特集 複数資格を活かして活躍するプロフェッショナル
無駄な資格はひとつもない。取得してきた資格はすべて仕事に役立てています。
木下 勇人氏
税理士法人ファルベ不動産 代表税理士
株式会社ファルベ不動産 代表取締役
株式会社木下財産コンサルティング 代表取締役
保有資格:公認会計士 税理士 宅地建物取引士 AFP 不動産鑑定士2次試験合格
木下 勇人(きのした はやと)氏
1975年、愛知県生まれ。1999年、南山大学経営学部卒。2003年、公認会計士2次試験合格。同年、監査法人トーマツ名古屋事務所入所。2005年、税理士法人トーマツ(現 デロイト トーマツ税理士法人)名古屋事務所、同部署移転に伴う転籍。2008年、税理士登録、公認会計士木下事務所、木下勇人税理士事務所を開設。2009年、組織変更し税理士法人レディング設立、代表社員税理士就任。2017年、税理士法人ファルベ不動産に名称変更、東京、名古屋の2拠点体制となる。
国家資格を持つ専門家は大勢いても、相続が起きたらどの専門家に頼めばいいのか。そんな自身の体験から、「あらゆる相続についてわかる専門家」をめざしたのが、公認会計士・税理士の木下勇人氏だ。公認会計士、税理士、宅地建物取引士、AFP、不動産鑑定士2次試験合格、簿記検定と、複数資格の保持者として、現在税理士法人と株式会社を運営する経営者でもある。木下氏がなぜこれらの資格を取ろうと思ったのか、複数資格は仕事にどのように活かしてきたのかをうかがった。
宅地建物取引士から始まった資格取得
──木下先生は複数の資格をお持ちですが、なぜ資格を取ろうと思われたのですか。
木下 10代の頃の実体験がきっかけになっています。私が19歳のとき、父が45歳という若さでこの世を去りました。死因は「くも膜下出血」。早朝に倒れ、夕方には帰らぬ人となりました。その後の日々は亡くなった悲しみに暮れている間もなく、相続にまつわるさまざまな手続きの期限が迫ってきました。
弁護士、司法書士、行政書士、不動産鑑定士、宅地建物取引士、税理士、公認会計士…、世の中には多くの専門家がいます。みな「相続を取り扱う専門家」ではありますが、「相続の専門家」ではありません。相続のことならこの人に聞けばいいという絶対的な専門家はいないのです。さまざまな手続きについて誰に聞いたらいいのかわからない苦労を若くして経験した私は、「自分と同じ思いをしている人の役に立ちたい」との思いから、本当の意味での「相続の専門家」をめざしたいと思いました。それが私の資格取得の原点です。
──これまでに取得された資格をご紹介ください。
木下 最初に大学2年で宅地建物取引士(以下、宅建士)を取りました。その後大学2~3年の間に日商簿記検定1級、全経簿記検定上級を取り、大学4年で不動産鑑定士(以下、鑑定士)2次試験に合格しています。その後、大学院に進み、休学中に公認会計士(以下、会計士)試験にチャレンジして3年かかって合格。さらに独立開業してからAFPを取得し、現在はCFP®に挑戦中です。どの資格もTACで学びました。
──なぜこのような資格取得の流れになったのですか。
木下 私は愛知県で有名な進学校に進んだのですが、部活に力を入れ過ぎました。周囲が完全に受験態勢に入っている中、高校3年の8月末まで部活に打ち込み、完全に遅れを取ってしまいました。浪人もしましたが、それでもスイッチが入らず、最終的に地元の私大に入学。その頃から「将来は独立したい。大きな資格を取って巻き返したい」という思いがありました。もとから不動産に興味があって、土地を見ては「ここはいくらで売れるのかな」と考えたりしていました。自分で不動産の評価をしてみたいという思いから、まずは鑑定士に、そして不動産と相続を繋げる資格として税理士に行きついたのです。高校では理系クラスにいて数字が好きでしたし、大学は経営学部だったので会計士や税理士には馴染みがありました。
そこでまず大学2年のときに宅建士試験を受けてみて、もし合わなければ鑑定士はやめようと考えました。勉強を始めてみると、とても興味が持てましたし、無事合格もできましたので、下地ができた状態で鑑定士試験を受ける方向になりました。大学2年から3年の間に受けた簿記検定は、数字が得意だった私にとって、電卓を叩いてパズルのように答えを出せる、とても楽しい試験でした。簿記の知識もつけた上だったので、大学4年で受けた鑑定士試験はわずか10ヵ月で合格できたのだと思います。
──鑑定士試験に10ヵ月で一発合格はすごいですね。そこから税理士に行かずに、なぜ会計士を選択したのですか。
木下 鑑定士試験に合格すると会計士2次試験が2科目免除になることが大きな理由でした。当時は自分でもどれが一番最短ルートか、ものすごく調べていました。日商簿記検定1級を持っていて鑑定士試験に合格できれば、会計学は抵抗ないだろうと考えたこともありました。
──大学院に進んだあとに会計士の勉強を始めたのですか。
木下 大学院では会計学専攻に進みましたが、在学期間中ずっと、プロとしての活動も視野に入れるくらいバンド活動に没頭していました。踏ん切りがつくまでやり切り、プロになるのは現実的ではないとわかったので、また資格をめざそうと会計士試験の勉強を始めたのが25歳、大学院を終える頃です。合格したのは28歳でした。鑑定士試験が10ヵ月のスピード合格だったので、会計士試験を少し甘く見ていましたね。
会計士試験の論文式試験は鑑定士試験より難解で細かいところまで問われますし、原価計算(現在の管理会計論)はその年の出題内容で合否ヘの影響が大きくて、合格の前年、TACの模擬試験で100位以内に入って「受かるはず」と言われたにも関わらず落ちてしまいました。見込みが甘く、1年遅れの合格でした。
──会計士2次試験合格後はどうされましたか。
木下 2003年に合格した1ヵ月後に監査法人トーマツ(以下、トーマツ)に入所しました。実は前年に合格するつもりで就職活動を行い、ほとんどの大手監査法人から内定をもらっていたのですが、不合格だったため、改めて自分は何がやりたいのかを考えました。すると、もともとやりたかったのは相続、税務だったことに立ち返ったのです。
そこで、税務部門のある監査法人で会計士登録の要件を満たしながら税務コンサルティングをやろうと考えて、トーマツの税務部門を希望して入所しました。入所当初は独立性が厳しくない時代でしたので監査法人に税務コンサルティング部門があり、監査法人時代もほとんど税務コンサルティングをやっていました。とはいえ、当時の会計士試験には税務の科目はありませんでしたから、自分でかなり勉強しましたね。
具体的な業務は、相続税申告というよりは完全に相続対策が中心で、お客様もオーナー系富裕層ばかり。しかも相続コンサルティングなので、通常の税務コンサルティングではありません。最初の頃は勉強しても何をやっているのか全体像がつかめず、相続税の申告書も書けないような状況で、大変苦労しました。
相続専門税理士として独立開業
──監査法人から独立するまでの経緯を教えてください。
木下 当初から5年後には独立したいと考えていたので、トーマツは5年で退職しています。その間、時には終電まで仕事をして、土日出勤もこなして修業に励みました。大変ではありましたが、このトーマツで学んだことが今のベースになっています。
そして2008年に、愛知県の自宅の一室で独立開業しました。税理士登録し、相続専門税理士でやっていくと決めていたので、通常の月次業務・法人の申告は受けないと宣言しました。ですから開業当初は仕事がまったくない状態からのスタートでしたね。
相続専門税理士といっても、ロールモデルがいるわけではないため営業の仕方もわからず、最初はとても苦労しました。まずは食べていかなければならないので、トーマツにいた頃から採点の仕事をやらせていただいていていたTAC名古屋校にお願いして、講師をやらせてもらうようになりました。
大学の課外講座で簿記を教えたのを皮切りに、持っている資格をフル活用し、内部専任講師として日商簿記検定講座3~1級講師、鑑定士講座の会計学、会計士講座の簿記と監査論と財務諸表論、その後税理士講座の財務諸表論と、気がついたら週に5~6日、10コマ程度講義が入っている状況になっていました。独立した頃はTACの講師のほかに監査法人の非常勤もしていたので、講師と非常勤の仕事は重なることもありましたが、この2本で充分食べて行くためのベースができました。
本業の相続専門税理士のほうは、独立2年目から名古屋市内に事務所を借りて、少しずつ会計事務所のかたちを整えました。独立して4~5年目からはTACでの講義を減らし本業メインにシフトし始め、従業員を雇って今の体制になっていきます。
実は昨年8月までTAC名古屋校税理士講座の財務諸表論の講義を担当していたのですが、東京事務所開設のタイミングでいよいよ辞めることになりました。それでもTACにお世話になった御恩を何かの形で返したいと思い、東京でも仕事の依頼を受けています。それが税理士向け実務講座の「木下塾」です。
──相続専門税理士はどのような営業方法で増やしたのですか。
木下 最初は本当に手探りで試行錯誤していましたね。扱う内容が相続なので、営業する先は葬儀会社、不動産会社、建築会社だろうと考えて、まずは愛知県の葬儀会社をネット検索して電話でアポイントを取り、訪問して開拓していました。しかし、独立して2年間はほとんど本業である相続専門税理士では食べられず、1年目の売上はゼロ、2年目で約100万円でした。実際のところ、100万円では経費を払ったら大赤字。その2年で1,000万円の貯蓄がなくなりましたし、予測していた運転資金が底をついて、通帳の残金が10万円になりました。その時は本当に「もう終わりだな」と思いました。最終的に銀行から借り入れるぎりぎりのところで仕事が入ったので、借りずにすみました。今思えば本当にラッキーでしたね。
6年目に訪れた転機
──独立後、仕事が軌道に乗り出したのはいつ頃ですか。
木下 3年目に、大手建築会社でプレゼンテーションをする機会をもらったのがひとつの節目です。愛知県の全支店長の前でプレゼンテーションをさせてもらい、気に入っていただいたひとりの支店長から仕事が広がって、ほぼすべての支店を回るようになりました。徐々に売上が伸びていき、売上の7割がその建築会社になりました。その結果、5年目には捌ききれないほどの仕事量になり、従業員数も増えた一方で、忙しすぎてどんどん辞めてしまう事態になったのです。そこでやり方を変えなければと思い、6年目に1社の売上比率が高いという構成を改める決断をしました。一時的に売上は減りましたが、半年後には元に戻ったので、今でもそれでよかったのだと思っています。
振り返ると、第一ステージでは仕事を得るのに試行錯誤していて、第二ステージでは将来のビジョンもなく、とにかく何でもやみくもに仕事を受けていました。6年目に「これではまずい」と仕切り直して業務内容の再構成をして、TACでの講義も絞って税理士講座1科目だけに減らしました。その6年目が転機でしたね。
──6年目に仕事の転換がうまくいったことで、本業が軌道に乗ったのですね。
木下 そうですね。それでもその後も営業はかなりしました。トライ&エラーでやっていけばいいと思い、営業先を保険会社や建設会社などにして、一般向けセミナーをたくさん受けるようにしました。大手保険会社で月4~5回セミナーをするようになってから、不動産会社や建築会社からのセミナー依頼が一気に増えて、当時は月8回ほど一般向けセミナーをやるようになっていきました。
TACの講師をやっていてつくづくよかったと思ったのはこの頃です。まっさらな状態の方に専門用語を可能な限り使わずにどう知識を伝えるのか。人前で話すことはTACで学びました。大勢の方を目の前にしても緊張しなくなりましたからね。
──6年目に入っても相続専門のスタンスは守り抜いていたのですか。
木下 はい。相続だけしかやらないと謳っていたのは、名古屋では私が最初だと思います。そして相続専門税理士法人としてようやく知名度が上がってきたのが、おそらく開業から5~6年目ですね。
このタイミングで新たに着手したのが、相続が得意でない税理士向けのサポートセミナーや、相続に詳しい税理士でも知らない超実務向けセミナーです。相続専門税理士として業界的に認めてもらうためにも、税理士向けセミナー会社に自分から売り込んでいきました。こうして一般向け研修やセミナーに加え、税理士向けのセミナーを始めたのが2012年です。その頃からセミナーが飛躍的に増えて、複数のセミナー会社や税理士会の支部研修など、多く声がかかるようになりました。そんな中で2015年に、税理士向けセミナーを展開する株式会社ファルベ代表の石川真樹氏と出会いました。最初はセミナー講師としてのおつきあいでしたが、話をしているうちにお互いの考えている方向性が一致していることに気づき、一緒に事業展開していくパートナーになりました。それが縁で、2017年9月に東京に進出しました。
入口から出口までトータルの相続コンサルティングを展開
──石川氏との出会いがきっかけで、名古屋から東京ヘの進出を決心されたのですね。
木下 業態転換し始めた6年目から東京に出たいと思い始めていましたが、きっかけがなかなか掴めませんでした。そんなとき出会ったのが現在のパートナーです。彼とは不動産会社と会計事務所を一緒にやろうという方向性が同じだったので、まずはセミナーをやりながら、仕事も少しずつやり始めました。それから東京に拠点を出すと意思決定して、確定申告が終わった2017年4月のタイミングで名古屋の仕事もある程度メドをつけ、9月に東京事務所を出すことにしました。
もともと私は不動産会社をやりたいという思いもあってスタートしているので、不動産会社を大きくしようという方向性が石川氏と一致したのです。一緒にやるに際しての条件がひとつあって、それは名前を変えることでした。それまでは税理士法人レディングという商号でしたが、2017年からは税理士法人ファルベ不動産と商号変更しています。同時に株式会社ファルベ不動産という不動産会社も設立しています。
現在、名古屋はスタッフ4人が相続コンサルティングで既存のお客様に対応しています。スタッフは全員名古屋にいますので、これから新しく東京の人材採用をしていきます。
──税理士法人ファルベ不動産は、どのような方向で展開するのですか。
木下 対象とするのは税理士の方、不動産会社、保険募集人です。一般的に、税理士は相続税の申告はしますが、相続財産の評価や生前対策が不得手な事務所が多々あります。そんな税理士の方々に対して相続に関する支援を行い、一緒にやっていこうというスタンスです。
そして、相続が起こる前後の不動産活用コンサルティングが当社が担当するビジネスモデルになります。ただ、それだけをメインにしているわけではなく、相続税対策として、遺言を作成したり民事信託を組んだり、保険を組み込んだり、会社をお持ちの方の場合はその活用法を考えたりと、相続が始まる前の段階からすべてカバーし、その中で不動産コンサルティングの部分は私たち税理士法人ファルベ不動産で担当します。相続において相続税申告をやるのが最終目的ではなく、相続を入口に不動産に関するありとあらゆる戦略的提案をする。これが私たちのやりたいことです。
──具体的にはどのように展開していかれるのでしょう。
木下 名古屋では、私とスタッフ4人で年間30~40件の相続税申告を受けてきました。ただ相続の前段階から入っていくとなると、それ以外の生前業務がたくさん出てきます。地主の方の確定申告だけでも年間200件はあります。これは避けては通れない部分ですね。このマンパワーを必要とする部分は、名古屋で私のセミナーを受講された税理士の方が税理士法人を作るというので、そちらにすべてお願いすることにしました。ちょっと複雑ですが、社名も税理士法人ファルベにしてもらいグループ化しました。いずれ東京でも税務申告が出てくるので、東京にも進出してほしいとお願いしています。
税理士法人ファルベ不動産の本店は東京に置いているので、私も2018年4月から東京に常駐しています。人材採用については、この記事を読んで興味を持って、税理士法人ファルベ不動産に入ってきてくださる読者がいることを期待しています。その他にも、メディアを使ってアピールしていく方向で、3冊ほど税理士向け専門書を出版する計画がありますし、雑誌・新聞・ネット記事での掲載、そして来年にはテレビ出演しようと動いています。
複数資格すべてが要に
──宅建士、鑑定士、会計士、税理士、AFP。取られた複数資格は、すべて現在の仕事に役立っていますか。
木下 すべて役立っています。というより役立てています。無駄なものは本当にひとつもありません。業務として不動産の鑑定業務だけはやっていませんが、身につけた知識と考え方は使っています。また会計士資格は、会社法知識やM&Aのデューデリジェンスで活かせています。税理士ではなくて会計士でよかったと思うのは、ものごとを大局的に見られること、そして法律がきちんと学べていることです。今の会社法をしっかり学べるのは会計士だと思います。会社の法人決算をやるのに会社法を知らない、資産税に関わっているのに民法を勉強していない――それでは本当のプロとは言えないと思います。その点においても、組織再編で会社法を使うので会計士でよかったと思いますし、民法は鑑定士でも学んでいるので、すごく活かしていますね。それぐらい、どの資格も大切です。
また、他士業の方と仕事をするときに、相手の方が持っている資格の言葉で話ができるということも大きなアドバンテージです。相手の方の専門分野について理解できているという前提に立った上で、さらに税理士の観点から話をすると、一気に信用力が高まります。このように、複数資格を持っていることで、自分自身の営業戦略に役立てていますね。
──最終的にどのようなイメージの税理士法人を思い描いているのですか。
木下 不動産会社を上場させる。そのために東京に来て今動いています。ですから会計事務所はそれほど大きくしようとは考えていません。
会計事務所が不動産会社を持っているというのはよくありますが、私たちはその逆をやりたいと考えています。不動産会社が会計事務所を持っている、不動産会社の隣に会計事務所がある、というコンセプトです。なぜなら不動産のことはやはり不動産会社が絶対的に詳しいですし、会計事務所だけでできる不動産コンサルティングは、基本的には「売る」という手法しかないですから。私たちがやりたいのは「どうやって不動産で価値を生むか」ということなのです。
あえて社名に「不動産」と入れたのも、株式会社ファルベ不動産がメインで動き、その横に会計事務所がいるというスタンスだからです。そこを大きくしていき、私が50歳になる頃にはこの会社の結果を残せていたらいいですね。
──不動産会社の上場が目標ということですか。
木下 上場して終わりではありません。不動産はやりたいことのひとつのステップで、そこからまた次に進みたいと考えています。当法人は会計事務所ですが、私たちのように入口を不動産でやっているところは少ないのではないかと思います。会計事務所を使ってどうビジネス展開していくかが至上命題と考えています。
「お金の専門家」を目標にCFP®をめざす
──東京で今後採用していくのはどのような人材ですか。
木下 会計事務所系の人も不動産系の人も採用していきます。
会計事務所では、普通に会計事務所で働きたい方を採用します。簿記の知識さえあればOKです。資産税も相続税もきちんとお教えしますので、仕事を通じて勉強してくれれば大丈夫です。大切にしているのは「自分でアタリをつけて調べる能力」です。
知識は生き物です。私自身、これまで相続の専門家になるべく、誰よりも経験を積んできましたし、知識を蓄えてきました。今でも毎日ありとあらゆる分野の書籍やDVDに目を通し、幅広い分野の相談に応じて研鑽しています。おそらく受験生時代よりも圧倒的に勉強しているのではないでしょうか。楽をしてステップアップはできませんから。
また、採用したいのは、ないことをやってみたい人。私自身も、仕事がなくなれば創ればいいと思っています。時代が急激に変化する中で、今までのノウハウは多分通じなくなるでしょう。「仕事がないなら創ればいい」といっても、私ひとりではできないので、ぜひ一緒にやりましょう。
というのも、今後私たちのような相続を行う会計事務所が絶対に増えてくると思います。すると今のビジネスモデルももって10年でしょう。これまでのノウハウを使って、その時までに何ができるか、そこが大事です。
──次はどんな方向性になるのでしょうか。
木下 対個人としては、不動産、生命保険、損害保険、年金を、対法人としては事業承継をやっていく方向です。これらはすべてリスク管理、つまり、行き着くところはファイナンシャル・プランナー(FP)としての役割なんです。相続を入口にしてお客様の相談を受けると、必ず老後の話になるので、ライフプランニングが求められますから。その個人が社長であれば必ず事業承継に行き着きます。そうした意味では、税理士にこだわらずに、「お金の専門家」というコンセプトでFP的な動き方ができればと思っています。そのためにも今、CFP®の資格を取るために勉強しています。
──先生はかなり計画的に複数の資格を取られています。その経験を踏まえて、現在、資格取得に向けて勉強している読者にアドバイスをお願いします。
木下 よく言われているように、資格は取ってからがスタートです。私も、その資格を取って何をするのか、資格の使い方についてはよく考えていましたが、結果、取ってみたらあとから全部つながりました。人と同じことをやっていては厳しいので、取った後の自分のプランを明確にしておくことが大切です。
そして、複数の資格をどのようにつなげられるか、そこを意識した上で、取れる資格はどんどん取っておくことをおすすめします。その意識を忘れなければ、いわゆる「資格マニア」になることはありません。例えば、職業としての中小企業診断士になるつもりはなくても、資格の勉強をしておけば、税理士にはない感覚を持って経営者と話すことができるでしょう。ですから、プラスアルファのヒントとして引き出しを増やし、自らのすそ野を広げるために複数資格に挑戦するというのはとても大きな意味があると思います。
私は実家が肉屋だったので、「どうすればお客様に喜ばれるのか」ということを子どもの頃から親にたたき込まれてきました。その経験があったので、お客様と直接触れ合い、喜んでいただける「独立」という働き方をしたいと思いました。税理士もサービス業です。サービス精神がないと税理士業も今後は苦しいでしょう。逆にそこに気がついてさえいれば、きっと大成できるはずです。がんばってください。
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[TACNEWS 2018年10月号|特集]