特集 AI時代に活躍する弁護士
角田 望(つのだ のぞむ)氏(右)
株式会社LegalForce 代表取締役CEO
法律事務所ZeLo ・外国法共同事業 副代表
弁護士
小笠原 匡隆(おがさわら まさたか)氏(左)
株式会社LegalForce 代表取締役 共同創業者
法律事務所ZeLo ・外国法共同事業 代表
弁護士
「リーガルテック」という言葉を聞いたことがあるだろうか。法務の世界でAIやソフトウェアを使う「法律・法務×テクノロジー」のことをそう呼んでいる。メディアで取り上げられることも増えてきてはいるものの、現在ではまだ、企業法務の世界は人の知識と経験に拠るところが大きく、IT化が進んでいるとはいえない。
そんなリーガルサービスの世界に、AIによる契約書自動レビューサービスを打ち出したふたりの若手弁護士がいる。株式会社LegalForceと法律事務所ZeLo ・外国法共同事業を運営する角田望、小笠原匡隆、両弁護士に、弁護士になった経緯からリーガルテックで実現していこうとする世界についてまでうかがった。
リーガルテックのプロダクト開発と それを使いこなす法律事務所をめざして
──「リーガルテック」という新しい分野で注目されている角田さんと小笠原さんですが、おふたりが弁護士をめざした経緯を教えていただけますか。
角田 中学時代に、『白い巨塔(山崎豊子著)』を読んだのがきっかけです。医学界を舞台とした人間ドラマが描かれた小説ですが、この中で、医療事故をめぐり大学病院側と患者側が法廷で争うという場面がありました。大学病院側には医療系で著名な弁護士が、そして患者側には無名の若手弁護士がつくのですが、若手弁護士が自分の力で大学病院側の著名な弁護士と渡り合い、そこで勝利を勝ち取っていく様を読んで、「若くても、自分の腕でクライアントの人生を背負って戦える弁護士の仕事はエキサイティングだな」と思ったのが、弁護士をめざしたきっかけでした。
小笠原 私の祖父は多くの従業員を抱える工場を経営していたのですが、悪い人の口車に乗せられて工場を乗っ取られてしまいました。まさにドラマに出てくるような話なのですが、その話を間接的に祖母や母から聞いたとき、「もしも法律家がついていたら、祖父を守ることができたかもしれないのに」と思ったことが、企業法務に携わってみたいと考えた経緯です。
──角田さんは旧司法試験、小笠原さんは新司法試験で合格されていますね。
角田 司法試験は、大学4年のときに初回のチャレンジをしました。その後、ロースクールに進みロースクール既修1年目に受けた旧司法試験で合格しました。
小笠原 私は飛び級で大学を卒業してロースクールに入り、卒業した年の新司法試験に合格しました。
──おふたりが出会ったのはいつ頃ですか。
小笠原 司法修習を終えて入所した法律事務所で知り合いました。私は事業再生や知的財産、紛争解決をメインに、角田は企業の株主総会対応やコーポレートガバナンス、M&Aをやりつつ国内紛争案件を手がけていました。
──一緒に独立することを決めた背景についてお聞かせください。
角田 企業法務の世界は基本的に人の知識と経験で勝負する世界で、まだまだIT化が進んでいないのが現状です。私は企業法務やその他弁護士業に携わりながら、AIやソフトウェアを使ったリーガルテック(法律・法務×テクノロジー)によって、もっと効率的に、多くの方へリーガルサービスを提供できるのではないかと考えるようになりました。
そして在職中に小笠原と「テクノロジーを使いこなしてリーガルサービスを提供する法律事務所があってもいいのではないか」と議論している中で、リーガルテックの領域で何かおもしろいことをやっていこうと考えが一致したことが独立の経緯です。小笠原は弁護士としての能力が高いだけでなく、好奇心が強くて情報感度も高いので、彼がいたから起業したと言ったほうがいいかもしれません。
ただ、法律事務所がリーガルテックサービスを自社開発するのは現実的ではありません。1つの組織で両方をやるより、開発を担う別組織が必要だと考え、株式会社LegalForceを設立しました。
──そうして法律事務所ZeLoと株式会社LegalForceの両輪でスタートしたのですね。
小笠原 そうです。2017年3月にスタートして、最初の半年間は私と角田が共同代表かつ代表取締役CEO兼COOの兼務で2つの組織を回していましたが、スピード感を出すためには意思決定者を明確にしたほうがいいと判断し、2017年秋からは、私が法律事務所ZeLoの代表で角田が副代表、株式会社LegalForceは角田が代表取締役CEOで私がそのサポートとしての代表取締役COO(現在は代表取締役 共同創業者)という役割分担をしました。
失敗から誕生したAI契約書レビュー
──創業当初、LegalForceはどのような事業から始めたのですか。
角田 創業から10ヵ月間は、契約書作成に特化したエディター(編集用アプリケーションプログラム)を開発していました。最初からAIで自動レビューを行うのはハードルが高いと思ったので、まずエディターを作り、将来的にはその上で自動レビューができるようにしたいという構想がありました。しかし、そもそもエディター自体を開発するハードルがものすごく高かったのです。身近で代表的なエディターとして、Microsoft Wordは当たり前のようにありますが、だからといって同じようなクオリティのものを10ヵ月では作れないですし、しかも開発を進めていたエディターにはWordとの互換性がないという致命的な欠陥もありました。
当時、作ったエディターのβ版を小笠原に見せると「これでは実務で使えない」と率直な意見が出ました。そこから、アップロードするとリスクを洗い出してくれる自動レビューと条文単位検索機能を軸に、AI契約書レビューの開発に方向転換することになったのです。それが現在のAI契約書レビュー支援ソフトウェア「LegalForce」の原形です。
メンバーを集める中で、現在開発全般を統括している時武佑太(現在は取締役CTO)と出会い、AI契約書レビューの開発に着手することができました。その後、求人サイトでたまたまスカウトメールを送った舟木類佳(現在は執行役員CRO)が時武と同じ研究室出身という縁が重なって、舟木のサポートを受けるようになり、そこからAIによる契約書の自動レビューサービスが一気に現実味を帯びてきたので、エディターからの大きな方向転換を進めることができました。
──開発にはかなりの資金が必要だったと思いますが、創業当初の資金繰りはどうされたのですか。
小笠原 法律事務所ZeLoの売上で資金繰りをしていましたが、ZeLoも法律事務所として独立したてで、どのようにして案件を取ったらいいのかは手探りの状況でしたね。ただその頃はちょうど仮想通貨が注目され始めた時期で、それを支える技術としてブロックチェーンにも注目が集まりつつありましたので、そのブロックチェーンのリーガルニーズに照準を合わせて深堀りしていったのです。当時はブロックチェーンのリーガルサービスに携わっている弁護士がほとんど見当たらなかったため、法整備の過渡期で専門家の需要が高まっていたこともあり、まさに若手弁護士が入り込めるチャンスでした。ブロックチェーンの案件に取り組み始めたことは、創業期の大きな転換点になりましたね。ブロックチェーン案件に注力しつつ、日本ブロックチェーン協会のリーガルアドバイザーを務めたり、金融庁の法改正に協力していったりしたことから、法律事務所ZeLoへの依頼案件が一気に増えました。
新たなクライアントの獲得も進み、並行して採用も進めて事務所の組織体制を整え、汎用的なリーガルサービスにもきちんと対応できる体制を整えていきました。
角田 小笠原が法律事務所ZeLoでブロックチェーンに関するリーガルサービスに着手したのが2017年夏前で、その約半年後の2018年春にLegalForceは8,000万円の資金調達を実施し、ZeLoとLegalForce双方の財務会計、開発部門を切り離すなど、組織を整えていきました。その3ヵ月後に、LegalForceが先ほどお話ししたエディターからの方向転換を行い、さらに3ヵ月後の2018年夏に製品として「LegalForceβ版」をリリースしました。その後はクライアントに使っていただきながら、フィードバックにもとづく既存機能の改善とAI機能向上を踏まえて、2019年4月に「LegalForce正式版」をリリースしています。
角田 望(つのだ のぞむ)
2010年、京都大学法学部卒業。同年、旧司法試験合格。2011年、京都大学法科大学院中退。2012年、司法修習終了。弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2013年、森・濱田松本法律事務所入所。2017年、株式会社LegalForce/法律事務所ZeLo・外国法共同事業を創業。
法律事務所のスタンダードプロダクトをめざす
──「LegalForce正式版」で改善されたのはどのような機能ですか。
角田 β版で提供していた、AIで契約書のリスクを指摘する自動レビュー機能と、保存している契約書の条文を条項毎に並べて検索する条文検索機能をさらに高度化するだけでなく、自社ひな形へのコメント・編集に対してレビューする類似文書比較表示機能や、管理職が案件を管理するレビュー件数レポート機能を追加して、レビューの効率化を図りました。
そもそも「LegalForce」には、法律事務所ZeLoの弁護士が作った契約書のひな形が400種類以上ライブラリに入っています。通常、過去に締結したことのない契約書を新たに作るときは、まず契約書のひな形が掲載されている参考図書を探すところから始めなくてはいけません。しかし「LegalForce」を利用している場合は、ライブラリからひな形を検索することができるので、それだけでも数時間単位の効率化が図れます。そして仮に契約書作成者が多忙のあまり条項の修正が漏れたとしても、自動レビュー機能が指摘してくれます。この機能には法務担当者がレビューできる類型が、業務委託契約や開発委託契約など33類型アップロードされており、ボタンを押すだけでその契約書の一般的かつ法的なリスクについて網羅的に洗い出されるしくみになっています。また、法務担当者とチームがレビューしたデータを「LegalForce」に蓄積しておけば、過去の履歴を参照してレビューすることも可能です。これらの機能をうまく使っていただくと、法務担当者自身の知識と経験だけでなく、「LegalForce」のレビュー機能やチームの知見をうまく活かした契約書が作れるという点も大きな特徴です。
──「LegalForce」の開発で大切にされているのはどのような点ですか。
角田 お客様である法務担当者と法律事務所の業務が、より高いクオリティで、より速く、より快適になることを大切にしています。そのために、私たちは3つの開発組織によってサービスを開発しています。1つ目はCTO(最高技術責任者)直轄のWebアプリケーション開発をするエンジニアとデザイナーの集団、2つ目は自然言語処理技術といった要素技術を研究開発し、プロダクトの発展に役立てる組織、3つ目が法務経験者や弁護士を中心に、契約書のひな形やレビュー時のチェックリストなど、サービスのコンテンツを開発するチームです。
──契約書のレビューはこれまで法律事務所の仕事のひとつでしたが、その仕事を代替する「LegalForce」が普及していくとなると、弁護士業界にも影響が出るのではありませんか。
角田 契約書を人の知識と経験だけでチェックしていると、必ず抜け漏れが出てきます。それを補うものとして、「LegalForce」のレビュー機能を使います。レビュー結果を踏まえた上で法務担当者がチェックすることによって、仮に担当者がひとりしかいない場合でも見落としや漏れが減り、クオリティが上がり、生産性も上がるというサービスなので、法務担当者や法律事務所の方のお役に立てると思います。
「LegalForce」は弁護士の仕事を奪うのではなく、法務担当者や弁護士の業務のクオリティと生産性を上げていくサービスなのです。おそらく今後は、こうしたテクノロジーを使うのか使わないのかで、法律事務所の競争力に大きな差が出てくると思います。
小笠原 「LegalForceに仕事を奪われる」という感覚ではなく、「LegalForceというパワースーツを着ていただく」という感覚ですね。使っていただいているクライアントは約550社ありますが、そのうち約100社が法律事務所となっています。
──多くの法律事務所が「LegalForce」を導入しているのですね。
角田 ありがたいことに、多くのクライアントから「見落としが減った」「業務のクオリティと生産性が上がった」「レビュー時間が3分の1、2分の1に減った」という声が寄せられています。
経理システムや会計システムを使わずに経理業務を行う経理部門はないと思います。それと同じように、企業法務・契約法務をやっていく上で「LegalForce」が「法務部なら入れているよね」「企業法務を扱う法律事務所なら入れているよね」というスタンダードプロダクトになっていけばいいと思っています。
──契約書の自動レビュー機能と条文検索機能が「LegalForce」の大きな特徴ですが、契約書の管理機能についてはいかがですか。
角田 まだβ版ではありますが、契約作業に必要な入力作業を完全に自動化して自由自在に検索する契約書管理システム「Marshall(マーシャル)」を開発し、提供しています。締結後の契約書の管理は、従来は法務担当者がExcelなどを使い必要情報を手入力で行っていたため、膨大な作業時間が必要となる上に入力ミスも発生し得るので、企業の文書管理において大きな課題でした。「Marshall」は、締結済みの契約書のPDFをアップロードするだけで、自動で全文の文字起こしを行い、契約締結日や契約当事者名、契約開始日、終了日などの情報を抽出し、検索可能なデータベースに仕上げることができます。
──リーガルテックの革新的なサービスを実現する「LegalForce」は、法務の世界を大きく変える起爆剤になりますね。その完成形はどのように想定していますか。
角田 Webサイトにも掲げているように「すべての契約を制御可能にする」のが私たちのミッションですので、実現に向けてさらに開発を進めていきます。「すべて」というからには、契約書のレビューだけでなく契約書の管理などのリスクサポートや、契約書全般を包み込むようなプロダクトを提供していきたいですね。世の中に流通する様々な契約書のリスクを当社の製品できちんとサポートし、リスクを制御可能にしていくのが目標なので、できる限り多くの大企業の法務担当部門に直接導入していただきたいです。そして、「LegalForce」を導入するにはハードルが高すぎるであろう中小企業については、顧問弁護士の方に導入していただき、その弁護士の方を通して中小企業にサービス提供していくことで、間接的に貢献していきたいと考えています。
小笠原 匡隆(おがさわら まさたか)
2009年、早稲田大学法学部卒業(3年次飛び級卒業)。2011年、東京大学法科大学院修了、司法試験合格。2012年、司法修習終了。弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2013年、森・濱田松本法律事務所入所。2017年、株式会社LegalForce/法律事務所ZeLo・外国法共同事業を創業。日本ブロックチェーン協会 リーガルアドバイザー。
弁護士、公認会計士、税理士のワンストップ・リーガルサービス
──法律事務所ZeLoの展開について教えてください。
小笠原 創業当初から、次の時代のトップファームにしたいという目標を掲げています。これを成し遂げるには海外に出ていくことは必然だと考えて、初期から外国法の弁護士を採用し、外国法共同事業として提供できるソリューションの幅を広げています。外国法に関する業務ができる弁護士が在籍することで、海外進出する日本企業や日本に進出する外国企業もすでに案件ベースで具体化していて、英語の案件も増えています。将来的には海外の拠点展開、あるいは現地の多数のローファームとの連携も視野に、海外展開を議論しています。
──海外展開を初期から意識してきたということは、法律事務所ZeLoの人員規模はかなり拡大していきそうですね。
小笠原 シェアを広げていくという意味では、プロフェッショナルが多く在籍しなければクオリティの高いリーガルサービスは届けられませんので、法律事務所ZeLoの同志となるメンバーは今後もどんどん採用していく予定です。
また、2020年9月にはファイナンスアドバイザリーや財務会計コンサルティングサービスを提供するグループ会社、ZeLo FAS株式会社を設立しました。M&A、IPO、スタートアップ支援に豊富な経験を持つ弁護士、公認会計士、税理士によるワンストップサービスを提供するためです。
私たちは、お客様に質の高いプロフェッショナルサービスを届けるためには、相互に独立して高いクオリティを保ちつつ、連携できる関係にあることが必要だと考えています。法律事務所に従属している会計事務所では、独立性を持って強く成長することが難しいのではないかと思い、FASを別会社とすることが最適であると判断しました。単一のプロフェッショナルな会計ファームとしても成長していってほしいので、組織としては分離しつつ、強く連携するために同じグループとしています。こういったグループとして取り組んでいくことに意味があると捉えています。
──グループとしても幅広い展開を進めているのですね。
小笠原 法律事務所ZeLoでは、新しいリーガルサービスを提供する視点で、いろいろなサービスを打ち立てています。そのひとつに、今まで存在しなかった「スタートアップ企業の成長をトータルで支援できるファーム」になることがあります。クライアントには従来から、「ファイナンスは会計士や税理士」「リーガルサポートは法律事務所」と別々に頼んでいることによる煩雑さを解消したいというニーズが強くありました。そのニーズに応えていきたいという思いから、すべてをとりまとめられるグループとして、付加価値の高いサービスで課題解決に向かっていきたいと考えています。
すべての企業にリーガルイノベーションを
──新型コロナウイルス感染症の流行は、法律事務所ZeLoの業務にどのような影響を与えましたか。
小笠原 4~5月にかけて、M&Aやファイナンス系の案件がほとんどすべて止まってしまうという状況が起こりましたが、クライアントであるスタートアップ企業などはテクノロジーや新しいソフトウェア開発といった先進技術で次の時代を切り拓く会社が多いので、それほど影響を受けませんでした。
緊急事態宣言期間中、裁判はほとんどストップしていました。また、お客様との打ち合わせも多くがWebに変わりましたが、結果、Webでも打ち合わせは充分可能で、むしろWebのほうが便利ではないかとの気づきがあり、急速にWebミーティングが広まり定着した感じです。そこはコロナ前と圧倒的に変わった点ですね。
角田 法律事務所ZeLoの案件そのものは6月位の比較的早い時期にはペースが戻ってきたので、そこまで深刻な影響はなかったと感じています。ただ、法律事務所ZeLoもLegalForceも、コロナ禍がなければもっと伸びていたはずなので悔しいですね。
──今後のLegalForceにはどのような課題がありますか。
角田 現在LegalForceは従業員規模約100人ですが、クライアント数が増えていくと、満足していただけるサービスを提供するためにサポート体制も厚くしていかなくてはなりません。組織がどんどん大きくなっていく中で、サービスレベルを下げることなくクオリティの高いプロダクトを届ける体制を整えていかなければいけないことが大きな課題です。上場も視野に、人材に関しても、エンジニアだけでなく、営業職やサポート職も増やしていきたいと考えています。
──法律事務所ZeLoの今後の目標について教えていただけますか。
小笠原 リーガルイノベーションを起こす、すなわち新しいリーガルサービスを創出しつつ、スタートアップから大企業にまで、質の高いリーガルサービスを届けることが目標です。弁護士、公認会計士、税理士によるワンストップでのサービス提供のために、連携するグループ・ファームとしてZeLo FAS株式会社を設立したのもその一環です。特に中期的にはスタートアップ企業の支援に軸足を置き、トップレベルのリーガルサービスを届けるのが目標です。
時代のダイナミズムに飛び込む価値は高い
──おふたりが感じる弁護士のやりがいやおもしろさについてお聞かせください。
角田 私は現在はLegalForceの経営に専念しているのですが、弁護士業務のおもしろさは、本当に「何でもできる」ことだと思っています。自分の力でクライアントを背負い、そのクライアントのために自分の知恵を絞って手足を動かし、課題解決をしていく。そのために訴訟を起こしたり、あるいは交渉をしたりと、法律という手段を使って、依頼者のために様々なアプローチができる。自分の能力と努力で成果を出し、その成果を届けられることはとてもおもしろいと思います。
──リーガルテック企業の代表としてのおもしろさはどこにありますか。
角田 そもそも経営者の仕事自体がとてもおもしろいのですが、本質は弁護士とあまり変わらない気がしています。弁護士はクライアントの課題を解決することに全力を注ぐわけですが、経営者はお客様の課題を解決するプロダクトを作って届けていく。同時に、従業員や様々なステークホルダーを背負っているので、事業成長に対してコミットすることが仕事だと捉えています。目的にコミットしていく方法を考え、ときには泥臭いことも含めてやっていく。それによって成果を勝ち取っていく点は、弁護士と同じだと考えています。
小笠原 弁護士はプロフェッショナルなので、年齢が若くても、経営者と対峙して自分の知恵と能力で一緒に戦略を練ることもでき、若いうちから経営に寄り添えるのが大きなやりがいです。そこはかなりエキサイティングですね。
大事な訴訟に勝ったことをきっかけとして会社が成長していったり、コロナ禍で会社が潰れそうなときに一緒になって経営戦略を考えていったり、人事労務の相談に乗ったり、中小企業に補助金申請のサポートをしたりした結果、「助かった」と感謝されることは本当にたくさんあります。
──司法試験をめざしている方、今勉強中の方に向けて、メッセージをお願いします。
小笠原 最近、弁護士の職業としての人気が落ちていると言われているようですが、弁護士のやるべきことは無限に広がっていて、チャンスはたくさんあります。夢を失わずにどんどん法曹界に入ってきてください。今は業界の変革期です。リーガルテックも出てきていますし、世の中に新しい技術やビジネスが現れるたびに、新しい法律がどんどん生まれています。時代もスピード感を持って変わってきていますので、このダイナミズムに飛び込み、次の時代を切り拓く企業をサポートする価値はものすごく高いと思います。
角田 これまで弁護士になる人は、「困っている人を助けたい」あるいは「社会の役に立ちたい」と、大きな夢を持って弁護士をめざしていたと思います。でも今はどちらかというと、「優秀だから大手法律事務所に行く」「弁護士になったらこれだけの給料がもらえる」「こんな生活ができる」といったように、目標が矮小化されてしまっているような気がして、少し寂しいです。もっと大きなスケールで、「自分の力をいかに社会で発揮していけるか」を考えてほしいと願っています。夢を持って臨めば何でもできる職業です。ぜひ視野を広く持ち、「社会にはどんな課題があるのか」「それをどう解決すればいいのか」を考えていただきたい。そうすれば最高におもしろい仕事になります。
──新しいリーガルサービスの世界を切り拓いていくおふたりの活躍を楽しみにしています。ありがとうございました。
[『TACNEWS』 2021年1月号|特集]