何かしら優れたところや見習うべきところがありました。そうした方々から学んだものに自分の経験をミックスして、自分自身の言葉で伝えたい。そのためには、自分がお客様と同じフィールドに立つこと、独立した経営者であることが必要だと考えました。

──経営というタスクを自分に課したのですね。

三澤 そうですね。高校の大先輩である三浦知良さんが50歳を超えてもJリーグという第一線にこだわり、過去の栄光にとらわれず数々の苦しい局面を乗り越えてなお挑戦し続けている姿を見て、いつも刺激と勇気を貰っていました。小学生の頃からカズさんに憧れ、追いかけ続けて今の私があります。先輩に負けないようにがんばりたいと考えた当時の思いもまた蘇ってきて、独立開業という道を選ぶことにしました。

コロナ禍の最中に独立開業

──そうして独立開業されましたが、コロナ禍での独立に不安はありませんでしたか。

三澤 新型コロナウイルスの影響で意気消沈している方も多いと思いますが、大会社でもないうちの事務所が、マクロ経済のことを気にしてもしょうがない。それよりも、まずは目の前にある一つひとつの課題を解決していくことが大切だと思います。コロナ禍のために困り、サポートを必要としている経営者や会社は、むしろ増えているはずですから、お客様に直接お会いできなくても、会えないなりのやり方があるはずと信じてやっています。小さいながら事務所を構え、資金繰りやマーケティングなどをしてみて、会社や経営者に対する考えや理解がより一層深まりました。これまでも真摯に対応してきた自負はありますが、アカデミックに考えがちだったかもしれません。自分自身もいち経営者として教科書通りにはいかない経営の難しさを肌で感じて、企業経営というものをより俯瞰して見ることができるようになった。これは大きなステップアップだと思っています。とはいえ独立に際して事前準備はしていなかったので、現実は甘くなかったですね。創業当時はまったく相手にされず、話も聞いてもらえなかったこともあります。信用ゼロからのスタートなのだということを痛感して、組織という枠組みに守られていたありがたさを実感しました。

──そこからどのように顧客開拓をしたのでしょうか。

三澤 懸命に走っていれば誰かが見てくれていると思いますね。士業の先輩方、仕事で関わった方、大学時代の仲間などが声をかけてくれて、少しずつ仕事が増えていきました。労務相談、労働契約書のチェック、補助金、プロジェクト支援、執筆、とにかく声を掛けていただければどんなに小さな仕事もしたし、経験のない仕事にもチャレンジしました。そうしているうちに少しずつ信頼が積み上がる感触があって、固定的な案件も依頼されるようになりました。ある先輩士業の方はご自分の独立時の苦労話をしてくれて、「こんな仕事があるよ」と紹介してくれ、何かと気にかけてくれました。他にも、細かいことを含めて色々なサポートをしてくださる方がいます。周りの人に恵まれて、自分は本当に幸せだと思います。仕事を依頼してくれた方々の優しさは一生忘れないし、早く恩返ししたいと思っています。そのためにも事務所をもっと大きく強いプロ集団にして、皆さんに還元したいです。

変化の時代に立ち止まらない

──事務所の強みや仕事内容を教えてください。

三澤 事務所名を「三澤経営労務事務所」にしたのは、単なる社会保険手続きや労務管理、コンプライアンス対応だけでなく、事業の発展もサポートできるということを表わすためです。経営と人事労務の両面を見られるのは、当事務所の強みだと思いますね。社労士事務所としての業務、労務顧問(労務相談、法改正支援)、社会保険、給与計算、就業規則等各種規程の策定、制度設計、人事制度の策定などは、法を踏まえた専門家としてしっかり対応します。企業経営においては、「人」が最も重要な経営資源であり、競争優位の源泉という概念はこれまで以上により一層高まっています。今や経営と人事労務管理は表裏一体の問題で、「人」の視点から経営を分析すると同時に、「経営」の視点から人事労務管理を進めることが必要不可欠です。当事務所では、経営計画書、事業計画書の作成、実行支援、プロジェクト支援など、社労士の視点でコンプライアンス対応をしながらも、診断士の視点でこれから先の経営を見ることをしています。例えば労務管理では、法令遵守がマストなテーマですが、単純に法令遵守を掲げて制度設計を続けてもなかなか発展的な方向へはいきませんので、「経営が持続可能的に発展するためにどうするべきか」を踏まえた提案をします。

──具体的にはどのような提案でしょうか。

三澤 例えば長時間労働が課題のお客様で、法令に基づき労働時間管理を徹底したあと、バックオフィスの効率化の支援に入ることがあります。ヒアリングをして業務内容を洗い出し、分析してフローを書きます。それを踏まえ、「ここを改善すればこれだけ効率化されコストも抑えられるし、こんなITツールを導入すればこれだけ作業時間が短くできますよ」といったレポーティングもします。経営コンサルティングに関しては、診断士としての知識の他に、ITコンサルタントとしての経験も役立っていますね。経営者の方々はコスト意識がしっかりしていますから、経営視点を踏まえた提案がほしい。そこを私なら「これが財務諸表に反映されます」というところまで踏み込んだ提案ができます。これは社労士と診断士のダブルライセンスと、私自身の社会経験のシナジー効果だと思いますね。

 こういった踏み込んだ提案ややり取りをしていると、初めはビジネスライクだったお客様も、自分から経営の苦労話や、課題・悩みを打ち明けてくれるようになったりします。そういうときに信頼を感じて、もっと力になりたいと思いますね。そして「提言を実行したら従業員がこう変わってきた」とか「長年悩んでいたことが解消された」とか、そうしたお話を聞くと、本当に幸せでこの仕事のやりがいを感じます。困りごとを抱えて労務相談に来所された経営者の方が、帰り際に明るい表情になってくれると、少しでも前向きで持続可能な未来を提示できたかなと安心しますね。

──今後の目標を教えてください。

三澤 マクロな目標としては、経営に直結する人事労務サービスの提供と、あらゆる人事労務の課題解決という両面を兼ね備えた人事労務の総合コンサルティング会社をめざしたいと考えています。今、働き方改革や女性の活躍、外国人就労など人事労務問題は多様化していますので、そのためには事務所スタッフはもちろん、それぞれの分野に特に精通したパートナーの方々とも協力したプロフェッショナル集団である必要があります。お客様の真の課題解決のために、事務所内ですべてを解決する必要はないので、所内外を問わず専門性の高いプロ集団が連動して、様々な角度からどのような課題にも対応できるしくみをもったワンチームを作りたいですね。チームの中では私も常に自己投資して知識やスキルをアップデートしていきたいですし、それを他のメンバーにもめざしてもらい、一層強いチームに成長していくのが目標です。

 ミクロな目標としては、経営理念、就業規則、人事制度等、具体的な言葉にして伝えていかなければならないと感じています。今は、不安定な世の中ですし、オンラインなどビジネス上のコミュニケーションが変化していますから、なおさら言葉できちんと伝えることが大事だと思っています。労務管理では法律、通達、判例等、意識しなくてはいけないことがたくさんありますが、そのすべてが労働法に条文化されているわけではありませんので、日々の労務管理で気をつけなくてはいけないことは何か、対話の中で明確に言語化してしっかり伝えるとともに、サポートしていきたいと思っています。

──事務所のホームページには『和顔愛語(わがんあいご)』という書も掲げていますね。

三澤 書道をやっている私の父の書です。『和顔』は和やかな笑顔、『愛語』は思いやりのある言葉・話し方のことです。書展を見に行ったときに父が、「人と相対するとき、この精神を大事にしてきた」と話してくれたのが心に残りました。この言葉には『先意承問(せんいじょうもん)』という言葉が続きます。つまり「和やかな笑顔と思いやりある言葉で、常に相手のために何ができるかを自分自身に問い実行する」という意味です。開業にあたり、私もこうした姿勢でお客様に相対していきたいという強い思いがあったので、ホームページに掲げました。会社によってめざす形は様々です。全体の和を尊ぶ昭和のような会社があってもいいし、アメリカ的な合理性を追求する会社があってもいい。画一的に制度を押し付けるのではなく、ファクトをつかんで実態に即した支援をする必要があります。それにはしっかり会話して、あるべき姿を共有すること、きちんと議論することが必要だと思います。

──最後に、資格取得をめざそうという方、将来を模索している方へのメッセージをお願いします。

三澤 時代とともに、働き方やキャリア形成の考え方は変わっています。同じ会社で一生終わる人は減って、活躍する年数も伸びている。その中で資格は、チャンスを広げる武器になると思います。スポーツしかしてこなかった自分にとって、資格は夢への挑戦切符になりました。たった一度の人生ですから、気になる資格があれば挑戦すべきだと私は思います。そして、資格は「取得」という目標を達成することはもちろん大事ですが、取得までの過程も大事にしてほしい。その過程で、様々な方との出会い、感謝、気持ちの変化、精神力の向上などたくさんのことを得られるからです。社労士をめざそうと思っている方には、「少し先で待っているので、いつか一緒に仕事ができることを楽しみにしています」と言いたいですね。黙って悩んでいる時間はもったいない。ぜひ一歩を踏み出してほしいと思います。

[『TACNEWS』 2021年9月号|特集] 

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