読めばモチベーションUP?ビジネスや会計の気になる「あの本」を紹介 萌さんとカッキーの読書室 #18
仕事と資格マガジン『TACNEWS』から生まれた会計小説『女子大生会計士の事件簿』のメインキャラクター、公認会計士・藤原萌実(萌さん)と新人スタッフ・柿本一麻(カッキー)のふたりが、気になる本について激論を交わす…?!ゆったり、まったり、時に激しい、「楽しく、ためになる読書室」です。
『超・殺人事件』
著者 :東野圭吾
出版社 :KADOKAWA/角川文庫
初版 :2020年
カッキー え、えーっと、『実に、おもしろい』。もうちょっと声を低くしたほうがいいかな。発声を整えて。あー、あーー。よし、いくぞ!『実に、おもしろい』。
萌さん アンタさ、格好を付けて顔に手をかざして何をやっているのよ。
カッキー あっ、恥ずかしいところを見られてしまいました……。実は年末のオンライン忘年会に向けて、ちょっと福山雅治さんのモノマネにチャレンジしてまして。
萌さん TVドラマ『ガリレオ』の主人公、物理学者・湯川学の口癖ね。まあ、原作の小説の中では『実に、おもしろい』とは一度も言っていないんだけどね。
カッキー えっ、そうなんですか。
萌さん そうよ、短編集『予知夢』に収録された『絞殺る』という作品の中で一度だけ『じつに面白いな』と言っただけなのよ。
カッキー 萌さん、詳しいですね。僕なんて、ドラマの『ガリレオ』すら一度も見ていないのに。
萌さん なんでそんな奴がモノマネをするのよ!
カッキー い、いや、有名だし、モノマネもしやすそうですし……。
萌さん 随分とモノマネをナメているわね!ドラマを見て、そして、原作もちゃんと読みなさい。できれば、他の東野圭吾作品も全部読みなさい。
カッキー ひがしのけいご? って誰ですか。
萌さん えーっ! ウソでしょ? マジでそこから説明しなきゃいけないの? 東野圭吾様と言えば、『ガリレオ』シリーズの生みの親であると同時に、『容疑者Xの献身』とか『秘密』『白夜行』『マスカレード・ホテル』といった名作小説を山ほど出している大・小説家よ!
カッキー な、名前は聞いたことがあります。でも、僕には小説を読む習慣がなくて……。
萌さん しょうがないわねえ。でも、そんなアンタでも読みやすい作品があるわよ。その名も『超税金対策殺人事件』!
カッキー なんですか、そのギャグみたいなタイトルは。
萌さん まあ、ギャグというかコメディ寄りの作品ね。『超・殺人事件』という短編集の中の最初の作品で、そんなに有名じゃないけど隠れた名作よ。会計人ならみんなニヤリとできるんじゃないかしら。
【目次】
超税金対策殺人事件
超理系殺人事件
超犯人当て小説殺人事件(問題篇・解決篇)
超高齢化社会殺人事件
超予告小説殺人事件
超長編小説殺人事件
魔風館殺人事件(超最終回・ラスト五枚)
超読書機械殺人事件
カッキー 職業柄、なぜ税金対策で殺人事件が起きてしまったかが気になりますね。
萌さん あらすじを話すと、主人公は小説家でその年にようやく初めてのヒット作が出たの。そして、友人の税理士に確定申告を頼んだら、予想外に多額の税金を払うことになりそうで夫婦で愕然としてしまって――」。
カッキー あー、ヒットしたら税金の金額にビックリするって、どの業界でも“あるある”ですよね。
萌さん そして、例に漏れず、この作家も儲かったお金はすでに散在していて、さらに残念なことに小説家が税理士に提出していた多くの領収書は経費にならない、つまり税務上損金にできないようなものばっかりだったの。
カッキー それらの経費を除外したら、税額はもっと増えるということですか。
萌さん そう。ただ、時はまだ12月。いま書いている連載小説にそれらの経費にまつわることを書けば、損金計上する正当な理由になる、と税理士がアドバイスをしたの。
カッキー なるほど。経費にならないものをムリヤリ経費にするために、後付けで小説の中で取り上げて、取材費とか研究費として計上するということですか。あ、待てよ。これが『税金対策』なのはわかりますが、『殺人事件』は関係なくないですか?
萌さん あ、それは、この小説家が書いている小説自体が『殺人事件』なのよ――。
【ムリヤリ経費に入れようとする領収書等】
ハワイ旅行
ゴルフ
婦人用コート 19万5千円
紳士用品(スーツ、シャツ、ネクタイ、靴) 33万8700円
パソコン 22万円
カラオケの機械
温泉旅行
風呂場改築 56万円
自動車修理 19万円
掛け軸 20万円
壺 33万円
エステ
スーパー(すきやきの材料)
化粧品十数点
差し歯
和服5着(大島紬)
ネックレス
指輪
(※作品中に金額が明示されたもののみ、金額を記載)
カッキー もの凄い量ですね。でもハワイ旅行とか、小説の舞台がハワイだったら経費にできそうですよ。
萌さん ちなみに、もともと書いていた小説の原稿はこんな感じよ。
【元の作品】
連載『氷の街の殺人 第10回』
舞 台 北海道旭川市
登場人物 主人公の男、妊娠している女性
あらすじ 行方不明になった女性の婚約者を探すために、暗号を解いて、旭川にやってきた。
カッキー いやいや、ハワイとか、絶対ムリじゃないですか!タイトル自体が『氷の街の殺人』ですし。
萌さん でもそれじゃ、経費にならないじゃない。取材費にならないじゃない。だから、多少強引に舞台は旭川からハワイへと移るの。
カッキー 絶対、多少じゃないですよね。物語自体が破綻しますよね。
萌さん まあ、そうなるわね。
カッキー ちなみに、領収書の『婦人用コート 19万5千円』はどうやって経費にするんです? 単に、小説の中に出すだけでは経費になりませんよね。イラストに描くわけではないですし、詳細な描写が必要だとしてもお店に見に行けばいいわけですから、別に買う必要もないですし。
萌さん その通りよ。だから、税理士も、そのコートを小説の中でびりびりに引き裂くことを提案するの」。
カッキー なぜわざわざ引き裂く必要があるんです?
萌さん そのシーンを描写するために、実際に婦人用コートを引き裂いたことにするのよ。そうしたら、実験材料費になるから。
カッキー じゃあ、税務調査が来たらどうするんですか?
萌さん その時に婦人用コートを実際に引き裂くか、実物を隠すしかないわね。
カッキー それもう、節税というか脱税の域ですよね……。
萌さん だから、税務会計のプロから見ても、『こういうことするお客さんはいるよなぁ』と思えるから、楽しいのよ。あと、元は2004年に出た本だから、少額減価償却資産が今の30万円未満基準じゃなくて、20万円未満基準の時代だから、その点は注意ね。
カッキー 『パソコン 22万円』というのも、今では普通に少額減価償却資産としてその期に全額損金になりますけど、当時は通常の固定資産として減価償却しないといけなかったんですね。
萌さん もちろん、この物語は税金対策のためにどんどんおかしな方向に進んでいくし、オチもちゃんとあるから、ぜひ読んで欲しいわね。そう、――『実に、おもしろい』。
カッキー いやそれ、福山雅治のモノマネ!
[『TACNEWS』2021年12月号│連載│萌さんとカッキーの読書室]
山田真哉(やまだしんや)
公認会計士・税理士。TAC梅田校出身。中央青山監査法人(当時)を経て、現在、芸能文化税理士法人会長。株式会社ブシロード等の社外監査役。著書に『女子大生会計士の事件簿』シリーズ、『世界一やさしい会計の本です』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』等。
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