読めばモチベーションUP?ビジネスや会計の気になる「あの本」を紹介 萌さんとカッキーの読書室 #34
仕事と資格マガジン『TACNEWS』から生まれた会計小説『女子大生会計士の事件簿』のメインキャラクター、公認会計士・藤原萌実(萌さん)と新人スタッフ・柿本一麻(カッキー)のふたりが、気になる本について激論を交わす…?!ゆったり、まったり、時に激しい、「楽しく、ためになる読書室」です。
『相続でモメる人、モメない人』
著者 :天野大輔、税理士法人レガシィ
出版社 :日刊現代
初版 :2023年
カッキー 萌さん! 質問なんですけど、萌さんは自分の仕事のことを親や兄弟に話していますか?
萌さん もちろん、話しているわよ。守秘義務に反しない範囲で、結構しゃべっているかな。たとえば、カッキーが丸一日かけて売掛金をチェックして完了したと思ったら、実はそれが去年の会計資料で、すべてがムダになった話とか――。
カッキー なんで僕の失敗談をしゃべっているんですか!
萌さん でさ、何が聞きたいのよ。
カッキー 僕も仕事のことをある程度は家族に伝えているのですが、TAC時代の同期が親兄弟に伝えるかどうか、悩んでいるらしくて……。
萌さん どういうこと?
カッキー 友人は今度、相続専門の会計事務所に就職することになったんですが、ご実家が昔からのお金持ちで、相続関係の話って家族内で結構ナイーブな問題らしいんですよ。
萌さん は、はーん。その彼が相続に詳しいってことを知られると、他の兄弟とかが「あいつは相続に詳しいから、自分が有利になるように操作するんじゃないか」と疑念を持つかもしれない、ってことね。はーっ、お金持ちって大変ねぇ。
カッキー それで、彼はどうしたらいいと思います?
萌さん つまり、家族でモメなければいいのよね。だったら、ちょうどいい本がここにあるわ。はい、これよ。
カッキー 『相続でモメる人、モメない人』ですか――。
【目次】
[第1章]20代・30代編
・留学したとき
・自立するとき
・初任給などである程度多額のお金を得たとき
・結婚するとき
・マイホームの購入資金を親から贈与されたとき
・きょうだいに子どもが生まれたとき
・祖父母が亡くなったとき
ほか
[第2章]40代・50代編
・実家に帰省するとき
・両親がスマホに切り替えたとき
・親の事業を継ごうと思ったとき
・きょうだいが海外赴任や海外在住のとき
・親に遺言書を書いてもらったとき
・親の介護が必要になったとき、親と同居するとき
・親が認知症になったとき
ほか
[第3章]60代以上編
・孫ができたとき
・子どもに事業を継いでもらいたいとき
・再婚したとき
・遺言を書いてみたいと思ったとき
・夫や妻と別居しようと思ったとき
・終活を始めるとき
ほか
(目次より一部抜粋)
萌さん エッセイみたいな短編形式で、年代別に複数のテーマが設定されているんだけど、そのすべてに「モメない人はどっち?」と二択形式の質問が設定されているのがこの本の特徴ね。
カッキー それで、僕の友人のようなケースも書いてあるんですか?
萌さん ちょうどあるわよ。
就職して相続関連の仕事をするときモメない人はどっち?
■必要以上に話さない
(本書P30)
カッキー うわーっ、迷いますねぇ。それで、どっちなんですか?
萌さん 著者が言うには、まず「相続では、相続人である家族一人ひとりが互いにライバルとなります」だって。
カッキー お、恐ろしい一文ですね。
萌さん だから、相続関係の仕事に就くと、他の相続人からは警戒感を持たれてしまう。なので、「専門家として知識を持っていても、相続に関しては必要以上に話をせず、質問されたときに答える程度にして、日常的なコミュニケーションを深めることに気を配るといいでしょう」と。そして、「『うちはきょうだい仲がいいから大丈夫だろう』と考える人もいますが、油断は禁物」だって。
カッキー つまり、会計事務所で働くことは言ってもいいけど、相続とかの話はなるだけしない方がいい、ってことですか。
萌さん そうね。著者のアドバイスとしては、「相続に関する仕事の話をしなければならない状況になったときには、相手の仕事の話も聞いてあげるといいでしょう。相手の話に耳を傾ける姿勢を示せば相手も違和感を覚えないはず」ですって。
カッキー なんだか、相続の話というより、人間関係の心理学みたいな話ですね。
萌さん 著者は日常的に現場にいる税理士だから、相続では節税も大事だけど、人間関係に心を配ることも大事だ、と身に染みて感じているのでしょうね。
カッキー なるほど。他にはどんな二択があるんですか?。
萌さん んー、こんなのはどうかしら。
留学したときモメない人はどっち?
■留学したときの体験談をあまり言わない
(本書P16)
カッキー これはちょっとわからないですね……。家族で隠し事は良くないから留学のこともしっかり話した方がいい、とかですか? というか、これの一体どこが相続に関係あるんですか!?
萌さん ちっ、ちっ、ちっ。甘いわね。たとえば、長男と長女の二人きょうだいで、長男が親から費用を一部援助してもらって留学した場合、長女のほうはどう思うかしら?
カッキー たしかに、長女の立場からすると、長男はうらやましい、ズルいと思うでしょうね。
萌さん 「きょうだいは平等」っていうのが普通の価値観でしょうから、長男だけ親からいち早く多くの財産を贈与されているのは、のちの相続時にモメる要因にもなりやすいでしょうね。
カッキー 人って、意外と昔の恨みとかを根深く覚えていたりしますしね。
萌さん だから、親の立場だったら長女には「マイホームを購入するときに多めに援助するよ」といった具体的な配慮をしておかないといけない、ってわけ。そういうのがなかったら、今回の二択の答えは「留学したときの体験談をあまり言わない」になるわね。
留学した子どもがいる場合の親の配慮
(本書P20)
萌さん こんな感じで、この本は相続税の勉強にもなるけど、相続の現場ではどういうことでモメやすくて、どうすればそれを回避できるのかという勉強にもなるんじゃないかしら。
カッキー わかりました! それにしても、萌さんがご家族に僕の話をしているとは思ってもみませんでした。
萌さん まあ失敗談が多いけどね。これも将来の人間関係を考えたら、今のうちからアンタのことを家族に伝えてたほうがいいと思っただけ。
カッキー ――えっ!?
[『TACNEWS』2023年9月号│連載│萌さんとカッキーの読書室]
山田真哉(やまだしんや)
公認会計士・税理士。TAC梅田校出身。中央青山監査法人(当時)を経て、現在、芸能文化税理士法人会長。株式会社ブシロード等の社外監査役。著書に『女子大生会計士の事件簿』シリーズ、『世界一やさしい会計の本です』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』等。
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