読めばモチベーションUP?ビジネスや会計の気になる「あの本」を紹介 萌さんとカッキーの読書室 #25
仕事と資格マガジン『TACNEWS』から生まれた会計小説『女子大生会計士の事件簿』のメインキャラクター、公認会計士・藤原萌実(萌さん)と新人スタッフ・柿本一麻(カッキー)のふたりが、気になる本について激論を交わす…?!ゆったり、まったり、時に激しい、「楽しく、ためになる読書室」です。
『なぜ倒産 令和・粉飾編
― 破綻18社に学ぶ失敗の法則』
著者 :日経トップリーダー(編)
出版社 :日経BP
初版 :2022年
カッキー 萌さん、本を手に何ニコニコしているんですか?
萌さん ついにアノ新刊が出たのよ。みんなご存じ『なぜ倒産』シリーズの第3弾、『なぜ倒産 令和・粉飾編』。クーッ、倒産マニアには、たまんない一冊よね!
カッキー へえ、すごく有名なシリーズなんですね。そもそも倒産マニアって一体何ですか?
萌さん 帝国データバンクや東京商工リサーチの倒産情報を見たり、内幕を描いた暴露本を読んだり、倒産までの経緯を解説するYouTube動画を見たりして、倒産の話を酒のつまみに毎晩飲んでいるのが倒産マニアよ。何でも、国民の3人に1人はこの趣味を持っているらしいわ。
カッキー いや、それ絶対ウソですよ。倒産話の何が面白いんですか。悲しいし、辛いし、むなしいだけじゃないですか。
萌さん カッキー、アンタはダメね。何もわかっちゃいない。倒産は、人の世の縮図。上手く行ったのに調子に乗って失敗したり、地道に頑張ったのに理不尽なことが起こったり、コロナみたいに誰も予期しなかったことが発生したり――倒産は悲しいけど、先人たちが残した大切なメッセージ。そして、会計を仕事にしている私たちにとって、倒産は常にそこにある危機。なのに、どうしてアンタが興味を持たないわけ?
カッキー は、はい。そこまで言われると、ちょっとは知っておいたほうがいい気がしてきました。
萌さん じゃあ、この『なぜ倒産』シリーズから読むのがちょうどいいわよ。毎回何十社もの倒産事例が載っていて、それぞれがコンパクトにまとまっているから、倒産初心者には超オススメよ。
カッキー いや、“倒産初心者”なんて言葉ないですから。
【目次】
Chapter1. 粉飾で会社を潰した社長の告白
―― 倒産最前線
[破綻の法則]01 失敗を隠せば、泥沼にはまる
【会社を潰した社長の告白】
「粉飾したことに後悔はない。成長を選ぶのが経営者の本音」
「犯罪行為に手を染めた罪悪感 “節度ある粉飾”に抑えた」
Chapter2. 倒産の成長期
―― 脚光を浴びた「あの会社」の舞台裏
[破綻の法則]02 怒濤の攻めがつまずきの始まり
【会社を潰した社長の告白】
「1粒でも雨が降ると売れなくなる。思い悩む毎日に疲れた」
[破綻の法則]03 先駆者の過信は落とし穴になる
Chapter3. 停滞期の倒産
―― ビジネスモデルの陳腐化にどう抗うか
[破綻の法則]04 負の遺産が、挽回の足かせに
[破綻の法則]05 危機対応が後手に回る
【会社を潰した社長の告白】
「あまりに時代遅れな家業の衝撃 儲かっているときに貯めるべきだった」
[破綻の法則]06 幸運なヒットに目が曇る
[破綻の法則]07 起死回生の一手が、仇に
Chapter4. 突然の倒産
―― 驚きの破綻劇に隠された必然
[破綻の法則]08 脆弱な財務基盤が崩れ落ちる
[破綻の法則]09 人あるところに、リスクあり
Chapter5. 老舗を潰した社長の告白
―― そして人生は続く
【会社を潰した社長の告白】
「老舗たち吉14代目の僕が身売りを決断した理由」
(目次より主な部分を抜粋)
カッキー 具体的にはどういった倒産話があるんですか?
萌さん そうねえ。ゲームセンターにある、クレーンゲーム機ってわかる?
カッキー もちろん、わかりますよ。得意じゃないですけど。
萌さん そのクレーンゲーム機を主力にしたゲームセンターのエターナルアミューズメントって会社があるんだけど、97の直営店と683の契約店、合計780店を全国展開していたの。
カッキー かなり大規模ですね。
萌さん 比較的最近の2007年設立で、カラオケ店やレンタルビデオ店の空きスペースにクレーンゲーム機を貸す“契約店方式”で売上を伸ばしていたの。日々の現場管理を設置先の契約店に任せて、月数回訪問して景品補充するだけでエターナル社にゲーム機売上の7割が入ってくる仕組みだったのよ。
カッキー それは手堅そうなビジネスモデルですね。
萌さん そして、ゲーム機1台あたり90万円程度かかっていた調達コストを、独自企画のゲーム機にして台湾の工場に直接発注することで1台20万円ほどにしたの。
カッキー それは会社にとって強みですね。
萌さん さらには投資家制度を作って第三者の法人や個人から出資を募ったり、イオンタウンやドン・キホーテなどに直営店も出店して売上を飛躍的に伸ばしたりしたの。
カッキー 投資家制度があるから、資金繰りの心配は減りますよね。そして直営店だと空きスペースに置くビジネスじゃないから、数十台、数百台とゲーム機を置けて売上も伸ばすことができる。これはビジネスとして完璧じゃないですか。で、エターナル社はそれからどうなったんですか?
萌さん ――破産したわ。
カッキー えーっ!まあ、倒産話なのでそうなんでしょうけど。
萌さん 2019年まで急激に成長したけど、2020年4月、コロナの感染拡大が始まってすぐに破産申請したの。
カッキー なんでそんな急に……。
萌さん 原因の1つ目は“出店調査が甘かった”こと。直営店でも、もともとゲーセンがあった所なら増収になったけど、新規出店では立地条件が悪くて集客に苦しんだの。
カッキー 空きスペースを間借りする契約店方式なら、そんな苦労もいらなかったのに……。
萌さん 原因の2つ目は、“出店を増やしすぎて人材育成が追いつかなかった”こと。そして、3つ目は“投資家制度が重荷になった”こと。
カッキー えっ、たしか投資家制度で資金がたくさん集まったんですよね?
萌さん でも投資家には配当的なものを毎月払っていたの。それが毎月約1億円。年間利回りにすると約20%。
カッキー 20%!?そんな高利回り、投資するならめちゃめちゃいい案件じゃないですか。払うほうは大変でしょうけど。
萌さん さらに投資家を紹介してくれた仲介会社への手数料もエターナル社は払っていて、それが毎月約1億2千万円。
カッキー それだけ支出が多くて、コロナで集客が減れば、確実に詰みますね……。
萌さん というわけで社長は、『経営で不安な部分は、初期の段階で解消する手を打つべきだった』、と後悔しているそうよ。
カッキー 業績が拡大している最中は、会社の弱点に気付きにくいものかもしれませんね。
萌さん 続いて紹介するのは岩手県の水産加工会社・太洋産業。老舗の会社で大船渡・釧路・根室などに工場を持ち、1980年代初めには年商300億円、従業員1,000人以上だったの。『タイサン』ブランドで、テレビCMも流していたそうよ。
カッキー 一定の年齢以上の方なら、覚えているかも知れませんね。
萌さん だけど2011年3月、東日本大震災の津波で海沿いにあった大船渡工場が全壊。保管していた在庫も失ってしまったの。
カッキー それは災難でしたね……。
萌さん だけどね、国や県から施設・設備の復旧にかかる費用の3/4を出してもらえる補助金や新しい工場をつくる費用の7/8が出る補助金を使って、2013年3月には工場の生産を再開。2015年には完全稼働できたの。また2012年には地域のために、魚の酸化を遅くする“窒素水”を作る製氷工場も新設したのよ。
カッキー それは素晴らしい!補助金も出て、工場も新しくなって、これからは明るいですね。で、それからどうなったんですか?
萌さん ――破産したわ。
カッキー やっぱり、そうでしたか……。どうして、そんなことに。
萌さん 原因の1つ目は“震災前から売上が落ちていた”こと。輸入品との競争激化などで、震災直前の2010年の売上高は、ピーク時の1/3の90億円弱まで落ち込んでいたの。
カッキー そもそも下落傾向だったんですね。
萌さん 原因の2つ目は、“補助金が重しになった”こと。
カッキー 補助金が採択されて新工場ができたんですから、お金をタダで調達できたようなものじゃないですか。
萌さん でも、全額を補助してもらったわけじゃないからね。1/4や1/8は自己負担だから、そもそも売上が低迷していて、震災の被害に遭った会社にとっては、その自己負担が重かったのよ。
カッキー でも、その補助金を使わないと再建できないわけですから、地元の雇用を考えると再建する選択肢しかないですよね。
萌さん ところが、倒産原因の3つ目は“地元の従業員の確保ができなかった”ことなの。
カッキー 一体どういうことです!?
萌さん 震災後は仕事を引退したり、内陸部に移住したりする人が増えて、地元で雇用しにくくなってしまったの。
カッキー それは致し方ないですが、残念ですね……。
萌さん そして、工場が本格稼働した2015年頃から地球温暖化などの影響で水産物が記録的な不漁になり、7期連続で経常赤字。2018年に民事再生法を申請して新たなスポンサー探しを始めたんだけど、結局見つからず破産したの。
カッキー 老舗の有名企業なら、スポンサーは見つかりそうな気もするんですが。
萌さん 太洋産業は補助金を使って工場を再建していたじゃない。補助金って、当初の目的達成前に工場を譲渡したりすると、補助金を一部返さないといけなくなるのよ。
カッキー つまり、工場を買った会社は補助金を返さないといけないから、買収負担が余計に増えちゃうんですね。それは、厳しいルールですね……。
萌さん 倒産って、どこに落とし穴があるかわからないからね。私たちも沢山勉強して、色んなパターンを知っておくことが、不運な倒産を防ぐ最善手になるのよ。
[『TACNEWS』2022年10月号│連載│萌さんとカッキーの読書室]
山田真哉(やまだしんや)
公認会計士・税理士。TAC梅田校出身。中央青山監査法人(当時)を経て、現在、芸能文化税理士法人会長。株式会社ブシロード等の社外監査役。著書に『女子大生会計士の事件簿』シリーズ、『世界一やさしい会計の本です』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』等。
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