特集 スキルアップに効く!心の筋トレ♪
「レジリエンス」を鍛えよう

まずは、最近のあなたの状態をチェックしてみましょう。

上のチェックリストの項目にいくつあてはまりましたか?

 半分以上あてはまった方は、ストレスがだいぶ溜まり心が弱っているようです。厚生労働省が2013年に公表したデータ(図1・図2)によると、調査世帯の48.1%の方が「日常生活での悩みやストレスがある」と答えています。また、同年の「こころの状態」(過去1ヵ月間の心の状態を点数階級別に分別した)調査では、0~4点の最低階級が67.3%となっています。つまり、現代人の多くがストレスを感じており、心の状態も芳しいものではない人が多いのです。

 私たちを悩ませるこのストレス。発散することができずに溜まり続けたストレスは、だんだんと私たちの心の健康に影響を与えていきます。ストレスから引き起こされた心の落ち込みを回復するための一番の方法は、もちろんストレスをなくすこと。けれども、そのストレス自体をなくすことは、複雑化する現代では簡単ではないでしょう。ストレスをなくすことができないのなら、せめてストレスと上手に付き合う方法がないものでしょうか。

 そもそもストレスとは物理学の用語で「外的な力による歪み」を表します。この「歪み」に対して「歪みを跳ね返す力」をレジリエンスといいます。レジリエンスは1970年頃から心理学の分野で研究が始まったとされ、心理学の分野のみならず、幅広い分野で研究・注目されている概念です。そして近年、「回復力」「緩衝力」「適応力」など様々に訳されるこのレジリエンスが、ストレスと上手に付き合うテクニックとして注目を浴びています。落ち込むことを悪いことだと思うのではなく、落ち込んでいる自分を受け入れ、ストレスと上手に付き合い、心の状態を回復させるレジリエンス。実はこのレジリエンスは誰にでも備わっていて、それを鍛えることで、逆境や困難を乗り越えるために必要な「折れない心」を手に入れることができます。
 では、レジリエンスを鍛えるためにはどのようにすればよいのでしょうか。

“レジリエンス”は、人生の至る場面で必要とされる力です。特に「資格をとりたい」「転職したい」「今の人生を変えて自分の好きなことをやりたい」など、何かにチャレンジするときは、心が疲れやすくなることもあるでしょう。そんなときこそ、レジリエンスの力を発揮して、「自分のしたい・なりたい」をどんどん実現していきましょう!

「折れない心」を身につけるために、レジリエンスにおける3ステップをみていきましょう。

ステップ1

 何かショッキングな出来事やストレスが重なり、落ち込んでいる状態(下図)のとき、心はとても疲れており、集中力の低下や人によっては睡眠障害などの不調が心の疲れのサインとして出てきます。このような状態を続けても、さらなる心の疲れと体の不調を招くことになりかねません。また「どうして自分はこんなにできないんだ」などのネガティブな感情を誘発することになり、悪循環に陥ってしまいます。
 そこで、ストレスの要因や自分の心の疲れを認識し、ネガティブな感情の連鎖を断ち切り、「心の状態を立て直す」作業すなわち「感情のコントロール」が必要になってきます。具体的な方法には、感情を整理して、ネガティブな思い込みを取り除いたり、気晴らしや息抜きしたりするなどがあります。感情を整理することで、自分の今の感情を客観的に見直すことができ、またその感情の根底にある本当の気持ちに気付くことができます。例えば、「仕事がうまくいかなくてイライラする」といった場合、この「イライラ」は単なる一時的な感情にすぎません。この根底には、「仕事がうまくできない自分に対する悔しさ」や「自分を責める気持ち」が隠れているのです。この根底にある感情を見つけ出すことにより、感情を客観視でき、またネガティブな感情に囚われることを未然に防ぐことができます。
 このネガティブ感情を断ち切るための「感情のコントロール」はレジリエンスの重要なポイントの一つです。

ステップ2

 次は、感情を一通り整理したあとの「ゆるやかな立ち直り」です。立ち直るために必要な心の筋肉(心理的資源)を「レジリエンス・マッスル」とポジティブサイコロジースクール代表の久世浩司氏は名付けています。レジリエンス能力が高い人ほど、この「立ち直り」は早いものになりますが、大切なのは、自分のペースをしっかりと保ち、自分の心の状態と向き合い、「ゆるやかに」立ち直ることです。また、立ち直るためには、大きく2つの方法があります。
 ひとつは、社会的な立ち直り方法。周囲の人々に協力を得る方法です。思い切って誰かに相談したり協力を仰いでみましょう。あなたを助けてくれる周囲の人々は普段からあなたを必要に、大事にしてくれている人々です。自分が社会から必要とされている、また社会的に協力を得られる人物であると認識することは、自分の自信や勇気の糧になります。
 もうひとつは、個人的な立ち直り方法。自信を取り戻すことです。心が疲れていた理由がわかったとしても、それを簡単に解決できるとは限りません。しかし、今自分にできることを考えることはすぐにできます。他人ができて自分にできないことを探すのではなく、例えば「○○さんのようにはできないけど自分は△△なら誰にも負けない!」といったように、自分が他の人よりも得意なことを探してみましょう。もしかしたら、あなたならではの方法で問題を解決できるかもしれません。

ステップ3

 最後は、「次の経験につなげる」段階です。これは、心の状態が落ち込む前の元の状態に戻った時に、逆境体験を振り返ることで、その後に活かせる教訓をあなた自身の手で掴みとるということです。例えば、自分が失敗したとき、ただ失敗のストレスをやわらげ、立ち直るだけでは、また同じような事態に陥ったときに対処できません。「どうして失敗したのか」また、「どうしたら失敗しないようになるのか」を考え、自分の中で教訓化していくことで、スキルや経験のアップにつながり、挑戦することもこわくなくなるのです。
 また、その中で、あなたの強みが見つかることもあるでしょう。ただし、こちらの教訓化は、「立ち直り」と同じように、焦るべきではありません。心の状態がまだ本調子ではないときに、内省をするのは難しく、また落ち込み状態に戻ってしまう可能性もあるかもしれないからです。

レジリエンスを鍛えるメリット
①大きな目標や素敵な夢を叶えるために必要な能力を手に入れられる!
②困難や逆境を乗り越える力を手に入れられる!
③挑戦がこわくなくなる!
④見つけた「自分の強み」を伸ばし、挑戦し続ければ、人生が充実する!

失敗したときどう動く? レジリエンス 実践編

会社員Aさんのケースに沿ってシミュレートしてみましょう。

会社員Aさん
 専門商社の営業課で働くAさん(26歳独身)は、つい最近証券会社から転職してきたばかり。慣れない仕事に頭を抱え、連日遅くまで残業の日々…。ストレスが溜まり、心の状態がよくありません。しかし、負けず嫌いで真面目なAさんは、「早く仕事を覚えなくては」と意気込んで、休日も心が休まりません。
 そんな中、ちょっとしたケアレスミスからAさん主導で動いていたプロジェクトで失敗をしてしまいました…。

Aさんのこころ君
仕事で失敗をした…けど、いつまでもこうしてはいられない。傷ついた心、疲れた心を回復させなきゃ!

まずは「感情をコントロール」

実践その1>>>感情を整理する
ストレスとなっているのは自分のどんな感情が原因か、何に対する「苛立ち」や「焦り」なのか、紙に書き出して整理してみましょう。自分の感情をすべて目視できるようにして、客観的に感情の整理をすることで、感情に振り回されることを防ぎましょう。

実践その2>>>先入観や思い込みをなくす
Aさんは転職先でも、「自分は以前の会社と同じようにバリバリ仕事ができる」と思い込んでいるのかもしれません。しかし、新しい業界に入ったばかりではいきなり仕事の要領を掴むのは難しいもの。まずは、「こうであるべき」という先入観や思い込みをなくして、現在の本当の状態と向き合うことが大切です。そのためには、「実践その1」の感情の整理が重要です。整理したネガティブな感情が、自分の思い込みや先入観から来るものなのか疑ってみましょう。

実践その3>>>気晴らしやガス抜きをする
仕事ができる人ほど、私生活が充実していたり趣味を嗜んでいたりするものです。心を休める時間をとりましょう。一般的にスポーツなどで体を動かすのもリフレッシュ効果が高いとされていますが、自分に一番合った息抜き方法であれば、音楽や映画鑑賞、読書や瞑想など何でもOK です。

そして「ゆるやかに立ち直る」

実践その4>>>周囲の人の協力を得る
負けず嫌いなAさんは、自分が新しい仕事に慣れていないことを周囲に知られるのが嫌で、一人で仕事を抱え込みすぎたようです。こういった場合には、思い切って「誰か」に頼ってみましょう。直接的な協力でなくても、相談などの精神的な協力を周囲から得ることも重要です。

実践その5>>>自信を取り戻す
心が疲れている状態だと、どうしても「自分のできないこと」に目がいきがち。Aさんも「新しい仕事に慣れないこと」に大きなストレスを抱えています。そんな時は、どんな小さなことでも構いません。自分のできることを書き出してみましょう。もしかしたらそれは「自分にしかできないこと」かもしれません。また、親しい友人や家族に他己診断してもらうのもいいでしょう。

実践その6>>>目標を思い起こす
立ち直るときには道標が必要。Aさんは転職を経験していますが、そこにはやりたい目標や夢などの理由があったはずです。あなたの目標や夢を思い起こしてみましょう。目標や夢を見える場所に記し、常に胸に抱くことは、モチベーションの維持に繋がります。また、ストレスの対処能力が高い人は自分の人生や生活に目標や夢を持っていることが多いといわれています。

さらに「次の経験につなげる」

実践その7>>>逆境を消化する
 Aさんに今起きている状況はケアレスミスによる失敗からくる逆境です。今回の逆境や失敗に至ったプロセスを整理して日記や手帳に記録してみると、原因や対策が見えてくるかもしれません。逆境を乗り越えるだけでなく、成長の糧にしましょう。

実践その8>>>自分だけの強みを見つける
今回の逆境に直接関わることでなくても、自分の強みを見つけることは、立ち直りを早めるだけでなく、さらなる挑戦のための自信につながります。「実践その5」で見つけた自信の取り戻し方自体もあなたの強みとなるでしょう。自分の強みを探し、あなただけの強みを見つけ、さらに伸ばしましょう。

まとめ
1 ストレスの原因や状況を整理し、ネガティブな感情をコントロールする!
2 自信を取り戻して、「立ち直り」!
3 逆境体験から学んだことを、「消化」して「強み」を見つける!

いかがでしたか。レジリエンスはビジネス分野だけでなく、「勉強に疲れた」「テストの成績がよくない」「何かに挑戦するだけの気力がない」など、誰のどんな場面でも必要な力なのです。レジリンスを鍛えれば、逆境を乗り越え、臆せずに挑戦することができるでしょう。また、レジリエンスの方法は一通りではありませんので自分なりの方法を見出してください。

[TACNEWS 2016年11月号|特集]

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